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75話 キグルミ幼女を追う宝石幼女

「ネムッ!」


 リーナは最愛の妹が触手に捕まって、キャァと可愛らしい悲鳴をあげて、潤んだ目で助けを求めるのをはっきりと見た。


 実際はもっと間抜けな悲鳴であったように思えるし、またかよと天丼かよと諦念の眼差しでいたのだが、妹可愛いフィルターがかかったリーナにはか弱い妹が攫われたようにしか見えなかった。


 あっという間に触手は縦穴をガンガンと音を立てて戻っていきネムは見えなくなる。ちなみにガンガンというのは、太鼓のバチのようにネムが壁にぶつかっていたからである。


「助けに行かなきゃ!」


 飛び降りようと、ぴょいんとジャンプをして縦穴に入ろうとするが、首元の襟を引っ張られて引き戻される。


「待ちなさいっ、リーナ、この縦穴がどれぐらい深いのか、わからなくてよ! 飛び降りるなんて自殺行為だわ」


 サロメがリーナの襟首を引っ張ったのだ。そのサロメへとリーナは涙目で抗議をする。


「ネムは精霊を操る力を持っているけど、身体はか弱いのよっ! 早く助けないと死んじゃうわ!」


 ガンガンガンガンと縦穴からは音が聞こえて、ネムの声は聞こえてこない。どこかの幼女は頭が空っぽなだけあって、よい音がします。ガンガンガンガンと。


「こちらが危険になったらどうするのですか! 私たちが倒れたらネムを助ける人はいなくなりますわ!」


 映画のようなシーン。ヒロインを助けに行くのにいがみ合う役を二人は見事に演じていた。ガンガンか弱い幼女はバチのように音を立てて、金属の壁に穴を空けながら、現在落下中。


 睨み合う二人であったが、パンパンと手を叩く音が遮る。


「ネムは今のところは大丈夫よ。彼女の精霊力が尽きない限りね。それよりも私たちも追いかけないと。慎重に、ね?」


 止めたのは静香であった。相変わらず嘘を平気な表情で口にする幼女である。


「そうですわね。慎重に追いかけましょう」


「うん、ごめんね、サロメ姉さん」


「貴女はまだ小さいもの。良いわよ」


 サロメにおずおずとリーナが謝り、それを許してリーナの頭を撫でて微笑む。素直な良い子たちである。まだガンガンと音をたてている幼女など助けに行くのはもったいない子たちだ。


