19話 魚と猫とキグルミ幼女
ネムたちはあっさりと捕まった。適当に逃げて来てニャンと渚は猫らしく4本足ですたこらにゃんと逃げていった。冷たい猫である。毛の触り方が酷かったせいもあるかもしれない。
「おら、ここに入ってな! 下手な真似をするとドカンだからな、ど、か、ん!」
ポイッと幼女二人は牢屋に放り込まれた。コロンコロンと転がる幼女たちの首にはごつい首輪が嵌められている。キグルミを解除したら、あっという間に付けられたのだ。
「その首輪は取ろうとするとボカンだ。まぁ、大した威力はないがな。ちょっと首が吹き飛ぶぐらいしかねえから試して見てもいいぜ?」
カチャンと扉を閉めてマーマンのおっさんがゲハハと高笑いして去っていく。そうなのだ、奴らはこの首輪を予め用意していたらしいので、ネムたちを最初から捕まえる予定であったのだろう。
うぅ、とネムは顔を俯けて恐怖でぷるぷる震えちゃう。
「大変です。もしかしたら服とかビリビリになっちゃうかも。リュックサックは咄嗟の判断で渚さんに渡せましたけど……ヤドカリみたいに殴打なら大丈夫でしたけど、爆発系だとこの服破れちゃいますよね?」
何という怖いギミックだと首輪を擦りながら困るネム。うちは貧乏なんだぞ。あんまり服は買えないのだ。この間、焼却された服の在り処をロザリーに問われて、静香さんが食べ物と間違えて食べました。と誤魔化したが今回はまずいかも。精霊界で洋服ビリビリは怪しいよね?
言い訳が雑すぎるおっさん幼女。静香に蹴られたことはすっかり忘れて困り果てる。
「そうね、こんな危険物を取り付けるなんて幼女虐待よ。賠償金をたっぷり取らなきゃね」
幼女ではなくても、爆発する首輪を付けられたら虐待どころではないと思うが、静香は妖しくフフフと笑うのみ。この幼女確信犯である。
お互いにまったく爆発を気にしていない盛り上がらないことこの上ないアニメや小説だと存在してはいけないチートな存在であった。
「まぁ、コロニーみたいな居住艦を浮上させようと渚さんたちはしているんでしょ? 話の流れ的に」
テンプレなので、さすがにわかるわとネムが静香に話しかけると、壁に凭れかかり頷いてくれる。
「そうね。それだと困るんでしょう、村上って奴らは。たしかに直径百キロの居住艦が浮上したら、猫人族は喜ぶでしょう。だいたいの人々もね。それにもしかしたらバイオマシンたちもコントロール可能となるかもしれない。そうすると大地を作り出そうと大規模なプロジェクトも起こり得る。マーマンたちは好き放題やってたんでしょうから、立場的にやばいと思うのは当たり前よ」
居住艦の大きさはわからんけど、アニメを参考に言う静香。
「なんというか……私たちって小説とか読み過ぎですね。話の展開が想像できちゃいます」
こういう話って、何かしらあったと思うんだよな。大地を取り戻す……。世界を創造し直すってゲームもあったし。あれは主人公が夢の存在だと神様に最後に言われてポイ捨てされたので怒り心頭になった記憶があるよ。
「まぁ、私たちは私たちのできることをやりましょう、ネム?」
妖しく微笑む宝石幼女にキグルミ幼女もコクリと強く頷いて
「携帯ゲーム機ですね。どこにあるのかなぁ。ガラクタでも修理できれば使えないですかね?」
まずは携帯ゲーム機だよねとブレないネムであった。実にしょうもない幼女である。
「門限もありますし、さっさと行動したいのですが、この首輪は困りましたね。迂闊でした」
常に迂闊である幼女は反省を一応する。まさかの新型キグルミの発表会がこんなことになるとはと。
「……でもおかしいわね? ネムの力を彼らは知っていたわ。なら、貴女がそんな首輪ぐらいじゃビクともしないのはわかりきっているはずなのに」
「ビクともしますよ。服が汚れるならともかく爆発しましたなんて、どうやって説明すれば良いんですか? イフリートとフォークダンスを踊ったんですとか答えたら、きっと精霊界へ出入り禁止にされちゃいますよ」
自らが傷つくとはちっとも思わないネムの発言である。そんなネムを見ながらも、静香はニマニマと口元を綻ばす。なんというか、怪しさ爆発な感じてある。碌なことを考えていなさそう。
