表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
4章 精霊たちとキグルミ幼女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/120

62話 正義の味方な女武器商人

 ボルケンの屋敷の応接間で静香は余裕の笑みで立っていた。目の前には護衛と共に立つボルケン。


「銃などは対策をしている者にはガラクタ同然。貴様ら、コヤツを取り押さえろっ!」


「はっ!」


 ボルケンの得意げな指示に、ニヤリと嗤い護衛たちも勢いを取り戻し静香に向かってくる。


「これはどう?」


 マグナムを近づく護衛に放つが、その弾丸は空中で弾かれたように明後日の方向に飛んでいく。


「残念だったな! 銃を武器に選んだ自分を後悔しなっ!」


 闘気を身に纏い、一気に間合いを詰めてくる兵士に、フフッと笑みを浮かべて引き金を引く。


 パンという軽い音と共に、今度はなにも起こらずに兵士に命中すると、兵士をハンマーに殴られたように吹き飛ばす。


「な、な?」


 横を飛んでいき壁にぶつかり気絶する兵士を前に、他の兵士たちは顔を引きつらせて恐怖の表情となる。


 銃弾避けの魔法は闘気を乗せられる矢と違い、物理的攻撃力しか持たない銃弾を無効にするはずだ。それなのに、仲間が吹き飛んだことに驚き混乱していた。


「ごめんなさい? 強化弾なのよ。一応ゴム弾にしておいてあげるわ」


 再度引き金を引く静香に、銃弾を躱すことができるほどの闘気を持たない兵士たちは次々と吹き飛んでいく。


「がはっ」

「ぐうっ」

「ま、まて」


 全ての兵士たちは高速で飛んでくる弾丸を防ぐこともできずに吹き飛んだ。多少足とかが変な角度になっているけど、命はあるから良いわよねと、フッと銃口の煙を吹く静香。


 その妖しい女スパイまんまな姿の静香を見て、ボルケンは悔しそうに顔を歪める。


「魔法弾か! そんなスキルを持つ者がいるとはな……どうだ、儂の仲間にならんか? そうすれば商店の半分の権利をお前にやろうではないか?」


 魔王のような誘いをするボルケン。もちろん静香は正義の使徒なので、そんなことは受けられない。


「貴方の持っている貴金属全部貰うつもりだから、取引はできないわね」


 正義の使徒なので、魔王の勧誘はきっぱりと断る静香である。多少セリフが変なのはご愛嬌といこう。男は度胸、女は愛嬌なのだからして。


「ちっ。それならば死んで後悔しろっ。『3レベルファイア』」


 ボルケンが叫ぶと同時に、その手には炎の玉が生み出されて静香に飛ぶ。


 絨毯を蹴り、扉の外に出る静香。飛び出るタイミングに、マグナムを撃つ。


『5レベルプロテクト』


 先程とは違い、分厚そうな光の壁が生まれて、ゴム弾を弾く。


「ん? その魔法どうなっているのかしら?」


 壁に張り付き、怪訝な思いで扉に手を突き出し、マグナムを放つが、先程とは同じように銃弾は弾かれてしまう。


「フハハハ。驚いたか! これは曾祖父が手に入れた伝説のアーティファクト、まぐれの杖! この杖の力はランダムで魔法の力を発動させる。その力は圧倒的だ! 理由は知らんけど」


 得意げに手に持つ黒い杖を振り上げて叫ぶ。スイッチを押せば使えるのならば、それで良いじゃんの精神だ。どこかのおっさんに相応しい適当なるふぁんたじ〜世界だと言えよう。ボルケンだけかもしれないが。


「そう。それなら、サイコロでひふみが出るまで戦えば良いと言うことよね」


「バカめ、イカサマを使わずとも、ひふみなどでんわっ! それに、障壁は既に発動されている! 負けはないっ!」


「仕方ないわね。とっておきよ」


 単発銃のようなマグナムを消すと、今度は二股に先端が分かれている白銀に光るメカニカルな金属の光沢の銃を取り出す静香。


「死なないように弱装弾を使うつもりだけど……死んだらイラに任せるから安心して」


 ポゥッと銃口に光輪が生み出されると、静香は光の障壁に覆われているボルケンへと向ける。


「くらうかっ! 『算盤走行』」


 まるで算盤をローラースケート靴代わりにしたように、カラカラと音をたててボルケンも壁際に素早く移動する。案山子のように突っ立って、無意味に攻撃を受けるような間抜けな頭はしていないらしい。