「でも、随分良いタイミングで触手は現れたわね? あの音からして、縦穴をそんなに速くは移動できないはずなのに。ふふっ」


 ほっそりとした指をピトッと顎につけて、静香は妖しい笑みを見せる。まだガンガンと音はしています。ちなみに幼女のダメージはゼロである。


「お話ではよく見るシーンよね? でも現実となるとどうかしら? 待ち伏せていないとネムを攫うのは無理だわ」


「……んん、きっと縦穴に潜んでいた。ここらへん一帯に潜んでいると思われる」


 竜子が渋い表情で、周りを指し示す。不意うちを受けるほど、あの肉塊から成る触手が潜んでいたことに、危険が増していると困っている。


「そうね。そういう考えもあるわ。それじゃ私たちも追いかけましょう? 早くしないと他の誰かさんが終わらせるかもしれないから」


「……この研究所は進化の粒子で覆い尽くされている。普通の人は軍隊といえど入ってこれない」


「そうね。貴女の言うとおり」


 助けは来ないのだと、サロメは嘆息して、静香の意見を否定する。恐らくは軍隊でも悪魔たちに殺られるのがオチなのだ。


 そうして4人とも助け甲斐がなさそうな幼女のために縦穴を降りるべくはしごを掴み入っていくのであった。




 軽く2百メートルは梯子は伸びていただろうか。ネムならもう落ちた方が速いですと、飛び降りて幼女型の穴をあけて這い出して来るほどの長さを四人は苦労して降りていった。


 パワーアップしているので、リーナやサロメは問題ない。竜子と静香は息も絶え絶えにようやく通路へと降り立った。


「だいぶ長い縦穴でしたわね」


 通路の電源はまだ生きており、電灯が辺りを照らす中でサロメは辺りを確認する。静かなものだ。人っ子ひとりいないし、化け物がいる様子もない。


「あそこ! ドワーフたちが倒れているよ!」


 いち早くリーナが倒れ伏すドワーフたちに駆け寄り、様子を確認する。寝息をたてており、気絶しているだけなのがわかる。


「ネムがやったのかしら?」


 サロメが不思議そうに首を傾げて辺りをもう一度見回すが、そうなるとネムがこの場にいないとおかしい。


「そうね、他の誰かさんが来たんじゃない? 同じことをできる人を覚えているでしょう?」


「あのハンスとかいう謎の男ですわね。たしかにあの男ならあっさりと敵を倒すことが可能ですわ」


 苦々しい表情でサロメは言う。今まで見たことがない強大な力の持ち主だ。彼なら可能であろう。


「………? 誰かサロメたちの他に仲間がいるの? 聞いていない」


「仲間じゃないわっ! でも助けてくれるのはたしかね。へんてこなおっさんよ!」


 訝しげな竜子にリーナも頬を膨らませて答える。あまりハンスちゃんは気に入られていないらしい。


「これ、案内板があるわっ!」


 息をしているとわかった途端にドワーフを放置してリーナが新しい物を見つけて壁に駆け寄る。飽きっぽい子猫のような少女である。


「本当ですわ。ここは最下層ですのね。研究所がいくつかある……どこに霧の粒子発生装置はありますの?」


「……ミルドたちの研究は一番プロジェクトとして大きかった。だから第一研究室に行く」


「わかったわ! こっちね!」


 うり坊みたいに恐れを知らず猛然と走り始めるリーナ。直感と記憶力には優れているようで、第一研究室へと、迷いもせずに通路を走り向かおうとするが、たたらを踏んで立ち止まる。


「なにこれっ?」


 通路を曲がって進もうとしたところ、曲がった先には白い壁ができて道を塞いでいた。壁の向こうからはドシンドシンと叩く音が聞こえてくるが、壁は壊れる様子を見せない。


「ふふっ。ハンスは考えたわね。自分の進まない通路は全て塞いで、敵が来れないようにしておいたのよ」


 やっぱりあの娘は頭が悪くはないのねと、妖しく微笑む静香。家族がいるから真剣に行動しているのがわかる。いつもこうならいいのだが、脊髄反射で何も考えずに行動するのを楽しんでいる風なので無駄だろう。


「あの男は敵を全て倒して進むタイプですものね。後ろから攻撃を受けないように通路を塞いでいったのですわ。何という力技……呆れ果てます。どれほどの力を持っていたらこんなことができるのかしら?」


 むにゅんと腕を組み胸を揺らせて、サロメが呆れる。たしかに全ての通路を塞ぐなんて力技すぎる。ネムにしかできない技だろうことは間違いない。


「塞がれていない通路を進むしかないわね。ハンスに追いついたら道が間違っていると教えてあげればいいわ。ね、竜子さん?」


「………そのとおり。早く追いついて正しい道へとその男を案内するべき。急ぐ!」


 竜子は短い足で、焦ったように走り出す。リーナたちも仕方ないわねとあとに続き、静香だけは目を細めて、薄く笑う。


「さっきまでの余裕はどこに行ったのかしら? 竜子じゃないって言わないのね」


 そうして静香も後を追うべく、走り出す。ぽてぽてと。


「しまったわ。幼女は足が短いのを忘れていたわね。ちょっとまちなさーい」


 焦った声をあげて、黒髪幼女は追いつこうと必死になるのであった。




 通路上には何人ものドワーフや水晶が散らばっていた。なにが起こったのか、金属製の壁に穴が空いていたり、それどころか粉々に砕けて部屋の内部が見えているところもある。


「……ここの壁は特殊合金。さっきリーナが破壊できなかった壁と同じ材質なのに、粉々にするなんて……」


 ハンスとやらの超パワーに瞠目して驚くミルド。コレほどの力の持ち主とは予想だにしていなかったのだろう。まぁ、素手で戦車を破壊するようなものだ。信じられないのも無理はない。


