番外編 森の獣と貪欲な獣
神秘的な森を抜け、二本の巨大な木がまるで門の様に生えている。
その巨木の前に座す一匹の狼。白とエメラルド色の毛並み、全てを見透かすかの様な透き通った青い瞳。体の全てが神々しいオーラを感じる存在。
門の守護者であり、神獣と呼ばれる高位の存在だ。
「何用だ月の子よ」
少し高めの美しい声が頭に直接語り掛けてくる。
神獣は寛いでいる様に見えるが、その瞳はじっとこちらを観察していた。
「精霊の森の守護者よ、私は真実を知るために星霊に会いに来た。開門を願う!」
「人の身でそれを知ってどうするというのだ?それは劇薬である。矮小な存在のお主が手にして無事でいられるはずがない」
神獣の言葉に、魔女は少しの思考を挟んだ。それにたどり着くまでの道のりの険しさも、たどり着いた後の絶望も、全てを予想していて尚彼女は求めた。
「約束は…………果たさねばなるまい?」
「…………ならぬ。ここを通れるのは、寵児か後継者。星に導かれし者のみ」
神獣がゆっくりと起き上がり、魔女の前に立ちふさがる。先程の大きさの倍はある様に感じるほどの巨体。それに比例した大きな爪と牙。あれに当たればひとたまりも無いだろう。
だが、それでも魔女は引かない。彼女の最大の恐怖に比べたら、子犬が吠えた程度なのだ。
「ならば、押し通る!」
世界の片隅で、壮絶な戦いがあった。その戦いは三日三晩続き、森を破壊した。
戦いの爪痕が残ることは無い。そして誰の記憶に残ることも無い。覚えているのは当事者たちのみ。
二体の獣の戦いは、より貪欲な者が勝利した。全ての知識を貪った大魔女は、この日最後の知識を得る機会を得た。
「心せよ…………星の試練は、お前の心を壊すだろう。多くを持つ者は、その物量に耐えられず全てを失う」
疲れ果て横たわる神獣のその言葉を、魔女は一笑に付した。
「安心しろ。もう私が持っている物は無い」
精霊の国への門は、何人も拒まない。眩く光る星の輝きは、果たして希望かそれとも星降りの絶望か、その真実は彼女には関係ないことだった。
ゆっくりと門に手を伸ばす。水の様になめらかで、鏡のように魔女の姿を映している。
魔女を心配そうに見つめる精霊は、魔女の懐から顔をのぞかせていた。
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