24話 キグルミ幼女と宝石幼女
停滞障壁は生命体の対象の動きを完全に停止させたと、拠点防衛機動兵器浅田3式は判断した。未知の生命体であるが、その攻撃は今までの戦闘で解析。如何なる攻撃も効かないと思われたが、浅田2式の連続攻撃にて動きを一時的に止められたことから、継続的な攻撃に弱い、もしくは動きを止められる攻撃に弱いと判断したのだ。
その判断は正しく、敵の動きはピタリと停止して動く様子はない。捕獲用停滞障壁搭載ミサイルの効果はあった模様。
脅威がなくなったと判断した浅田3式はこれからどうするか思考する。この生命体は野放しにできない。あまりにも危険な生命体であるからだ。レーザー兵器は効かず、ミサイルやレールガンも効かない。このまま停止させておく他ないが、捕獲用の停滞障壁は一日程度しかその効果は保たない。
大型の停滞障壁搭載のコンテナを運び込み、仕舞っておくしかないだろうと、コンテナを呼び寄せようと決めたが
バシン
停滞障壁を発生させていたミサイルがすべて弾けるように紫電が奔り、その稼働を停止させるのを見て、再び戦闘態勢に戻る。
敵の熱源が先程のまるで人間と同じような熱から大幅に向上したことを解析しレールガンを向ける。
4本の棒を組み合わせたような電磁砲はその狭間に磁界を作り、電磁砲弾を叩き込む。生命体にはダメージは与えられないが、その装備する武装は砕くことができると、これまでの戦闘で判明している。レーザーは与えるダメージが極小のために、支援のみとして、爆発系統の効果範囲の大きい武器にて連続的に攻撃し、動きを止めようとする。
生命体のいる場所が吹き飛び、極めて硬度の高い合金製の金属の床が捲れ上がり、噴煙が周囲に発生する。
だが、熱源の大きさは変わらずに、噴煙からその姿を生命体は現した。背中についたウイングタイプのスラスターから白きエネルギーを噴出して空を飛ぶ。
敵の飛行能力を奪うために発射されたレーザーは光速でスラスターへと向かう。だが、レーザー攻撃は生命体を覆うように展開された半透明の白きバリアに阻まれてしまう。
「無駄です。新リヴァイアちゃんの空中機動。巨人も倒せる特効能力を見せてあげます」
鈴のなるような可愛らしい声音で、コロコロと笑いながら生命体は周囲を飛行して、浅田3式は敵の武装が変化したと、再度の攻撃に入るのであった。
リヴァイアちゃんの背中に取り付けられたスラスターを噴かせて、横にロールをしながら迫るミサイルを回避していく。レーザーは回避できないが、身体の周りに展開されたエネルギーフィールドがすべてシャットダウンしていく。
「ふふふ。これが真のリヴァイアちゃん!」
ネムはバイザーをつけた顔でクフフと幼い愛らしい微笑みを見せる。バイザー越しに映るモニターには敵の位置、回避すべき攻撃、シールドの残りエネルギーなどが表示されている。
「ねぇ、ネム? 私のイメージを受け取ったのに、パワードスーツじゃなくて、キグルミに装備が追加されているのはなぜなのかしら?」
静香の言葉に迫るミサイルに、リヴァイアちゃんのお口を開いてエネルギーブレスの薙ぎ払いにて迎撃をしながら答える。
「だって複雑すぎたんです。ボルト一本からプログラムまでイメージはわかりましたけど、面倒くさい、いえ、リヴァイアちゃんに追加した方が早かったんです。それに使用料として宝石を入れないといけないシステムでしたし」
ネムは爆発するミサイル群の中を突き進み、爆煙に姿を隠しながら敵の様子を確認する。
「それが一番大事なシステムだったのよ! 私はイメージするだけとはいえ、かなりの力を消耗しているんだから、タダとはいかないでしょう?」
「いつもかっぱいでいるじゃないですか。コンビ戦闘はタダでお願いします」
「……仕方ないわね、さっさと終わらすわよ」
渋々ながらも同意した静香に頷いて、斜めにロールしながら煙の中を出る。
真のリヴァイアちゃん。キグルミに装甲が取り付けてあるのだ。背中にはウイングタイプのバーニア。ヒレの付け根にスラスターを、胸にはエネルギーフィールド発生装置。肩には弾丸選択式ショルダーキャノンに、リヴァイアちゃんの頭には小型レーダー、そしてキグルミからちょこんと覗く可愛らしい幼女は顔にバイザーをつけておりダイヤモンドをあしらったサークレットを被っている。
静香の脳波感応サークレットの力により、本来は静香が創造するパワードスーツの設計図を受信。イメージを静香が固定、補完をして、余計なイメージを隠し味だよとネムが追加したのが、このリヴァイアちゃんだ。
メカニカルリヴァイアちゃん。その力は未来的な戦闘機と同等の力を持っている、とネムは勝手にイメージしていた。ボルトの一本から、プログラム、エネルギー展開などなど、集中してもおっさんには不可能な思考を、静香が補正してくれるために完成したコンビキグルミである。静香は本来、パワードスーツをイメージしたのだが。
常に碌なことをしないおっさん幼女であるので、かっこいいから可愛いに戦闘スタイルが変わりました。
「エネルギーフィールドは停滞障壁を含めて敵のエネルギー系統の攻撃を防ぐけど、実体弾に対しては効果が薄いから注意してよ。それと電子破壊の咆哮……ねぇ、私はそういうふうにイメージしてないんだけど?」
