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49話 精霊とキグルミ幼女

 精霊。エネルギー生命体。そんな名前の人工知能生命体。うん、精霊には見えないよね?


 目の前に現れた敵は黒い触手を寄り集めたような人型の敵へと変わる。こういうの見たことあるよ? カビかな? かびだよね? どう考えてもカビが知能を持つのは不可能だと思ったんだけど、記憶回路として宝石を使っているかしらん。


 新たに現れた自称精霊。なんとかモッドと名付けても良い敵は、ゆらゆらと体を揺らし、どこが顔だかわからないが、こちらに身体を向けてくる。


「動きがトロそうなんですけど?」


 真魚たちに、再度離れるように手を振りながら言う。機械なだけに目的の対象以外はまったく興味を持たないらしいから、少し離れれば大丈夫だろう。


「気をつけたほうがよさげよ? エルフでは敵わないと投入された敵だしね。そうね、ツリーモッドとネーミングしておくわ」


「……ネーミングがパクリっぽいですけど、気にしないことにします。それに黒から色が変わってますし」


 黒いカビ人間から、その色が赤やら青に変わっていく。というか、炎の体やら氷の身体だ、あれ。赤いツリーモッドは、その身体から炎を噴き出して床を焦がし、青いツリーモッドは冷気を噴き出して辺りを凍らせていく。


「単純なエネルギーだと倒せないと判断して、どんな攻撃が効くか試しにきているのね。やっぱりファイアモッドとフリーズモッドにネーミングし直すわ」


「そういう頭の良い行動をとってもらいたくないんですけど……。同じ攻撃を延々と続けてくる敵が良かったんですけど……来ますっ!」


 ハンスちゃんを身構えさせて、真剣となるネム。炎も氷もやばい。燃やされ続けても、凍らされても詰むのが、幼女の弱点なのだからして。


 動きがゆっくりなのが救いだよねと、速さで勝負と思うネムだが、敵に周囲を囲まれているとROSが教えてくれる。この状態で、超常の力を受ければ回避しきれないと。


「連携は機械なだけに得意という事です?」


 えぇ〜と、嫌な表情で呟くキグルミ幼女。予想通りにツリーモッドたちは手を翳してくる。


 ファイアモッドがゴウッと火炎放射をしてきて、フリーズモッドが冷気を放つ。アホな人工知能ではない証拠に、それぞれタイミングをずらしている。


 こちらを倒すのが目的ではなく、ダメージが通るかを確認しているのだと、ネムは小さな舌をチッチッと小鳥のように鳴らす。


 ハンスちゃんの身体全てを覆うほどの太さの火炎放射を、ダンッと横っ飛びをして躱す。躱した先にも他のファイアモッドが放った炎が迫ってきており、逃げ場所を塞いでいる。


寒豆腐ふりーずとうふ


 凍らせた豆腐をイメージして、シャリシャリに冷たい豆腐の盾を作り、迫る火炎放射を防ぐと、次に迫る冷気を前にハンマーを突き出す。


極辛麻婆豆腐ふぁいあとうふ


 ハンマーから激辛の炎が噴き出して、冷気を霧散させる。


「ちっ」


 ハンスちゃんが舌打ちを自動にする。なせ舌打ちをしたかというと、ハンスちゃんの右足に紫電を発する雷の触手が絡んできたからだ。


「シビビビビ」


 なにかのアニメのように、電撃により身体を痺れされるネム。アニメのように骨が見えたりはしないが、ダメージは受けている。普通は焦げて死ぬレベルの電圧だが痺れるだけなのが恐ろしい幼女である。


「むんっ」


 絡みつかれた右足を支点に勢いよく回転をして触手を引きちぎるハンスちゃん。だが、その雷による痺れた隙を逃さずに、他のモッドたちが炎や氷を撃ちだしてくる。固定砲台の如く、連射をしてくるたちの悪い敵だ。


「幼女にもう少し優しくしてください」


 炎に炙られて、冷気に凍らされて、じわじわと動きが鈍くなるハンスちゃん。必ず逃げた先に敵の攻撃が放たれているのだ。その完璧に穴を塞ぐ攻撃はROSでも回避できないと理解した。


 こりゃ駄目である。多勢に無勢だ。もう少し炎や冷気の威力が弱ければ良いのだが、炎は木の床を一瞬に灰に変えて、冷気は凍らした枝葉をサラサラと粉雪へと変えている。


 超高熱と絶対零度。重なり合うその反した属性により、水蒸気が巻き起こり、視界を悪くする中で、水蒸気に通すように電気も走る。


 考えている攻撃だ。低温と高温差を繰り返すことでハンスちゃんが脆くなるか確認をして、辺り一面に広がった水蒸気を走る雷はこちらを先程から痺れされる。ちょっと酷すぎる攻撃だ。


