22話 キグルミ幼女、コントロールセンターを散歩する
レーザーが効かないと判断したのだろう。トランクに足が生えているようなフォルムの警備ロボットたちは細い金属製の腕をボディから出して接近してくる。腕の先端は尖っており、赤く光っていて、極めてヤバそうな感じ。
だが動きは鈍い。恐らくはレーザーを主軸としているので、速度は必要ないとの理由から製造されているのだろう。もっともな話だ。敵を視認したときには回避不可のレーザーを叩き込むのだから、速さは必要ない。考えられた防衛兵器である。
「私には効きませんけどね。防衛平気と言うやつです」
「敵を凍りつかせる魔法なら発動していないみたいよ?」
皮肉を言うサークレット静香に、上手いギャグだったじゃんとおっさんにしかわからないセンスを見せながらリヴァイアちゃんを着込む。
ジュインとリヴァイアちゃんはレーザーに切断されていくが、あっという間に再生する。レーザーの弱点はダメージ跡が微少なところだ。切られてもすぐに再生可能なのである。
弱点と言い切るのはどこかのアホ幼女生命体だけかもしれない。普通は死ぬ。
『水竜体当たり』
ヒレを伸ばしてモモンガネムになり、空を滑空する。マーマン族の時は手加減したが、今度は本気モード。人の筋肉の1000倍、そしてヒレは単分子ナイフをイメージしたネム。
通路を高速滑空にてネムは迫るロボットたちへと突撃する。
トランク型ロボットはヒレに当たるとひしゃげて切られていく。壁が近づいてきたが、ネムは反省できる幼女なのだ。
ドコンと壁に埋まるが、すぐにキグルミを解除して、キグルミ分の隙間ができた穴から、んせんせと這い出て再びリヴァイアちゃんを着込む。
「見ましたか? 完璧なる戦法。これならもう醜態は晒しません」
「……それでネムが良いと言うなら、私は何も言わないわ」
フンフンと胸を張って得意げに言うキグルミ幼女に、サークレット静香は呆れたように答える。良いんだよ、すぐにキグルミなんか作れるんだから。48の幼女技の一つ、連コインの技、なのだ。
気にしたら負けだよと、再び前ヒレをバッと伸ばすネム。
「とりあえずはここの敵を殲滅させておきましょう」
そういうと、しばらくの間、バコンドコンと壁に穴が開く音が響き渡り、迎撃ロボットたちは全滅するのであった。
基地内は埃で埋まっていたり、壁が壊れていたりせずに綺麗なものであった。電灯らしき物も天井で光っており、歩くのに苦労しない。どうやらこまめにメンテナンスが行われているらしい。
「なんだ、たいしたことはなかったですね」
ぽてぽてと金属製のツルツルの通路を歩きながらネムは呟く。リヴァイアちゃん、無敵すぎだねとご機嫌にキグルミを着ながら歩いていると、シャワーが天井から降り注いできた。
あっという間にシャワーの熱線でキグルミは溶けて、服もすべてが灰になった。
「あぁ〜、また全裸になっちゃいましたよ。これって困りますよね、『豆腐服創造』」
また謎の光が必要だねと、嘆息しながらトラップのレーザーシャワーを抜ける無敵すぎる身体を持つ幼女である。髪も溶けるそばから再生しているので、溶けているようにも見えない無敵っぷりである。
「ここをたいしたことはないと言えるのは貴女だけよ。さっきからレーザー系統の罠がありすぎよね、ここ。本当にコントロールセンターだったのかしら? 厳重過ぎるわよね」
もはやネムの硬さに疑問を持たない静香。さっきからレーザーシャワーだらけなのだ。普通に使うとなるとかなり怖い施設だと思われる。
「でも迎撃ロボットは出てこないですよ? 通路にはいないんですかね?」
罠ばっかりでつまらないよと、ネムは言うが
「フラグたてお疲れ様。どうやらご希望の敵みたいよ」
見事にフラグは回収されて、通路の先に人型ロボットが立っているのであった。
人型アンドロイドというやつだろう。2メートル程度の身長の一昔前の特撮物、宇宙刑事ダバンとかそんな感じである。例えが古いおっさん幼女は敵の様子を観察する。武器らしき物は携帯していないようだが、内蔵されているのかもしれない。
「どうやらレーザーが効かない相手を想定されていたみたいね」
「銃が効かない相手に立ちはだかる国王の兵士ですね。ナメクジ大魔王に一蹴された」
これまた古臭い例えを口にしつつ、リヴァイアちゃんのヒレを突き出して半身になり身構える。へいへい、俺も一蹴しちゃうぜと、幼女は前ヒレをふりふり。
自身の無敵ぶりを過信しているキグルミ幼女。どんな攻撃も効かないから無敵だぜと余裕でふざけていたが、攻撃が効かないのと、無敵なことは同じ意味ではないと思い知ることになる。
通路奥にいた敵がひと呼吸する間に、走り出したと思ったら目の前にいたのだ。恐ろしい速さの敵である。
「ほえ?」
あれ、なんで目の前にと間抜けな声をあげるいつも間抜けそうなネムであるが、胴体をくの字にさせて次の瞬間吹き飛ばされた。
「わわっ」
リヴァイアちゃんのキグルミには穴が空き、ライナーに投げられたボールのように吹き飛ばされ、10メートル程度飛んでいき、そのまま床をコロコロと転がる。
ようやく止まったかと、勢いがなくなったので立ち上がろうとしたら、真上からの膝蹴りを受ける。そのまま流れるように敵はリヴァイアちゃんの後ろヒレを掴み取り、アンダースローで投げ飛ばしてきた。
