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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
1章 水の世界のキグルミ幼女

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18話 港で噂のキグルミ幼女

 16本木ポート。海から突き出した高層ビルを利用した街並みに、こんな光景が見れるなんてと物珍しく眺める。こんな世紀末ゲームとかでありそうな光景が実際にあるなんてと感動して。携帯ゲーム機を探しがてら観光をしますかと長門の時と同じようにてこてこと歩きながら、無理矢理現状を伝えてくる渚の言葉を耳に入れる。


「猫人族は植民時にその身体を素早さと怪力に振った強化人間にゃ。その力は植民時に大いに役に立つと思われていたにゃよ。昔はたしかに役に立っていたんにゃけど、今は厳しいのにゃ」


「もしかして、他の能力が下がったとか? 知力が下がったんですね、わかります」


 俺も幼女になって、知力が大幅ダウンしたんだよねと、幼女化のせいにするネム。おっさんの時からアホだったなんてことは絶対にないのだ。幼女だから、アホになったのだ。いや、年相応になったのだ。


「違うにゃ」


 フリフリと首を横に振り否定する渚。何だ違うのかと拍子抜けしたが、次の言葉で身体が固まった。


「泳げないにゃ」


「はぁ〜? なんで水の惑星でそんなデメリットを許容したんですか? 過去に猫人族になることを選んだ人はアホなんですか?」


 さすがにネムといえど、それを聞いて目を丸くして呆れてしまう。悪魔の実? 悪魔の実を食べたの? だから猫になったの? にゃーん。


「その代わりに高所でも、軽々と行動できる身軽な身体を手に入れたにゃん。この高層ビル間の吊り橋も猫人族のおかげにゃんね。泳げないと言っても浮くことはできるにゃん。背中とかに渚たちは毛が生えていて、なんつーか、裸になっても冬服を着込んで水に入る感じになるにゃんよ」

 

 高層ビル間に張り巡らせた吊り橋を手で指し示し得意げな表情と渚はなる。たしかにそれが本当なら普通の身体能力ではない。そういえば、カチカチに硬い干し肉を柔らかくて美味しいと簡単に噛みちぎっていたなと思い出した。


「あ〜……なるほど。鳶職特化だったんですね。……なんか話がおかしいですけど。そこまでこの水の惑星で猫人族の力っていります?」


 納得するが、納得できない。あまり広くない戦艦都市でそこまでの力が必要かなぁ?


「わかったわ、この下には沈んだ居住専用宇宙船があるのね。ほら、ネム。あれよロボットに変形する宇宙戦艦が出るアニメのようなコロニータイプが真下に眠っているんだわ。それなら猫人族の力が必要だったことに説明がつくわ」


 1を聞いて10を盗む静香が理解したわと頷くので、ネムもわかっていたよとコクコクとちっちゃな頭を上下させて、頭の良いフリをする。幼女は聡明だねと褒められるチャンスを常に探しているのだ。もう手遅れだと思われるが。


 なんにしてもテンプレだとは理解した。と、すると、だ。周りを見ると一応はゴミは無く、綺麗にしてはいるが古いビルのあちこちには薄汚れた猫人族が横たわり暇そうに暗い瞳をさせながら寝ている。わかりやすすぎる貧乏そうな人たちだ。


「気のせいか……人間族より猫人族がたくさんいるんですが、なんか差別されてます? この環境では人間族も猫人族も変わらないと思うのですが」


 泳げなくてもビルの上では変わらない。なんで猫人族ばかり?


「それは……その……。猫人族は身体を動かす仕事以外苦手にゃ。あとお昼寝大好きで……。ある一族に忌み嫌われているにゃよ」


 言いづらそうに目を逸らしながら教えてくれる渚にネムはジト目になってしまう。猫なのね。


「最後の理由以外はなんとかなりそうな感じですね? 猫の気性を思いきり引き継いじゃってるじゃないですか。最後のだって、本当かどうか」


 自分たちの猫特性のせいじゃないかと、ネムがツッコミを入れようとした時であった。


「よぉ、薄汚い猫人族がこの街で堂々としているなんて珍しいじゃねぇか? えぇ、渚よ?」


 男性の野太い声音で声がかけられたので後ろを振り向くと……。


 そこには耳の代わりに魚のヒレを生やしている中年のおっさんたちがいた。なるほど、たしかにある一族に嫌われているのは確実らしい。


 魚の一族と、猫の一族。そりゃ険悪になるわな。



 ぞろぞろと通路を塞ぐように現れたのはわかりやすい悪役御一行である。皆が魚一族らしく頭にヒレを生やしている。他は一見普通の人間のようだが?


