第117話
華の国のイベントも落ち着きを見せ、皆が日常に戻りつつある今。僕は次の目的地の情報収集をしていた。
その関係で中々ログインは出来なかったが、充実した日々を過ごしていた。
唯一、不満があるとするならば…………。
「賢者のチータ説は真っ赤なウソ。解析班の成果!今話題の賢者様が———————」
「もー…………やめてって言ってるだろ?実験動物みたいな気分になって嫌なんだよ」
将太が何度もFAの雑誌を音読してくる。今回は丸一冊を賢者の特集で使ったもので、考察から何から全て書かれている。
中にはアイ達にふれる記事や、魔核などのアイテムにふれる物まで様々だが、詳しく書かれすぎているせいで少し気味が悪いのだ。
当たっている物が多いし、どうやってこんなに調べるのかと不思議に思うくらいだ。
「他にも、英雄や優しい等多くの感謝の声をよく耳にする。帝級の中に名を連ねるのも近いのでは?だってさ!いやあ鼻が高いね」
「自分の事の様に言ってないで言うことを聞いてあげなよ」
ガハガハと笑いながら音読を続ける将太に、圭吾が呆れた顔でそう言った。
感謝の言葉を聞いて少し元気が出た僕は、二人と別れた後これからの事を考える。
最近はゲームをプレイすると、少しイライラしやすくなってしまう。そのせいであまりログインをしていないというのもあるが、後回しにするだけで何も先に進まない。
天中山に行っても本当に夜天龍がいるかは分からない。だから情報収集をしているんだが、そんな龍を見たという情報すらない状態だった。詳しい知り合いもいないし、正直手詰まりだが諦めるわけにはいかなかった。
現在、大橋は魔物の大量発生イベントの最中。向こう岸までは列車を走らせるが、駅までは船で向かう必要がある。その船の移動経路で大量発生しているので、今の状態で行ったら万が一がある。僕一人であれば問題ないが、他人に迷惑をかける可能性が高い。
が、他に移動手段が無いのは事実。破断を使って飛んでいける距離でもないし、大橋上空では飛行は禁止されている。完全に飛行できないという事ではないが、ルールを破るのは違う気がする。駅までの距離は船で2時間ほど、結構な速度が出る船でもこの時間なので、もし自分で駅まで行こうと思ったらこれの倍以上はかかるだろう。そうなってくると休日が望ましいが、生憎今日は月曜日、5日間は最低でも準備期間になる。
急ぐ必要は無いが、できれば土曜日に向こう側の大陸に渡れるようにしたい。
最悪破断の刃で飛んでいくかもしれないが、それは最後の手段に取っておこう。
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上空。下からは雲に隠れて見えないはるか空の上。青空が広がるそこに、1つの島があった。
大小さまざまな岩が浮き、輪の様に島の周りを移動する。
灰色の風景しか見えないその島に、一匹の龍が住んでいた。目を閉じて微動だにしないその龍は、まるで死んでいるようだった。
来客も無い、会話すらないその空間で出来ることと言えば、ただじっと思い出を振り返るだけ。
そんな寂しい空間に、新たな存在が加わろうとしていた。空に浮かぶ都市は、目的も無く宙を漂う。そんな鏡の様な存在を、黄金の瞳が確かに捉えていた。
内に秘めた衝動に蓋をする様に、龍の瞳はゆっくりと閉じられる。
数百年の時を経て約束が果たされるのは、まだ少し先の事である。