「かっこいいじゃないですか、咆哮すると機械が壊れちゃうのって。こう、ぎゃおーんって」
つぶらな瞳のリヴァイアちゃんがキグルミのお口をパクパクさせる。かっこいいところは欠片も見えない。
「貴女に関わるとこれからも大変なことは理解したわ。これで負けたら報酬は10割私にするからね」
「負けることはたぶんないから大丈夫ですよ」
さらにスラスターを噴かせて加速をしていく。
ぐんぐんと敵機へと近づく。音速の衝撃波はエネルギーフィールドに吸収され、まるで羽根が舞うように空中機動を行うリヴァイアちゃん。
「敵は要塞防衛兵器、ツミキンとネーミングしたわ。玩具みたいに角ばった戦車モドキだしね。レーザーは効かないけど、レールガンとミサイルは脅威よ。真リヴァイアちゃんは一度破壊されたら、私の力が尽きるの。そうしたら再生不可だから頭に入れておきなさい」
あまり良いネーミングではない静香のセリフである。
「連コインは不可ですね。了解しました!」
返事だけは良いキグルミ幼女は、敵のレールガンがこちらを向き、ロックされましたと警告されるので、横滑りする。電磁砲弾が紫電を発しながら、その横を次々と通り過ぎていく。
「敵の停滞障壁をまず破りましょう。解析は終了しているわ」
ピピッとモニターが変わり、敵の停滞障壁を発生させている装置がどこにあるかを表示させてくれる。解析したらしい。
「機械ならなんとかなるのよ私。金庫はなぜか解析できないのに」
不満げに言う静香だが、きっと文字通りに欲に目が眩んでいるからでしょと思いながらも、モニターに映る自身のステータスからショルダーキャノンを思考で選択。対実体バリア破壊用と補足されている流体エネルギー弾をキャノンに搭載させる。
ガチョンと背中から弾丸が搭載された音がして、準備OKと表示が出る。
「流体エネルギー弾はバリアに命中すると金属が溶解してエネルギー弾へと切り替わるの。その威力はお墨付きね」
もはやサポートキャラのような発言をする静香に頷いて、攻勢に出ることにしたネム。
迫りくるネムを迎撃せんと嵐のような敵の砲撃をくるくると木の葉が舞うように寸前で回避しながら、敵をロックする。
「狙い撃っちゃいます!」
キャノンから、轟音と共に流体エネルギー弾が発射される。空気を切り裂き高速でツミキンへと命中する。停滞障壁が弾丸を止めようとするが、金属の弾丸は煌めく高熱のエネルギーへと変化して、シールドを貫く。
そのままツミキンの肩付近に命中して、装甲を抉り爆発した。その途端にツミキンを守っていた障壁が消える。
「ヒット! やりました」
シールドが破壊されても怯まずに敵はミサイルを発射させる。シュバッと肩のミサイルポッドからミサイル群が煙を吐きながら空中に飛んでいき放物線を描くと、バラバラになり小型ミサイルが現れる。
「面制圧を仕掛けてきましたか。ですが、リヴァイアちゃんの空中機動は半端ないですよ!」
頭上を埋め尽くすミサイル群にあえてネムは飛び込む。
『電子破壊息吹』
リヴァイアちゃんの口が開き、ウイーンと口内からパラボラアンテナみたいな機械が展開すると、辺りに振動を巻き起こす。ミサイル群がその振動を受けると次々と爆発していき、空は煙で覆われる。
リヴァイアちゃん、電子系統の兵器を破壊する特殊ブレスである。電磁パルスを発生させるブレス……という訳ではない。電気を使わない兵器があることを考慮した静香の兵器。エネルギー振動装置だ。僅かに敵の機械を一瞬だけ狂わす超兵器。兵器はすぐに復旧するが、ミサイルなどはその一瞬で誤爆してしまうのである。
煙の中に突撃して旋回すると、背面からロールしてふわりとホバリングする。
「チャンス到来! 今必殺のー、ととっ」
横を砲弾が通り過ぎるので決め台詞終了。現実はうまくいかないねとがっかりしながら、リヴァイアちゃんのエネルギーフィールドの出力を限界を超えてあげていく。
蒼のオーラがリヴァイアちゃんを包みこみ、エネルギーの塊へと変える。そのエネルギーの余波で空間は歪み、熱を持つ。
『水竜体当たり改!』
必殺技の残念極まるネーミングを見せながら、まるで蒼き炎を纏うフェニックスのようになったリヴァイアちゃんはツミキンへと降下する。
ゴウッと蒼きエネルギーを振りまきながらツミキンへと接近する。ツミキンも迎撃するべくレーザーやレールガンを発射するが、その攻撃は悉く蒼きエネルギーに阻まれて消えていく。
加速した蒼きフェニックスはツミキンの懐に入ると、重厚な装甲へと激突する。
僅かに軋む音がして拮抗したが、次の瞬間にはあっさりと重厚な装甲を破壊し、そのまま胸の水晶を打ち砕き、胴体を貫くのであった。
「やりました! 真のリヴァイアちゃんの勝利です!」
やったねと喜びの声をあげるネムの後方で、蒼きエネルギーに体内を蹂躙されたツミキンは火花を散らし大爆発を起こす。
その衝撃波は強烈で、フェニックスモードを解除したリヴァイアちゃんを吹き飛ばし、床へと叩きつけられてコロコロと転がってしまう。
うぅと呻きリヴァイアちゃんを解除しちゃう、いまいち決まらないキグルミ幼女であった。




