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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
三章 魔王と姫とLASTライブ
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121話

 ログイン制限が解かれた僕は、すぐにゲームにログインした。

 いつもと変わらない景色が目の前に広がると思っていた僕は、数秒後に困惑することになる。

 ログインしたはずなのに中々視界が開けない。真っ暗闇が視界を占領し、音も聞こえない静かな時間が過ぎる。

 故障の線を考え、先ずは体の確認に入った。身動きは取れないが動かそうとしている感覚はある。つまりゲームにログインはできているんだ。

 次に確認したのはシステムウィンドウ。ログアウトとかステータスの画面だが、これも問題なく現れた。久しぶりに見た光だったが、これで自分の置かれた状況がなんとなくだが想像できた。


(これ…。閉じ込められてないか?腕を縛られている感覚はないけどちょうど僕がすっぽり入る何かに入れられている気がする)


 最後の景色は秋さんが目の前に居ただけ。安全な場所にいたわけじゃないし拉致られた可能性もある。それか秋さんがどこかに体を隠してくれていたかの二択だが、後者であれば僕のログイン時間に合わせて何かしら接触があるだろう。

 ということで暫く待つことにした。待っても数分だろうとそう思いながら待つこと5分。思った通り声が聞こえてきた。


「これの分で最後か?」

「ああ、内訳は酒樽らしい。ボスが一応中身を確認しとけって」

「最近不法入港が多いからな。まあちょっと味見できるし面倒だがやっていくか」


 会話の内容から、どうやらどこかの倉庫らしいが……。ん?酒樽?しかも不法入港とか聞こえたんだが?

 僕の記憶が正しければ、入国手続きなどした覚えがない。もし僕が入っているのが酒樽なら犯罪者確定なんだが……。

 ふと意識を体に向けた僕は絶望することになる。着衣水泳のあの感覚を覚えているだろうか、なんとも言えない重さと水の感覚が気持ち悪かった人もいただろう。今まで狭すぎて気が付かなかったがまさにそれの感覚があった。

 今僕は樽みたいに狭い何かに入れられて水に浸かっているという事だ。


「これで最後だな……か、固くないか!?」

「貸してみろ……確かに硬いな。おーい!バール持ってきてくれ」


 不穏な声と木がバキバキと折れる音と共に視界に光が入ってくる。もう諦めていたが実際に目の当たりにすると現実とはこんなにも無情なのか……。秋さん、恨みます。

 一瞬明かりに目が眩んだが、徐々に見えるようになってくる。真っ先に視界に入ったのは緑色の液体。そしてこちらを覗き込む二人の強面の男だった。

 そのうちの一人が冷静に連絡用の道具を取り出した。


「不法入港一名。至急応援をお願いします」

「ですよねー……」


 そこからはスピーディーにことが進んだ。ずぶ濡れの状態で取調室に連れて行かれ、変な匂いの充満した狭い個室で鼻を摘んだ兵士に取り調べを受ける。恥ずかしくて死にそうだったが、取り調べがすぐに終わることはなかった。

 僕が言えることとえば、気がつけば樽の中にいましたという事のみ。そんな事がすぐに信じられるわけがなく……。


「じゃあなんだ?誰かがお前を薬酒の入った貴重な樽にぶち込んだって言うのか?冗談は大概にしろ」

「はい……」


 いつまで経っても入港の目的を言わない僕に痺れを切らしたのか、兵士は鑑定用の板を持ってきた。

 犯罪歴や称号、所属している機関や名前がわかる優れものらしく、一旦これで身元を調べられるらしい。うっすらと光った板に文字が映し出されそれを兵士が確認する。すると兵士が勢いよく立ち上がり、地面と平行になる勢いで体を曲げ声を上げた。


「も、申し訳ございません!まさか大魔女様のお弟子様とは思わず。ご無礼をお許し下さい!」

「へ?あの……」

「お手間をとらせてすみません。手続きはこちらでしておきますので、ささ!ようこそオルアンへ。私共帝国民一同。貴方様を歓迎いたします」


 さっきとの対応の温度差に困惑しながら、僕は帝国の門を潜った。兵士は終始笑顔だったし、報告を受けた門番や巡回の兵士にも頭を下げられた。

 きっと先生が何かしらしたんだろう。そう思うことにし、先生に感謝しながら街を散策した。やはりイベントの影響か人が多く、ほとんどがプレイヤーだった。

 取り敢えず情報収集の為に図書館に向かい、アイやライブラに手伝ってもらいながらステラに関する情報を探した。

 二人にはそれっぽい本を運んでもらい、その中から僕が情報を探すと言う作業が続いたが、中々目当ての情報は無い。

 日も暮れてきたしそろそろログアウトを……と考えていると、図書館の中に兵士が入ってきた。鎧を装備し帯剣した兵士が二人、何やら受付の人と会話している。

 気になって様子を伺っていたが、受付の人と目がった。咄嗟に視線を逸らしたが、ガチャガチャと鉄の鎧が擦れる音が近づいてくる。逃げ出したい気持ちを抑え、通り過ぎることを願っていたが、その願い虚しく音が目の前で止んだ。


「貴殿がケント殿か?」


 兵士の一人に声をかけられ、全てを諦めた僕はゆっくりと頷いた。

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