表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
2章 目的を決めるキグルミ幼女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/120

38話 伯爵家付き魔法使いとキグルミ幼女

 ヤーダ伯爵家に使える魔法使いジーライ。老いてますます盛んなお爺さんである。そして、青いサファイアらしき魔法の杖を構えて、卓越した魔法を使いこなすプログラマーでもある。あ、魔法使いだった。


 マッチョなボディのお爺さんなので、暑苦しそうな体育会系タイプでもある。ネムが苦手なタイプだ。マラソンとかで、ブービー賞をとったら、わざわざよく頑張ったなと背中を叩いて目立たそうとする体育教師に近い。学生時代にそんな体育教師が……いなかったけど。あれは漫画や小説の中だけの都市伝説的存在だ。現実の体育教師はそこまで熱血ではない。スルーして、授業の進行だけを気にするのである。


 ともあれ、それだけ熱血そうな見た目なのがジーライだ。さすがふぁんたじ〜世界。みんなキャラが立っているよとネムはマイラちゃんキグルミの姿で対峙して、どうやって逃げようかとため息を吐くのであった。幼女は辛いや。


 言語変換機能に、偽装装置……ちゃんと働いてねと、幼き幼女は願った。とりあえず黙っておけば大丈夫じゃないかな?


 なので、期待通りの機能を指輪は発揮させた。ネムの願いとは少し違ったが。おっさんが中に入っている幼女の願いは神様は聞いてくれない模様。それか、変装機能を適当に吸収した指輪は、正しく適当にその機能を発揮したのか、どちらかである。


 何ということでしょう。本人が黙っていても、身振り手振りの偽装から、言語変換まで面白おかしい方へと稼働してくれる指輪であったと後にネムは思い知るのであった。たしかに世界に悪影響を与えると。主に幼女に悪影響を与えると思い知るのであった。





 月夜の光の下に、ジーライは目の前の敵を油断なく観察していた。敵……そう敵だ。城内に密かに潜入しただけならば、何処かの貴族が最近の噂を聞いて、密偵を差し向けたのだと推測できる。


 だが、目の前の敵は違う。闇夜に溶け込むような黒いドレスに黒い帽子を被り、まるでこれからパーティー会場にでも参加するように、余裕の足取りで城内を歩いていたのだ。この真夜中の皆が寝静まった時間に。


 不気味であり、その身に纏う空気は邪悪さを感じさせる。どうやら、ネム様を見に行こうとしていたらしい。


 幸運であった。ハンスという者が魔石を換金し、留めようとする受付嬢を無視して、すぐに冒険者ギルドをあとにしたと聞いて、嫌な予感がして夜の見回りをすることにしたのだが……まさかいきなり侵入者を見つけるとは思わなかった。


「何者だ! ここをヤーダ伯爵の城と知ってのことか!」


 一緒に見回りをしていた騎士の一人が怒声をあげる。強面の武装している騎士の怒声に普通の者ならば震え上がるものだが、女はクックとそのベッタリと真っ赤なルージュを塗りたくった口を歪めるだけであった。


「もちろん知っているよ。まさかこの城に迷い込んだという答えを期待していたのかい。アッハッハ!」


「うむっ! そなたを拘束する! 反抗するならば、痛い目に遭うとしれ!」


 馬鹿にされたと激昂して、騎士たちは前に出て、女性を拘束しようと近づくが、それは無警戒すぎた。この城に密偵などが入ったことがないので、危機感を持っていなかったのだ。


「待て! 不用意に近づくんではない!」


 制止の声をあげるジーライであるが遅かった。女は両手を近づく騎士たちへと向けて、声をあげる。


荒野の怪腕こうやどーふぱんち


 その言葉と共に、両腕が黒く染まりボコボコと膨れ上がり、女の身体を隠すほどの大きさとなり、騎士たちへと向かう。


「なっ?」

「くっ」


 膨れ上がった黒く脈動する大木のような腕が迫り、その両手が広げられ捕まえようとしてくるのを見て、だがしかし、騎士たちは反応した。体内に『闘気オーラ』を掛け巡らせて、身体能力を引き上げると、床を蹴り迫る敵の巨大な手をジャンプで躱す。


「化け物かっ!」

「我らを甘く見て貰っては困る!」


 二人の騎士は敵の腕を踏み台に、剣へと魔力を籠めて女へと向かう。ヤーダ伯爵領の騎士たちは貧乏で娯楽がないから、身体を鍛えまくっているのだ。そのため、他の領地の騎士たちよりも、その練度は高い。筋肉マッチョな騎士たちが多すぎて、お頭は髭もじゃの山賊の頭にしか見えないから、どこの山賊団だと勘違いされるレベルである。