「けえっ! 『レベル1ファイア』」


 蝋燭のような炎が杖の先から生まれてフヨフヨと飛んでいく。


「くそっ! 外れかっ!」


 舌打ちするボルケンに、静香が躍り出て来て、銃口を向ける。


「ご馳走するわ」


 光線が銃口から放たれて、光の障壁とぶつかる。弾かれてしまう光線だが、障壁もガラスのようにパリンと砕け散る。


「くっ! 『算盤キック』」


 カラカラとまた音をたてて、太った身体を高速移動させて静香に蹴りを放つ。太っているので、身体全体を傾かせてのキックなので、かなりかっこ悪い。


 太った身体から放たれたにしては速い蹴りだ。闘気を纏わせてあるので、ボルケンは昔は身体を鍛えていたのかもしれない。


「でも遅すぎるの」


 目前に迫る蹴りに怯まず、冷静に引き金を引く静香。パルスビームが、その銃口から放たれて脚を貫く。


「ブゲッ」


 高熱のビームで脚を貫かれたボルケンはゴロゴロと転がり、痛みでうめき声をあげる。


「くっ、『レベル99エクスカリパー』」


 神々しい光の大剣が杖の先端から現れると、ボルケンはそれを見て哄笑する。


「やった! 最強の魔法だぞ! 死ねえっ!」


 自身が見たことのある中でも最強の剣魔法。この魔法は強力無比だ。湯を沸かせないかとヤカンに向けて杖を使ったら台所を消し飛ばし、それどころか壁も吹き飛ばして屋敷を崩壊させた魔法なのだから。


 ランダムすぎて誰も使わなかったアーティファクトである杖であった。


 哄笑するボルケンだが、その神々しい光で照らされても静香は恐怖することなく、疲れたようにため息をつくのみであった。


「今の技名よく聞いた?」


「くらえっ! エクスカリバー!」


 ボルケンが叫ぶと光る大剣は静香に飛んでいく。ヘロヘロという擬音がしそうなぐらいにゆっくりと。


「は?」


「攻撃力255は見かけだけなのよ、エクスカリパーって」


「はぁ?」


 何を言っているのかわからないと混乱するボルケンと、エクスカリパーを蚊でも落とすようにペチンとはたき落とすと静香は武器をゴム弾に切り替えて、ボルケンの頭に撃ち込むのであった。





「済まなかった、このとおり! 謝る。異物混入は謝る!」


 ボルケンは頭を床に叩きつけて土下座をしていた。目の前には腕を組む静香とイラがいる。他の兵士たちや使用人は全てイラが気絶させておいた。


「駄目ですよ〜。異物混入、店内での悪ふざけ、友だちしか見ないからと油断をするとあっという間に拡散するんです。そして謝っても店は営業停止するので賠償金を求めます」


 内定もなくなり、以降の若き未来は台無しになるんですと、ウンウンと頷くイラ。


「そうね。潰れた店主の霊が私をこの地によこしたの。とりあえず、店主の怨念を晴らすためにこの誓約書に判子を押しなさい?」


 容赦のない静香は誓約書をボルケンの額に押し付ける。契約書ではなく誓約書な所が本気度がわかる。


「へっ? しかし異物混入ぐらいで……」


 そこには貴金属の全ての譲渡、小麦の譲渡が書かれていた。微妙に困る内容だった。はっきり言うと高すぎるのだ。


「ぐらいではないわ。可哀相な店主の意思を私は継いでいるの」


 存在しない幽霊の店主に祈りを捧げるように黙祷する静香。


「わ、わかりました。わかりました」


 その思いが効いたのか、ボルケンは誓約書にサインをする。ちなみに黙祷をしている静香の手はボルケンに向けられていた。マグナムを構えながら。静香式黙祷法なのだ。相手はその態度に感動してサインをする。


