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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
4章 精霊たちとキグルミ幼女

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69話 霧深き街を訪問するキグルミ幼女

 昏き霧に覆われる瞬間、ネムはレバーを勢いよく倒す。瞬時にハンスちゃんは足元を爆発させて、残像を残してリーナとサロメを抱きかえる。


「な、なに?」


「貴方は?」


 俵のように肩に担がれて、驚く声をあげるリーナとサロメ。


「ちっ、笑えねぇぜ!」


 その言葉をスルーして、足元を爆発させてその場を跳ねるように離れる。離れた瞬間に、その場がドンと重い音をたてて爆発して砂煙が撒き上がっていく。


 そこには巨大な黒い肌の腕があった。太さはハンスちゃんと同じぐらいの大きさだ。強力な一撃だったのだろう。その拳は深く地面に潜り込んでいた。


「悪魔っ! しかもかなり凶悪なタイプですわ。なぜ、ダンジョンの外に?」


「巨大な敵なら強いってか? それは誤りだと教えてやるぜ!」


 ハンスちゃんは歯を剥き出しにして凶暴そうな口元を曲げて、二人を下ろすと、手を翳す。投げ捨てたハンマーがくるくると宙を回転しながら手元に戻ってくるので掴み取り、モニョモニョをネムはたくさんつぎ込む。たくさんというアバウトさは危険なのだが、家族が危険なので焦っていた。焦っていなくてもアバウトかもしれないが。


「凄い輝き!」


「浄化の光ですけど、こんなに眩しいなんて!」


 下ろされた二人が顔を手で眩しさから庇いつつ、何やら叫んでいるが、それどころではない。霧に隠されているが、悪魔の大きさは数十メートルはあるはず。


『山豆腐砕き!』


 膨大な純白の豆腐光を放つハンマーを身体を捻り、力を込めて振り払う。巨大なハンマーと化した豆腐がちらりと見えている悪魔へとめり込み、なんの抵抗もなく豆腐のように崩れて、粒子となって消えていく。豆腐はもはや関係ないかもしれない。


「主様、囲まれていますよ」


 コックピット内で、イラがちっこい手のひらサイズのコウモリとなってパタパタ羽ばたき、警告してくれる。


「了解です。ハンスちゃんの必殺技です」


 霧の中に無数の悪魔がいると教えてくれるイラに頷き、必殺技を使うことにする。


「邪魔くせえっ! ひっさーつ、『真実の浄化光。トウフラッーシュ』」


 体を輝かせて、モニョモニョを纏わせていく。フレンドリーファイア無効な豆腐の魔装キグルミ豆腐バスターハンスちゃんの必殺技。トウフラッシュ。もはや無理矢理豆腐をつけているが、イメージが大切なので仕方ないのだ。本当に仕方ないかは不明です。


 光の柱を立ち昇らせて、辺りを純白の粒子で吹き飛ばす。リーナとサロメはステータスアップの付与となるかもしれないが、隠れていた悪魔たちは霧とともにあっさりとかききえていき、あとには無数の水晶が散らばるのみとなっていた。


「周囲に敵はいないです?」


「はい、主様、敵の反応なしですね〜」


「相変わらずの馬鹿力ね」


 イラと静香の答えに安心しつつ、モニターを見ながら辺りの様子をネムは確認するが、霧はもはや影も形もなく、空は曇天に覆われているが、ハンスちゃんのトウフラッシュでぽっかりと穴が空いており、その部分だけ青く澄み渡っていた。


「こんなもんか。はっ、雑魚め」


 ハンマーを肩に担いでハンスちゃんは安堵する。雑魚っぽいのはハンスちゃんだからだ。大味な技で倒していったが、リーナたちではやばい敵だったかもしれなかった。


「………どうやら助けて頂けたようですわね。ありがとうございます、わたくしはサロメ・エスター。エスター侯爵家の長女ですわ」


「わ、私はリーナ・ヤーダ伯爵令嬢よ、です。助けて頂けて!ありがとうございますっ」


 スカートの裾を持ち、カーテシーをするサロメとリーナ。リーナはともかくサロメは薄手の服で色っぽいのでスカートを持ち上げてほしくないかも。見えちゃうよ? 見えたけど。


「俺の名前はハンス。死神ハンスと呼ばれているな。ククッ」(これはハンスちゃんです。強いでしょ。よくできていますよね?)


