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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
6章 自分の世界を見つめるキグルミ幼女
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113話 魔王軍とキグルミ幼女

 世界樹のような塩の樹。どこかの幼女が作ったパチモンの世界樹である。皆が世界樹、世界樹言うから世界樹だと幼女は記憶を改竄していたが、そういえば塩害を何とかするための樹だと、幼女は思い出した。


 暫く見てなかったけど、大丈夫かなと転移にて塩の樹に先回りしたネムは、ちっこいお口をアホみたいにぽかんと開けて、塩の樹を唖然として見ていた。


「あれって、塩の樹です?」


 細っこい人差し指を突きつけて、隣に立つロザリーへと信じられない思いで問いかける。だれか、嘘と言ってください。


「ネム様は久しぶりでしたね。そうです、あれが最近の世界樹ですよ」


「あ、そう……。あれが……。あれがねぇ……」


 巨大な樹は水晶でできているかのように、キラキラと輝いており、根本には土から吸い上げた塩が水晶に封じられて生み出されている。そこまでは同じだ。同じでないのは……。


「なにかが樹の周りに集ってます。羽虫?」


 半透明な塩の樹をネオンで飾り付けたように、赤や青や黄色や緑などの光を放つ球体がたくさんついていた。まるでクリスマスツリーの飾り付けみたいだ。


「そうです。精霊の愛し子たるネム様の幼女パワーを注ぎ込まれた世界樹は、その溢れんばかりの、実際に溢れている幼女エキスを吸おうと精霊たちがカブトムシみたいに集まったのです。私にも口移しで幼女エキスをください」


 最後の発言が不穏な変態エルフ娘が、むふーむふーっと鼻息荒く教えてくれる。幼女エキスって、私は花とかかな?


「なるほど。皆、豆腐が大好きですものね」


 精霊たちは私に気づいたら、まず挨拶をしてくる。この間喫茶店で会ったシルフもそうだ。おとーふ頂戴と愛らしい笑顔でしがみついてくるので、ついついプレゼントしちゃうのだ。その後にあのエルフたち悪巧みをしているよ、お代官様。とか、チクってくれたので、杏仁豆腐をあげたら、喜びで踊ってしまったシルフでもあった。


 どうやら塩の樹も同じようにと豆腐味がするらしいよと、アホな方向にネムは思考を向けて、ウンウンと納得する。なんでも豆腐にしちゃう幼女だ。


 驚いたけど、まぁ、良いかと気を取り直して、塩の樹の前方へと顔を向けると、柵周りで騎士たちが戦闘を繰り広げていた。幻獣たちが襲いかかってきたらしい。


 苦戦しているようだ。鋼の装備に身を包み、その力は普通の幻獣では相手にもならないはずなのに。


 幻獣たち。苦戦するのは当たり前であった。見るとオオカミや熊や虎、コボルドやオーク、体長10メートル程度の翼のない巨大なリザードや、二足歩行の翼を生やしたドラゴン、コウモリの羽を生やし鎌を振るう悪魔などが大勢攻め寄せていた。よく騎士たちは耐えているものだ。


「グアッ、身体が燃える〜! 世界樹の雫を使うぞ!」

「俺の腕が! くそっ、エリクサーを使うからな」

「魔力が尽きちまった。ハイエーテルを使うぜ」


 ドラゴンのブレスに焼かれて、大火傷を負った部隊が、世界樹の雫とやらを使用すると、あっという間に火傷はなかったように元に戻る。悪魔の鎌にて腕を切り裂かれた騎士がエリクサーを飲むと、緑肌星人みたいにウニュンと腕が生える。魔法を消耗を考えずに連射していた魔法使いがハイエーテルを飲むと回復したのか、再び魔法を放つ。


 回復アイテムを湯水のように使う騎士たちの姿がそこにはあった。ゲームでやられたら、魔王軍が涙目になることは間違いない。


「ふぉぉお〜っ! 我こそは竜魔王ミルドラン! 世界樹は頂いた〜!」


 強力な幻獣たちの群れの後ろ、ドラゴンたちが群れをなす中で、黒竜に跨った小柄な体躯の少女が叫んでいた。その顔は顔半分を隠す竜を模した仮面によりわからない。ドワーフの少女に見えるが正体は不明だ。不明だったら、不明で謎だ。