 満足そうに誓約書を眺める静香だが、土下座をしながらボルケンはほくそ笑む。この場を逃れれば、あとは官憲に訴えるだけだ。この者は屋敷に押し入り、無理矢理誓約書にサインをさせたのだと。


 その訴えは認められるに違いない。ケチで小悪党な自分が持っていた宝石類をこの女が全て持っているのだから。


 小麦ならば、量はあれどそこまで価値はない。嘘だろうこの小悪党と言われて、反対に捕まるかもしれないが、宝石類なら別だ。ぐふふと笑いたいが内心で堪えて土下座を続ける。


 鑑定書と写真もついているのだ。ネックレスの形から、宝石がどのようにカットされているのか。襲われた証人は兵士と使用人たち。儂の勝ちは揺るがない。


 お伽噺の暴れん坊王子のように悪党を殺さない己らが甘いのだと思い、宝石類を盗られて言っても、土下座をしたままであったのだった。


 そうして二人が満足して去っていき、思い知らせてやるとボルケンは嘲笑うのであった。




 翌日


「本当なんです、騎士様! こ奴らが儂の家にやってきて、宝石類などを譲渡させると無理矢理押し入ったのです。本当ですったら!」


 喫茶店スターズの前を縄で縛られて叫ぶボルケンの姿があった。


「ボルケンはそう訴えておりますが本当ですか?」


 真面目そうな騎士が聞いてくるが、ツインテールをふわりと振って小首をコテンとイラは傾げる。


「何を言っているのか、妾はさっぱりわかりませんね〜。なんで私たちがボルケンさんの家に押し入るんですか?」


「そうね。それに盗んだ宝石類? なんのことかしら?」


 静香も不思議そうに首を傾げちゃう。なんの話かさっぱりわからない。大粒の宝石がついたネックレスを首から下げて。


「あのネックレスは儂のです。見覚えがはっきりとあります。あのルビーは儂のだ! 鑑定書もありますし、襲われた際の証人もいます! 懐に鑑定書があります。なぜ、儂は最初から縄で縛られているんだ?」


 叫ぶボルケンに、仕方ないなぁと面倒そうに、ボルケンの懐から鑑定書を取り出す。なぜ最初から縛られているかは、小悪党ボルケンはこの街で心底嫌われているからである。


「銀の鎖についたルビー。鮮やかな赤に似合う薔薇細工をされた台座についている、と」


 静香のネックレスを見る騎士。金の鎖に小さな花をあしらった台座にルビーは嵌められていた。ピッタリと。


「昨日奪った物を加工するにしても完璧に嵌っているから無理だな。全然鑑定書と違うぞ? それに、この人たちにおそわれました?」


 ボルケンに連れられてやってきた門番や使用人に声をかけるが


「いえ、普通に門番をしていました」

「その夜はぐっすりでしたね」

「寝すぎて寝坊しました」


 一様に首を横に振って否定する。


「そ、そんな訳はない! こいつらは米袋に魔水晶を混ぜ込んでやったことを恨んでやり返しに来たんだ! あ……」


 悔しすぎて、つい口にしてはいけないことを口にするボルケン。


「ほほう……面白いことを言いますね。わかりました、これは本部でお聞きします。詳しくね?」


 ニヤリと騎士は笑い、ボルケンはズリズリと引っ張られていくのであった。


「あれなんですか?」


 ネムがわけわからんと小首を傾げるが


「フォーゲッターはすごい魔法ということね」


 フフッといたずらそうに微笑みながら答える静香であった。


 フォーゲッター。敵の記憶を忘却させる魔法。イラが使うと最大5時間の記憶を忘却させる闇の魔法である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 悪党が断罪されザマァになる様に歓喜するはずの読者が、あまりの正義の使者達のムゴさに哀れみを感じさせるへっぽこ商人ボルケン……(´Д` )竜の探究どころか最後の幻想のアイテムパワーまで得ても…
[一言] 便利すぎる闇魔法・・・記憶を消すのか書き換えるのか味方が使えると強力すぎな件 戦闘は以外に闘えるボルケンにびっくり 曽祖父が勇者の仲間だったかもしれない人の子孫なだけありますなぁ~ アホ幼女…
[一言] 盛大な自爆で笑った。 でもうっかりしちゃうって結構あるある。 自分も気を付けよう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