23話 防衛兵器はロマンの塊なキグルミ幼女
浅田2式。ボカンの真の名前らしい。ひしゃげて潰れて、もはやピクリとも動かないが。あれ程の戦闘力を持った敵ではあるが、防御はそこまで硬くなかった模様。
なお、硬くなかった基準はネム基準なのでほとんどの敵は硬くないと思う可能性あり。
「テンプレですけど、浅田艦長はこの施設を作った人の子孫だったんですね」
うんうん、テンプレだよね、先祖代々からのコロニー艦復活。それを目指して子孫は頑張っていた。泣ける話だよ。
わかっているよとネムはドヤ顔で言う。もはや驚くことはない。体は幼女、頭脳も幼女、背後霊はおっさんのネムなので、簡単に推測できちゃうのだ。
「……そうかしら? なにか引っかかるのよね。たしかにネムの言うとおりであるとは思うのだけど……。ねぇ、ここまで来る間に疑問に思ったことはない?」
「特にありません」
脊髄反射で答えるネム。前世も会議の中で意見を求められても、即答えることができるおっさんだったのだ。特にありません、何という良いセリフだろうか。皆で言えば怖くないの精神で、特に意見は言わない会社員だったのだ。
元駄目社員の姿を見せるネムの発言に期待していなかったのか、サークレットはカタカタ震えて話を続けてくる。
「入口は隠されてもいなかったし、内部は搬入口みたいに広かったわよね? でも荷物が置かれているのを見た? それに通路は一本道で、途中にドアすらないっておかしくないかしら? 罠しかなかったのよ?」
興味深い発言だねと、ようやくネムも本気で考えることにして、リヴァイアちゃんのヒレをフリフリしながら考える。
「ここはコンテナ通路だったのでは? コンテナだけが通る通路だったら、ドアがない理由、搬入口に荷物がなかった理由になります」
何かしらのシステムで、コンテナだけを通す荷物運搬路。人が通るための通路ではないためにこういった作りになっているのではなかろうか?
いい線いっているんじゃないかと、むふふと可愛く微笑むキグルミ幼女に、う〜んと、静香は唸る。
「セキュリティ通路だって聞いていたのよ。奥のセキュリティシステムの解除方法も聞いているけど……なんとなく気に入らない流れだわ」
「先に進めばわかりますよ。レッツゴーです!」
考えてもわからないことは、わかるまで放置しておくスタイルのネムに、それもそうねと静香も同意してぺったらぺったら歩き出す。
「それと、貴女の弱点もわかったわ」
「世界一可愛らしい幼女というところですか?」
可愛らしいって、罪ですねとくねくねと身体を揺らして照れるネム。見た目は可愛らしいのだ。見た目は。中身が最悪なだけで。
「貴女の弱点。精神攻撃かと考えていたけど、精神構造がそもそも人間と違うのか効果ないし。でもひ弱な幼女なのは確かなのね。きっと動きを止めるような継続的ダメージを与えてくる武器か、動きを止める超能力系統にひ弱よ。あっさりと封印されそうなのよね」
スルースキルが上がってきた静香はネムの話をスルーしてきた。
「なにか気になることをサラッと流しましたね。もしかしてこのサークレットって灰色の魔女製なんですか? 体を乗っ取る系統だったんですね!」
スルーできない発言を聞き咎める。騙しましたね、コンニャローと、何も聞かずに頭につけたにもかかわらず、怒りながら慌ててネムはサークレットを外そうとすると、スポンとあっさりと外れたので拍子抜けしちゃう。
「あれ? 洗脳リングじゃなかったんですか?」
「これは脳波感応サークレットね。弱い精神の者なら操れることもあるけど疲れるからやらないわ。でも万一の時のために支配できるか試したのに、人間の精神構造と違うみたいで弾かれたのよね。脳波感応はできるみたいだけど。こんなふうに」
ふわりとネムの目の前に妖艶な女性が現れて驚く。誰この美人さん? 妖しい美女さんだけど。あと、半透明だ。
ポニーテールの黒髪美女だ。なんとなく女スパイ感を見せる女性である。
「私のイメージは伝えることができるみたいね。これは私の本来の姿よ。力を失う前の姿ね」
「へー。なんか成金みたいな感じですね」
ホログラムみたいなものかと納得するが、静香の本来の姿はすべての指に指輪をつけて、金銀ネックレスは当たり前にジャラジャラと首が見えないほどかけており、黄金の毛皮のローブを着ていた。中トロより酷い姿だ。
「趣味よ。力を使うから消すわよ。で、話を戻すわ」
「精神構造が違うところが気になるんですが? 私って人間と精神構造違うんですか?」
半エネルギーエイリアン生命体と判明したネムである。きっとおっさんの思考が普通ではないのだろう。エイリアンバスターが必要です。
「それはどうでも良いわ。このアンドロイドとの戦い。相手が弱かったから良かったけど、永遠に敵を封じるプラズマプリズンとかなら、貴女は封印が解かれるまでそのままよ?」
「私の精神構造のことはどうでも良くないですけど、たしかに生み出す端からプラズマで焼かれたら焼き豆腐だらけになっちゃいますね」
封印されし可憐な幼女は良いけど、周りに焦げた豆腐が転がっていたら、通りすがった主人公は怪しんでスルーしちゃうかも。
生み出す物が豆腐な時点でしょうもないが、そこは気にしないネムである。主人公も封印から解いた幼女が豆腐を生み出す力しか持っていないとわかればがっかりするだろう。