「クッ! なんて謎の敵! 遂に魔王が現れましたか! ならばこの私の出番です! そんな怪しい仮面を付けた魔王は、謎のゆーしゃのウヒャァー」


 仮面なんて被るとは怪しい格好をと、ネムはおててを握りしめて、白い紙袋に頭を突っ込んだ状態で前に出ようとする。謎のゆーしゃ、ロトーフだ。


 と、名前を名乗ろうとしたのだが、ネムの存在に気づいた精霊たちが蝗の如く群がってきた。幼女にびっしりと張り付くように。


「ぎゃあー! 気持ち悪いです。キャーキャー、餌はあっちだよ」


「キャーキャー、幼女よ!」

「精霊の愛し子よ!」

「おやつちょーだい!」


 精霊たちは、なにかおくれと、池の鯉みたいにお腹を空かせたように群がる。


 小さい精霊に群がられて、その気持ち悪さにパニクる幼女は、おててに杏仁豆腐を生み出すと、ぺいっと投げた。それに気づいた精霊たちが、一斉に空に投げられた杏仁豆腐を受け取って、群がると食べ始めるのであった。正直恐ろしい光景だった。幼女のトラウマになっちゃうよ、まったくもう。

 

 プンスコ怒って、頬を膨らませちゃう幼女であったが


「いつ貴様らは死ぬんだ、ずるいし酷いぞ、ちょっと!」


 竜魔王ミルドランがドラゴンの上で地団駄を踏んで怒っていた。


 なぜならば


 騎士Aは激しい炎により80のダメージ!


 騎士Aはエリクサーを使った。ひっとぽいんととえむぴーが満タンになった。


 騎士Bは痛恨の一撃を受けた。170のダメージ!


 騎士Bはエリクサーを使った。ひっとぽいんととえむぴーが満タンになった。


 倒れても倒れても復活しちゃう騎士たちであった。


 竜魔王が怒るのも無理はない。最高級回復薬を湯水のように使っておるのだから。


「ネム……何個エリクサーとかを渡したの?」


「カジノで交換したのをもちろん999個です。特上薬草とか、世界樹の雫、ハイポーションも999個ずつ。敵が現れたら騎士が死んじゃうので。お父様はちゃんと分配しておいたようです。良かったぁ〜」


 明後日の方向を見て、幼女は手を合わせて騎士たちが助かったのを喜ぶ。慈愛の微笑みは紙袋に隠されて見えないけど。


 魔王軍襲来イベントはぐだぐだイベントへと変更となっていた。でも、それも時間稼ぎにしかならないと、ゆーしゃロトーフは気づいている。


「一人が持っている回復薬は3つか4つのはず。これ以上は本当に殺されちゃうので、助けに行きますよ!」


 普通、回復アイテムはエリクサーではなくて、ハイポーションから使うものだ。エリクサーを使っている時点で切羽詰まった状態なのだ。竜魔王ミルドランがそれに気づく前に戦わなくてはいけない。


 なので、ゆーしゃロトーフは名乗りを上げて突撃しようと、てこてこと駆けだそうとしたが


「駄目ですよ、ネム様! その姿は駄目です。ネム様のイメージが崩れてしまいます!」


 ヒョイとロザリーに抱っこされてしまう。珍しくまともな忠告をしてくるので、よほど紙袋を被った幼女はアウトらしい。たしかにちょっと変かなと思ったけどと、ちょっとしか変と思わない幼女である。


「仕方ないです。それじゃあ精霊王を呼び出します!」


 紙袋そんなに駄目かなぁと脱いで、おててをあげて、学芸会のように声を大きく叫ぶように詠唱する。


「べんちゃら〜、べんちゃら〜」


 おててをフリフリ、腰をクネクネ振って、幼女ダンシング。この間のゴン太の儀式が気に入った幼女は真似をして、モニョモニョパワーを注ぎ込む。そのモニョモニョを見て、精霊たちは追加のおかわり? と小首を傾げるので、かりんとうトーフ風味を上げておき、魔法陣を作り出す。


