第110話
先程まで優勢だったはずの試合が、なかなか決着がつかないことにブロンは焦りを感じていた。
見るからに弱そうなガキ。こんな奴、自分にかかれば一瞬だと高を括っていた。
その土地固有のイベントを進め、圧倒的ステータスの上昇値を獲得したプレイヤー。それが自分であり、誰も知らない情報でもあった。自分は特別だ、運と実力を兼ね備えた上級プレイヤーにも劣らない存在。それをこの大会で証明するはずだった。相手を完膚なきまでに叩きのめし、あの神剣をも下す。そういう計画だった。
（それなのに何なんだこいつは、賢者と言えば魔法がメインのプレイヤーのはず。近接戦ですぐに終わらせるはずだった。なのに、なのに…………）
今目の前に居るプレイヤーは、運だけいいと陰で言われることも少なくなかった。実際自分もそう思っていたし、現にそのはずだった。だが、こいつはまだ一度も魔法を使っていない。そればかりか、俺に合わせた立ち回りでまだ本気を出していないようにも見える。
遊ばれているのか？この俺が？そんなはず…………。
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「くそがあ！」
しびれを切らしたブロンの大振り。待ってましたと言わんばかりに僕は懐に潜り込み腹を突いた。それだけでは倒れず、間髪入れずに横なぎで頭を割る。
流石のブロンもひるんだ様で、剣から手を放してしまった。
これだけでは試合は終わらない。とどめの一撃で顔面を突いた後に、僕はブロンの耳元で囁いた。
「お前みたいに人を馬鹿にするやつが一番冷めるんだ。よく覚えておくんだね」
ブロンの耳に入っていたかは分からない。でも、少しだけすっきりした。心なしか本当に体が軽くなっているような気がしたが、僕はそんな性格だったかと疑問に思う。
やはり特訓のせいか？いいこともあれば悪いこともあるだろうが、今後は気を付けないといけないだろう。
「戦闘不能を確認。勝者はケント！」
歓声に答え手を振りながら、ケントは去っていった。
この試合から、賢者の評価は変わる。魔法だけのプレイヤー、運が良かっただけのプレイヤーという評価が嘘のように消え失せ。準帝級。賢者という二つ名が完全に定着した。
本人が気にするところではないが、その事実に喜ぶものが少なからず一人は居た。
第二の師匠である桜。そしてツクヨミは嬉しそうに笑みを浮かべていた。だがそれと同時に、抱いていた疑念が確信に変わる。
ケントから聞いていた龍気の獲得失敗の件。龍に拒絶され一時中断となった計画だが、事実は異なることに気が付いた。
そもそも、龍気は龍が持つものでありその素材等に宿る。だがそれを使用できるのはあくまで契約者のみ。例外として龍に認められた友である存在はこれを使用することができる。だから龍気が最大の武器になると判断し、その為に計画を立てたが失敗した。
「それもそのはずじゃ、無理やりの会合は安定性に欠ける。じゃが少し借りるぐらいなら大丈夫じゃろうと甘く見ておったわ。契約者だった場合を考慮しておらなんだ」
契約は相互の了承を得て成る。その時点で龍気を使用可能になる為契約者の体内に龍気の発生および保存器官が生成される。黒いオーラはおそらくそれの予兆だろう。
だが、ここで妙な点がいくつかある。契約者であるならば、ケントがそれを知らない事に説明が付かない。自分の意思が無い状態での契約となると…………。
「ん…………んん！？は、ハハハ！そういう事か！」
全てを理解したツクヨミはケセドの頭を掴んで笑った。
「お主の態度にも合点がいったぞ、あれは巫女の血族か！遺伝契約じゃな？道理で儂が分からんわけじゃ。ああ、そういう事じゃったか。これでお主らの思惑も理解したわ！」
「まったく…………だから神は嫌いなんだ。頭が良すぎる」
「それにしてもあ奴も不憫じゃのお。生まれながらにして運命が決まっておるとは。用意された道をただ歩くことほどつまらんことは無い。じゃが、あ奴は道を作ってしまったのお。計画が狂ったことへの腹いせにこれだけ試練を与えるのであれば、儂は何もいわんぞ？駄々をこねる童に何を言おうと意味がないからな！」
ガハガハと笑うツクヨミと、それに同調してこちらを馬鹿にした態度で見つめる桜を見て、ケセドはため息をついた。
速く試合が終わることを願いながら、二人をいないものとして扱うと決めたのだった。
