95話 キグルミ幼女は悪魔を見る
リヴァイアちゃんは高速で空を飛行する。気持ちよく空飛ぶ戦闘機モードだ。幼女がキグルミを着て、手を伸ばしているだけとも言う。豆腐パワーを自在に操れるようになって、空も飛べちゃうようになったのだ。
地上を見ると、続々と悪魔たちが影から生まれて、静香たちの方へと向かっているのが見えた。怪談と名乗る世界なだけはある。無敵を誇る静香とマイラでも、この数には押し切られるかもしれない。静香は途中で逃げるかもしれない。
ネム自身は身体の周囲をおからで覆い、これ以上、エネルギーがカジノに吸収されないように手を打ってある。なんとなく言葉の響きがおかしい感じもするけど、別にいいよね?
それより、今回は不自然なことが沢山あるので、考えねばいけない。一番不自然なことは幼女の中におっさんが居座っているところだが、そこはスルーします。
先程の話………。同じ規格ねぇ……マイラの言うことがどうも引っかかるな。今回のマイラは察しが良すぎる。マイラちゃんモードだからかもしれないが、なんとなく変だ。いつもはもう少し不真面目で軽いはず。
なぜあれだけの情報で、別世界に来たと言ってきたか? ……この指輪が何らかの影響を与えているのかなぁ。泥棒三人組みたいに、違う世界へといつも行っているから、テンプレだと思ったのかな? ボスが幼女になって、ヒーローが世界を支配したリメイク版は好きだったなぁ。ヤッター、ヤッター、ヤッター幼女だと見た覚えがあるよ。
「まぁ、情報が圧倒的に足らないです。指輪がクラッキングされて不正アクセスされたのか、それとも元々そういう機能だったのかはわかりませんです」
ポイッと思考をゴミ箱に入れて、前を向く。
「敵はヤバそうですし」
高速で飛行するリヴァイアちゃん。その目の前には空飛ぶ悪魔たちが立ち塞がっていた。かなりの数で、埋め尽くす程とはいかないが、数百匹はいる。
人間の手のひらを集めて成型した気色悪いカラス。脳みそに目玉だけがついていて浮遊している化け物。苦悶の表情で迫る半透明の幽霊。様々な多種の悪魔が飛んでいた。幽霊がこの中では造形が一番マシだとだという最悪さ。
だが、ヒレウイングをパタパタさせて、幼女はフッと笑う。
「ここでSAN値チェックに失敗はしないのです」
コロコロと脳内の2Dダイスを振って、大成功を狙っちゃう。
コロコロ、2、大失敗
豆腐パワーを1使用して、ダイス振り直し!
コロコロ、12成功
SAN値チェックに失敗した!
成功しても、失敗する幼女である。精神抵抗力は幼女なので、マイナス4だから、仕方ないよね。おっさんの補正を加えると、マイナス8の可能性あり。
と、言う訳で、白兵戦はやりたくないので、武技を使います。
『豆腐シューター』
ぱっちりおめめを、ぎゅうと瞑って一気に加速する。リヴァイアちゃんの身体が純白に輝き、そのオーラが鳥の形となる。怖いので、目は瞑ります。
「ピヨピヨ」
可愛らしい鳴き声を口にして、凶悪なる水竜は悪魔たちの中に飛び込む。きっとフェニックスとか鳳凰とか太鳳とかの鳥のオーラに違いない。
ピヨピヨと鳴き声をあげながら、白い軌跡を残して突撃したリヴァイアちゃん。その頭に触れた瞬間爆発し、ヒレウイングに切られて、落ちていく。
鋭角に機動しながら、時折地面に落ちちゃったりしても、気にせずに、んしょと攻撃を続ける。敵の姿を見ないために、モニョモニョ粒子を辺りに撒き散らして、レーダー探知で倒していく。
敵も対抗して炎やら氷やらドレインタッチで攻撃をしてくるが、メタルな幼女にはまったく効かない。放たれる高熱の炎を突撃で吹き消し、氷はヒレパンチで打ち壊し、ドレインタッチはオーバーフローさせて自爆させる。
幼女無双の姿がそこにはあった。いつもの如き、無敵な脳筋プレイであったが……。
ガクンと飛行速度が落ちていくことに、ネムは眉をひそめた。問題ない出力を出していたし、敵の悪魔は相手にならない。なのに、速度が衰えた。
疑問に思い、そっとおめめを開ける幼女。戦闘中におめめを瞑るヘタレっぷりだが、さすがに気になったのだ。
「あぁ、浅田ならそうきますよね」
自分の周囲を目玉にコウモリの羽が生えている悪魔囲んでいた。それぞれが緑色のエネルギー波を出して、ネムを封じようとしている。
これは魔法ではない。見慣れた科学兵器だ。
「停滞障壁です。もしかして、私と戦った経験があります?」
空にて停滞障壁に囲まれて、身動きが取れなくなっている。時間も遅く感じる障壁であるので、普通なら封じられていることも気づかずに、封印されているだろう。
「最初の頃に静香さんがいなければ、そうなっていたかもですが、もう私もかなりレベルアップしているです」
身体は動かないが、思考は光速に至ることができるのだ。そして、停滞障壁の弱点も知っている。
むぅ、と豆腐パワーを放出させていく。ますます鳥のオーラは大きくなり、コケコッコーと鳴き声は変わる。
『爆弾豆腐』
オーラを解放して、そのエネルギーを撒き散らす。静かにネムの解放したエネルギーは広がっていき、停滞障壁のエネルギーは揚げ豆腐エネルギーに負けて、消えていき、悪魔たちをも吹き飛ばす。
パラパラと悪魔たちの肉片が散らばり落ちていく中で、恐る恐る周りを見渡す。不気味な悪魔も吹き飛ばせたかなと。
