第116話
閉会式を行いプレイヤーもNPCも皆が自分の家に帰るころ、僕はというと正座をしていた。
月輪の間で怖い顔をした二人を前に、ただ黙って待つしかない状況。怖すぎるんだが、逃げ出せるような状況でもなかった。
この二人がこうなっているのは、おそらくさっきの龍炎との試合のせいだろう。
あれだけの魔法が及ぼす影響は、計り知れないものだったに違いない。桜さんが居なければどうなっていたか……。
あれを刀一本で切り捨てるこの人もどうかと思うが、余計なことは口にしないほうがいいと身をもって体験してるので、僕はじっと二人が口を開く時を待った。
「お主は、夜天龍が起こした大事件を知っておるか?」
「少しだけ……」
夜天龍が起こした大事件。星降りと呼ばれるそれは、文字通り大量の隕石が地上に降り注いだ大災害だ。
たくさんの人が帰らぬ人となり、自然も死んだ。
「お主のあれが大量に降り注いだと言えば問題の大きさが分かりやすいか?あれはただ熱をもって発火したわけではない。神の炎を纏っていたのじゃ。下手をしたらこの国が再起不能になっていた可能性もある。にも拘わらずお主はあれを行使した。どういうつもりじゃ?返答次第では今すぐ首をはねるぞ」
起こりえた結果の話をされると、急に恐ろしくなった。
自分でもわからなかった。好奇心が悪さをしたと言えれば簡単だろう。ただ単純に気になったから、そういえばツクヨミの怒りはさらに増すことになる。
自分があんなことを考えながら大量虐殺をしようとしたことについて、まだ頭の整理が追い付いていない。そんな中人に説明を求められたところで、言語化するのは中々難しい。
「まあ、大体想像がつくがな。お主が龍に認められんかった理由がそれじゃろう」
ため息をついて頭を抱えたツクヨミ。桜が持ってきた水を飲み、話をつづけた。
「良くも悪くも、お主は奴との繋がりが強すぎる。そのせいで、力だけではなく感情も流れてくるんじゃろう。龍気解放とはそういうものじゃと聞いておる。強すぎる思念は契約者の毒になり得る。やつが持つ破壊衝動とお主の知識欲が合わさった結果がこれじゃ。夜天龍はそれが分かっておったのかもしれん」
プレイヤーの思考に直接影響を及ぼす?そんなのゲームの域を超えてるんじゃないか?確かにVRゲームは脳と関係しているが、明らかに別人じゃないか?
僕が変わってしまう、それも悪い方向に。そう考えると急にこわくなった。
「力を持つものはそれが他人の害となり得ないように制御する義務がある。それがもし、お前にとって関係の無い世界の話でも、今お前がそこにいる以上失うのはその世界の住人だ。お前に全てを背負って生きる覚悟と目的があれば話は別だがな」
特訓を通してステータスもレベルも上がったし、新しいスキルやアイテムも増えた。そのせいで、初心を忘れていたのかもしれない。自分はまだまだ弱い。前はただこの世界を見て回れれば良かったけど、色んなことを経験して今は困ってる人を助けて回りたいと思うようになった。
「……次にやるべきことは分かるな?」
「はい」
夜天龍の元に行って、今の状態を何とかする。そうしないと、一生後悔するだろう。
今は大きな技を使おうとすると、どうしてもあの時みたいになるらしい。これは1度龍気解放に近いものを使用してしまったからだと思うんだが、一言で言うと蛇口が開けっ放しの状態。これを閉める方法を見つけに行かないといけない。
「かの龍はこの世界で1番高い山に住んでいると言われている。そんな山はあの天中山しかない」
「天中山……ですか?」
「昔は天柱山と呼ばれておった。文字通り天を支える柱のようにそびえておったからじゃ。じゃが今は下からは見えん。理由は分からんが見えなくなって久しい。そのせいで天の中に隠れた山と呼ばれるようになった。あった場所は教えてやる、あとは何とかするのじゃ。自分でな」
次の目的地は初めて行く大陸だった。が、その場所を聞いた時、アイの顔色が変わった。
「帝国ですか?今は魔族の領土の真横のはず。それに帝国がある大陸に行くには断崖を超えなければならないではないですか」
「それがどうした?目的のためには例え危険な場所でも向かわねばならん。それに、あちら側には5番目もおる。結局は行かねばならんのではないか?」
アイの様子が気になって話を聞いてみた。
断崖には大橋がかかってるから、もう渡れないことは無いのだが、最近は大橋の近くで魔物が活発化するという事件が怒ってるらしい。
でも、ツクヨミが言うには5番目のセフィラもその大陸にいるらしい。危険ではあるが、行くしか無いのは事実だ。
「下から見えないのに見つけられるんですか?」
「恐らく、龍の力で山が浮いておるだけじゃろう。あそこは雲の多い土地じゃから下からは見えんだけ、どうにかして飛べれば問題は無い」
飛ぶ事が1番難しいのでは?と思ったが、口には出さずに頷いた。




