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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
6章 自分の世界を見つめるキグルミ幼女
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118話 幻の街とキグルミ幼女

 夢の中に再びネムは訪れた。更地となっていた街は元に戻っており、ホッとひと安心です。静香とイラ、ロザリーもついてきている。


「しかし、いつもどおりの街並みで、現実世界と変わらないですよね?」


 キョロキョロとヤーダの街を見渡して感心しちゃう。見慣れた人々が働いているのを見て、不思議に思う。ミラーリングシステムは完璧なんだなぁ。更地でなくて本当に良かった。


「本当にいつもどおりだと思っているの?」


「えぇ。そうですよ?」


「本当に?」


「えぇ、そうですね?」


 ジト目の静香さんに明後日の方向を見る。なにやら城で劇が行われているようだけど、きっと気のせい。


「うははは。我は大魔王ミルドラン。ミント姫はもらった!」


「きゃ〜、助けて、私の白馬の王子様〜」


 お姫様って、歳じゃないでしょと幼女は思ってしまうが、黒竜にフリフリピンクのドレスを着たどこかの、その……お母様に似た美女が攫われようとしていた。


 ノリノリのミントお母様風の姫がキャーキャーと黄色い声をあげていた。


「おのれっ、黒竜ミルドラン。この私がミント姫をきっと助けてみせる!」


「あんぎゃ〜! この世界一美女なミント姫は私が頂いた〜! わっはっは〜」


「そうはさせるか!」


 剣を振るい、カキンコキンと黒竜と戦うイアンお父様。髭もじゃのおっさんなので、やはりコンプレックスは持っていないらしい。


「ミントお母様姫は私が助ける!」


「僕たちも手伝います、お母様姫!」


 てれってんてんてー、と家族で激しい戦闘を繰り広げている。私も戦いたいけど、寝ている時は私も加わっているのかな?


 英雄譚がそこにはあった。かっこいい戦闘がそこにはあった。武技が次々と打ち出されて、即死魔法が延々と唱えられる。クリフお兄様は夢の世界でも、戦闘スタイルを変えないみたい。


「さ、早く移動しましょう。あれは、時折表れる夏の幻影です」


 ミントお母様の強い意思が感じられます。あれはミントお母様の夏の幻影だよね。放置していても良いだろう。夢だから、これは夢だから。ミントお母様の夢は見なかったことにしておきます。恥ずかしいもんね。


 ポッケから受け取った社員証を取り出すと、天へと翳す。


「天津ヶ原コーポレーションへと、あ、間違えた。ミルドランコーポレーションへの道を開け、社員証よ!」


 ネムが社員証を翳すと、ペカーッと社員証が光り輝き、空が暗雲に覆われていく。そうして魔法陣が空に描かれる。後ろでアンギャーと黒竜の咆哮と、てやぁとイアンお父様の叫び声が聞こえてくるが耳を塞いでおきます。


『ミルドランコーポレーション行き〜。ミルドランコーポレーション行き〜』


 魔法陣から巨大な黄金の扉が現れて、アナウンスが鳴り響く。ギギィと扉が開き、その中にビルが見える。どうやらミルドランコーポレーションの本社のようだ。


「では、突撃〜!」


「金庫はしっかりと開けるのよ」


「ほいさっ。突撃ですね〜」


「ネム様の伝説はしっかりと撮影しますから、もうちょっとスカートを翻して良いんですよ」


 最後の発言者だけ、少し発言内容に問題はあったが、何はともあれ、幼女4人はミルドラン本社へと突撃するのであった。



 

 ミルドラン本社。高層ビルディングが建っているのは、荒れ地であった。周囲は何もなく、草木一本生えていない土地に300階ぐらいありそうなビルだ。ガラス張りで眩しいぐらい。


 雲が高層部分にかかっており、最上階は見えない。


『ミルドランコーポレーション本社』


 と、ビルの看板に書かれている。


 大きな自動ドアの前に立つと、ウィーンと開いて、とてとてと中に入る。20階層程度の吹き抜けで、噴水がザバザバ水を流しており、人々が歩き回っている。


 キョロキョロと見回すと、カクカクとした動きでどこかで見たエルフが歩いてきた。


「ようこそいらっしゃいました。ここはミルドランコーポレーション本社です」


「ゴン太王子?」


「ようこそいらっしゃいました。ここはミルドランコーポレーション本社です」


 カクカクと人形のような動きで、腹話術の人形みたいにパクパクと口を開くと、再び歩き出す。他の所まで歩くと、またこちらへと歩いてくる。


「ようこそいらっしゃいました。ここはミルドランコーポレーション本社です」


 ふんふんと頷く。なるほどなるほど。これは大変だ。


「大変です。私は話すコマンドをしていないのに、話しかけてきます! クソゲーです!」


 普通は話すコマンドを押していない。触るだけで話しかけてくるなんて、クソゲーだ。かなりうざい設定だと思います。


「助けないといけない人を前に、そういう言葉を口にできるのは貴女の図太いところよね。どうやら操られているようよ」


「デビルなヒロインって、妖しい色気がありましたけど、デビルな男はアホにしか見えませんね」


「きっと、叩けば治ると思いますよ。『雷神ライトニングフォール』」


 ロザリーが情け容赦なく手のひらをゴン太に翳す。その手のひらから膨大な雷が生み出されて、ゴン太へと命中する。


「ぐへぇっ!」


 バリバリと雷撃が輝き、骨は透過しなかったが、雷光の中でゴン太は悲鳴をあげてポテリと倒れた。プスプスと服から焦げた匂いが漂ってくる。死んだかな?