 相変わらず怪しげな挨拶をするハンスちゃん。もうおっさん幼女の会話は跡形もなく変換しています。ネムはもう発言しなくても良いかもしれない。


 サロメたちはお礼を言いつつも警戒心丸出しの表情だ。こういう場合、チョロインなら簡単に惚れてくれるはずだけど、現実ではそうはいかないらしい。


「わたくしはあれ程のパワーを持つ武技も魔法も初めて見ましたわ。貴方は何者か教えてくれないでしょうか?」


「おいおい、自分が何者かなんて、自分探しをしたことがないからわからないな。お嬢様は自分が何者かなんて、わかっているのか?」(キグルミじゃないですよ。ハンスちゃんはキグルミじゃないですよ。ネムだとばれてないですよね?)


「ムッ……そういうことでは……教える気はないということですか」

  

 ハンスちゃんの超言語創造システムにより、からかわれたとサロメは不満そうにするが、息を一つついて追求を諦める。簡単にはハンスちゃんの正体はわからないと悟ったのだろう。簡単でなくてもバレたら困るキグルミ幼女であるが。


「あんた、ダンジョンとか、黒竜とか詳しいでしょっ? 英雄譚でも、貴方みたいな謎の人物いるものっ! そういう人はタスキになぞのじんぶつとかいて、肩にかけておかないといけないのよっ!」


「なんだ、その変な英雄譚……悪いが俺はそんな奇特な人物じゃないんでね」


 身を乗り出すように、こちらへと近づいて吠えるように言ってくるリーナ。たしかに怪しいけどさと、ハンスちゃんは肩を竦めて返す。


「それよりも戻るぞ? 精霊の愛し子なら大丈夫だ。彼女は危機に陥っても、精霊を操って助かるはずだ」(黒竜ちゃんと散歩しているだけだから、すぐに戻ってきますよ)


 真剣な表情で真面目な声音での返答をハンスちゃんはする。


 黒竜もついているはずだからだと言ったのに、なぜかハンスちゃんは一言も黒竜をセリフに混ぜてくれなかった。なんでだろうと、頭スカスカなネムはコテンと首を傾げる。そんな幼女のアホさにイラも静香もツッコミを入れない優しさを見せていた。優しさではなく、ツッコミを入れても無駄だろうと思われている可能性あり。


「残念ながら、この男の言うとおりですわ。一旦戻りましょう、リーナ。ハンスさん、貴方にもついてきてもらいます。お礼もしたいですし」


「むむっ。ネムが傷ついたら……妹はきっと恐怖で泣いているわっ! あの娘は魔力持たないか弱い娘なんだからっ!」


 たった今、そのか弱き幼女に助けられたリーナが不安そうにする。いつも元気な姉の弱々しい表情に、ザクザク罪悪感に襲われるが、正体をバラすわけには行かない。バラしても、この霧の中に潜む悪魔に取り憑かれたのねと、信じてくれない可能性大。


