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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
5章 カジノはワクワクな世界なキグルミ幼女
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90話 離れ離れのキグルミ幼女

 うぅ、とネムは目を薄っすらと開く。周りを見ると、見覚えのない場所だった。


「白い天井ではないですが、知らない天井です……はっ、ハンスちゃん?!」


 なにやら広いドームのような場所であった。埃だらけであるが、広い空間だ。そのそばにはネムがいないために動きを止めたハンスちゃんが倒れ込んでいるのが見える。……というか、魔法陣の中心にハンスちゃんは囚われていて、闇の鎖に雁字搦めにされている。


 なぜか、ハンスちゃんから出てしまったらしい。光の矢の雨を受けた際に豆腐の障壁を作ったことは覚えているが……そういえば、あの時、同時に魔法を唱えたお爺ちゃんがいた。


 たしか……


「『乱打転移バシテレポート』とか言ってましたです。マジか、テレポート系にも弱いんですね」


 たぶんゲームでありがちなランダムテレポートだ。おっさんの時は、セーブをしたあとに使ってたよ? オートセーブだから、石の中にいるとでた瞬間にリセットしていたよ? なんで、あのマッチョ爺さんはセーブのない世界で使うの? 幼女が石の中にテレポートされたらどうするわけ?


 とりあえず状態異常系統の魔法に弱すぎだと、ネムはちっちゃい舌をチッチッと鳴らす。ジーライお爺ちゃんは皆を助けようと、テレポートを使ったに違いない。そんで、幼女はハンスちゃんからも飛ばされたと。これ、なんとかしないといけない魔法だ。ハンスちゃんキグルミを着込んでいる時に使われたら、一瞬で負けてしまう。


 酒場なら良かったが、酒場ではないらしい。酒場なら勇者のツケで、食べまくったのにと、残念がる。ゲームで、そんな仲間がいたら即仲間から外されそうなことをおっさん幼女は考えたりもしていた。


 サークレットはなぜかないが、影にはイラが隠れていることを感じ取れる。が、話しかけてくることはない。なぜだろうと周りをもっとよく確認すると……。


「スロット台があります。カジノ?」 


 埃を被っているスロット台が並んでいた。その横に少女も倒れている。魔法陣には囲まれていないが、少女にも黒い鎖が絡みついている。ショートカットの可愛らしい顔つきの可愛らしい顔つきの少女だ。……貴族服を着ている。どこかで見た服だ。身につけていたはずの宝石類はない。


「まさか、王子? フォーア王子? 敵に魔法の宝石類を奪われたんです? って、あいたっ」


 少女によちよちと近寄ろうとしてコテンとネムは倒れてしまった。見ると自分にも黒い鎖が絡みついている。どうやら動きを封じている模様。自分自身の状態を全く気にしないのは、幼女になってメタルなボディを手に入れたせいか、元々おっさんの性格が無頓着であったのか。両方かもしれない。


「そなたが何者かはわからぬでござるが、こんなところにいたのだ。普通ではないと思い、封魔の鎖をかけておいた。そこの化け物めいた力の男と、王宮召喚士アローラを戦うことなく封じれたのは、我が身の幸運。重畳、重畳」


 ザッと足音をたてて現れたのは、黒髪ロングの美少女であった。フッと薄く笑うその姿は冷酷さを感じさせる。


「な、何者です? 私は精霊界にいたはずなのに? ハンスちゃんを精霊界から眺めていたはずなのです」


 ぷるぷると震えるか弱い幼女な演技派ネム。アホな思考しかしないおっさん幼女の唯一と言っても良い所が、この演技の上手いところだ。


「精霊界? ふむぅ……。よくわからないでござるが、なにかがあったのでござろう。……恐らくは……」


 難しい表情で、切れ長の目をスッと細めて、邪悪そうに嗤う。袴姿で、男装の侍姿だ。腰に刀をさげて、まさに侍といった感じだ。


 頭の良さそうな少女は、ふふふと口を開く。


「恐らくは精霊界に穴が空いており、そこからすってんころりと落ちたのであろう! フハハ、拙者にとってこの程度の推測は容易いこと。拙者の知力の高さなら楽勝、楽勝。聞いたことがあるでござる。おにぎりを穴に落とした男がネズミの世界に落ちた話を! 同じような話から想像するに、そんな感じだろう」


