第108話
せっかく書き溜めたのに投稿忘れてました(笑)
すいません
観戦席で圭吾の試合を観戦していたが、一瞬妙な寒気を感じた。
だけど特に問題なさそうだったため、僕はそのまま観戦を続ける。
対戦相手のブロンというプレイヤーは、特に有名なプレイヤーというわけではないが、実力は上級に近かった。戦斧を使用した戦士スタイルで、からめ手などは使わず正面から仕掛けるタイプ。だが高い攻撃力と素早い動きのせいで、結構な破壊力を生んでいる。
対する圭吾は、受けの戦いが得意らしくあまり仕掛けることは無い。誰かのサポートを前提とした立ち回りで決め手に欠けるせいか、今は少し押され気味だ。おそらく将太と二人で戦闘する事に慣れているのが原因だろう。僕も上から物が言える立場ではないが、圭吾が劣勢なのは誰が見ても明らかだった。
あの質量の攻撃を細い剣で上手く受け流してはいるが、それも長くは持たないだろう。
圭吾の体力的にはまだ余裕がある様に見える。が、問題は…………。
「おっと!?ケイゴ選手の剣が折れてしまった!規定により勝者はブロン選手!」
試合結果は想像していた通りになってしまった。
圭吾は防具やその他アイテムに金をかけている感じで、武器にあまり関心が無さそうだと思った。
結果、相手の猛攻に武器が耐えられず失格。技量は拮抗していただけに、周りの反応も少し残念そうだった。
「あの子、戦い方は上手だったのに残念だな」
「ああ。武器が壊れなければどうなっていたか分からないぞ」
本当にその通りだ。この試合の勝者は次の僕の対戦相手。もしかしたら圭吾と戦えるかもと期待していただけに、見ていたこっちも悲しくなった。
(もしかしたら本人も落ち込んでいるかもしれない。様子だけでも見に行こうかな)
おせっかいだとは思っていても、行動せずにはいられなかった。
試合終了後は、数分の準備時間があるためその内に会いに行こうと席を立った。選手の控室はそう遠くないし、次の試合が始まる前に戻れるだろう。
何て声をかけようか迷っていると、ブロンと圭吾が何やら話をしていた。咄嗟に物陰に隠れてしまったが、話を聞いているうちにそうして良かったと思った。
「おいおい、さっきの試合はなんだ?お前みたいなカスがいると試合が冷めるんだよ!」
少し強めに突き飛ばされる圭吾。だが彼は何も言い返さなかった。どうせ負けたからそんな権利は無いとか思っているんだろう。
今すぐ出ていきたい気持ちを抑えて、今はただ見守った。
暫く暴言を吐いていたブロンだったが、圭吾が何の反応も示さない事に飽きたのか、舌打ちをして去っていった。
出るタイミングを逃し固まっていた僕だったが、ブロンが見えなくなったころに圭吾の呟いた言葉が聞こえた。
ゲームの話を二人でするとき、僕は色々なことを圭吾から聞いていた。将太に頼り切った戦闘、自分はサポートは一丁前だ等、最初は少し落ち込んでいたように思える。だけど、最近はそんな事も無くなってきた。自分も前に出れるようになったとか、嬉しそうに話すことが多くなった。
自分と同じような悩みを抱えていた圭吾に親近感を持っていたし、その悩みが徐々に解消されている事も自分の事の様に嬉しかった。
だからこそ、あの一言は確かに僕の心に届いた。
「悔しい…………!」
少し風が吹けば、かき消されるような小さい声。だけどその言葉は、静かな空間で真っすぐに僕の方に飛んできた。
圭吾には声はかけなかった。そうしたところで、意味は無いだろうと思ったから。
どうやってやり返してやろうか、そう考える僕の頭に敗北の二文字は浮かばなかった。確かにブロンは僕よりも高い攻撃力を持っている。素早さもギリギリだ。だが、だからどうしたというのか、あんなものよりも強い人たちを僕は知っている。しかもその人との特訓で、僕も強くなっている。
傲慢になるつもりはない。僕より上は腐る程いるのだから。
「でも、あれに負けるとは思わない」
力任せの単純な攻撃、あれでは破断は壊れないし僕には魔法もある。
でも、魔法で勝ったところでブロンは負けを認めないだろう。彼が一番悔しがる勝ち方をしなければならない。
力自慢には力で差を知らしめる。そして負けた側の辛さを味合わせる必要がある。
「ああ。今から試合が待ち遠しい」
来るその時に思いをはせながら、静かに観客席に戻った。




