表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
4章 精霊たちとキグルミ幼女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/120

72話 マッドサイエンティストとキグルミ幼女

 廃ビルの地下にて、一行は出会った男たちに先導を受けながらてこてこと歩いていた。


「……んん、ミルドにその魔法とやらのシステムを教えて欲しい」


「イメージと呪文ですわ。呪文とは……」


 竜子とサロメが魔法談義に花を咲かせている中で、ネムは気になることを先導している男に尋ねる。


「まだ営業している本屋とかでーぶいでー屋さんってありますです?」


 漫画や映画が欲しい幼女であった。どんな時でも揺るがない精神はさすがである。自分の欲望に忠実すぎるネムだった。


「今は生きるのに精一杯だからねぇ。探せば廃屋からいくらでも手に入るだろうけど、霧が出るから危険だ」


 男の返答を聞いて、覚醒したリーナお姉ちゃんにくるりと体を向ける。


「この世界のじょーほーが手に入るかもです、リーナお姉ちゃん!」


 幼女は適当な建前を口にした。


 フンスと鼻息荒く目を輝かせるその姿は極めて愛らしい。中の人の存在を意識しなければ、皆は保護しなくちゃと庇護欲に目覚めることは間違いない。


 リーナは庇護欲に目覚めて久しい。


「なんて頭が良いのかしらっ! さすがはネムねっ!」


「キャア、くすぐったいです」


 ぎゅうと抱きしめてくる妹フィルターでネムの全てを肯定しちゃうシスコンリーナ。将来が少し不安でもある。


「で、なぜこんなことになっているのか、教えてもらえるかしら?」


 きゃあきゃあとじゃれる姉妹にため息をつきながら静香は腕を組み尋ねる。


 たしかに変な場所だ。ウィルスでも出回ったみたいな世界である。ちらりと指輪を見るとモニターが表示された。


『現在楽しくバカンスできる世界に転移中』


 と、表示されていた。どうやら別世界に来たらしい。転移の指輪を使った覚えはないから、あの霧が問題だったのだろうと、リーナにむぎゅむぎゅ抱きしめられながらネムは目を細めて予想する。


 今回はリーナたちがいるから真面目に対応しないといけないと、久しぶりに真剣にしていた。


「少女たちだけに見えるが、君たちはどこから来たんだ? なぜ、こんな危険な地域に? っと着きました」


 奥には自動扉があり、赤い非常灯が点灯している。見張りが短銃を手に警戒している。


「ようこそ、霧の世界と化した神威研究所に」


 疲れた表情での男の言葉に、ヤバそうな名前だなぁと、ネムは嘆息してしまうのだった。





 自動扉がシュインと音を立てて開くと、中はシェルターっぽかった。通路にも、開きっぱなしの部屋扉から見える部屋内も人がいる。特に服装に汚れも見えず、電灯も全て点灯しており、通路も綺麗なものだ。まだ、このシェルター? いや、研究所は問題なく稼働しているのだろう。


「研究所……ですか。ようやく浅田から逃れることができました」


 シェルターで、浅田何号シェルターとか看板があったらどうしようかと思ったけど。


「痩せている人たちはいない……。苦労をしているみたいだけど、この通路には経年劣化も見られません。もしかして最近使い始めましたです?」


 鋭い視線で尋ねるネム。リーナにヌイグルミみたいに抱っこされながらなので、いまいち決まらないけど。


「ここは神威研究所の緊急避難所でもあるんだ。この数日で使い始めたばかりだがね」


 苦笑する男。そのまま食堂らしきところに案内される。


「先程からの話だと……全世界的な事象じゃないのね?」


 椅子にぽてりと皆で座って、コトリとサイダーを置かれる。食料品にも余裕はありそうだ。


「ここ、大人たちしかいないのです。子供たちがいませんし」

 

「鋭い娘たちだね。見かけ通りの歳じゃないかな?」


 ネムたちの問いに、男は苦笑いとともに見てくるが


「ネムは頭が良いのっ! その上、精霊の愛し子なのよっ。私よりもずっと凄いんだから! このサイダー美味しいわねっ! それに静香は精霊よっ」


 もう少し頭を使った方が良いリーナお姉ちゃん。そうやって情報を駄々漏れにしないで欲しいのですが。チウチウとサイダーを美味しく飲んで幸せそうだ。


「……精霊っ! 人型の精霊? 初めて見る! それに精霊の愛し子とはなにか説明してほしい。さっきの力も含めて」


 サロメと会話をしていた竜子がドタドタとこちらに駆け寄ってくる。


「はぁ……駄目よ、リーナ。こちらの情報は小出しにして相手の情報を手に入れないと」


 額に手を当てて困った表情になるサロメ。うん、リーナお姉ちゃんには無理かな?