 ゴゴゴとネムを中心に暴風が巻き起こり、空が真っ暗となっていく。バチバチと火花が散って立体状に魔法陣が描かれて、騎士たちはネムが少し離れたところにいるのに気づく。竜魔王ミルドランも、ただならぬパワーに驚きこちらを見て、部下に攻撃の指示を出すが、もう遅い。


「カムヒヤ、精霊王にして竜王バハムートフ!」


 もはや無理矢理名前に付けるアホな幼女はパチリと指を鳴らす……鳴らそうとしたけど、幼女の短い指では鳴らすことは不可能であったので仕方ない。


「パチリ」


 小鳥の鳴き声のような可愛らしい声音で、擬音を口にしちゃう。指が鳴らないから仕方ないのだ。アホなように見えるけど仕方ないのだ。どこかのダンディなおっさんと幼女を比べてはいけないと思います。ダンディだと信じているのは、おっさんだけとの噂もあり。


 跪き、おめめをとじて必至に祈るネム。その周囲に純白の粒子は舞い散り、精霊たちは宴だよと、踊り狂い、エルフ娘は激写ですと、高速連写モードでバシャバシャ撮影する。一見すると神々しい姿がそこにはあった。エルフ娘除く。


 魔法陣は大きく広がり、その中から白銀の鱗を持つルビーのような瞳を持ち、水晶のような美しい牙に、黄金の爪を生やす巨大な竜が姿を現す。


「我こそは竜王バハムートフ! 全ての闇を浄化する竜王なり!」


「精霊の愛し子たるネムが乗ります!」


 てやぁっと、空に浮くバハムートへと飛び乗ろうとして、幼女はぴょんぴょんジャンプした。その高さ10センチ。50メートルほど上に飛ぶバハムートには惜しいところで届かない。


 あとほんのちょっとなんだけどと、残念幼女。いつもどおりのアホな行動だが、今日は一味違うのだ。


「スクランブルロザリー!」


 でてってーと口ずさみ、ロザリーに抱っこされて浮遊の魔法で空を飛び、バハムートフの背中に乗り移る。以心伝心、アホと変態は心を通い合わせた。通い合わせてはいけないコンビが心を通い合わせて


 右手を伸ばして〜


 左手を腰に〜


 胸をそらせて〜


 きりりとしたおめめで〜


「精霊の愛し子、ネム・ヤーダ伯爵令嬢ここに参上。悪を討つために、精霊パワーを見せちゃいます。精霊パワー『ジゴクスパーク』」


 ピシッと参上。ネム・ヤーダ。どこかで聞いたような指示を出す。参上というか惨状かもしれない。


「ビガー!」


 幼女の指示に、可愛らしい声でバハムートフがブレスを吐く。稲光を数条にも束ねた暴雷が吹き荒れて、騎士たちと戦っていた幻獣たちを薙ぎ払う。


「うぬぬ。精霊の愛し子かっ! 私は竜魔王ミルドラン。貴様を倒して、その力を進化の力としよう!」


 ムキャーとドラゴンの上で地団駄を踏むミルドラン。


「この邪神の仮面を夢のお告げで手に入れた竜子に負けはない! 竜魔王ミルドランの力を見せてくれるわっ!」


 なんだか、混乱していそうな竜子さん。叫んでいるけど夢のお告げ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 是非、まんたーんドリンクっ!もラインナップに加えてくださいw
[一言] あら、バハムートフ? またレギュラーが増えてしまうのか。 それともハンスちゃんの真の姿って言い張るのかな。 ギャグみたいだが騎士達は命懸けで戦ってるし、頑張って助けよう。
[良い点] 月での最終決戦のインパクトで読者が完全に忘却していた竜子の再登場!(^◇^;)確かに伏線は張り巡らされておりました「世界を我が手に」とか息巻いていた竜子ならその資格はないワケじゃないですな…
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