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賢王の書~ ELSIUM OF EUPHORIA~  作者: LSABA
二章 華の国編
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第107話

 一回戦敗退。その事実は縁真の心に傷を残した。

 医務室で目が覚めた縁真は、握ったこぶしから血が滴っている事にすら気が付かない。


(あんなガキに、負けたのか?)

 

幼いころから次期五剣の一人として修練を積んできた。それについ最近までこの国の神とその側近の特訓を受けていた。

 文字通り血のにじむ努力をしたし、自分が更に強くなったという確信もあった。だが、あいつはそれすらも超えてきた。

 最後に感じたあの気配。あれは人のものではない。おそらく魔族。それも高位の存在だろう。


(つまりあれは魔核か、そんなものを持っているとはな。あいつの縁に恵まれる力はどうにかならんのか?)


 縁。思えば親父が間違って届け出たこの名前も、間違ってはいなかったのかもしれない。

 本来であれば、緑を連想させる我が家の跡取り。ということで緑という感じを使うはずだった。それに民から恐れ敬われる存在にと、閻魔から取り私の名は縁真となった。

 父が一石二鳥だと思ったと口に出したことを今でも覚えている。よくその頭で当主になったと褒めてやりたい気分だった。

 真の縁。そう願って付けた名だと思うことにしよう。今回の試合で、それが大事なものだと知ったから。


---------------


 試合の結果に困惑するもの、状況を分析しようと試みるもの、その考えは様々だがただ純粋に、弟子の勝利を喜ぶものも居る。

 観戦席の一番高いところで全てを見ていたツクヨミは、嬉しそうに手をたたいた。


「どうじゃケセド。良うなったじゃろう」

「結局他人だよりではないか。この前と何も変わってないぞ」


 想像していなかった言葉に少し驚きながらも、ツクヨミはケセドに言い聞かせるように言った。


「よく見てみろ。オーラの質が違う。プルプル震えて不安定だったものが、今は洗練され綺麗に見える。成長の証だと思わんか?」


 確かに、ケントから感じる気配は様変わりしている。だが、ケセドが言いたいのはそういうことではない。今回試合の決定打になったのは魔核。これはケント自身が作ったものではない。

 つまり、いくら成長しようがその決め手がなければこの試合は勝ち目がなかったのだ。


「一度でもやつ自身の力を示さなければ、巡礼を再開させる気は無い」

「じゃがケセド。貴様の慈愛の権能も、勇者によって与えられた力だと記憶しておるが?結局誰しもが与えられた物の中で戦っているのじゃ。儂はそれをどう使うか、その工夫が重要じゃと思うがな」

「それはそれだ」


 少し期限の悪いケセドを置き去りに、会場は再び熱気に包まれた。

 2つの入り口から次の選手が入場する。二回戦は圭吾対ブロンという男。あまり有名なプレイヤー同士の試合ではないが、会場は大きな盛り上がりを見せている。

 これもNPCの観戦率が高いからだが、他とは対照的にこの席は冷え切っていた。


「見よケセド。あれが本物の弱者じゃ。何も持たず何も見えん。あれと比べれば、ケントは良い方じゃろう」

「自分の弟子と虫を比べるのか?あれでは話にならないだろう」


 若干、ツクヨミの眉間にしわが寄ったが、何事もなかったかのように話は続く。


「まあ良い。最後にはお主の考えも変わるじゃろう。桜の我慢がいつまで持つか、じゃがな」


 刀の柄に手をかけ、今にもケセドに切りかからんとする桜。彼が一番ケントの面倒を見ていたし、そうなるのも無理はないのかもしれない。

 だが、桜の怒りには別の理由がある。久しく忘れていた闘争心、それを思い出させた存在こそあの少年。桜のケントに対する期待は異常なほどに高まっていた。

 実力は足元にも及ばない。だが、それを補って有り余るほどの力が彼にはある。積み上げてきた努力を平気で潰せる程の力。それが龍の力であれ魔の力であれ、関係ない。

 あの少年が全てを己の物にし、そして経験を積み真の実力者になったとき、自分は本気で刀を抜くことができる。

 いつか訪れるであろうその日を期待しながら、試合を眺めるのであった。

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