「……精霊。まさか高位精霊に今さらになって会えるとは……竜子、もう少し実験を待った方が良かったのではないか?」


「……むぅ、社からは結果が出なければ予算を減らすと言われて、所長が強行した。それとミルドだから。竜子じゃない」


 ぷくっと不満そうに頬を膨らます竜子。


「なにが起こっているか教えてくれますです?」


 嫌な予感しか感じないけどねと、ネムもサイダーを口にするのであった。





 ざわつく食堂。ネムたちの周囲には大勢の元研究員が詰めかけている。皆、興味津々な模様。一応ここに来たのは霧に巻かれたから。そしてネムの力も説明しておいた。なんでも浄化できる精霊の力を借りれると。


「……この神威研究所は、街丸ごと研究所となっている。ここに住む者たちは研究所の実験による被害を受けても賠償を請求できない契約」


「それって酷いわね。ウィルスにより街が崩壊しても、その会社は免責されるのね。呆れる契約だわ。この研究所は危険な研究をしていると言っているようなものじゃない」


 呆れすぎて言葉もないと、静香が細っこい腕を組む。たしかに。最初からそんな契約で住むならゾンビ溢れる都市になっても、企業は隠すこともない。……本当かぁ?


「………その代わり、給料は相場にして他の3倍、家賃光熱費も全てタダ」


「それは……危険を承知で住む人いそうです」


 単身赴任で働いてきてと、奥さんに旦那が送り込まれそうな程条件が良い。


「で、なにを研究していたのかしら?」


 サロメも興味深そうに話に加わるが、研究所の名前が神威なんだけど? もはやその名前から推測できちゃうんだけど? というかサロメは動じないな。リーナお姉ちゃんはなにか食べ物ある? と周りの人に聞いているが8歳なんて、そんなもんである。おかしいのはネムと静香だ。おっさんが取り憑いていたり、宝石を食べる人たちなのでおかしいのは元からであるが。


「……始まりはエルフ。彼らの長命と強さを研究すること。そして精霊という意味不明なエネルギー生命体」


 ムフンと椅子に座り竜子は話し始めるので、長かったらお昼寝して良いかなと、飽きるのが早いおっさん幼女。


「……研究の結果、彼らはかつて改造された人間たちだと判明している。その設計図も見つかった。でも、おかしい。人間をその設計図のとおりに改造しても短命のダークエルフしか作れなかった。なにか他の力が関係していると予想された」


「さらっと改造したとか言うのが怖いです。悪の組織です?」


「………ミルドはその研究に関わっていない。それに実験体は合意した死刑囚を改造していたらしい」


「お決まりのパターンです」


 はいはい、死刑囚ね。彼らはあとがないから、合意するだろうね。


「エルフたちは、なにか他の力が関係していると思われた。そこで判明したのが太古の精霊との関係。エルフには微量だが、太古の精霊と同じ力を持っていると調査したところ判明した」


 キッと竜子は私を鋭い視線で見てくる。


「それがネムの使った白い粒子。私たちが進化の粒子と呼ぶ力。不老不死と強靭な力を与える粒子。ネムはなぜその力を使える?」


「精霊さんにお祈りをするんです。皆元気になぁれって」


 ワーイと可愛く両手を翳しての、ノータイムの返答をネムはした。皆、豆腐を食べて元気になぁれって祈るのだ。そうするとモニョモニョが少し出てくるのだ。豆腐の部分はいつもより当社比1.2倍ぐらい真面目にしているので言わなかった。


「精霊の愛し子は精霊の力を借りることができるんです。モニョモニョ、ゲフンゲフン。精霊さんはなぜか私に力を貸してくれるので」


 いつもなら豆腐の精霊ですとボケるネムであるが、なんとかそれを口にしないように我慢する。ボケ担当のネムにとっては大変なことだ。


「………ミルドたちは進化の粒子を研究して、似たものを作り上げた。長命で強靭な身体に、繊細な作業もできるように人を変える粒子を」


「うわぁぁあ! 僕の顔がぁ! 童顔で困るよと同僚に見た目の若さを密かに自慢していたのにぃ。ダイエットもしていたから細身のルックスで、メタボ腹な他の同僚に痩せればとドヤ顔で言うのが優越感が感じられて良かったのにぃ〜。なんだこのビール腹!」


 鏡を前に顔を押さえて叫ぶドワーフ。床に蹲り号泣している。……なるほど?


