123話
王城に到着した僕だったが、正装を持っているはずも無く最低限武器や防具を外した状態で王様と会うことになった。
案内された玉座には王様の他に大臣や貴族。兵士などの十数名が待っていた。護衛にしては兵士の数が少ないが少数精鋭という事だろうか?
「待っていたぞ。魔女の弟子よ」
僕が膝を付いて頭を下げると、王様がそう口に出した。
恐らく森にこもる前の先生がここを訪れ、何かをしたんだろうがいきなり最高権力者と会うことになるってどんな事したんだ?
本人であればまだわかるが、弟子の僕が顔パスで呼ばれる意味が分からない。
感謝を述べられるのであればまだいい、万が一何かしらの罪で投獄なんてことになれば…………。
「今日ここに来てもらったのは予言の事についてだ。貴殿も知っているかと思うが予言の通りに魔王側の動きが活発化し、最悪奴の…………。黒きモノの出現もあり得る」
王様の発言に対して、周りの人間がざわつき始める。兵士たちは怯えた様子で顔を引きつらせているし、大臣や貴族たちは難しい様子で考え込んでいる。
ただ、この場に一人アホ面をさらして口を開けている人物がいた。そう、僕である。
予言何て知らないし、そもそも先生が何をしたのかも知らないし、とりあえず情報を整理したいんですが…………。
一人だけ置いて行かれている状況で話が進みそうだったので、一旦話を中断してもらうことにした。
「すみません。お話を遮ってしまい大変申し訳ないのですが、今出てきた話の中で僕が知っていることはありません。予言も先生からは何1つ聞いていません」
「なに…………?それは誠か?」
僕は驚愕する王の目を見て黙って頷いた。
頭を抱え込んだ王様だったが、ポツリポツリとこうなった経緯や昔の事を話してくれた。
予言の事、そして昔の大事件の話…………。
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今から少し前、まだ海に裂け目が無かった時代。大陸内では戦争が続いていた。
玉座が空の魔族たちは戦争に興味を示すことは無く、一部の好戦的な者が傭兵として参戦する程度だった。そのお陰かそこまで戦争が激化することは無く、小競り合い程度の戦いが続いた。
小競り合いと言っても死者は出るし町は焼ける。膠着状態の戦線は長い間維持されそのたびに死人が出た。広大な領土を持つ帝国も何人もの死人が出た。
そんな時、旅の二人組が帝国を訪れた。戦時中の国に旅人が来るなど普通はありえない。ましてや傭兵でもなくただの占い師とその護衛騎士、疑ってくださいと言っているようなものだ。
暫く監視をつけて泳がしていたところ、案の定不審な動きを見せた。
その二人組は国境沿いにある村に足を運び住民を全員攫おうとしたのだ。それを発見した兵士が阻止しようと立ちふさがるも護衛騎士に倒されそのまま連れていかれた…………。と思われたが、住民は全員国境から離れた隣町に居た。あとから知った話だが、この時占い師が住民を避難させていたのだ。
敵国が攻めてくることを未然に予言し、その戦地に向かい人を避難させる。そうすることで何度も争いを回避していった。
帰ってこないと思っていた家族が恋人が、無傷で帰ってくることが増えたことで、占い師は帝国の国民から崇められることになる。この占い師こそ、のちの大魔女である。
魔女が予言し、一騎当千の護衛騎士が敵兵を全員追い返す。そんなことが続いたある日。魔女の予言が無く争いが始まった。
油断しきったところに奇襲を仕掛けられ、多くの兵士が死んだ。この戦争で流れた血が、負の感情が…………。眠れる奴を呼び起こす行為だとも知らずに…………。
「全員海へ逃げなさい!」
初めて聞く魔女の大声に住民は危険を感じ、一斉に避難を開始した。軍艦、漁船、客船、小舟全てを使って海に出た。全員が沖に出きったと思われた瞬間、国境沿いで不気味な声を聴いた。これほどの距離があるというのに聞こえるあの邪悪な声を、当時の王は生涯忘れなかったという。
激しい戦闘音と、目のいい者が確認した不気味な存在。黒い球体から手が生え、目も耳も鼻すらなくただ大きな口が薄ら笑いを浮かべている。
誰も目を離すことが出来なかった。長い間それを見続けた。
急に戦闘の音が止まった。静寂の時を破るかのように魔法の望遠鏡(遠いところも見える魔道具)を使った大臣が小さな声で言った。
「目が合った…………」
誰と?とは聞けなかった。大臣の様子から誰かなんて予想できたからだ。
パニックになる大臣。それは伝播し誰もがより遠くに逃げようと必死だった。段々と近づいてくるそれは、王都に覆いかぶさる事が出来そうな程大きかったのだ。あれだけ激しい戦闘をしていたはずなのに傷1つ無く、変わらない笑みを浮かべていた。
誰もが死を覚悟した瞬間。透明のバリアと視界を光で覆うほどの一閃を見た。傷だらけの大魔女と、満身創痍の護衛騎士。二人のお陰であれは姿を消し、国の危機は去った。敵国とも停戦し、平和を祝した宴を開こう!そうなったが英雄は姿を消していた。
予言の記された紙と、今は王城の地下深くに眠る封印の杖を残して…………。




