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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
5章 カジノはワクワクな世界なキグルミ幼女
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89話 カジノへの道とキグルミ幼女

 カジノへの道をえっちらおっちらと一行は進んでいく。以前は舗装された道路だったのだろうが、アスファルト舗装っぽい道路はひび割れて、雑草が生い茂り世紀末感をだしている。


 コンビニらしき、店内に倒れた棚らが見える店舗に、牛丼の……と文字が消えていてわからない看板をもつチェーン店らしきものもあった。


 ここだけ切り取ると、世界が崩壊したあとの地球にしか見えない。ゾンビでも現れると完璧だ。鎧を着込み、槍やら剣を持つ一行の方が変だ。ありがとうございます、どう見ても私たちはコスプレ集団です。しかも、あれだ、ゾンビ世界となって、ちょっと頭のネジがとれてしまった集団だ。きっとカメラマンにバッタバッタと倒されちゃう役である。


 そして、その集団の中で、ハンスちゃんは戦闘をしていなかった。


 道路脇からゾクゾクと現れる鋭い角を生やす1メートル程のうさぎたちがぴょこぴょこと迫ってきているのだが、ハンスちゃんが戦うのではなく……。


「ハッハー。どうだ? ゲーレの力を! こいつは剣だけではなく、格闘も得意なのだ。どんな強敵をも倒してきたのだ。ハイパーネコマタが肉壁となれば、もはや無敵と言えよう」


 フハハハと、仲間の足をその言葉だけで引っ張る王子。この王子、只者ではない。きっとフラグ使いのフォーアとか二つ名があるに違いない。


 現実でも、フラグは立てないほうが良いねと、前世でも平和な仕事の少ない日だなと呟いた途端に忙しくなった記憶がある元おっさんはハンスちゃん越しに、ゲーレの戦いっぷりを見学していた。


 フォーア王子はどうやら、ハンスちゃんの活躍が気に入らなかったらしく、ゲーレを先頭にたたせて、ヌーラのハイパーネコマタを回避タンク役としていた。たぶん功績は全て自分の物としたいのだろう。


 ヒョウのような金と黒の混じった色合いの髪を持つ精悍な中年男性は、黙々と迫る角うさぎたちを倒していく。敵を斬ると、その箇所が凍っていく氷の魔剣を鋭く振って、角うさぎの突進を鏡のような盾を斜めにして、その突進力をそらして受け流す。鍛えられた脚は大木でも簡単に圧し折れそうな蹴りを繰り出して、横から迫る角うさぎを蹴る。


 2羽が同時に頭を狙って突進してきても、慌てずに屈んで、頭上を通り過ぎていく瞬間に立ち上がり、体をひねり剣を旋風のように回す。


『吹雪の剣舞』


 振り回す剣から吹雪が巻き起こり、通り過ぎていく角うさぎは凍ってそのまま地面に落ちて氷の破片となって砕け散る。その武技の効果により周囲で様子を見ていた角うさぎたちも凍っていく。


 囲まれそうな時には、ハイパーネコマタが挑発と幻惑の鳴き声をあげて、惹きつけていった。上手く連携を取ることにより、多数の幻獣を前にしてピンチにも陥っていない2人。たしかに自慢するだけはある。


 なんか気になるタイプだ。いや、異性がどうのではなくて……。


「ヌーラもゲーレも無感情すぎじゃないです? 淡々と戦いすぎだと思うんですが?」


 モニターを見ながら、ネムは疑問を口にする。ハイパーネコマタは召喚獣なのはわかる。だが、他の二人も寡黙過ぎない? 支配の王笏とか使われていないだろうな?


「そうですね、主様。彼らはまるで機械のように淡々と戦ってます。もしかしてアンドロイド?」


 パタパタと羽ばたきながらコウモリの姿のイラが推測を口にする。……それを否定できないのが、このなんちゃって世界なんだよなぁと、ネムは嘆息しちゃう。有り得そうなのが怖い。


「アンドロイドね……。ネムとイラの言いたいこともわかるわ。彼らは全く文句を言うこともなく、嫌な顔一つ見せずに戦っている。死んでも構わないみたいよ?」


 ゲーレの横腹を角うさぎの角が掠る。魔法の胸当ては防御力があるらしく、ギギぃとガラスを擦るような音がするだけだ。ひっとぽいんとの力もあるだろうが、無表情でゲーレはキラキラと光る氷の粒子を纏う剣を振り向きざまに振って、角うさぎを撫で切りにする。