まぁ、すぐにプラズマを打ち破る物質を作れば良い話だが、アタミワンダーランドで、蝋程度にやられて意識を失ったことをネムは思い出す。瞬間的火力にはこの身体は滅法強いが、たしかに延々と攻撃されるとやばいかも。
「……気をつけないといけないですね」
幼女反省。コンクリ詰めにされても、異物は排除できるが、延々とコンクリートを流し込まれたら排除が間に合わないと気づいたのだ。
「そうね、強敵には気をつけた方が良いわ。と、言う訳で私の提案を聞く気はない?」
「なにか嫌な予感がしますが、一応聞きます。なんですか?」
妖しい勧誘のような静香の話しぶりに、能天気なネムもさすがに身構えつつ、提案を聞くのであった。
気をつけようと決意して、明日にはその決意を忘れる可能性のあるネムは、ようやく次の隔壁に辿り着いた。幼女の足で、しかもリヴァイアちゃんのヒレだと地上を歩くのは大変なんだよと、脱げばよいのに脱ぐことを思いつかなかったネムはプンプン怒りながら隔壁を観察する。
幼女の身長の数十倍の高さだ。ちらりと後ろを見ると高さ6メートルぐらいの通路。幅だって6メートルぐらい。
顔を戻して隔壁を見る。この隔壁前の空間だけ、やけに広い。高さ30メートルはある。
「到着したコンテナを積むために、こんな広くとられているんでしょうね」
たぶんそう、聞いた話だとこの先を越えるとセキュリティルームだ。今更ながら部屋の配置おかしくない? と首を傾げてしまうが、戻るのも面倒くさいので進む一択である。
過去ゲームで何回もそれでセーブする前にボスにやられて、またやり直す羽目になった経験を活かすネム。全く反省をせずに静香へとお願いする。
「秘密道具の出番ね」
ポフと手元に未来チックなアタミワンダーランドで脱出に使ったクラッキングガンが現れる。パシッと手に持つと、不思議なことに狙う場所が光っていた。
これはたしかに凄い。ゲームみたいだ。後ろから黒コートの巨人が追いかけてこないだろうな。
一応後ろを向いて、誰も来ないことを確認して引き金を引く。光っている場所を狙うと円グラフがウィーンと動いて、満タンになるとゴガンと隔壁が開き始めた。
「この銃って信じ難い性能ですね。どんなメカにも効くんですか?」
「無理ね。これはドアや発電機、ファンを破壊できるだけ。ロボットとかには効かないわ」
「それは残念です。本当に」
隔壁の開いた先には巨大な戦車モドキのロボットがいたのだ。
実に強そうである。ここって本当に搬入路なの?
無限軌道のキャタピラ、上半身は両手とも2連装砲。肩にはミサイルランチャー、胸には水晶が弱点ですみたいな感じで備え付けられている。そして下半身の戦車部分には4本の棒を組み合わせたような戦車砲が2門、レーザー機銃が隙間を埋め尽くすように取り付けられている。頭の目の部分はバイザーとなっていた。
全長10メートル程度、戦車に上半身ロボットを取り付けたような機動兵器だ。
「なんですかあれ? 大きな戦車ですか? それにここは広すぎます」
たらりと冷や汗をかいて、部屋を見渡す。天井は50メートルは高さがあり、広さは壁が見えないほどだ。なにここ? 戦闘ロボの実験場?
わかるのはセキュリティルームではない。そして幼女が迷い込んで良い場所でもないということだ。
「くるわよ!」
珍しく危機感を煽る鋭い声で、注意を促してくる静香に、ネムはとやっと床を蹴る。その瞬間、今まで立っていた場所が爆発し、リヴァイアちゃんがレーザーに切り裂かれる。
砲弾が飛来してきたのだ、警告しても良いんじゃないかなと愚痴りながらもヒレを伸ばして敵へとジャンプする。
「先手必勝、『水竜体当たり』」
リヴァイアちゃんの体当たりにて、戦車モドキを倒そうと床を踏み込みでバコンとへこませて、超加速にて衝撃波を生み出して空を切り裂き音速で接近するが、戦車モドキの手前で緑のバリアが発生してピタリと動きが止められてしまう。
「停滞障壁よ! 敵の動きをゼロにするの!」
「マジですか。このシールドって、もしかして追加の力が加わらないとだめな感じですか?」
ぬおぉと、幼女はキグルミを動かしてジタバタするが、シールドに囚われており抜け出せない。床を蹴って攻撃をするので、一度速度をゼロにされたら、ただのキグルミになっちゃうのだ。エンジンがあれば停滞障壁を貫くまで加速すれば良いのだが、ネムにはそれができない。特攻幼女なのだ。
「わかりましたよ、グラビティラムが必要だった理由。さてはレーザー兵器は完全に防げる装甲を使っているんですね! そして実体弾は停滞障壁で防がれる。ラムで突撃が一番効くんですね!」
今更ながらに、長門の武装の理由に気づく、常に気づくのが遅いネムである。
抜け出そうと頑張る中で、爆発音と共に身体が吹き飛ぶ。
「イデッ」
ゴロゴロと床に叩きつけられてリヴァイアちゃんが消えてしまい、やばいかもと思ったネムが立ち上がろうとした時であった。
ネムを囲うようにガシャンガシャンと地面に槍みたいなものが突き刺さり、パラボラアンテナのように展開し始める。
嫌な予感がして、吹き飛ばされたリヴァイアちゃんを再び展開させようとした時。
パラボラアンテナとなった機械群はその中心にいるネムへと停滞障壁を展開させるのであった。




