最強と日常 -天才の旅立ち2-
教会から送り出された僕は街を外れた草原を歩いていた。
だが草原に来たのは初めてだから、とか試しにとかではなかった。
「あれ?おかしいな…魔力を感じたのはこの辺だったんだけど…」
僕が教会を出たすぐ後に遠くない場所で魔力の塊の様なものを感知した。
街の人は変わらず普通だったが確かに感じ取った。
「多分ソーサラーになったから魔力に敏感になったのかな?」
転職したばかりで普通のモンスターの魔力すら過敏に感知する様になったのだと思った。
「思いかえせば感じ取った魔力はこのあたりの生態系を壊してしまう程の物だったし気のせいだな…」
ふぅ、とため息をつき縁を下る。
下るとすぐに川がありそこで一息つこうとした。
「旅が始まってすぐにでかい功績を残せると思ったんだけどな…」
靴を脱ぎ、川に足をつけようとしたその時、その感覚は来た。
「!!」
最初に感知した時より大きくなっている。
「何、この感覚…全てを食い尽くすような、悪意に支配されたような感覚…」
冷たく、貫かれるような感覚に襲われて身体が固まる。
「この川に何かいる…」
少し震える手で、杖を握った時そいつは現れた。
大きな飛沫を上げ、木や草を震わせ、だが眼はこちらをずっと見ている。
それは巨大なシーホースだった。
「そんな…」
そんなはずは無い、シーホースは大海に住んでいる魔物だ。
しかもこのサイズは魔物と言うより、神に近いと感じた。
「っ…」
震えて声が出ず、杖を握る力だけが強くなる。
シーホースがこちらを見据え、ジリジリと詰め寄ってくる。
シーホースが大きな口を開けるとそこに魔力が高まって行くのを感じた。
もうダメだ。そう思って目をぎゅっと瞑る。
僕の旅はあっけなく、こんな所で終わるのか…
もっと色々な事をしたかったと後悔する。
するとどんどん未練が生まれていき、ふと言葉にでた。
「誰か、助けて…」
不意に出た言葉だった。
最期の言葉がこんななって情けないな、なんて思った。
ガチャガチャと金属が擦れる音がする。
しかし、まだ何もしてこない。
僕は恐る恐る目を開く。
地面から飛び出た無数の大剣がシーホースを取り囲み、そしてその巨体にはその巨体より大きな大剣が突き刺さっていた。
「よ、大丈夫か?お前。」
後ろからかけられた声に反応して振り返る。
そこには男が立っていた。間抜けそうな顔をして。