「お前は精霊の愛し子の加護を甘く見ている。彼女の加護を突破して、倒すのは簡単にはできない。今のところは危険がないから安心しろ」


 なんて答えようかと迷うネムが頭を抱えて、カラカラと考えている中で、ハンスちゃんは自動的に答えた。頼りになるキグルミです。


「……精霊の愛し子の秘密を色々と知ってらっしゃるのね? エスター家にて歓待したいので、ささ、帰りましょう」


 腕を掴んで胸をポニュンと押し付けて、ニコリと色気のある笑みを見せてくるサロメ。逃がすつもりはないとの表れだろう。


「仕方ないわねっ。お父様と合流したら、すぐにまた探索に向かうわっ。帰りましょうサロメお姉ちゃん」


 リーナも渋々と不満げながら帰ることに賛成するが……。


「で、ここはどこなのっ?」


 辺りを見回して聞いてくるリーナ。ネムも改めて外の様子を見て、コテンと小首を傾げちゃう。なぜならば風景が一変していたからだ。


 距離的に街の中であるのは予想できた。だが一つだけ予想と違ったことがある。


「なんというか……ここはどこです?」


「うう〜ん、主様。この風景に見覚えはありませんね〜」


「というか、これってふぁんたじ〜の風景じゃないわよ?」


 モニターに表示される光景。


 それは崩れた高層ビルや燃え落ちた店舗が建ち並ぶアスファルト舗装のひび割れた道路が存在する場所だった。明らかに石造りの家々が建ち並ぶエスター家の領都ではない。


 ついでに言うと、崩壊した世界っぽい。ただし前世の地球の未来と言う感じだ。ナニコレ、どこなの? 


「赤錆びた街でもないわね。普通に破壊された世界……私がいた世界に似ているわ」


「静香さんの元いた世界って、こんな酷い世界だったんですか」


 ピコピコ光るサークレットに答えつつ、リーナたちを見る。不安そうだが、戸惑っているだけで、恐怖心は抱いてなさそう。胆力ありすぎな姉と従兄妹だよ、この人たち。


 か弱い幼女なら、泣き叫んじゃうよと思いつつハンスちゃんを操作する。


「どうやら俺たちは別の場所にも来ちまったらしいな」


 霧のテンプレ能力は別世界に主人公たちを移動させる。これ、もしかして別次元じゃない?


「ダンジョン内でもありませんわね。古代の文明を偉い科学者が予想したんですけど、その予想図にそっくり」


「私も見たことあるわっ! たしか、歴史書に載っていた覚えがあるものっ! 落書きが書きやすくて面白かったわ」


 サロメがキョロキョロと見渡す。リーナはもう少しお勉強しようね?


 霧は完全に消えており、荒れ果てた街並みだけがよく見える。イアンたちは巻き込まれなかったらしい。


「仕方ない。歩いて探すか」


 手掛かりないけど。手掛かりがあっても手掛かりと気づかないかもしれないけどね。


「それもそうですが、帰る前に倒した悪魔たちの魔石を集めませんか?」


 ちゃっかりしているサロメに苦笑しちゃう。金持ちでも、いや、金持ちだからこそ、お金には厳しいのかな?


「急ぎたいけど、かなり強そうだったものね。もったいないわ」


 リーナも同意するし、それほど時間もかかるまいと拾い集める。魔石なのだから、コイン型で一シズオカとか描いてあるのかなと見てみるが、何もない。というか六角形の水晶だった。シズオカの魔石は普通なのねとか思うネムとリーナだが、サロメの様子がおかしいの。


「これ、おかしいですわ。サイレントパレスの悪魔は普通の魔石。こんな物ではありません!」


 サロメが一際大きい水晶を手にして、混乱したように水晶を翳してくる。


「あぁ、これはオリジナルだな。大昔に作られた魔石ではなく、水晶を使った奴らだ」


 ここがどんな場所からわからないが、危険で厄介そうだと嘆息するハンスちゃんであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 【当りを純白の粒子で吹き飛ばす】 当り→辺り 変換ミスかと。 【明らかに石造りと家々が建ち並ぶエスター家の領都ではない】石造りと→石造りの でしょうか? [一言] いつの間にか、指輪…
[一言] ハンスちゃんの浄化の光が眩しいって、それ完全にデバフですよ。 強キャラの必殺技とかめっちゃ派手なエフェクトつきますよね。あれよく考えると近くにいる仲間ってめっちゃ疲れますね。目に悪いです。
[良い点] ここで姉と従姉がハンスちゃんに惚れてしまわないで良かったです、ややこしい事になる未来しか見えませんし大切な家族が悲しむところなんて見たくないですもんね(怪しすぎるハンスちゃん人形の言動から…
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