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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
1章 水の世界のキグルミ幼女

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25話 艦長の真実を聞くキグルミ幼女

 爆発した衝撃波でネムは床に叩きつけられてリヴァイアちゃんを解除した。もう静香のエネルギーも限界であったのだ。水竜体当たり改にて、エネルギーを使いすぎたとも言う。


 サークレットはピカリと光り、宝石幼女へと姿を変える。


「ふぅ、危険はなくなったみちゃいね」


 疲れているのだろう、静香は舌足らずな口調で髪をかきあげて、ふふっと妖しく笑う。幼女なのに妖しい静香である。


「次のボスとかないですよね?」


 もうお腹いっぱいですと、ネムも服の埃をはたきながら立ち上がった。さすがに疲れた幼女である。アホみたいなエネルギーを持っていても、精神は疲れるのだ。特におっさんの精神は疲れやすいので、幼女と交替したら良いと思います。


 若々しい魂が必要だから燃え尽きてくれと願われるかもしれないおっさん幼女は、ふぃーとその可愛らしい顔を挙動不審にキョロキョロとさせる。


 なんかフラグをたてたかもと、気になったのだ。真面目に疲れちゃったのでこれ以上は戦いたくないのだ。幼女はもうお昼寝のお時間なのである。


 だが、幼女の願いは見事に裏切られた。恐らくは運命の神様はおっさん幼女は眼中に入れていないのだろう。ネムたちが入ってきた隔壁、ボス戦時に閉まった隔壁がゆっくりと開いていったのだ。


 これはもういったん帰ってセーブしてから再開かなと、ゲームと現実をごっちゃにしているネムは次元転移の指輪を使おうか逡巡する。帰ったらボス戦からじゃないだろうなと警戒してもいた。ツミキンと再度戦うのは嫌なのであるからして。


 隔壁が開きつつある中で、一人の人間が立っていたことに気づく。


「この馬鹿げたゲームを終わらせてくれてありがとう、別次元の人間たちよ」


 渋い男性の声音で言う相手は……。


 穏やかに微笑みを浮かべる浅田艦長であった。





「ゲームとはどういうことでちゅか? わたちだまされりゅのは嫌いなにょ」


 だいぶ力を使ったのか、幼女語で宝石幼女が浅田艦長を睨む。どうやら、俺たちは騙されたらしいとネムも近接専用のキグルミを装着する。即ちTOUFUである。しかもコックピットに乗り込むのではなく、小さな体躯で着込めるリヴァイアちゃんと同じタイプ。ようやくキグルミ創造に慣れてきたのだ。慣れなくてよかったかもしれない。


 豆腐が現れたにもかかわらず、浅田艦長は穏やかな表情を崩さずに語り始める。この間も思ったけど、この人はスルースキル高すぎではなかろうか。


「さて長い話になるが、ご静聴願えるかな?」


「嫌です。とりあえずボスを倒したんですから、クリア報酬のアイテムください。携帯ゲーム機の約束ですよね?」


 ちっこいおててを突き出して、浅田艦長の話は断るネム。長い話はノーサンキュー、眠たくなるに決まっている。


「始まりは馬鹿げた考えだった。遥かな昔、この星の住人は思った。この惑星に人類は多すぎないかと。汚染が激しすぎると。人が住めなくなる未来が迫っていた。そのためにある作戦を考えついたのだ」


「あの、話を聞いています? そういうのいらないんですが」


「この青い惑星を守る必要があると。そのためにいったんリセットをすることにした。その名はスキップ計画と言う」


 ネムの言葉をガン無視して話を続ける浅田艦長。幼女がねぇねぇとウルウルオメメで見つめても、その話をやめることはない。この人は俺たちが見えているのかな?


「スキップ計画って、なんなのかちら?」


 いまいちその計画名からは、どんな計画かわからないので、静香が疑問に思う。


「汚染度が高い惑星を水で覆い、しばらく放置して惑星環境を回復させる。人類は大規模な宇宙艦隊に乗り込み、停滞障壁ステイシスフィールドにて眠りにつき、光速に近い速度でこの星系を一周ほどする。ウラシマ効果により、放置された惑星は数万年経過しており、環境は回復している。即ちシム系ゲームで、何もせずに年月だけをスキップして資金や資源を溢れるほどに手に入れる、それを真似したためにスキップ計画という」


「あの、ゲームをなんで参考に? 作戦名が壮大な作戦の割にしょぼいんですが」


 俺もやったことあるよ、それ。数万年スキップさせて、資源たっぷりにしてからシムな惑星作りをしたんだよ!