「それはとっても困るわね。まだ金銀財宝の世界へと行けていないもの。まぁ、とりあえずはお出迎えらしいわよ?」
ちっこい腕を組みながらフフフと妖しく微笑む静香5歳。幼女なので、あんまり似合わない。背伸びをしているんだねと言われそうではあるが
「おら、頭領が会いたいってよ。面会の時間だぜ」
ニヤつきながら、マーマンのおっさんがドアを開けたので、は〜いと素直についていくのであった。
マーマン一族。海の中をえら呼吸で泳ぎ、水圧にも負けない身体の構造をしている改造人間の子孫だ。なるほど、たしかに金持ちだと部屋に通された内装を見て、ネムたちは納得した。
そこはビルの最上階。日光がさんさんと降りそそぐ外への壁がガラス張りになっている部屋であった。トラの毛皮が敷かれており、高価そうな絵画が掛けられていて、テーブルはアンティークとかいう物なのか、木製の高そうな物だ。ソファは沈み込むほど柔らかで、金がかかった部屋だとわかる。
というか、目の前のおっさんが金持ちだ。毛皮のローブを羽織り、金銀のネックレスをジャラジャラとつけて、その指には大粒の宝石をあしらった指輪をつけている。
太ってはおらず、ガタイの良い大柄の筋肉質のおっさんだ。まさに力で支配しているという感じのわかりやすい悪役である。
角ばった顔つきで、片目に傷跡があるので、ここまで悪役っぽい奴っているんだな、子供の頃に虐められなかったかなと、アホなことを考えつつ、ネムたちは男の前に後ろからチンピラに小突かれながら立つ。
「来たか。こいつらがそうなのか?」
ギロリと威圧感ある眼差しでネムたちを睨むので、カタカタネムは震えちゃう。か弱い幼女なので強面は苦手なのだ。おっさんが苦手意識を持っているとも言える。小市民なおっさん時代、強面には絡まれないように回避してきたので、こういったパターンはイアン以外にないのであるからして。
「へい。話通りだと、この見た目儚げそうな幼女がエネルギーを補充できるらしいですぜ」
「見た目儚げって、見た目だけじゃないですよ。儚げなんです。ご近所でも評判の儚げな幼女なんですから」
本当に儚げならば言わないだろう抗議をネムは口を尖らせて言う。
「黙ってろ!」
「はいっ!」
マーマンボスがドスの効いた声で怒鳴るので、思わず直立不動になっちゃうネム。カタカタと震えちゃうので、満足そうにボスは頷き……横に立つ静香がニヤニヤと笑っているので、気に入らなさそうに鼻を鳴らす。
「俺は村上水軍の頭領、村上中トロだ。てめえらが別世界の旅行者なのか?」
「中トロ? 大トロじゃなくて中トロですか? なんで中トロ? イクラとかだと被るからです?」
中トロだって、中トロだってと、ネムは容赦なくツッコミを入れて、中トロはこめかみに青筋を浮かばせて怒りの表情となる。
「中トロってのは、マーマン一族で最高だってすぐにわかるように代々頭領を張る奴が受け継ぐんだよ! バカにした奴らがどうなったか聞きてぇか?」
「ひ弱な幼女なんです。ゴメンナサイ」
おててで顔を覆いしゃがんで震えるネム。怖いのであって、笑いを堪えているわけではない。ブフゥとか呼吸しているが気のせいだろう。
「ちっ、てめえがエネルギーを補充できるってのか……こんなちびが?」
疑わしそうに見ているが、ポンと六角形の黒い水晶を放り投げてきた。ネムの目の前にコロンと転がってくるので、くれるのかとホイホイ拾う警戒心ゼロの幼女。
「それにエネルギーを籠めてみな。できたら褒美をやるぜ」
「いくらかしら? 私は彼女のマネージャーなの。そうね、これぐらいなら貴方のしている指輪全部ってところね」
マネージャー静香。いつの間にか職にありついた宝石幼女はギラギラと目を輝かせて口を挟む。俺がするんだけどとネムは思うが口に出さない。静香がこういう幼女だとわかってきたので。
「……良いだろう。ただし満タンにしたらだ。少しでもエネルギーが足りなかったら……どうなるかわかっているだろうな?」