 てめぇ、やはりそんなこと思ってたんだなと、普通にメタボなおっさんたちがゲラゲラと笑っている。


「あぁ、あの人たち、貴女もだけどドワーフではなかったのね? 普通の人間だったと」


「……この結果を見るに、そうだと言わざるを」


「いやいや、違うぞ、竜子! お前ら、そんな身体じゃなかったからな。そうだ、外の様子を見てくれ。録画した内容だ」


 進化の粒子の失敗作だと竜子か言おうとしたら、ここに案内してくれた同僚の研究員がタブレットを持ってきて見せてくる。


 そこには炎上する街並み、逃げてゆく人々の姿がある。後ろから真っ黒な霧が噴き出すように空間を占めていき、逃げることに間に合わなかった人が巻き込まれるのだが……。


「うげ……これ、むごいですね」


「そうね、これは酷いわ」


 静香と顔を突き合わせて、その録画に口元を引きつらせる。サロメもドン引きで、リーナは貰ったおにぎりを黙々と食べていた。動じない姉である。


 霧に巻かれた人間は、その身体に黄色い吹き出物がポコポコと生まれると、身体を覆い尽くされてしまう。ビジュアル的に最悪な感染である。

 

 そのまま、のそりのそりと両手を前に突き出して、ゾンビのように歩き出す。後ろには家屋を破壊して、燃やしている悪魔も見えた。


「……むぅ、疑似精霊は悪魔化。人間はこうなったと……少しだけ進化の粒子は失敗していた」


 研究員によくありがちな致命的失敗でも、少しだけ失敗したと言い張る竜子。


「街を破壊しておいて、少しだけ失敗……竜子さん、もしかしてマッドサイエンティストです?」


「使用を決定したのは所長。私たちは失敗する可能性があると進言しながら、粒子がどう人間に作用するか、死刑囚を見ていた。………そこで研究員が苦しみ始めて、ミルドも苦しくなって……そこで記憶はない。たぶん粒子の密閉度が不完全だったと予想」


 ケロリとした表情の竜子研究員。うん、自分が決定したわけじゃないと責任を持たないタイプだ。すなわちマッドサイエンティストの少しだけまともなタイプ。


 きっと、所長、ほぼ進化の粒子は完成していますとか、所長の決定を後押しする内容を告げたんだろうなぁ。


「……ミルドが化け物となって徘徊していたのは予想外。もしかして外はみんなこう?」


「さっきまではそうだったんだが、急に霧が晴れたんだ。これなら研究所に入って粒子製造装置を止めることができるかもしれない」


 コテンと首を傾げて困り顔になる竜子に男が答えながらこちらをちらりと見る。


「……ネムは正常な身体に戻す粒子を生み出せる……」


 なにが言いたいのかな? 私はさっぱり理解できないよと、ネムは小首を傾げてニッコリと笑う。


 ビジュアル的に不気味な敵は苦手なんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 【自動扉がシュインと音を立てて、自動扉が開くと中はシェルターっぽかった】自動ドアが重複してるので、一個削除でよいかと。 【まさか高位精霊が今さらになって会えるとは】高位精霊が→高位精…
[良い点] お姉ちゃん可愛い! はなまるです。 [一言] エルフ世界の後でしたか。 こうして世に髭もじゃずんぐり生物が生まれたと。 ちなみにドワーフの起源は、原初の巨人の屍にわいた蛆虫だったらし…
[良い点] キグルミ幼女すら珍しく真面目に取り組んでいる中、恐ろしいほどマイペースなリーナお姉ちゃん、おにぎりパクパク☆(´ω`)やはりフルパワーモニョモニョウェイブで脳が取り返しのつかない事に……豆…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