 頭が間違いなく悪い少女は、ケラケラと笑った。


 創造レベルの想像をする少女。どこかの幼女とタメを張っています。


「あぁ、拙者の名前はゲルマ! 謎の襲撃者と名乗っておくでござる」


 名乗りをあげないといけないでござるなと、フハハと腰に手を当てて高笑いをする侍少女。何ということでしょう。謎の襲撃者さん、名乗っているよ? 名前、名乗っているよ? やばい、この少女はやばいかも。


「私の名前はネム・ヤーダ。イアン・ヤーダ伯爵の次女です。よろしくお願いします、ゲルマさん」


 挨拶をできる頭の良い幼女なのだ。ペコリと頭を下げちゃう良い子なのだ。本当に頭の良い幼女なら名乗らないと思うのだがどうだろう。


「な! なぜ拙者の名前を知っているのでござるか?」


 仰け反って驚く侍少女。アホなのはわかったよ。でも、本当にアホなのかカマをかけてみるか。


「あの、そういうやり取りって、私は嫌いなんです。面倒くさいやり取りは無しで。わざと名前を名乗りましたよね?」


 ぱちくりとした可愛らしいおめめを厳しい目つきにして、ゲルマに問いかける。その言葉に、ゲルマはニヤリと嗤う。


「このシチュエーションを楽しまないと損でござるぞ? なぜここにいるかはわからぬでござるが、そなたの力は拙者の魔法。封魔の縛鎖で封じられておる。この魔法はどんな魔法も封じるのでござるよ。無論闘気も」


 かなりの自信を持つ魔法のようだ。よく小説や漫画で見る、謎パワーを持つ魔法っぽい。コピーできる能力者も封じれるのだろう。アホなのか、アホでないのか判断に困るな……。


「アホな上に、意地悪いのでござるね、ゲルマさん。猿の仲間ですか、ござるさん?」


 嫌味を口にしても、ゲルマはフッと笑うのみ。


「いいでござる。良いでござる。このやり取りをできる者は今までいなかったでござるよ。クハハハ」


 侍少女は心底楽しそうに笑うが、ピタリと笑いを止める。アホな上に厨二病かな? 


「しかし、カジノのダンジョンコアを手に入れる簡単な仕事に加えて、強力な敵を片付けて、精霊の愛し子まで手に入るとは……拙者の強運が怖いでござる」


「む? 私が精霊の愛し子と知っているのです?」


「ふ、無論でござる。謎の人物は全てを知っているので。竜子殿が教えてくれたでござるよ。それに写真をお館様から見せてもらったですしな。そなたは自分自身が有名人になっているのを理解していないのでござるか?」


 あっさりと言ってくるゲルマ。どうやら、竜子と繋がりがあることが判明しました。ゲルマの頭は悪い方向に天秤が揺れています。ネムとどちらが頭が悪いか、天秤に載せたら均衡するかもしれない。


「ダンジョンコアとは、なんですか?」


「この奥にあるはずの物でござる。通常はダンジョンコアは地下の奥底に隠されてボスに守られているのでござるが、メンテナンスモードになっているために地上に上げられているらしいでござる。箱に仕舞われて開けられないらしいが、このアラジンの鍵なら開けられるはずらしいでござる」


「今、ござるとらしいを何回言ったか覚えていますです? 不確定すぎるんですが? よくそんな情報で来ましたね?」


 こんな山奥の幻獣が徘徊するところによく来たな。危険な……そういや、カジノを支配している幻獣たちはどこだ?


