第12話
応接室に通されて数分。やはり忙しかったんじゃないか?と思いながら待っていると、部屋の扉が開いた。
入って来たのは身なりの良い、金髪蒼目の外国人風の男だった。恐らく彼が子爵だろう。
「初めまして。私の名前はグラン・ラランボと言います。知っているかもしれませんがこの地の領主です。以後お見知りおきを」
「は、初めまして。僕はケントと言います」
「そんなにかしこまらないで大丈夫ですよ。今日は謝罪のために来ていただきましたから」
そう言ってグランは椅子に腰かける前に謝罪の言葉を述べ、頭を深く下げた。
本当に僕は気にしてないので大丈夫だったのだが、一応謝罪は受けた方が良いとアイに言われたのでそうした。
これで用は無くなったんだが、それは表向きの話。裏の方にある目的が未だ終わっていないだろう。さあ……どうやって切り出してくるのか。
交渉術も、先生との授業に含まれていた。何かの役に立つからとある程度の事は叩き込まれたが、それでも数日。流石に全部は覚えていない。貴族と言えばこういったことは十八番だろう。僕の付け焼き刃が通用するのか……。
「正直に言いますと。貴方の力を借りたい。謝罪の後で図々しいと思われるかもしれませんが、どうか知の魔女の知恵を貸していただけませんか?」
「ず、ずいぶん正直に言いますね?」
「お気を悪くされたのなら謝罪します。ですが、話だけでも聞いていただけませんか?」
『確かに図々しいですね。どうやら少し太めな性格の様です』
アイは向こうに聞こえないからとだいぶ失礼な事を言っているが、それは置いておいて……。この感じだと相当困っているようだ。
グランさんは悪い人では無いだろう。街の雰囲気、本人の空気感、そして正直なところ。もしかしたら演技なのかもしれないが僕にはそうは見えない。
ここで頼みごとを断るのは簡単で、引き受けるのは難しいだろう。直ぐに忘れてしまうことだってできる。でも僕は、先生が言ったことを直ぐに忘れる程馬鹿じゃない。
「いいか?お前に知識を与えるのは、お前が世界を回りやすくするためだ。でも、もしお前の知識を必要とする奴が居たら……悪い顔をせずに助けてやって欲しい。それが私が—————」
「先生が知識を求めた理由だから……」
「……?今なんと?」
「グランさん。話してください。出来る限りの事はさせてもらいます」
「おお……。おお!ありがとうございます!」
グランさんは難しい顔をして、ポツリポツリと話し始めた。
何代も続く子爵家、先祖が土地を拓き発展させてきた誇りある家。商人で賑わい活気のあるいい街だった。
だがその街が、今の代で終わるかもしれない。父から受け継いだこの地が無くなってしまうかも……。
その理由が、治安の悪化である。
表向きは商業で栄え、潤っているこの街は裏では犯罪者の巣窟になっていた。
大きすぎず小さすぎない子爵領。敵国にも隣接している辺境とは違い、軍もいない。今まで平和だったせいか警備隊の練度もいまいち、なのに今代になり更に商売の幅が増えたこの街は金が多く流れて溜まった。
そこに目を付けた犯罪者たちが住み着き、大事にならない範囲の少量の窃盗が相次いでいるらしい。そのせいでこの街から離れた商会も少なくないようだ。
「このままじゃ亡き父上に顔向けできません。ですが私の力ではどうすることも出来ず、先程は娘まで街道で襲われました。最近多くなった冒険者の方に頼んでも、良い成果は得られず……。妻にも心配をかけどうすれば……」
『それほど大事でもない気がしますが?』
「そうだね……。流石にそれだけでここまで追い込まれるとは思わない。何か違う理由がありそうだ」
『犯罪者の掃討だけでしたら簡単ですが、これは他の領地が関わっている可能性があります』
他の領地……。この街が発展して迷惑する領地は……。
この領地は王都から辺境までの丁度中頃にある。だからここが発展すれば辺境までその利益が行くはずだから、この領地を邪魔だと思っている所は無いと思うんだけど……。
『商業が盛んで食品が有名。この領地が発展することで、いく必要がなくなる領地は……』
「隣のバラーリア伯爵領か!」
『はい。元々5対5の比率で商人が出入りしていた二つの領地は、先に伯爵領が代替わりいたしました。伯爵の子息は出来があまり良くなかったようで、景気は右肩下がりに。そしてこの領も同じく代替わり、伯爵領と違った点は跡継ぎが優秀だった点でしょう。見事自領を発展させ比率は8対2、伯爵領の景気は上がるどころか下がり続け、自分よりも身分が低い者が成功したことが面白くなかったのでしょう』
アイの口の悪さは相変わらずだったが、確かに理由としては納得できる。が、証拠も無いし断定するのも早いし解決も出来ないだろう。
証拠集めに犯罪者の捕縛。考えることが多いな…。僕は頭を整理するために、少し甘いものを頼んだ。
感想待ってます!
そろそろもう一つの方を再開しないといけませんが、一度つまると中々前に進めませんね………。
頑張って行こうと思っていますが、期待せずに待っていてください!