第115話
感じたことのない程の力を破断に纏わせ、攻撃の体制を整える。
真っ赤に燃え上がる龍と、夜空を彷彿させる龍が互いににらみを利かせながらその場に存在していた。反対側では岩の会場が溶け出し、もう一方では岩がめくれあがったり浮かんだりしていた。
「いいぞ、とても素晴らしい!これほどの闘気はどの戦場でも感じたことが無い。今日あった些事は全て忘れてしまえるほどだ!」
満面の笑みでそう叫ぶ龍炎。そんな龍炎の心に答えるかのように、炎が踊る様に暴れだす。
そして時を同じくして、龍炎の攻撃準備が始まった。
「赤く、燃え昇る。その熱は全てを溶かし、我が前に残るものは何も無し」
龍炎の持つ刀も炎と同じように輝きだした。
燃え上がる会場と、盛り上がる観客達。この一撃で決着なのだと、誰もがそう思っている。実際その通りだろう、負けか勝ちかそのどちらかしか残らないこのひっ迫した状況の中、不思議と心は落ち着いていた。
相手は刀を使用した居合の斬撃と、あの超高温の熱波が同時に襲い掛かる攻撃を仕掛けてくるだろう。だが僕は?これほどの力を引き出したとしても、使える技なんて存在しない。
かといってこれをそのまま飛ばすのなんて非効率だし、何より面白くない。
(面白い…………?ああそっか、僕も楽しみなんだ)
魔核にも匹敵するほどの力。これをどうやって使おうか?
1つ1つを魔力弾として再現なく放つ?それともこれを原動力に大魔法を発動させる?
いや、どれも違う。もっと、もっといいものが目の前にあるじゃないか。
僕の準備が整ったことが分かったのか、龍炎の目の色が変わった。
「一撃だ!居合一の太刀・炎龍!」
居合と共に放たれた龍は、その軌道上の全てを燃やし溶かしながら真っすぐに飛んできた。
それまでは読み通り、だがここからはどうなるか分からない。
もしこれが軌道を変えたら?必中効果のあるもので僕に当たるまで止まらなかったら?そんな考えが脳裏を過る。自分の選択が果たして正解だったのか疑念を抱きながらも、僕は僕の出せる全てを賭けると誓った。
「反転」
一瞬だった。炎の龍はその軌道を変え、天の彼方へと消えていった。
起こりえるはずのないその光景に、龍炎は目を丸くして驚いていた。技の速さはそこまで無いものの、どんな防御にも防がれたことのない自分の技。今までの特訓で、さらに強くなったはずの奥義が、逸らされた。それだけでも驚愕の一言なのに、龍炎は更にありえない光景を目にする。
「おいおい。なんだそりゃあ!?」
空が一瞬赤く光ったと思いきや、その光は徐々にその大きさを増しまるでこちらに近づいているようだった。
隕石。そう呼ぶにふさわしい巨石が、龍炎の炎を纏って会場に落ちてきていた。会場からは悲鳴が聞こえ、神であるツクヨミも焦りを感じていた。
「なんじゃあれは?!あんなものが落ちれば被害は相当なものじゃぞ!」
命の危機。それを感じたのは初めてだった龍炎は、その場から動く事が出来なかった。勝敗何て、とっくに頭から抜けていた。自分の力を利用されさらに強くなったであろうあの隕石。そしてそれを作り出したケントに強い興味を抱いた。
弱そうな男。偶々ツクヨミ様に気に入られただけの男。そう思っていた少年の表情は、笑っていた。こちらを馬鹿にしているわけではない。ただ純粋に、技の結果を心待ちにしている。本当の意味の少年がそこにはいた。
「ああ。運が悪かったみたいだな」
そういい死を確信した龍炎だったが、隕石が落ちる直前に細切れになって消え去った。
二人の間には、真白な装束を着た男。桜が抜き身の刀を持って立っていた。美しく怪しげに光る刀を鞘に納めた桜は、どす黒いオーラを放つケントの元まで歩み寄る。
まるで別人のような顔で残念そうにするケントを前に、桜の眉間に深めのしわが寄った。
バチン!という大きめの音が響き、ケントの頬が赤くなる。
桜が人を殴ったところを初めて見たツクヨミは驚きで目を丸くしていた。どす黒いオーラが消えたケントは、隕石が落ちたときの光景を想像して顔を青くしていた。
「僕はなんてことを…………」
眉間にしわを寄せたままの桜は、放心状態のケントを抱え上げた後審判に紙を渡してツクヨミの元に帰っていった。
残された審判と龍炎だったが、審判は落ち着いて渡された紙を読み上げた。
「えー………ケント選手の先ほどの魔法は、大会規定で定められた破壊力以上の危険な魔法であったと判断する。よってケント選手を反則負けとし、龍炎様が勝利したことに——————————」
「ふざけるな。こんな無様な勝利なんぞ要らん」
審判の胸ぐらをつかみ怒りを露わにした龍炎は、会場を後にした。
両者敗退となった為、流水が不戦勝という形になった。優勝者インタビューという場を設けられ尺稼ぎをされた流水だったが、苦い顔をしてコメントを残した。
「なんか、うん。皆自分勝手だな」