 そんな騎士たちは、予想外の攻撃に対応してみせた。やられ役ではないのだと、テンプレの運命から逃れんとするが


「後ろじゃっ!」


 ジーライの警告が聞こえてきて、後ろからなにかに掴まれてしまう。強い力で掴んできたのは黒い一本一本が大人の腕ほどの太さを持つ先程躱したはずの女の異形の指であった。


「馬鹿なっ!」


 動きを封じられたまま、後ろへと振り向くと、怪腕は人ではありえない曲がり方をしていた。タコのように軟体動物の脚のように。


「くくく。見た目から騙されたね。愚かな人間たちよ。『暗き傲慢くろごまとうふおなかいっぱいい』」


「なんだ、これは?」

「体が!」


 その言葉と共に騎士たちの身体を黒い粘体が覆っていく。もがいて逃げようとするが、あっという間に身体を包む粘体によって動けなくなる。


「少し痛いが我慢せよ。『突風転移ウインドブラスト』」


 ジーライは石化系統だと判断して、騎士たちを杖から巻き起こした突風により吹き飛ばす。掴まれていた腕が揺らぎ、騎士たちはライナーで通路を吹き飛んでいき、階段をどっからがっしゃんと音を立てて落ちてゆく。とっても痛そうな音です。


「後ほど、伯爵夫人に治癒をお願い申し上げる。我慢するのだな」


「……騎士たちに対して恨まれそうな対応だな?」(ま、まぁ、くろごまとうふのクッションがあるから)


 女はニヤニヤと楽しそうにしながら、腕を元の人間の姿に戻す。女の中の人は騎士たちが死なないようにと冷汗をかいて祈っていたが、もちろんジーライにはその内心はわからない。


「石となり死ぬよりはマシじゃろうて」


 そんなことはないよ。おなかいっぱい黒胡麻豆腐が身体を覆うだけで、しばらく動けなくなるだけだよとネムは言いたかった。


「賢明な判断だ。さすがは伯爵家の魔法使いといったところか」


 もちろん偽装機能はそんなネムの考えの斜め上に台詞を創造する。もう創造で良いだろう。


「ふん、ならば見せてやろう、伯爵家の筆頭魔法使いの力をな」


 こはァァ、と世紀末救世主伝説的呼吸を始めるジーライ。ビビるネム。余裕そうにその様子を泰然と見るマイラちゃん。腕を組んだりなんかしちゃいます。


氷凍体付与エンチャントフリージング


 チラチラと粉雪がジーライの体から生み出されて、あたりの空気がひんやりとしてくる。こぉぉと息を吐き、再び息を吸うと、筋肉マッチョは氷のエンチャントがかかり、青いマッチョに変わった。青白そうで不健康そうだ。


「受けよ、儂の魔法を! 『凍波フリージングブラスト』」


 ジーライは氷系統の威力を上げて、炎魔法の威力を減衰、炎、氷耐性を付けるエンチャントを使う。


 氷系統の魔法を得意とするジーライのスタイルである。


 杖の先からかき氷のような氷が噴き出されて、女へと向かう。昔ながらの薄く削れたふわふわなかき氷に見えて、その温度は周囲を一瞬のうちに白く凍らせてゆくことから、恐ろしい威力があるとわかる。


 膨大なかき氷はマイラちゃんに命中し、食べきれないよ、せめてシロップ下さいと、ワプワプとかき氷に埋もれて苦しむ。


氷結刃フリージングエッジ


 動きを止めちゃうマイラちゃんに、ジーライは容赦なく氷の刃を叩き込んでくる。三日月状の氷の刃がマイラちゃんに斬り裂こうと迫り、ビシビシと命中してくる。


 斬られるごとになんだかキグルミが動きにくくなっていると気づく。見るとマイラちゃんのキグルミの各所がカチコチに凍り始めていた。これはやばいと焦るネム。キグルミの唯一の弱点、拘束系の攻撃に偶然だろうが弱いところを突かれている。唯一の弱点とネムは思っているが、本当の弱点はおっさんの知力なのは全会一致で紳士たちなら賛成するに違いない。


「そのような攻撃が効くとでも?」(凍っちゃうので、やめてくれないです? 夏にその魔法を使ってくれませんか?)


