第111話
賢者とブロンの戦いが終わり、興奮冷めやらぬというところでやってきたのは、ザックと龍炎の対戦だった。
神の剣という点ではお互い共通点があるが、その戦闘スタイルは大きく違っていた。
高火力で相手を瞬殺する龍炎とは違い、ザックは攻防一体で持久戦が得意だ。龍炎は繊細さに欠け隙が多いが、技の1つ1つが必殺級。これをどう回避するかが勝敗の分かれ目になる。
大歓声の中両者入場が終わり、戦いの火ぶたが切って落とされた。
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FAを始めたのは、そういう事に憧れがあったからだ。
何でもできる兄とは違い、何もできない俺は必然的に引きこもった。薄暗い部屋で無為な時間を過ごす毎日。何かしよう、何とかしようと言い始めて早五年。俺のところに、一本のニュースがやってきた。
新たな世界、それを切り開く最初の百人を決める抽選の案内。FAのテストプレイヤーの募集だった。俺は早速応募し、一番という数字を勝ち取り特典付きでこの世界にやってきた。
神剣のザック。そう呼ばれ始め、帝級という上級プレイヤーにもなった。
FAを始めてから、現実も充実しだし絶好調の中迎えたこの大会。相手はNPC最強説も囁かれる五剣というこの国のトップクラス。でも俺だって負けていない。何万と居るプレイヤーの上に立つ実力を持っている。そう、思っていた。が…………。
「おいおいそんなもんか?」
「いや、まだまだ!」
目の前の女性は、涼しい顔をしながら化け物みたいな威力の攻撃を連発してくる。
俺の神剣は、攻撃と防御を切り替えることができる。が、それには時間が必要で隙も大きくなる。だから今はずっと防御の型だが、これではジリ貧だ。
かといって切り替えられないのも事実。これからどうするのか、考えている余裕は…………。
「おら次だ!」
「無いだろうね…………!」
本来、詠唱を必要としない非魔法はスキルと言われる。スキルは発動が速いがクールタイムが長い。それが常識だった。そういうシステムでバランスを保っていたはずだが、明らかにそれが無い。スキルではないのか?何かの個人技かそれとも…………。
こうしている間にも、炎が俺を襲っている。会場に留まった炎が徐々に龍の様に変わり、龍炎の周りを踊る様に漂っていた。
暑さで頭もおかしくなりそうだが、気をしっかり保って攻勢に出ることにした。