「むむむ。私だって修行すればもっと強くなるもの! こんな壁破壊できるようになるんだから!」


 今以上の力を求めてどうしようというのか。リーナは宇宙の帝王を倒すのを目標にしているのだろうか、無駄に対抗心を顕にして、フンフンと鼻息荒く言う。


「でも取りこぼしもあるみたいですわ。気をつけて!」

 

 サロメが鋭い声で警告を放つ中で、通風口からズルリと黒い甲殻を持つ化け物が何人も出てくる。


「ネムっ! 私に力を! 『浄化の神剣』」


 双剣にネムから貰った力を流し込むリーナ。純白の光が双剣を輝かせてリーナの顔を照らす。もうビジュアル的にリーナに全ての力をあげても良いと思います。


『浄化の円月輪』


 サロメも力を注ぎ込む。リーナには劣るが純白の光が円月輪に宿る。


「そいつらのネーミングはダークバグスと名付けたわ!」


 黒き甲殻を持つ化け物を、いつになくまともなネーミングで名付ける静香。ネムと同じで少しだけ真面目にしているらしい。


 ダークバグスは四つん這いになり、カサカサと嫌な走り方でリーナたちに襲いかかる。それはまるで黒いGみたいな動きだ。常ならば女性ならキャァと悲鳴をあげて、おっさん幼女なら惑星破壊爆弾を作ろうとするだろうが、リーナは気にしなかった。


「やっ!」


 軽い掛け声とともに、残像を残し敵へと向かう。相手も突進してくるとは思わなかったのか、間合いを測りかねて、ダークバグスの動きが止まる中で、双剣の動きは止まらなかった。


 シュインと小気味よい風斬り音をたてて、右手に持つ剣を振るい、敵の甲殻を傷つける。抵抗はなく熱せられたチョコレートのように甲殻はあっさりと斬られてその周囲をじゅうじゅうと音を立てて溶かしていく。


「きききき」


 金属をすり合わせるような嫌な音を立てて、ダークバグスは虫の脚のような鉤爪を振るってくるが、リーナは僅かに体を反らし、その攻撃を躱す。


 白銀の髪が数本鉤爪により切られて、目の前を通り過ぎてゆき、その速さから生み出される突風がリーナの肌を撫でていく。


 だが、それだけであった。その肌にはかすることもなく、ぎりぎりを通り過ぎてゆき、カウンターでリーナは隙のできた敵の胴体を双剣で斬りまくる。


 左右の連撃から、立ち直った敵が振り下ろす反撃を再び回転し横にずれて回避しながら、斬撃を加えていく。


「リーナ、殺しては駄目ですわよ!」


「任せて!」


 サロメも同じように振るわれた敵の鉤爪を円月輪で巻き取ると、体を沈めて足を払い背負投げをして投げ飛ばす。


 地面に強く叩きつけられて、苦しむ敵をジャグリングのように円月輪を回転させながら、サロメはダークバグスを浅く斬りまくり、全身へ浄化のエネルギーを注ぎ込む。


 二人は同じよう次々と現れるダークバグスを斬りまくり、元の人間へと戻していくのであった。


「……これが進化の粒子の力……とっても素晴らしい」


 感動の面持ちで竜子は無双する二人を見ているが、


 ゴガンゴガン


 と金属の壁を強く叩く音がしてくる。そうして壁に杭のような太い爪が突き出されて、ギギィと嫌な音をたてて、無理矢理開かれていく。


「ゴァァァ!」


 5メートルばかりのヤギの顔を持つ悪魔が中に入ってくると吠える。


 どうやらボス戦はスルーできなかった少女たちであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全然怪しくない竜子の案内のもとアホ幼女の跡を追う姉たち一行 研究所はどうやらハンスちゃんが攻略中のもよう 裏切るはずのない竜子はどうやらもにょもにょの力に魅せられている様子 竜子「この中に犯…
[一言] 身内にスパイがいるあるある。ばいお1からそうだったし。 そういえばそいつも研究主任だっけ。
[良い点] リーナお姉ちゃんもサロメお姉ちゃんもまるでニチアサのチビッコたちがハッスルするプリティでキュアキュアな方々のような大活躍!果たしてお姉ちゃんズは幼女に潜むしつこい汚れのようなオッさんの魂を…
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