 ザクザク切り裂かれて凍っていくマイラちゃん。だが、偽装システムはビクともしていないように見せかけている。恐ろしい機能である。どんなにボロボロになっても、平気に見せかける拷問のような偽装である。


 しかし、このままだと完全に凍りつく。その場合、冷凍幼女が見つかって、恐ろしい悪魔のような幼女だと、地下に封印されちゃうかもしれない。


 ジーライには悪いが、動きを止めるしかないねと、再びマイラちゃんの腕を巨腕に変えるのであった。


 ジーライは、女への攻撃が効かない様子に眉を顰める。連続で命中したにもかかわらず膨大な『ひっとぽいんと』を持っているのだろう。


凍波フリージングブラスト


 再び氷の息吹を作り出す魔法を放つが、女は怪腕へと腕を変えて、息吹をその拳で吹き飛ばし、さらにジーライへと叩きつけようとしてくる。


「むんっ!」


 怪腕を杖を叩きつけて軌道を変える。杖を持つ手がビリビリと震える。


「やるではないか。ジーサン。冬が来たかと思ったぞ? 今度はこちらの番だ。『冥き封印球くろごまとうふぼーる』」


 怪腕を人間の手に戻して、手を翳し魔法を使う女。漆黒の球体がいくつも生まれる。その冥き姿は命中したら即死すると感じさせる姿だ。


「そらそらそら」


 クイッと女が手を動かすと、黒き球体が飛んでくる。絶対命中系統でないことに安堵しつつ、手前に杖をひと振りする。


氷障壁フリージングウォール


 自身の眼前に氷の壁が生まれ、漆黒の球体を防ぐ。球体は恐らくは人間の生命を停止させるだけで、物理的な攻撃力はないのか、壁に当たるとペシャリと音を立てて消えていく。


 だが、ジーライは油断はしなかった。次の敵の攻撃が予想がつくために。後ろへと大きく退く。

 

 すぐに氷の壁を怪腕が掴んできて打ち壊す。砕けた氷の破片が辺りに飛び散る中で、ジーライは杖に魔力を籠め始める。


「残念ながら、貴様には打つ手がない。私の膨大な『ひっとぽいんと』の前に、逃げるのみだろう? 見逃してやるぞ、ジーサン」(とっても怖いマイラちゃんなんで、逃げてくれないですかね?)


「そうは行かぬ。貴様に魔法の使い方を教授してやるわ」


水創造クリエイトウォーター


 杖の先から通路を埋めるほどの莫大な水が生み出されて、女へと向かう。本来はコップ一杯の水を作る魔法のアレンジバージョンだ。津波のような水は女を押し流そうとするが数秒だけの大水だ。多少後退させるだけでビクともしなかった。だが、予想通りであり、これから使う魔法の下準備であったのだが……。


「ぎゃァァァ」


 なぜか女は苦しみ始めて頭を抱える。


「ぬ? 水が弱点なのか? ぐおっ」


 なぜか苦しみ始めた女の不可解な様子に驚くが、女が突如として身体を膨れ上がらせて、めちゃくちゃに腕を振るい始めて、その腕にかすり吹き飛ばされ床を転がる。


「ぬうっ! それが貴様の正体か!」


 慌てて立ち上がり女を見ると、唖然とする光景となっていた。


 膨れ上がったその姿は黒き鱗の禍々しい空気を纏う竜であった。普通の竜とは違い5メートル程の全長の大きさだが、紅き目が爛々と輝き、こちらを憎々しげに睨むその姿は普通の竜よりも図体は小さいが強大だと感じさせる。


「よくもやってくれたな! ジーサン! 私にこの姿をとらせたこと。この借りは必ず返すぞ!」


 ばさりと蝙蝠のような翼を広げると、カッと閃光を奔らせる。その強烈な眩しさに体をよろけさせて意識を朦朧とさせ、致命的な隙を作り出したと、焦りを覚える。


 が、なんとか意識を正常に戻した時。黒竜の姿はどこにも見えなかった。周囲はシンとしており、あれだけの巨体はどこにも見えなかった。


「ぬぅ……大量の水が弱点なのか? 今の発光は『空間転移テレポート』の光であったか……」


 とりあえずは敵は逃げたらしいと、ジーライは騎士たちを助けに戻るのであった。




「ギャー! 髪とお服が濡れちゃいました! さぶいです」


 身体がびしょ濡れ、髪も服もビッチャビッチャ。幼女寒いです。


 水浸しになっちゃったと焦って、隠しモードの黒胡麻豆腐竜へと変身したネム。どうでも良いところで、隠しモードを使う残念幼女である。


「閃光グレネードは宝石ひとつね」


 階下がうるさいので助けに来てくれた静香が、閃光グレネードの費用を請求してくる。


「高いですよ! それにお服を乾かさないと!」


 最悪だよと助けに来てくれたボッタクリの宝石幼女に一応感謝をしつつ、おねしょと思われたら、中の人の精神ダメージが大きいよと、自室にてってけ急いで帰るキグルミ幼女であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんでジーサン連呼してるのかと思ったらイーサンとかけてるのか。
[一言] ジーライの奥の手とは一体何だったんでしょうか。 幼女には前段階で既に効果抜群過ぎたようですが。 つか幼女ポンコツ過ぎる(´ω`)
[一言] なんか見覚えあるなと思ったらまんま8で笑う
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