 これでも、じわじわとしかダメージを受けないハンスちゃんなので、敵の方がそのキグルミはチートすぎだろと怒って良いのだが、敵の難易度高すぎだろ、カジュアル、カジュアルにしてくださいと、ネムは不満で頬をぷっくりと膨らませていた。さすがはおっさん幼女、常に楽を求める姿勢はどんなときでも変わらない。


「むぐぐ……。敵の立つ位置も絶妙に離れていますし、人々もいるから範囲攻撃もできません!」


「絶体絶命ね」


 うみゅうと口を尖らせるキグルミ幼女に、宝石幼女も苦々しい声音をあげる。対抗できないように詰め将棋みたいに敵は攻撃してくるのだからして。


 これは仕方ないかと諦めちゃう。ふぁんたじ〜なら、こういうハメ技はやめてほしかったよ。


「仕方ないです。私は自由のために戦う豆腐だ〜」


「これ、私たちがやられるパターンに見えるから気をつけてよ」


 最終モードだと、叫びながら強いイメージをする。そのイメージに従って、ハンスちゃんの身体は白く輝き始めるのであった。




「あのままだとやられちゃうよ!」


 真魚は立ち止まり、敵の攻撃を受け続ける白銀ちゃんを見て、悲痛の声をあげる。


「お、俺っちが助けに加わるっす! ハァッ!」


 ゴン太が手のひらからエネルギー波を放ち、ツリーモッドを破壊しようとする。


 チュイン


 あっさりとエネルギー波はファイアモッドの纏う炎にかき消されて、最初からエネルギー波などなかったかのようだった。


「あぁっ! 俺っちの最強技が!」


 その結果にゴン太が呆然とする。一応、最強技だった模様。まぁ、手のひらからエネルギー波を撃ち出すなんて人間にはできないので、それなりに自信があった模様。


 よくアニメとかで見る、戦闘力が違いすぎるのだよと言わんばかりに、命中してもエネルギー波はあっさりと四散して、ツリーモッドは微動だにせず、まったく攻撃が効いた様子はない。飲茶が好きなゴン太とあだ名をつけても良いだろう。


「このままだと……な、なにあれ?」


 役立たずのゴン太をスルーして、真魚が攻撃を喰らい続けるハンスちゃんを見るが


「俺は自由のために戦う闘士だ〜!」


 その身体が白く輝き始め、その強烈な眩しさに真魚たちが目を細める中で、ハンスちゃんが変わっていく。


『雷霆竜変化』


 純白の竜。お伽噺にしか聞かなかった竜へとその姿が変わっていく。純白の鱗は輝き、その目はサファイアのように美しく、足から生やす剣のような爪。四肢を床につけて、バサリと絹のような滑らかな光沢を持つ翼を広げるその姿は白竜であった。


 あまりの美しさに、皆は息を呑む。白竜はどんどん巨大化をしていき、30メートルはあるだろう大きさへと変わる。重みで枝の床が壊れるかと思ったが、不思議なことに重さがないように床は軋みもしない。


「さぁっ! パーティーの始まりだぜ! オリジナルの方が強えとわからせてやらないとな!」


 神秘的な見た目なのに、乱暴な口ぶりで雷霆竜は口を大きく開き牙を光らせてツリーモッドたちに向けて息を吸い込む。


始原雷霆息吹ゴッドトールブレス


 その口から淡雪のような純白のブレスが吐かれる。直線状にいるツリーモッドは、全てを燃やし尽くす炎の体のファイアモッドも、あらゆるものを凍らせる氷の体躯をもつフリーズモッドも、隠れ潜む雷の身体のサンダーモッドも、その全てを白く輝くブレスで薙ぎ払う。


 ブレスを受けたモッドたちは、一瞬でその身体を白く変えて、細かく灰のようにサラサラと身体を崩して消えてゆく。その体内にあった角は黒い水晶から、白い水晶へと変わり、コロンと転がる。


「ふはははは! 楽しもうぜ!」


 アンギャーと雷霆竜は哄笑して、ブレスを吐き続けて敵を倒していく。ツリーモッドたちも炎や氷を放つが、その硬い竜鱗に阻まれて、まったくダメージを与えられていない。


「すごい! すごいけど、こっちにもブレスが!」


 真魚たちは、周りを気にせずにブレスを吐きまくる雷霆竜に、驚き逃げ惑う。自分たちもブレスにやられては敵わないと思ったが、間に合わなかった。なにしろブレスは広範囲を止まることなく吐かれているのだから。


 ブレスに巻き込まれて死ぬかと思ったが……。


「あれ? 何も起こらないよ?」


 真魚の身体は傷ついた様子はないので、不思議だと首を傾げちゃう。精霊たちはその息吹が致命的なのだろう。掠っただけでも灰のように身体を崩しているのに、反対になにか元気になった感じがする。