「皆は手を出すでないぞ? このフォーアの力を喧伝する必要があるのだからな? フハハハ」


 鋭いステップで腕を振るい、旋風のような速度で、角うさぎたちを斬っていくゲーレ。臆病者の特性を持たないらしい角うさぎたちは、ミサイルの如き突撃を見せるが、それを力強い動きで殲滅をしていった。


 結構怖い幻獣である。角うさぎって、ゲームとかだと弱いけど、うさぎの瞬発力から生み出される一撃は豆腐を簡単に壊しちゃうだろう。幼女ならあっさりと穴だらけになる可能性が高い。


 イアンたちは助けに入ろうか、入るまいか、迷っている。負けそうならば助けに入るのに躊躇いはないが、このままだと功績を横から奪い取ることになる。


「さぁ、しっかりと目にしておくが良い。このフォーア王子の活躍を!」


 あらかたの角うさぎたちが、キュウと倒れて伏して、ゲーレだけが血を滴らせる剣を片手に佇む。


 ダークでかっこよいですと、ネムも同じことをしたくて目おめめをキラキラさせるが、剣がないし、そもそもハンスちゃんに乗っている。なので、ダークなかっこよい幼女が見せれない。


 う〜んう〜んと迷って、豆腐を滴らせてハンスちゃんを佇ませようかなと、またもや頭の悪いアイデアを実行しようとした時であった。


 ズズン


 ハイパーネコマタの上空からなにかが降ってきて、矢のように猫の胴体へと突き刺さると、地面を穿ち砂煙をあげていく。


「な?」

「ぬう?」

「がはっ、なにが?」


 驚きの声を皆があげる中で、もうもうと辺りに散っていた砂煙が収まる。そうして、その砂煙の中心には、身体に大穴を開けたハイパーネコマタの死骸とその上に立つ四足の獣が立っていた。


 どこかの覇王が乗っていそうな巨大な馬である。毛皮をその身体に持つ強大な魔力で仄かに光らせて、ヒヒンと歯を剥き出しにて嗤う獣。その額には捻じくれた長剣のように長い角を生やしている。


「ヒヒーン! よくぞここまでやってきた。泥田坊を倒すとはなかなかやるな?」


 馬はヒヒーンと鳴くだけでなく、人語を解するどころか、流暢に操って、上から目線でこちらを見てくる。


「幻獣? 人語を解するとは何者だっ!」


 イアンが圧力をビリビリと感じさせる声音で問いかけるが、敵はフヒヒンと鼻で笑うと四肢を踏ん張る。


「俺こそが聖魔ユニコーンのジャミナージ! 貴様らの墓標はこことなるのだ!」


 ヒヒーンと鳴くジャミナージ。その毛皮は聖なる力と闇の魔力を感じさせる色だ。


「シマウマじゃないですか」


 フォーア王子がポツリと呟き、その姿を見る。白黒のゼブラ色。すなわち、角を生やしたシマウマであった。


「はぁ? お前、何言ってんの?聖魔、せ、い、ま。わかる? 聖なる力と闇の魔力が合わさっているから、こういう毛皮の色なんだよ! 断じてシマウマじゃねぇから!」


 余計なフラグをたてる建設技術一流の王子はその強面に後退る。でもシマウマだと私も思うよと、ネムは呟く。


 が、ジャミナージは興味をすぐに無くしたようでこちらへとすぐに向き直ってきた。


「まずは、と。『閃光突撃フラッシュマグナム』」


 ジャミナージの地面が爆発すると、その姿が赤いエネルギーの体へと変わり、閃光となりネムたちへと向かう。


 警告を発する余裕もなく、その光は地面を削り取っていき、ヌーラを通り過ぎる。その身体を貫き燃やして。


「なっ!」


 ハンスちゃんはその攻撃に驚きの表情となる。燃えて倒れ伏したヌーラ。助ける間もなく殺されたことに動揺してしまう。


「げ、ゲーレ。獣化をしてこの幻獣を倒せ!」


 すぐに立ち直ったのは意外なことにフォーア王子であった。ジャミナージを指差すと、ゲーレに指示を出す。


 その言葉に忠実に従い、ゲーレは唸り声を上げると、その身体をヒョウ頭の毛皮を生やした胴体の獣へと変貌した。


「ガウッ」


 冷たき青く光る剣を片手に、ジャミナージを倒さんとゲーレは間合いを数歩でなくして、肉薄する。


 ヒュンと剣を閃かせるゲーレ。角うさぎをバターでも斬るかのように倒してきた鋭い一撃だが、縞々模様の毛皮を仄かに魔力で光らせて、ジャミナージは躱すこともなくそのまま無防備で受ける。