 ニヤニヤと厭らしそうな笑みで声をかけてきたのは筋肉質の大柄の男だ。リーダーなのだろう。いかにも力で支配していますといった脳筋ぽい。


「マーマン一族にゃ。海の中でもえら呼吸で行動できるから、海中から過去の遺物を回収したり、魚を簡単に捕まえたりと、金稼ぎに困らない一族。その中でも奴らは渚たちを目の敵にしている村上水軍の者にゃね」


 魚化か。そんな映画あったな。オイルタンカーにある石油の残り量を量るためにおっさんが石油の中に閉じ込められている映画。主人公はそんなタンクに情け容赦なく火を放り込むんだけどヒロインよりも酷い扱いをされているおっさんなんだから助けてあげろよと思ったことがある。あれもおっさんと美女の格差というやつなんだろうなぁ。


 あの映画だと、魚人間は主人公一人だけだったが、大勢いれば、この世界では支配階級になれるわけだ。そして本能的に猫人族を嫌っていそうだよね。


「聞いたぜ〜? 別世界からの旅行者。すげぇじゃねぇか、あの長門の燃料を満タンにする能力を持つなんてよ。200年は無補給でも長門は大丈夫だろ?」


 ギョロギョロと目を動かしてネムたちを見ながら男は言ってくる。


「ふふん。もうお前らの嫌がらせがなくても燃料に困らないにゃ。それにこれから武器用燃料も補充してもらうにゃ。そうしたら富士山に行って、コントロールセンターを復旧させるにゃん。そうしたら村上も大きな顔はできなくなるニャンね」


 ドヤ顔で胸を張る渚。言わない方が良いんじゃね? と俺は思うんだけど。このあとの展開が予想できるんだけど? 渚が考えなしなのは理解したよ。


「ほぅ……そんな夢の話をまだ信じてるのかよ。まぁ、いいぜ、そこの幼女たちが旅行者なんだろ? 俺たちが丁重に歓迎してやるよ」


 村上と呼ばれた男は顔を険しく変えて、クイッと顎を俺へと向けて動かすと、ヘイッとチンピラたちがその意を汲んで近寄ってくる。


「馬鹿なことを言うにゃよ、ネムはこれから燃料を補充してもらうにゃ」


 俺たちの前に守るように渚が立つ。


「聞いていないんですけど? その燃料なんちゃらって」


「この間の機関室にあった水晶よ、きっと。あれ光り輝いていたじゃない? あれってネムの崩壊したダムから流れるようなエネルギーを吸収していたのよ、きっと」


 本当に静香さんは優秀だと思いながら納得する。あれって俺のせいだったのね。


「燃料代も後で請求しないといけないわね。相場を確認しなきゃ」


「その代金は私のお小遣いですからね? 全部取らないでくださいよ?」


「大丈夫。分け前は5割で良いわ。私は善人なの。それで、空の燃料タンクに次々と補充していけば良いのね?」


「まるで自分がやるような口振りですけど、私がやるんですよね? ねぇねぇ、おかしくないです?」


 このままだと銭ゲバ幼女に、か弱い幼女は搾取されちゃうよとメタルな幼女が恐れを見せるさなかに、渚はマーマンたちと戦闘に入っていた。


「にゃおーん!」


 猫の鳴き声をあげると、渚の姿はみるみるうちに変わっていく。身体から猫の毛が生えてきて毛皮となり、顔も猫耳少女から、猫少女へと変わる。手にはギラリと光る切れ味良さそうな爪をはやし、口から覗く牙は簡単に相手の喉笛を噛みちぎれそうだ。


 変身できるのかとネムは驚いちゃう。なんとも恐ろしい姿に変わっていったので、恐怖の表情で渚にとやっと抱きつく。


「もふもふ、もふもふですよ。猫ってすぐ引っ掻いてくるから苦手だったんですけど、猫人ならいくらでも触れちゃいますね!」


 もふもふを前に幼女は我慢できなかったのだ。サワサワ触ると毛並みの感触が滑らかで温かくて気持ちいい。肉球もあるのかな?