「工作員というものはそんなもんでござる。それにカジノのダンジョンコアは有名な話でござるし。これがあるし」


 懐に手をツッコんで、ゴソゴソと探ると、チャラリと貴族の紋章のようなエンブレムを取り出した。金色の枠に手のひらサイズの大きな透明のダイヤモンドが嵌まっている。


 魔法の力を感じる宝石だ。ただならぬ気配を感じさせてくる。


「これぞアラジンの鍵。一回使うと砂となり崩れてしまう、国でも数個しかない魔法の鍵でござる。この鍵でダンジョンコアの箱を開けて、貰い受けるでござる」


 自慢しいしぃ、言ってくるゲルマ。なるほど、なんなのこの人? 全部語ってくれるんだけど。黒幕の名前だけは出さないが、ここに来た目的はわかったよ。


 でも、カジノのクリスタルを奪われるのは困るんだよね。


「随分自信があるんですね。話し過ぎでは?」


「この周辺は拙者の幻獣により制圧を進めている。だから逃げようがないでごさるよ? 精霊の愛し子」


「王都の人って、フラグをたてるのが得意なんですか? その鍵、私が頂きます!」


 ていやっと、ネムは鋭い動きでコロコロと床を転がる。鎖に繋がれているので、ゴツゴツして痛い。痛いので、転がるのをすぐに止めちゃう。


「なにがやりたいんでござるか?」


 胡乱げな表情で、目の前でコロコロと転がるアホそうな幼女を見つめるゲルマであるが


「これをやりたいのかもしれないわね」


 シュインと光の軌跡がゲルマの手元を奔る。魔法の鍵がチャリンと飛ばされて、空に浮く。


 空飛ぶ魔法の鍵は、ゲルマの後ろにいた人物の手のひらに収まる。


「何者でござるかっ?」


 振り返り、刀を素早く抜き放とうとするゲルマ。素早くは抜き放つことは出来ずに、モタモタと刀を抜いて、モタモタと後ろを振り返った。侍にしては運動音痴っぽい。


「ふふっ、これを使うなんてもったいないわ。私が預かってあげる」


 妖しく笑うのは、モデルスタイルの美人さん。女スパイという名が相応しい静香だ。いつの間にかサークレットは消えて、美人さんモードになった模様。その手にはワイヤーガンを持っている。


 手にした大粒のダイヤモンドの輝きに、ふふっと笑い、懐に仕舞う。


「ぬっ? どうやって、拙者の制圧した空間に?」


「それを言う必要はないわね、ネムっ、逃げるわよっ!」


 静香は駆け出して、コロコロと転がるネムを拾い上げてワイヤーガンを、遠く離れた天井へと向ける。


「静香さん、あの娘も連れていきましょう」


「ふふっ、重量オーバーにならないように祈るのね」


 引き金から手を離して、倒れている少女まで静香は走り、といやっと、ネムが少女の鎖を掴む。オーケーですと頷くと、静香は再度ワイヤーガンを天井に向けると引き金を引く。


 ワイヤーが天井に飛んでいき、カチャリと命中すると、そのまま引き戻される。カララと音がして、静香とネム、そして少女を連れて宙に浮く。


「逃すかっ! 『中旋風ミドルウインド』」


 モタモタと刀を抜いていた運動音痴な姿が幻だったように、ゲルマは刃と化した風の旋風をその手のひらから生み出して、空飛ぶ静香へと放つ。


雷霆空間おからくうかん


 ネムはカチャリと鎖をあっさりと砕き、その手のひらからおからエネルギーを解き放つ。魔力の波長が乱されたことにより、風の旋風は、ゆらゆらと揺れるとその力を失い消えていく。


「馬鹿なっ! 封魔の縛鎖をあっさりと解除するっ?」


 目を見開き驚くゲルマへと、小さな舌をべーっと突き出して、ネムはフンスと告げる。


「あばよ、とっつぁーん」


 このセリフ、一度言って見たかったんだよと、キグルミ幼女はむふふと笑い、静香たちとともに逃走を始めるのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 鍵が二重とか三重とかか、マトリョーシカみたいに箱の中に箱とかだったらどうなるんだろう。 アラジンの鍵とか言う名前と使うと砂になる仕様。国に数個しか無い。ネタで作ったけど売れなさすぎて即生産終…
[一言] 悪者で喋っちゃう奴って結構いますが、人間って喋りたい生き物なんで相手を逃さないだろう状況とか、死んじゃうだろう相手にはポロポロ情報を漏らしてしまうのもそんなおかしなことじゃないかなって。 …
[良い点] ネム視点で何か隙のない剃刀のような人物に見られるゲルマに違和感を感じ(ノД`)案の定うかつな幼女が場に流されてゲルマの格を上に見過ぎていたのがわかり、ゲルマが話すほどやればやるほどアホさが…
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