 ジャミナージの首元に命中した氷の剣であったが……。なぜか、ゲーレの肩から鮮血が噴き出す。その攻撃で、ゲーレはヨロリと身体をよろめく。


「な?! なぜ、ゲーレが?」


 フォーア王子が驚きの声をあげるが、痛さを感じないように、ゲーレは再び剣を振るう。


『吹雪の一撃』


 ゴウッと吹雪の如し雪が剣に宿り、斬りつけた相手を凍らせる奥義であったが、


閃光角フラッシュホーン


 迫る凍れるゲーレの剣に、膨大な力を感じさせる紫電の奔る純白の角を光らせてジャミナージは受け止める。ガチンと音がして、剣と角は押し合うが、パワーはジャミナージの方が大きかった。


 ブンと首を振り、ゲーレに力で勝つジャミナージ。押し弾かれたゲーレはクルリと体を宙で回転させて、再び体勢を立て直し、剣を鋭く振るっていく。その攻撃をジャミナージは余裕でその角で受け止めて、ガチンガチンと金属音を奏でる。


「ヒヒヒーン! なかなかのパワーとスピード、そして達人レベルの鋭き剣だが、これで終わりだ! 幻獣1の技の使い手のジャミナージ様の技を見よ!」


幻影脚ファントムステップ


 ヒヒーンと、後ろに下がるジャミナージは幾頭にも分身して、ゲーレの周囲をパカラパカラと飛び跳ねる。


 ゲーレは分身して、周囲を飛び跳ねるジャミナージの本体がどれか迷い動きを止めてしまう。


「そら、ジャミナージ様はここだぞ!」


 その隙を逃さずに、ジャミナージは強く脚を蹴ると、ゲーレへと角を向けて、突撃を仕掛ける。


『引き裂きの一撃』


 その動きにゲーレはなんとか追いつこうと、最速の武技を振るい、迫るジャミナージの身体に5本の剣撃と分裂させた攻撃を当てるが


 メキッ


 と、その腕が曲がり、身体に5本の線が走り、身体が揺らぐ。


「クカカカ、残念だったな、『ロデオスタンプ』」


 傷一つなくその身体を仄かに光らせて、ふわりとゲーレの真上に跳躍すると、その馬の前脚を叩き込んできた。


 武技により速度を増し、攻撃力も上げた脚の連撃に、メシャリとゲーレは身体を押し潰されて倒されてしまう。


「ギャー! 僕のオセが〜!」


 叫ぶフォーア王子。倒れ込むゲーレを最後の一撃で踏み抜くと、グシャリと肉塊へと変えて、着地するジャミナージ。


「チッ、遅かったか!」


 助けるタイミングを間違えたと舌打ちして、ハンスちゃんが飛び出そうとするが、


「油断しすぎだ、馬鹿な人間共め!」


 上空から光の矢が雨のごとくに降り注いでくる。一目で危険な威力を持つ光の矢だと見るだけでわかる強力な魔力の籠もっている一撃だ。


雷霆障壁まるどうふ


 すぐに他の仲間へとハンスちゃんが障壁魔法を使うのと、光の矢が着弾して爆発するのと同時であった。


 一瞬の内に光の爆発が巻き起こり、ハンスちゃんたちをその光で覆い尽くすのであった。




 光の雨がハンスちゃんたちを包み込むのを見て、カツンカツンと硬い足音をたてて、一匹の鹿が現れる。まるで樹木のように枝のように立派な角を生やす5メートル程の体躯の鹿。神秘的なオーラを放つ鹿はシカーンと鳴き声をあげる。


「シカカカ。敵が一匹だと、なぜ思ったのか……人間とは愚かしいな。この悪魔公爵フルフルの相手ではないということだ」


 もう一匹、イアンたちの隙を狙っていた悪魔の鹿フルフルはシカーンと鳴きながら、倒したと思える敵を見て、鳴き声をあげるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] フォーア王子、早速のフラグ回収お疲れ様です。 そして、見た感じ悪魔公爵フルフルもフラグ建築に関しては中々の凄腕ですね。今回の隠されたテーマは、フラグ建築の技術対決か?!
[気になる点] >「ギャー! 僕のオセが〜!」 オセって誰だっけ? 死んだ2人はヌーラとゲーレだしな ・・・案外この2人、王子のスキルかアイテムで用意したコピー体だったりするのか? 見る限り感情も死…
[一言] シマウマって気性が荒すぎて家畜に出来なかったらしいですよ。 伊達にシマシマしてないですね。
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