「ちょっと、どこ触るにゃ! 触り方がやらしい、イダッ」


 うへへとおっさんなら逮捕間違いなしのネムは幼女なんでと、お腹の毛皮を触る。背中の毛皮も下から上へと猫が嫌がる触り方をして。なぜ猫にすぐに引っ掻かれたかわかる触り方である。


 そうして渚が慌てる中で、ドゴンと勢いよく男がショルダーアタックをしてきて吹き飛ばされてしまう。通路をザザッと擦りながら転がる渚であるが、さすがに猫らしく地面を弾くように立ち上がる。


「なんで守ろうとする相手から邪魔されるにゃ……そういえば助ける必要なかったかにゃ」


 怒る渚だが、メタルな幼女だと思い出し微妙な表情へと変える。


「私はか弱い幼女ですけどね。ちょっと私のお友達に怪我をさせましたね?」


 邪魔をしていたのはネムなのだが、フンスと胸を張り堂々と言う。だいたい堂々といえば誤魔化せるのだ。幼女技48の一つ、悪びれないで、堂々とする、だ。


「おら、二人とも来てもらうぜ!」


 男がネムを捕まえようと、ゲスな嗤いを見せながら手を出してくるので、ネムはニヤリと笑う。


「そうはいかないのです。夜なべしてベッドの中でぬくぬくしながら考えた新たなる私の力を見てくださいっ!」


 イアンたちの戦いを見て、新たなる技をネムは思いついたのだ。今こそその力を見せるとき!


「古からねむりゅっ、イダッ舌かんだ。『幼女変身』」


 詠唱しようとしたけど、舌を噛んだので止めて、幼女は新たなるキグルミを構成する。身体からモニョモニョが生み出されてスライムのように幼女を包み込みグニャグニャと悪魔合体するように変化していく。


「なんだ、こりゃ!」

「気をつけろよっ!」

「異世界人の変身か?」


 マーマン一族がその様子に後退る。ちょっと不気味な光景であったので。魔法少女みたいに身体が光って変身するのではないので仕方ない。


 そうして皆がネムの様子を見る中でスライムっぽいのは形ができて新たなる姿へと変わった。


 長い首につぶらな瞳、ヒレのような手足、ずんぐりむっくりとした胴体。


 そして、首の付け根から半分覗いている可愛らしい幼女の顔。身長1メートルもない、顔出しタイプのキグルミ。ヒレのついた2本足でペッタラペッタラ足音をたてて立つ。


「これこそ新型キグルミ『リヴァイアちゃん』! 強化筋肉を作れば良いと考えた新型です!」


 それは恐竜であった。デフォルメされているが、青い狸ロボットをパートナーにする眼鏡の子供が拾ってきた小さい水竜のような形をしていた。


 キグルミの長細い首が力なくぶらぶらと頭の上で揺れる中で宣言する。結局イアンたちの戦いをまったく参考にしなかった幼女。


 参考にしたのはヤドカリだ。あと、シーサーペント。ヤドカリの身をむしゃむしゃ食べながら思ったのだ。キグルミの中身を筋肉繊維で作ればよいのではと。そうしたら幼女の動きがダイレクトに伝わるので思考しなくても大丈夫。


 無敵のキグルミが今できたのである。ヒレなのは足の形だとまだ上手く立てないためです。


「さぁ、筋肉強化スーツの力を見せてあげますっ! とうっ!」


 床を蹴り先頭の男へとヒレパンチをお見舞いしようとして


 ズドンと砲弾のように加速して、床を砕いて男の頭上へと飛んでいく。


 バゴンと頭から天井に突き刺さった。


「………」


 チンピラたちは高速で飛んできて、高速で天井に刺さった幼女をポカンと口をあけて見る。


「大変です。筋肉繊維を人の1万倍と想像したら、操作性がゼロになりました! 誰かたしゅけて〜」


 身体の半分を天井に潜らせて、ギブギブと悲しげに言う幼女である。


 キグルミを解除したところ、あっさりと捕まりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっとこの幼女アホすぎないですか。 中のおっさん群を抜いてアホじゃないですか。 静香さんですら引くレベルじゃないですかこれ(´ω`)
[気になる点] 【サワサワ触るると毛並みの感触が滑らかで温かくて気持ちいい】触るり→触る「る」が一つ多いです。 [一言] 「猫人族は身体を動かす仕事以外苦手にゃ。あとお昼寝大好きで……」これ、やはり知…
[一言] あっさり捕まる幼女たち・・・? 静香は戦闘に参加しない模様・・・金にならないと動かない可能性大 青い巨星の部下幼女「捕虜の扱いは幼女条約に乗っ取ってくれるんだろうな?」
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