「大丈夫です? 焦げ焦げになっちゃいましたよ!」


「大丈夫ですよ。死んだら、もう石像は市場に売りましょう。ストラスの杖がなければ石化は解けないでしょうし」


「それならば安心ですね。とりあえず元に戻りましたかね?」


 倒れているエルフをつんつんとつつく。ピクピクと身体が震えるが生きてはいるみたい。良かった良かった。


 ところで、ここの人たちは皆、操られているようだけど、石になっているのかな?


「うぅ〜ん、こ、ここは」


「あ、そういうのいいんで。『雷神ライトニングフォール』」


 目が覚めそうなゴン太にトドメの一撃を喰らわすロザリーさん。またもやバリバリと音がなって、ゴン太はパタリと倒れてガクリと首を倒した。そして、その姿がかき消えていく。


「んん? これ消えちゃいましたよ?」


 なにこれ? と首を傾げちゃう。……あぁっ! そういうことね。


「そうか、ゴン太は精神エネルギーを魂ごと抜かれていたのですね。精神エネルギー体を破壊すれば元に戻ると! やったぁ、これでゴン太さんは助けることができたんですね!」


 きっと今頃は体に魂が戻って石化も解けているだろうと、ぴょんぴょんと飛び跳ねちゃう。簡単にゴン太王子を助けることができちゃったよ。


「主様、石の中に、ではなくて、土の中にいる、ではなかったでしたっけ? あの王子?」


 イラがつんつんと私を突ついて気まずそうに言うが……。


「やったぁ、ゴン太王子を助けることができたんですね! 私の勝利です」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねちゃう。なんだっけ、王子様が土の中にいるだっけ? たぶん大丈夫だよ。精霊の加護があるらしいし。元の姿になったら、きっと精霊が助けてくれるはず。


「他の人たちはどうするの? きっと石像のままで悲惨なことになっている人たちよ?」


 ビルの中をカクカクと歩く人々へと視線を向けて、静香さんが困り顔になるけど、その対応策はあるよ。


 手のひらを翳して、むぅんとモニョモニョをエネルギーに変える。そうして、豆腐パワーを放出していく。


『精霊創造。丸豆腐精霊』


 ポヨンポヨンと、丸豆腐が沢山生まれて、空を飛んでいき、ゲームキャラとなっている人たちを覆う。精霊なのかは不明だが、とりあえず精霊だということにしておこう。


 うろつく人々を丸豆腐が覆い尽くすのを見た後に、ネムはクルリと手のひらを返して、さらなるパワーを使う。


『アルテマトーフ』


 熟練度99だぜと、究極魔法を使う。モニョモニョパワーが純白のエネルギーが、周囲を照らして崩壊させていく。古代魔法は弱いんだよの精神で究極魔法を雑魚魔法へと変えたプログラマーには文句を言いたいが、おっさんは古代魔法が強いと信じているのだ。そっちの方がロマンがあるんだよ。


 柱が砂糖のように溶けていき、壁もポロポロとアイスのように溶けていき、人々は丸豆腐と融合体となって消えていく。


「元に戻った人々は丸豆腐の加護により、絶対防御を持ちます。助かった人々が安全だと判断したら、融合は解けるはずです」


 フンスと平坦なる胸を反らして得意げに言う幼女。ナイスアイデアだと思います。さすがは私。おっさんの深い叡智を持っているだけはあるでしょ。おっさんの深い叡智。日本酒の種類と美味しい酒のツマミのことだろうか。


「どういう設定で、あのアホみたいなエネルギーを持つ精霊を融合させたのかしら?」


 丸豆腐が核ミサイルにも耐えうる防御力を持っていると見抜いた静香さんが聞いてくるが、その答えは簡単でしょ。


「安全になったら、融合は解かれます。あと、悪用しようとした人からは融合は解かれます」


「なにか嫌な予感がするわ。石化から解けたら、絶対防御を手に入れた平凡な人。とか、小説になりそうな英雄譚がうまれそうよ?」


 丸豆腐の姿になって戦う勇者……ね。良いんじゃない? 丸豆腐の姿かっこいいと思うよ? ぽよんぽよんと跳ねながら戦うの。楽しそうだよね。


「遠目になって言っても、説得力ないわよ?」


「丸豆腐の姿になって英雄になりたい人がいるなら、その人はもう勇者と言って良いと思いますよ?」


「……たしかにそうね。もうその時点で勇者と言っても良いと思うわ」


 肩をすくめる静香だが、たしかにそうねと納得する。ドラゴンに噛まれても、キマイラに魔法を受けても、丸豆腐なら戦えるだろう。かっこいい姿だと思うけど、人の主観は人それぞれだから。


「それよりも、ネム様? チーズみたいに穴が空いているんですけど、大丈夫でしょうか?」


 ロザリーがつんつんとイラみたいにつついてくる。んん?


 たしかにアルテマトーフは結構な威力だったね。綺麗なビルがボロボロ……だ?


 なんだかゴゴゴとビルが揺れている。


「脱出です! 違法建築でした!」


 数階分が消えちゃっただけで崩壊するなんて、なんて違法建築。弱すぎる!


 コロンコロンとでんぐり返しをしながら、ビルから飛び出る。このビルはもう終わりだよ。


 裏ラストダンジョン、違法建築により崩壊。


 私のせいじゃないもんねー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 崩壊するミルドランコーポレーションに唖然(´Д` )普通に夢の世界だったらこんなリアルな解体シーンにならなかったのに社長のムドンが現実にこだわったばっかりに壮絶なオチ!!そこまで読み切った…
[気になる点] >>天津ヶ原コーポレーション なんやて!? こっちと繋がってたのか。 [一言] 巨大ビルが脆く崩れるって中華な国を思い出しますな。 爆発もしちゃう?
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