「当時の人間たちは、ノア計画とスキップ計画どちらにしようか迷ったが、ノア計画だとありふれているから無しだと思ったらしい」


「ありふれた名前は良いものですよ? それだけ使われている名前なんですし。というか裏技っぽい作戦名になってます!」


 ふ、と渋く笑う艦長だけど、かっこよくないからね? 昔の人類はアホなの? アホだよねと呆れちゃう。


「なりゅほど。作戦名はともかくとして、内容は合理的よ。何万年も旅をしたら、宇宙船は傷むし、人々は過去の話を忘れる。でもウラシマ効果を使えば宇宙船は短期間しか稼働しないし、人々もほんの一年かそこら寝るだけ。宇宙船の管理人が残っていても一年程度なら暴走しないでしょうしね」


 よく映画とかであった冷凍睡眠をしている植民用宇宙船で唯一動いている人だか、コンピューターが長い年月を経過して暴走する。それもたった一年なら発生しないだろう。たしかに合理的なアイデアだと言える。


「あぁ、それにわざわざ植民できる惑星を探す必要もないですもんね。ん? なら、なんで皆は植民惑星だと思っているんですか? どこで話がずれたんですか?」


 元々住んでいた惑星に戻るだけだ。なのに、なんで惑星を旅したとかいう話になってるの?


「この話は古代の生き残りに歪められたのだ。なにもかも」


 嘆息をする浅田艦長は悲しげな声音で呟くように言う。


「惑星の環境が回復しても、再び多数の人類が惑星に降り立ったら、汚染が始まると考えて……。惑星前で戦争を、各国家間にて行ったのだ。その結果大部分の人類は滅び……富士山麓にあるこのテラフォーミングセンターに入ることもできなくなった。管理していた艦が失われたために」


「……それでも、話は伝わっていないとおかしいわ。なぜ全然別の惑星に旅したことになってるの? 誰が歪めたのかしら? 私、犯人がわかったような気がするわ」


「私もわかりましたよ。犯人は換金屋の親父ですね。まったく接点がないキャラが犯人。推理小説でそんな話をたくさん読んだことがあるんです」


 推理ではなく、超能力的直感が必要な真実が必要なんだよと小柄な体躯をフンスと反らして犯人を決めつけるおっさん幼女である。そこに論理的推理はもちろんない。


「ネム。やけに古代のことに詳しい戦艦の住民がいたでしょ? 今の歪められた話を先祖から連綿と伝えてきた」


「あぁ、犯人はもしかして艦長?」


 静香のヒントにポンと手を打つ。そういや、古代のことに詳しすぎて変だなぁと思ったや。コロニー艦を浮上させると伝えていて、渚はそれを信じていた。なのに、なんで艦長は真実を知っているの?


「そのとおりだ、ストレンジャー。もはや攻略不可能とも考えていたが、まさか生身でこの軍事施設のセキュリティをすべて破壊するとは恐れ入る。私が犯人だ。この話を歪めた、な」


 そう答えてニヤリと笑う浅田艦長の姿がぼやけて、変わっていく。変わった姿にネムたちは僅かに眉を潜める。


「私は人類を守護する機械。浅田1式。かつて宇宙艦隊の管理を行っていたものだ」


 そこには浅田2式とまったく同じ姿のアンドロイドが立っていた。


「古代から延々と稼働していたわけね。ずっと茶番をしてきたのね? それだけの期間があれば歴史の修正なんて簡単よね? コロニー艦を復活させる崇高な目的を掲げて世界を旅していれば、植民の旅をしてきたと、惑星の名前すらも偽物にされても誰も気づくことはなくなるわ」


「そのとおりだ。人類を殲滅させた子孫などと負の遺産は現在の人類にはマイナスでしかないと判断した。そのために偽の伝説を徐々に広げていった。今では私が作った話が真実となった」