凄味を見せる形相で中トロが言ってくるので、ハァイとネムは水晶を掲げる。ハァイハァイと呟くので、またからかってるわねと静香は半眼になっていた。
モニョモニョを少し流しこめば良いんでしょとドバドバ入れるとヒビがはいってきたので、慌てて中トロへと投擲するネム。もしかしたら暴発するかもとか思ってません。思ってないので。
中トロは投擲された水晶をあっさりと受け止めて、水晶をしげしげと観察する。
「なるほどなぁ。一瞬で満タンどころか、オーバー気味とは恐れ入るぜ。てめえがいれば世界のエネルギー事情は変わっちまうな」
そう言いながら、中トロは腰に指した未来的なフォルムの銃を抜くと、その中に水晶を差し込む。
なんか嫌な予感がするんですけど? ネムはその行動に直感めいた嫌な予感を持っちゃう。映画とかでよくこういう風にチンピラが……。
「てめえがいたら、俺たちは困るな。あばよ」
命を取ろうとするには軽い口調で中トロはネムへと銃を向けて引き金を引く。銃から超高熱のビームが放たれて、一瞬のうちにネムの胸へと当たり吹き飛ばす。
「ブラスターのエネルギーは莫大に使うんで、親父の代から置物になっていたんだがすげぇ威力だな」
トテンと床に転がるネムを見て、せせら笑って中トロは銃を撫でる。
「良かったわね、満タンになって。それじゃ約束どおり、宝石を貰おうかしら。その指に嵌めている指輪全部よね?」
仲間が殺されたにもかかわらず、平然とした口調で報酬を求める黒髪の幼女に中トロは僅かに驚き訝しげになるが、銀髪の幼女が倒れたあとにカタンと音がしたので顔を向けると、のそりと立ち上がってくるところであった。
「イテテ。あ〜っ! 服に穴が! むぅ、世界一の殺し屋と戦ったんですと言う言い訳は通じますかね?」
お胸の間に見事に穴が空いており、プスプスと服が焦げているので、悲鳴をあげるネム。普通は撃たれた時点で悲鳴をあげると思うのだが、常識知らずなので仕方ない。
「くそっ、エネルギー系統は効かないのか?」
中トロは舌打ちして、ポケットからボタンを取り出して押下する。ポチリとボタンが押されると同時にネムの首輪が爆発した。静香はカチャリと取り外しており、爆発はしなかった。
「ぎゃー! 服がボロボロに! 酷い!」
なんて言い訳をしたら良いわけ? と無傷のぷにぷにお肌を見せつつ悲しむ幼女をマーマンたちは顔を引きつらせて恐怖の表情となる。
「ど、どうなってやがんだ、てめぇっ!」
ブラスターの引き金を何度も中トロは引いて高熱の赤い線が何本もネムの体に命中する。命中するごとに穴だらけになるお洋服。
「ちょ、効いていないと見えてるんですから、洋服を穴だらけにしないでくださいよっとと」
抗議をするネムであるが爆発音がして足元が揺れたために、ヨロヨロとよろけちゃう。下で爆発が起きたらしい。
ドカンドカンと爆発音がして、何事かと皆が戸惑う中で、中トロの椅子から声が響いてきた。通信装置になっているのだろう。
「頭領っ! 長門の奴らが攻めてきやした! 哀れで儚げな幼女を返せって怒鳴ってます」
その報告を聞いて中トロは顔を歪める。拉致への対応としても、長門の奴らの行動が早すぎると悟ったのだ。
「騙したなっ! てめぇ、戦争の引き金にされていたんだな!」
ブラスターの直撃を受けても服に穴はあくがその肌は白いままなのを見てとって中トロは歯噛みする。情報が偏っていたのだと悟ったのだ。この幼女がこんなに硬いとは聞いていなかった。きっと拉致すると予想して間違った情報を長門は流したのだと悟る。
村上水軍と戦う大義を得るために。
「てめえらは長門の奴らを迎え撃て! 俺はこいつらを片付けてから行く!」
長門の連中も合わせて、叩き潰してやると中トロは叫び、変身していく。
「砲弾よりも硬い俺の攻撃を受けられるかっ?」
そこにはマグロがいた。マグロに手足が生えていた。かなり不気味な敵である。
「まぁ、当初の目的はおいておいて、マグロを倒しておきますか」
マグロ人間は食べたくなぃなあとおもい、今度こそとリヴァイアちゃんの展開をするキグルミ幼女であった。