「きっと浄化とか、そんなかんじっすよ! あの方は神様だったんすよ」


「え〜? そんなようには見えないけど?」


 アホっぽそうなコスプレ幼女の姿を思い起こし、微妙な表情になる真魚。精霊の愛し子……なんか、そんなことを口にしていたけども。本当かなぁ。なんか楽しいことしかしない怠惰な幼女に見えたんだけど。


 人物観の鋭い真魚の言葉通り。ネムはアホな幼女である。中の人のせいであるのだが。


 そんなアホな幼女はレバガチャをしていた。


 コックピット内で、ちっこいおててでガチャガチャとレバーを動かして、ボタンをバンバン叩く遊び方を知らない幼女がキャッキャッと無邪気に遊ぶように、適当にボタンを叩いていた。


「うおりゃぁぁぁ! 『汲み出し豆腐ブレス』『汲み出し豆腐ブレス』『汲み出し豆腐ブレス』」


 ネムは混乱している! 


 元からかもしれない!


 そんなログが出てきそうな混乱っぷりで、必殺? ブレスに無駄にエネルギーをドンドコ注ぎ込んで撃っていた。ちょっと涙目なのは、マジでやられるかと危機感を持っていたからである。


 汲み出し豆腐ブレス。豆腐にニガリを入れて、最初に固まってできる豆腐である。ふんわりと柔らかく美味しいのだとか。おっさんは食べたことがないので、淡雪のようなんだろうなぁと勝手にイメージをして作った豆腐だ。


 その味は最高らしい。そして、そんなイメージを適当につけられた汲み出し豆腐のブレスは、ドンドコツリーモッドを倒していった。


「この間のメカ戦よりも、恐怖を覚えましたよ! このこのこの。ヒャッハー、豆腐を喰らえーっ!」


 ぐるぐるオメメで混乱幼女はバンバンとボタンを叩き続ける。


 もはや豆腐ではないと思えるが、ネムの中では豆腐とイメージしてツリーモッドを倒していく。だが、敵も諦めずにドンドコツリーモッドを作り出していく。


「むむ。このままだと戦闘が長引いちゃいますね」


 汲み出し豆腐に覆われて、あーれー、と叫びながら地上に落ちていくゴン太を見て、人々にも被害が出ちゃうかもと正気をようやく取り戻す。狂っていた頭が元の狂っているおっさん脳に戻る。どちらにしても狂っているのかもしれない。


「ネム。ユグドラシルシステムの弱点はもう見たじゃない」


「そういえばそうでした」


 静香の言葉に、そういやそうだったと思い出す。のっしのっしと絹ごし豆腐竜を歩かせて、黒く染まる木に近づく。何をするのか理解したファイアモッドたちが攻撃をしてくるが、巨大なエネルギー体の絹ごし豆腐竜は少し削られるだけで、ビクともしない。


 絹ごし豆腐竜は黒く染まる木にパクリと噛み付く。そうして、すぅはぁと深呼吸をして、ネムはクワッとぱっちりおめめを開く。


「震えるぞ、とーうふ。燃え上がれ、私の呼吸! 太陽の豆腐。オーバドライブッ」


 一気に自らの力を絹ごし豆腐竜から木へ流し込む。エネルギー弁を持たない欠陥品だ。今度は意図的にエネルギーを注ぎ込むとどうなるかしらん。


 白き光が木へと注ぎ込まれて、黒く染まった木は灰のように変わっていく。だがエネルギーは木を伝い、地下へと巡っていった。


 なにが起こるかなと、キグルミ幼女が期待のオメメでモニターを眺めていると、近き所も遠く離れた場所も、その全てから白い光が天へと登っていき、黒き木々が爆発していく。


 ドカンドカンと爆発音が響き渡り、今度こそ致命的なダメージを与えたのだろうか。離れた場所がゴゴゴと地鳴りをたてて、メカニカルな金属の光沢を見せるドームが地下から現れる。


 ドームはその天井を解放する。その中には六角形の巨大な水晶があり、黒きオーラが集まっていくと


「ボス戦です?」


「あからさまだものね」


 数百メートルはある体躯の漆黒の竜。首が多くある多頭竜、ヒドラへと変わるのであった。


 あっという間に、ボス戦突入の模様。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴン太に何かと死亡フラグが散らつく件w 飲茶が好きなゴン太「オレにやらせてくれ。ここらでお遊びはいい加減にしろってとこを見せてやりたい。」(`・ω・´)キリッ
[良い点] いつの間にTOUFU幼女が豆気による仙道呼吸法を会得したのかはさて置き、豆腐色の波紋疾走を駆使するなどと愉快の極みはワシらオッさん世代には特効すぎてのたうちまわる☆何をするだァーッ!(^◇…
[一言] 鉄を操る代わりに豆腐を操るハンスちゃん! 本家より大分強いはずなのにすごくよわそうw
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