「グハ。ちょっと待ってください」
壁に向けて投げつけられて、ビタンとうつ向けに貼り付くキグルミ幼女。その後ろから背中にドスドスとパンチを繰り出してくるアンドロイド。
「スタミナゲージ、そろそろスタミナゲージが切れませんか?」
延々と殴り続けてくるので、そろそろスタミナゲージ切れないかとゲームと現実をごっちゃにするネム。おっさんの思考はいつもごっちゃなので、仕方ない発言である。本当に仕方ないかは不明であるが。
「こいつは疲れを知らないアンドロイドよ。そうね……宇宙兵器ボカンとネーミングしておくわ」
「捻りすぎて、わけわからなくなってますよ。『剣爪』」
いまいちボケているのか、ネーミングセンスがないのか判断しづらい静香の名付けに抗議しつつ、伸ばしたヒレから剣の爪を生み出して、人間では不可能なヒレしかないからこそできる180度後ろへの無理矢理の攻撃を繰り出しボカンを切り裂こうとするが、素早く後ろにバックステップをして、ボカンはネムの攻撃を回避した。
こりゃまずいとネムは焦る。痛すぎるマッサージだ。敵の動きは見えているが、回避できない。そして敵はこちらの攻撃を見切れる模様。延々とこの調子で攻撃されたら、成す術がない。
その場合は門限越えちゃうかもと、お母様に怒られちゃうので焦っちゃう。サンドバッグはノーサンキューでもある。幼女に躊躇いなく攻撃してくるとは酷いアンドロイドだ。ロボット3原則は入っていないのだろうか。
ロボット3原則。たしか人に攻撃してはいけない。どら焼きが好物。眼鏡の怠け者を助ける、だったかしらんと適当に思い出す幼女である。
なので、再び間合いを詰めてこようとするボカンに対抗するために、キグルミをチェンジすることに決めた。
「コアチェンジ、豆腐モード」
ネムの脳内ではBGMが流れてかっこよくモニターに幼女とキグルミが表示されて合体をするイメージが湧く。幼女だから、こういうシチュエーションは大好きなのだ。おっさんだからでしょうと聞かれたら黙秘します。
実際はスライムみたいなモニョモニョが幼女を覆い、姿を変えるので幼女が捕食されたように見えて不気味に思えるのだが。
ボカンは目の前の敵性生命体が姿を変えたことに、一瞬だけ動きを止める。3メートル程の四角い長方形の白い物体と変わったのだ。だが、侵入者を倒せとの命令を受けているボカンは、再度パンチを敵の真ん中辺りに繰り出して
あっさりと身体がめり込み、貫通したことに動きを止める。中身がない。いや、どちらかに本体を偏らせているのだと理解したがその判断は遅かった。
『豆腐大海嘯』
目の前の豆腐が可愛らしい幼女の呟きと共に膨れ上がり、通路全体を埋め尽くすように辺りに広がってきたのだ。あまりの圧力にさすがに押し流されて間合いをとられるボカン。
「コアチェンジ、リヴァイアちゃん」
てってってー、てれれれーと自前でBGMを口ずさみ、ネムはリヴァイアちゃんに切り替える。そうして自身の周りだけ豆腐を消して、リヴァイアちゃんのつぶらなオメメがプリティな頭をボカンが埋まっている通路へと向けて口を開かせる。
「これでダウンです! 『水竜息吹』」
ネムにしてはかなりの集中力を見せて、モニョモニョをリヴァイアちゃんの口内に集める。そうして、クワッとキグルミのお口からブレスを吐く。
膨大な量の凝集された鋼鉄のブレスが通路を埋め尽くす。ガリガリと通路の壁面を擦り、天井を削りながら吐かれたブレスは通路の奥まで音速で通り抜けて、ようやく金属音の軋む音がして止まるのであった。
ネムはさすがにやったかとふざけることをせずに、様子を窺う。鉄塊のブレスにより敵は潰れたとは思うが、倒せていないかもしれないと恐れていた。
まだ倒せていなかったら、もっと集中して攻撃だと思いながら、幼女はブレスを消す。消えた先、通路の奥に見える物体の姿を見て胸をなでおろす。
「なんとか倒せたみたいですね」
そこには手足がもげて、火花をバチバチと散らすボカンの壊れた姿があったのだから。
「そうね。こいつは白兵戦専用……一体しか来ないところを見るとこれしかいないんだわ」
ぽてぽてとキグルミ幼女が近づくが動く様子はない。静香の言葉に安心もする。まぁ、レーザー兵器主軸だ。こんなアンドロイドはレーザーで本来は一撃で倒せるのだろうから。
「こういうのって、長門の乗員が知恵を振り絞って倒すんじゃないですかね? というか……長門は真の姿を取り戻さなくても良かったんじゃ?」
あの戦艦、この基地に入るときしか役に立っていない。家屋を捨てられた人は可哀想。
「たぶんパフォーマンスよ。もう後がない。そして、真の姿の長門に希望を持つようにとのパフォーマンス。頭も使っているじゃない。傷つかない貴女を使い倒すという作戦を思いついたわ」
「アニメだと打ち切り決定のストーリーですね、幼女に戦わせるとか。非情過ぎます。……ん、これなんですかね?」
「なにか見つけたの? 宝石なら私の物よ? ……んん? これは……」
壊れたアンドロイド。その肩に日本語でなにかが書かれていることに気づいたのだ。
なんじゃらほいと首を傾げて疑問に思う。
『浅田2式』
そこにはそう書かれていた。浅田艦長はこの基地の博士の子孫とかだったのかしらん。




