第129話
刃の階段を上って数分が経過した。
僕は念のため最後尾で上り、落ちてくる人たちの落下ダメージを極力少なくする仕事をしている。上を警戒している分速度はやや落ちるが、落下死する人を減らせるなら安いものだ。
今のところ犠牲者は居ないが、一度落ちれば二度目は確実に死ぬ。ほとんどの人はデスペナルティによるログイン不可状態を恐れて上ってこない。
下の人の顔が視認できないくらいは上り、少しづつ天空城が近くなってくる。落ちてくる人も居なくなり、頂点まであと数枚まで来た。下は見ないようにして最後の跳躍を済ませ、無事に天空城に降り立つ。
「何人たどり着いた?」
「十四人ですね。半分以上が落下しました」
五十人近く居たプレイヤーは半分以下にまで減っていた。それでもあんな無謀なやり方でここまで残ったのはすごいことだ。
それに、落ち込んでいた時間はそこまで長くなく、目の前の城への好奇心が抑えられない面々は、早速僕に解読を依頼してきた。
僕が落ちた場合どうしようとしていたのかは考えないようにし、案内された場所へ向かう。
「これだ。おそらくこの石碑がカギだと思うんだが、誰も読めない字で書いてある」
城への道を閉ざすようにそびえる大きな壁と豪華な大きな扉。金色に輝く十二個の王冠が円形に並び、その中心に虹色の宝石が埋め込まれている。扉の大きさから考えても僕の頭位はあるだろう。
そんな豪華な扉とは正反対な古びた石碑が、僕の目の前にある。あるんだが…………。
「どうだ!?読めるか?」
「えーっと…………」
読めなくはない。無いんだが、おそらく皆が期待している内容ではない。
このまま読むのが憚られるレベルの物であり、正直声に出して読みたくない。
「勿体ぶるな、早くしてくれ!」
「…………どうなっても知りませんからね」
期待を裏切ることを申し訳なく思いながら、僕は石碑の内容を読み上げた。
「合言葉をメモしたことも忘れそうな馬鹿な王様へ。合言葉は星の導きをだ。何度も言うが鍵を扉の前に置いておくのはお前ぐらいだ。もう十文字以上削ったのにいつになったら覚えるんだ?スフィアが頑張ってくれているから侵入者は居ないがいい加減に八文字くらい覚えろ…………と書いてあります」
「え?それだけ?」
状況の整理が付かない男たち。追い求めていたものの目の前にあったそれっぽい石碑が、まさかの罵倒付きメモ。しかも雰囲気も何もないそれにどう反応していいか分からない、そんな感じだろう。だが、申し訳ないが頭の回転が始まるまで待っているほど、僕には時間がない。呆けている面々を放置し、そのまま合言葉を唱える。
「星の導きを」
合言葉に反応し。王冠が時計回りで順番に輝き、最後に虹色の宝石が眩い光を放った。ついにこの大きな扉が動き出すのかと思うと、さっきのひどい石碑の事も忘れてワクワクした。上に動くのか?それとも中心から割れる?考えただけでワクワクする。
岩がすれる様な低い音があたりに響き、扉が動き始める。扉の真ん中に虹色の線が走り、ついに扉が開く!と思った瞬間。音も無く二メートル程の縦に長い穴が出来た。幅は一メートルぐらい。丁度人が一人通れそうな穴が、ニュッという音がお似合いな感じで開いた。
「…………っち」
僕の期待を返せよ。そう思いながらさらに頭が真っ白になったあんぱんさんたちを置いて、僕はビックリワールドの中に足を踏み入れた。




