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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第112話

 チーターとも呼べる相手と戦い始めて数分経過したが、終わりは全く見えてこなかった。

 頭をフル回転させながら体も動かしているせいか、疲労がたまりやすい。暑さのせいもあるんだろうが、理由なんてどうでもよかった。

 こっちは疲れているのに相手は逆に元気になってきている気がする。

 即死回避のスキルを早々に使ってしまい。一度の被弾が命取りになるこの状況で、攻勢に出るのは難しく、じりじりと体力を削られる。

 熱耐性のスキルの効果時間も終わり、持続ダメが入っているがクールタイムは約二分後。耐性魔法は習得していないためこの試合時間は持って三分だろう。

 ここにきて魔法の勉強を怠ったのがあだになるとは、思いもよらなかった。

 元々頭がいい方でもなかったし、そもそもFAには魔法使いが少ないと言われるほど、魔法という物は難しい。

 詠唱を丸暗記しそれを唱えることで魔法を使うのが一般的だ。口頭の必要はなく、思い浮かべるだけでも発動は可能。

 しかも省略や複合などさらに高位の技術もあるが、どの文が重要かを理解していないと、魔法は省略によって発動しなくなる。

 スキル化の方法もあるらしいが、詳しい条件はわかっていない。

 耐性等の下級の魔法でも5~10の文がほとんどなのに、勉強しようという気になるものは少ない。そんなことよりレベルを上げてPSプレイヤースキルを磨いたほうが早いからだ。

 だからこそ、彼はおかしいと言えるだろう。

 最近始めたプレイヤーとは思えない実力で駆け上がってくる、賢者と呼ばれるプレイヤー。

 彼を見たときに、魔法を完全に理解していると思った。もしくはそれに準ずる何かと交流がある人物。運も絡むが、それを身に着けた実力が恐ろしい。

 

「試合中によそ見はいかんなあ!」


 思考が脱線しかけた時、龍炎の攻撃が耳を掠めた。少し先のほうが焦げたが、大したダメージにはなっていない。

 だが、追撃の回し蹴りを食らったとき、悟った。


(これは、勝てないな)


 今の自分では圧倒的に実力が足りない。ここで無駄な時間を使う必要はないだろう。

 そう思った後は早かった。審判に降参の意思表示をし、試合は終了した。龍炎は怒って吠えていたが、どうやっても勝てない試合で、無様な姿をさらすのは僕の中の高いプライドが許さない。

 今は、撤退する。でもいつかは勝利を収める。そのためにまたレベルを上げてこないといけない。


「本気にならないまま逃げるのか!すかしやがって、ブチ殺すぞ!」


 審判と他の選手に取り押さえられてようやく落ち着いた龍炎は、舌打ちをして去っていった。

 俺も控室に戻り、前の試合の録画を眺めていた。

 賢者と縁真の試合だが、やはりおかしいという感想が出てくる。

 魔法を使いながら近接戦闘をこなすのは不可能じゃない。魔法を覚えてステータスを上げればいいだけ、理論上は可能なのだ。

 だが、彼は時間が圧倒的に足りないだろう。魔法を覚えたとしてもステータスがついてこないはず、そう考えると彼も何かしらの特典持ちだと考えられる。

 チーターだと言われる事も多いが、ステータス面でおかしな点は見当たらない。そこまで強いと言えるものではない。ステータスでいえば中の上ぐらいだろう。

 そんなステータスでも異常さが見える理由は、技術と頭脳に他ならない。熟練の兵士レベルの戦闘技術に、先を読む力。

 あの飛ぶ刃もそうだ。聞いた話だと破断という貰い物の武器のようだが、元々は大きさが変化する大剣だったはず。それを改造したのか、今はあの形状になっている。誰かに依頼した可能性も高いだろうが、俺は彼が自分で改造した気がする。

 彼がどんな風に成長していくのか、楽しみでならない。


「いつか戦ってみたいものだ」


 そんな風に思いながら、次の試合を観戦するために客席へ向かった。

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