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最近間違い転生が増えて困っている2 〜違法出店〜

作者: 御湖面亭

 数々の争いが起こったこの世界で、平和な時が流れてはや数千年。僕は神として天宮からこの世界の行く末を見守りつつ、たまに現人神として下界に降り立ち、人々の営みを享受している。



「今日のおやつは何かなっと。おっ、チルトケアクじゃないか。これクリーミーで美味しいんだよな」

「神様、まだおやつの時間ではありませんよ」

「いいじゃないの、僕は神なんだから好きな時に好きなものを食べても」

「最近お太りになられたのでは?」


 付き人のアルテがお腹周りをおへそに穴が開きそうなくらいじっとりと睨みつけてくる。まったく口うるさいやつだ。


「この世界に美味しいものが多すぎるせいだと思うんだよね。お菓子だけじゃないよ。料理全般の話さ」

「料理といえば最近外界の一部で突然料理屋が現れたとかで話題になっていますよ」

「え、またどこかの世界のボケ神がこっちに料理屋ごと転移させてきたのか」


 この世界に間違い転移してくるのは何も人間に限った話ではない。料理屋もそのひとつだ。

 こと料理屋に関しては人間よりは幾分マシだが、元々この世界に無いものを持ってきてしまうため長居してもらいたくはない。


「ちなみに人気なの?」

「いえ、街の住人はそもそも料理屋の看板すら読めませんので、気味悪がって近づきません」

「だよねー。いつものことだよ」


 異世界に転移させているんだから言語が違うのは当たり前だ。そのおかげでこちらの世界への被害が抑えられているのだが。

 多くの場合、人間は転移してくる時に転移先の言語を話せるように調整されて来るが、料理屋というモノは基本的に元の世界のままだ。


「おやつ食べてからでもいいかな」

「ダメです」

「ちぇっ」


 ふてくされた顔を尻目にアルテが指を鳴らすと目の前の空間に穴が開き、転移ゲートが現れた。ゲートは外界の街【トルネ】にある、多くの飲食店が並ぶ通りにつながっている。


 アルテから聞いた話によると、料理屋が並ぶ通りに突如として見慣れない建築様式の建物が現れた。ほとんどの人間は気味悪がって近づかないが、一部の人間がその店で見たこともない料理を食べたと話して噂が広まったそうだ。

 ただ、普段利用している料理屋の中に見たこともない料理を出す店が現れたとして、その店に入る勇気を持つ者はそういない。その店の看板が全く読めない異世界の言葉ならなおさらだ。


「料理屋がこんなに並んでいるなんて結構栄えいる街じゃないか」

「だからこそ目立ちますね、あれ」

「そうだね。見た目からしてまたニホンの店だね。看板がニホンゴだよ」


 街の建築様式にそぐわない料理屋が一軒、そこにはあった。看板にはニホンゴで「居酒屋だいご」と書かれている。以前現れたのは洋食のいぬやだったか、毎度庶民的な店ばかりなのでたまには高級な店が転移してきてもいいだろうに。なにはともあれ、店に入って店主と話をつけるとしよう。


「らっしゃい」


 店の中にはカウンターと木製のテーブルが並んでおり、カウンターの奥にある厨房には店主と思わしき男性立っている。


「やあ、君がこの店の店主かな。少し話をさせて欲しいんだけど」

「お客さん、いいから座って食べてってくれよ。今日のおすすめはタコの唐揚げだ」


 店内は閑古鳥が鳴くかというくらい誰もおらず、閑散としている。事前の情報通り、気味悪がってほとんど人が来ていないようだ。


「いらないよ。それより勝手にお店を出されちゃ困るんだけど」

「そいつぁすまねえ。でも気づいたらこの世界に来てたもんでよ。これも何かの縁だと思って皆に俺の世界の料理を食べてもらいてぇんだ」

「そんな事はどうでもよくて、君の店は違法出店なんだよ」


 この世界の多くは法治国家だ。法の枠組みに照らし合わせると、この店は土地の所有権を侵害している上に営業許可が無いため、食品衛生や風営的に違法なのだ。


「じゃあこの土地を買い取って営業許可を貰えばいいんだな」

「基本的にはそうなるね。でもたぶん営業許可はおりないよ。だって君の店はこの世界にない食品を使うでしょ」


 異世界の料理屋を認められない最も大きな理由の一つに生態系への影響がある。本来この世界にない食品によって、環境や生物にどんな影響を与えるかわからない。

 また、異世界の知識による料理の提供は経済的な競争を著しく阻害するため、独占禁止の観点からも許可できない。


「さっきから聞いてりゃあんた何者だ? 偉く高いところからものを言うじゃねえか」

「神だよ」

「……神?」

「そ、この世界の神。君の店もどこかのアホな神がこの世界に送ってきたんだよ」


 間違い転移は転移者も転移先の世界も得をしないから他の世界の神全員に通告したいところだが、今の所横のつながりがないので対処療法的に対応するしか無いのが現状だ。


「じゃあ元の世界に戻してくれよ。別に好んでこの世界に来たわけじゃねえ」

「いいけど、ちょっと待ってね。君の世界に飛ばされた元々ここで店を構えていた店を見てみるよ」


 この店がこちらに転移してきた場所にあった店は相互転移という形で向こうの世界へ転移する。もちろんそこで既に商売をしている可能性があるので状況を確認する必要があった。


「うん、ざっと見てみたけど大繁盛してるね。異国風の料理が好評みたいだ。ニホンは多様な文化を持ってるいいところだね」


 こちらの世界の食品が向こうで提供される分には問題ない。問題ないというよりも管轄外なので知ったことではない。


「それじゃあ僕たちは失礼するよ。出たらこの店ごと元の世界に送るからね」

「俺の店は全然客が来ないのに向こうは大繁盛だと……。ふざけやがって……」


 なんだかショックを受けてるみたいで雲行きが怪しい。さっさと送り返そう。


「じゃあ送るよ。異世界では通用しない料理だったけど、向こうではお客さん来るといいね。ばいばい」


 店を転移させると元々存在した飲食店が戻ってきた。店が戻るなり、久しぶりにこの店の料理を楽しもうと客が訪れだす。

 やはり美味しい料理屋はどこの世界でも客を魅了するようだ。


「僕たちも天宮に戻っておやつにしようか。神様なのに好きな時におやつすら食べられないなんて困った世界だよ」

「ふぁい、そうですね」

「おとなしいと思ったら何食べてるの……」

「タコの唐揚げです。結構美味しいですよー」

「……そうかい」

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