「バトルですか? ちょっとくたびれたから帰って良いですか?セーブしたいんですけど?」


 常にシリアルにするネムの言葉は真面目な浅田1式と静香には届かない。なるほどスルーできたのはアンドロイドだったからかと、今更ながらにネムは気づく。


「私が戦っても勝てないだろうし、目的は達成された」


 浅田1式の言葉に合わせるように、ゴゴゴと床が大きく揺れてネムはペシャリと豆腐を倒し、静香もよろけてしまう。床に切れ目が入り開き始めたのだ。


 中には何やら機械を取り付けた巨大な水晶が見えた。その水晶がリンリンと鳴りながら浮かんでくる。


「これはかつてスキップ計画の前に作られたテラフォーミング用ミサイル。トラクタービームにより水を集めて火星に撃ち込むという人工彗星装置だ」


 あわわわと水晶の上に乗り、どんどん上昇していくのに焦る。見ると海の水が空へと浮かびこちらへと向かってきていた。


「このミサイルの力は最大にしてある。この惑星……地球を埋め尽くしている海水を適度に吸収して火星に向かうだろう。この惑星は救われた」


「え、携帯ゲーム機の約束は?」


 世界を救ってありがとうと言われて、携帯ゲーム機を欲しがる空気を読まないキグルミ幼女。


「違うわよっ! 宝石の約束は?」


 世界を救ってありがとうと言われて、宝石を欲しがる空気を読まない宝石幼女。


 二人の言葉は合わさって、話が違うじゃないかとプンスコ起こる。48の幼女技の一つ、約束じだ〜とギャン泣きする奥義を見せちゃうぞ。


「君が求めていた携帯ゲーム機とはこれのことだろう」


 浅田1式は肩に取り付けられていた腕輪みたいな物を放り投げてくるので、わんわんっと飛びつく警戒心ゼロの幼女。なにかな、これ? どんなゲームが入っているのかな? 落ちゲーでもこの際良いよ。


 こねくり回して嬉しそうに眺めるネムに浅田1式はその性能を教えてくれる。


「それはホログラムだ。自身の姿を偽れる。先程の私のようにね。単純なホログラムではなく、声音も変わり、傷を受けたと判断したらその部分は血が出たように変わるし、風などの影響も受けているように見える偽装の腕輪だな」


「え? 携帯ゲーム……これ、携帯ゲームって言えるのかなぁ?」


 広義的解釈では携帯ゲーム? とコテンと首を傾げてしまい微妙に思うけど、楽しそうだし良いかと納得する。豆腐と合わせれば面白いことができるかもしれない。


「あたちのは? あたちのはっ? 宝石は?」


 静香が興奮して身を乗り出して叫ぶ。ギラギラとした獣のような目つきである。


「もちろん用意してある。このミサイルの中心核は巨大なダイアモンドだ。水を集めて火星に撃ち込まれれば、君程度の大きさのダイアモンドが残るだろう」


「それって、火星まで付き合えってこと? 詐欺よっ!」


「私も一人で火星まで向かうのは寂しくてね。一緒に来てくれると嬉しい」


 きちゃーと宝石幼女が手をぶんぶん振って抗議する。だが肩をすくめて浅田1式は飄々と恐ろしい返しをしてきた。このロボット、火星までミサイルに乗って飛んでいく気なのだろうか。たぶん飛んでいくつもりなのだろう。


 ならばネムの言うことはただ一つ。


「さようなら静香さん、短い間でしたけど、楽しかったです。またいつか旅をしましょう」


 悲しげに静香へと別れを告げる一択である。ダイアモンドを手に入れるためについていくんたよね?


「ぐぬぬ」


 本当にぐぬぬと口にして悔しそうに唸る静香。唸っている間も水晶には水が集まってきて、どんどんと上昇していく。


 ちゃららーらららーらーと、脳内で崩壊した天空の城を思い浮かべながらネムは待つが、地団駄をぺしぺしと踏むと静香は決断した。


「まだ見ぬ宝石と黄金の世界があるかもしれないわ! ここは退却よ!」


「あらほらちゃっちゃっ〜」


 クスリと笑うと茶化すように答えながらネムは次元転移の指輪を使い、幼女たちは元の世界へと帰還する。


 光が辺りを照らし、幼女たちがその場から消えたことを確認して、浅田1式は嬉しそうに呟く。


「ありがとう、ネム、静香。これでも私はとても感謝をしているんだ」


 そういうと、上昇する水晶の上を歩いていく。


 そうして、浅田1式も姿を消し……


 世界には大地が再び戻ったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 単純なSFかと思ったら一捻りが加えられててこっちも凄く面白い!
[一言] やはり艦長には秘密がよく似合う… ところで渚さんはまた出てくるんでしょうか。 やはり猫娘は必須ですよ!
[良い点] 浅田艦長、幼女はいいように使われましたが、個人的には嫌いではないですね。一応、ゲーム機?もくれましたしw 役目を終えて溶鉱炉に沈んだター○ネーターのような悲哀を感じました(´-ω-`) …
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