114話 竜魔王とキグルミ幼女
ドラゴンが主力な竜魔王ミルドランの軍隊。通称大魔王ミルドラン。本名夢野竜子さんは、腰に手を当てて、フハハと高笑いをした。
「そのとおりだ! 進化の粒子を探すため、日夜研究に邁進してて、なんでコウモリの糞に当たっただけで、この冒険家は死ぬんだと、3面から進めずに苛ついて不貞寝していたときであった。夢に白い神が現れたのだ」
バハムートフに乗って、幼女はイベント説明だねとお座りして、イラにチョコレートを貰って食べながら待つ。竜子さんがチョコレートを見て、美味しそうだからくれないかなぁという視線を向けてくるので、ていっと投げてあげる。ナイスキャッチ。
「で、だ。むむむ。このチョコレートどこで買ったんだ? 後で教えて……。フハハ、白い神は仰った。ある洞窟に竜を自由に操れる支配の仮面があることを! それがこれ、邪神チョコレートの仮面! おかわりある?」
なんだかところどころバグっている竜子さん。いや、違ったミルドラン。恐らくは呪われている仮面なのだろう。
「チョコレートじゃなかった。ミルドランの仮面だっ! 私は平取締役になったので、そこそこ偉い! そして、いくら働いても、管理職手当があるから残業代はつかない。そろそろ大魔王は退職金目当てに辞職したいです」
「……酷いバグっぷりじゃないですか。なんですか、あれ?」
たぶん仮面を外したら、目がグルグルとなっているだろう混乱っぷりだ。倒して良いのかしらん。さすがに幼女も罪悪感を抱いちゃうよ? それと後で一緒にスベランカーをして遊びたい。二人いればクリアできるはず。
「半信半疑で洞窟に行き、見つけたのだ。この邪神ミルドランの仮面。税込み4680円を! そして仮面をつけたら魔法陣が現れて、邪神から意思と名刺と社員証をもらえたのだ」
ペかりんと社員証を取り出す竜子さん。なんてことでしょう、ミルドランコーポレーション社史編纂部部長兼取締役夢野竜子と書いてある。
「取締役……羨ましいです。私もなりたかったです」
うにゅにゅと竜子の社員証を見て悔しがっちゃう。忙しく働きたくはないけど、取締役と言う響きがかっこいいよねと、社会を舐めている幼女である。しかして、ハッと気づく。今や私もパラソルコーポレーションの社長だったと。
「私もこんな社員証を作りました! 作っちゃいました。ジャジャーン」
おててに純白の社員証を生み出すネム。そこには「パラソルコーポレーション、しーいーおー、ネム・ヤーダ」としーいーおーは社長ということだよねと、横文字ならかっこいいと思うおっさんの思考から少し捻ったのだ。
「ふぉぉ〜っ。竜子の方が偉いもんね! 大企業の部長の方が偉いもんね。零細企業なんか相手にもならない!」
「私の企業はたくさんの社員がいます。社員になりたい人〜」
ネムがおててに杏仁豆腐を作り出すと、精霊たちが群がって手を挙げる。
「は〜い、なる〜」
「杏仁豆腐〜」
「豆腐のデザートってたくさんあるんだよ〜」
キャッキャッと精霊が募集に応じてくれたので、うちは大企業。バブル期の考えなしの企業の採用みたいなことをするネムだが、元手はただなので大丈夫。
「パラソルコーポレーションは、大魔王企業ミルドランコーポレーションを倒産させることに邁進します!」
企業内容もへんてこなパラソルコーポレーション。ネムは得意げにビシッと人差し指を竜子に突きつけて、むふーむふーっと鼻息荒く宣言した。
「倒産させられてたまるかっ! やれっ、ドラゴンたちよ」
竜子はその言葉にムキャーと地団駄を踏んで、ドラゴンたちに指示を出す。
ドラゴンたちは一斉に首をもたげて、空を飛ぶバハムートフにブレスを吐き出してくる。灼熱の炎、輝く氷の息、暗黒の息吹。様々なブレスが飛来してくるので、バハムートフはホバリングを止めて、翼を広げて発進する。
戦闘機のように純白の粒子を吹き出して、バハムートフはロールをしながら回避していき、幼女はおめめをとじてしがみつく。
「ヒャー。速いです、とっても速いです。私、ジェットコースター大好きなんです」
「きゃー。わたしはこわいです、なのでネムお嬢様にしがみつくしかないのです。うへへ、ぷにぷに」
幼女は髪をたなびかせて、その風圧を感じて満面の笑顔で楽しみ、エルフ娘は変態発言をして、よだれを垂らして放送コードに引っ掛かる表情で幼女を抱きしめる。
バハムートフの横をブレスが通り過ぎてゆく中で、前線の騎士がジゴクスパークにて悪魔たちを倒されて戦況が好転したので、突撃の陣形をとっているのが目に入る。
「ウオーッ! ネム様に続け〜」
「精霊の愛し子に勝利を!」
「騎士団の力を見せるのだ〜!」
「それはダメダメなのです。死んじゃったら、私は泣いちゃいますよ。『聖バリア』」
おててから純白の聖属性魔法を使い、騎士たちを覆う。これで外には出られない。アニメとかでよくあるじゃん? チャンスだって、モブ役が敵のボスに突撃してやられちゃうやつ。あんなふうになっては欲しくないのです。
そして騎士団に自分の正体がバレている。紙袋を脱いだの間違いだったと幼女は気づく。紙袋を被っていた方が間違いだとは思わないアホな幼女。