だが、残った悪魔たちはピンピンとしていた。白光とは言わずとも、揚げ豆腐の美味しさに悪魔は多少なりともダメージを負うと思っていたのに。
「こいつら、悪魔なのに、私のモニョモニョパワーを受けてもダメージを負わない? 静香さん、これっていったい……って、いなかったです」
少しばかり焦る。なぜ悪魔にダメージを負わないのか? なぜアドバイザーがいないのか? そして、なぜおっさんが幼女に取り憑いているのか。最後のはいらない考えかもしれない。
「キシャア」
ウヨウヨと手のひらで身体を形成している悪魔が魔法を使用する。キィンと金属音がすると、周囲に金属製のトゲが無数に生まれる。
その魔法の効果に目を細める。理解した。対ネム用の魔法だ。
クキャァと一声鳴くと、その棘は音速で飛来してくる。衝撃波が目に見えて、その威力を教えてくる。
『ふわふわ豆腐』
ポムとネムはちっこいおててを翳して、スフレのようにふわふわな豆腐を生み出して、その棘を受け止める。
「ちっ」
ヒレスラスターを吹かせて、右にスライドして移動すると、青い光線がその横を通り過ぎる。死角となっていた頭上から目玉だらけの悪魔が放ったのだ。外れて地上に落ちた光線により、床がピシリとあっという間に凍りつく。白い冷気があとに残り、靄を作っていた。
冷凍光線だ。棘に加えて冷凍光線。確実に幼女を倒せるレパートリーだ。まだ全然ここでは戦っていないのにもかかわらず、的確すぎることに、危険を感じてしまう。
はぁ〜と、深くため息をついてしまう。最近はなんだかなぁ……。難易度が上がってきているから、真面目になる時が多い。
「本気で戦うとしますです。お父様たちも気になりますし。まぁ、あの人たちなら、大丈夫だとは思いますし」
何しろ主人公枠だ。それにこの世界には来れてはいないと予想。というか……。ゲルマもなぁ、この世界には来れてはいないのではなかろうか? イアンたちと戦闘していそう。
ヒュウと息を吸い、真面目な表情となる。わけがわからん。この世界の成り立ちが書かれている本もなくて、ただ中心地に向かう。不毛だ。私はアクションゲームより、ストーリー制の高いRPGの方が好きなのだ。
わさわさ現れる悪魔たちはいりません。一匹一匹対話できる仲魔の現れるゲームの方が好きだ。
ピンとリヴァイアちゃんの首を伸ばして、つぶらな瞳を輝かせてネムは息を吸う。
リヴァイアちゃんの口内に白く輝く豆腐パワーを集めていく。辺りがその輝きで照らされる中で言葉を紡ぐ。
「浄化の力が効かないなら、強引に倒すだけです」
『凝集白光息吹』
シュピンと一瞬純白の光が悪魔たちの身体を通り過ぎて消えていく。通り過ぎていった軌跡のあとに、悪魔たちは身体をズルリとずらしていき、そのまま地に落ちていき、空間すらもズルリと切断されて、大爆発を起こした。
爆発による熱気と煙をヒレでパタパタ散らしつつ、敵を見ると、その全ては消えていた。というか、ドームも壊れていた。黒雲が空を覆っており、光のささない世界だ。
不吉さを感じるが、リヴァイアちゃんのブレスにより、割れた空間から青い空が見えており、そこから日差しが舞い降りて神秘的な風景となっている。
「ひややっこうを軽く炙るとステーキに。なんちて」
幼女はパタパタと手を振ると、消え去った敵を尻目に、奥へと移動を再開する。空を飛ぶほとんどの悪魔を倒したのだろう。今度は巡航速度で移動できた。
ちょっとお疲れネムちゃん。汗を少しだけかいたよと、ため息をつく。今のブレスは少しだけ本気を出しちゃったよ。
でも、浅田マシーンズが相手だと、こちらの弱点をどんどんついてくるから危険なんだよね。やられる可能性が高くなるのだ。
フヨフヨと移動すると、ダンジョンコアと思わしき巨大な水晶が中心地に鎮座していた。
漆黒のオーラを水晶は噴き出しており、そのオーラが空中で渦巻くと、ゴワゴワと形をとって悪魔へと変わっていく。
「てい」
ヒレをプリンと振って、鎌鼬を作り出して切断しておく。
「にしても……」
これはなんだろう? 闇の水晶の周りを純白のオーラが覆っている。封印しているぽいエフェクトだ。そのオーラは完全には闇を封印することはできずに、漏れる形で外に出ている。
しかも純白のオーラを出している物が問題だ。水晶の前に鎮座している像だ。
その像はどこかで見たことがある。鏡で自分を見れば良いだろう世界一可愛らしい幼女の像だ。祈るように手を合わせて跪いている格好である。
「私にそっくりですが、これ、なんですかね?」
ぽてぽてと近寄ると像が一際輝きを増す。眩しいよと、おめめを手で覆うネム。あんまり光っていたら、目が〜と、転がろうかと考えていたりした。
「よくぞきました。ストレンジャー」
涼やかな小鳥の鳴き声のような愛らしい声音で像が語りだす。像はネムそっくりの肉体へと変わり、ニコリと微笑む。
「そして、もう一人の私よ。どうやら、私の理論は正しかったようですね」
儚げな微笑みを浮かべて、像は悲しげに首を振ると目を合わせてくる。
「私の名前は精霊の愛し子、ネム・ヤーダ伯爵令嬢。失敗してしまった貴女です」
なにやら、シリアスなイベントが開始されそうと、ネムは残ったどら焼きを取り出して口に運ぶ。疲れて甘い物が食べたくなっちゃった。