「イラ〜! 忘却魔法をお願いします!」
これはやばい。バレたらご飯抜きになるかもと、少なくともミントお母様にお説教されるかもと、ぷるぷる震えちゃう。なので、イラの出番です。
「ほいさっと。『忘却』」
影から飛び出したイラが、ヒラリと手のひらを返すと、ふわりと闇のオーラが吹き出して、騎士たちを包みこみ、寝かせてしまう。忘却の魔法により、ネムが現れたことは忘れられる。
「ありがとうです、イラ、あの騎士たちには竜王バハムートフがたおしたと覚えていればいいでしょう。竜子さん、勝負です! バハムートフのバワーを見せてやります。『真フレア』です!」
『真フレア』
ペチベチバハムートフの頭をネムが叩くと、クワッと目を見開きバハムートフは口を大きく開ける。その口内に白き粒子を集めていく。
そうして薙ぎ払うようにブレスをバハムートフは吐き出した。その栄養満点のブレスはビームのように地面を通り過ぎてゆく。その途上にいるドラゴンたちの鱗をあっさりと貫いて、ブレスの通り過ぎた後には噴火の如き爆発が起きていく。
一瞬で、豆腐がグラグラと煮える湯豆腐のような地面へと変わり、竜子さんの自慢のドラゴンたちを殲滅していった。
「こーふくしなさい、りゅーしさん! もはや貴女では勝てません。悪いようにはしませんよ。ただ、一緒に3面から先を目指しましょうです」
「たつこやっ、ちゅうに! 降伏なんぞするか! 貴様はこの仮面の力を知らない。竜子は知っている。パワー開放! コマンド、TKG(たつこさん、きっと神になる)!」
ノリのいい竜子さんだが、戦意は失っておらず、コマンドワードを口にする。ピカっと激しい光が発生して、辺りを照らす。たぶん美味しい卵には醤油が必要だと思うネム。TKG専用の醤油なんて食べたことなかった前世のおっさんは興味津々です。。
「目が〜、目が〜」
絶対にやらなくちゃ、と絶対にやらない方がよいと思われるネムはコロンコロンと転がって大佐になっちゃう。アホな義務感から、身体が勝手にボケてしまうのだ。いらん義務感であることは間違いない。
「この邪神の仮面はかつて幻の世界に封印された社長に繋がっている。そして、社長から私に力が注がれるのだぁ〜」
「大変よ、ネム。あの娘、とことんまで負けフラグをたてているわ」
サークレットモードの静香が呆れながらツッコミを入れてくるが、たしかに。彼女は自殺願望でもあるのだろうか。
「竜の強靭な肉体に、魔族の強大な魔力。そして、ドワーフの技術の粋を見よ!」
そういう竜子の頭上に、巨大な魔法陣が表れて、バチバチと火花を散らしながら、なにかが現れてくる。
「巨大な水晶です?」
ネムはお空を見上げて嫌な予感がすると、か細く呟く。その魔法陣から、せり出すように黒き巨大な水晶が降りてくる。
「そのとおりだ! 融合っ!」
水晶から出てきた黒き触手は竜子を絡め取り、漆黒の粒子を煙のように撒き散らす。そうして受肉するのか、その姿を変えていく。
どこかで見た光景だった。竜子さんはワンパターンが好きなのだろうか?
そうして、漆黒の何者をも通さない竜の鱗。敵対するものを全て噛み砕く力を持つ牙を持つ竜が生まれた。その身体にはネムも驚く程の魔力を宿し、肩にはキャノン砲。目はバイザーで覆われて、ウイングタイプのバーニアが背中に取り付けられていた。
「ふぉぉぉーっ! これぞ竜魔ドワーフのミルドラン1号。もはやお前たちなど相手にならぬ! ハッハッハー」
融合ではなかった。竜魔ドワーフは変身するのではなく、ロボットにしちゃった模様、さすがはドワーフである。
コックピットハッチが開き、ソイヤとその中に滑り込みながら竜子は哄笑してハッチを閉める。
「羨ましいです。あんなロボット欲しかったです」
お願いしたらくれないかなと、無謀な作戦をたてている幼女。超合金ロボってロマンだよ。うりゅうりゅおめめを潤ませればもらえるかな? さ………って、天丼かな?
「ブラスタァきゃのーんっ!」
竜子の声が竜から聞こえてくる。きっと接触通信とか、よくわからない通信方法で聞こえてきているに違いない。
ミルドラン1号の両肩に付けられている熱線砲が、数千万度の熱を撃ち放つ。膨大な熱量がバハムートフに迫り、バハムートフは急加速してその熱線を躱す。
「ふぉぉお! ちょこまかと。竜子のミルドラン1号の力を見せる! クラスタービームぅ!」
いちいち声に出して、どんな攻撃を使うか教えてくれる竜子さんに感謝をしつつ、ネムもバハムートフにドンドコ力を集中させる。
「進化するのです。バハムートフ!」
さらなる幼女パワーを注ぎ込まれたバハムートフはその身体を変えていく。水晶でできた10枚の羽をはやし、白銀と白金のコントラストが美しい新たなるバハムートフへと。
クラスタービームが雨のように降り注ぐが、バハムートフは余裕で受け止め、弾き返す。
「無駄です! バハムートフ鍋式の力を見せちゃいます」
その頭には冠代わりに土鍋を乗せて、進化したバハムートフ鍋式は出現した。
「残虐な超竜なのね」
「カレーの人と同じにしないでください」
静香とネムのアホな会話もあったりした。




