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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
6章 自分の世界を見つめるキグルミ幼女

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106話 何でもエルフのものだと言われるキグルミ幼女

 ヤーダ伯爵の城内。賓客を歓迎するための応接室で、イアン・ヤーダ伯爵は苛立ちを隠さずに目の前のエルフと対面していた。精霊王国ユグドラシルの王子ゴン太だ。様はつけなくてよいだろうと、冷たい視線で睨むように見る。

 

 エルフの国が煙たがられている理由がよくわかる。なぜならば……。


「この文献によれば、世界樹の加護を得て、世界樹を護る使命を受けているのはエルフッス。この文章にしっかりと書いてあるッスよ」


 何やら怪しげな文献を取り出して、こちらへと見せてくるのだ。


「よって、この地の世界樹は我らユグドラシルが引き受けるっす。この地を譲渡するように、我らは正式に宣言するっす」


 と、訳のわからないことを言ってくる。本当に訳がわからない。ユグドラシルのエルフの噂は聞いていたが、皆こんな者たちばかりなのだろうか。


「ゴン太王子。その文章とはこのことか? 世界樹は大きかった。バイ世界一可愛らしい幼女」


 汚い文字で書いてある純白の本だ。古代の物らしいが、傷一つ、汚れもない不思議な本だ。たしかに物凄い魔力を感じるので、古代の物には違いあるまい。


「だが、この本、続きがあるみたいだが? ダークエルフを浄化したらエルフになりました。人間に戻すこともできそうですが、面倒くさいし、美男美女になったから遠慮しますと言われたので、ほーちしました。世界樹は枯れちゃいました。今度、朝顔を育てようと思います。おわり」


 まるで幼女の日記みたいな文献である。何か日記を書くのに飽きた感じもするのだが、気のせいだろうか?


「我々エルフは、その文章をこう解釈しました。神はエルフを創りたもうた。人間という存在にもなれるが、エルフたちは神のもとに生きてゆくと答えました。と」


「ダークエルフの部分がきれいさっぱり抜けているようだが?」


 どこらへんにダークエルフの存在は消えたのだろうか? だがイアンのジト目にも堪えず、ゴン太はフフンと胸を張った。


「そこは誤植だと解釈されています。字が暗号化されており、そこはエルフは神から聖なる力を承ったと解釈されております」


 はっきりとダークエルフと書いてあるじゃねーかと、ジト目になってしまうイアン。王子たちは見たいものを見て、都合の良い考えをするのが得意なようだと嘆息してしまう。


 だが、いつもの方法は無理だとも知っている。いつものエルフたちの手法。金や魔法の支援を山と積んで相手を頷かせる方法だ。


「世界樹を保護して、この土地を接収する。なるほど、それでは私は一文なしになれと?」


「安心するッス。エルフは公正で寛大っす。この土地の価値を計算して、大幅に上乗せして財宝を渡すっす。3代に渡って贅沢に暮らせるっすよ」


 得意げに言うゴンタにほほぅとイアンはニヤリと悪そうに笑う。その姿は山賊の頭の如し。


「ジーライ。ならば、ゴン太王子にこの土地の価値をざっと換算して教えてあげろ」


 横に待機していたジーライ老に視線を送ると、スキンヘッドの爺さんはわかりましたと、ニヤリと笑う。山賊の頭の右腕っぽい。この城は山賊のアジトと言われてもおかしくないだろう。


「え〜。それでは儂が説明いたします。まず聖剣エクスカリバー金額にして金貨10兆枚」


「はぁ? 10兆って馬鹿にしているんすか! そんなにするアイテムがあるわけ無いっす!」


 椅子から立ち上がり、顔を真っ赤にするエルフの小僧にフンと鼻を鳴らし、イアンはこの展開を予想して呼んでおいた長門商店の店主長門渚に視線を向ける。


 コクリと頷いて、ニヤニヤと長門渚は口を開く。


「本物ですにゃ。カジノの景品ですしね。他にも魔剣グラム。聖槍ゲイボルグ、へパイトスの槌に卵豆腐もおまけにつけます。ざっと100兆は超えますね〜。ユグドラシル国を売ったら買えるかもにゃんこ。他にもたくさんアイテムがあるので無理だとは思いますがにゃ」


「そんなわけ……え? 本当っすか? まじで?」


「うむ。本当だ。で、どうするのかね? たしか大幅に色をつけてくれるとか?」


 世界樹だけならば、金額はわからなかったかもしれないが、エクスカリバーとかは金額査定が簡単だ。カジノが復活していなければ、この土地の価値は高くともユグドラシルは買えたかもしれない。だが、今は無理だ。聖剣、魔剣、聖槍何でもござれなカジノがあるのだから。あのコインの設定は頭がおかしいので、誰も手に入れることは不可能だろうが。


「ぐぬぬ、そんな馬鹿な…がどこにそんな景品があるカジノがあるんっすか。……むむ」


 二の句も継げないゴン太王子。悔しそうにしてくるが、気にせずに腕を組み伝える。


「どうやらお帰りの時間のようですな? ゴン太王子?」


「……また来るっすよ! エルフの力を侮らないことっすね」


 エルフの軍団は悔しそうにしながらも、帰ってゆくので、胸を撫で下ろし安堵するイアンであった。正直、あの類は話を聞かないで、自分の意見ばかり言うので面倒くさかったのだ。




 ゴン太王子は家臣と共に街の喫茶店に入り、先程のことについて文句を言っていた。


「何なんっすか! おい、本当にこの土地のカジノはそんな馬鹿げた景品があるっすか?」


「はい……王子。少し前にカジノは復活。たしかにアホみたいな強力な武具が景品にありました。エクスカリバー1000億枚」


「それ、交換させる気無いっすよ! 屋台のくじ引きと同じッス!」


 ゴン太王子はその明晰なる頭脳でからくりを見抜き、バンとテーブルを悔しげに叩く。誰でも見抜けるかもしれない。どこかの悪魔使いを除く。


「たしかにそうだとは思いますが、この土地の値段を考慮するにあたり、景品も金額査定に入れなければなりません。残念ながら……」


 たしかにそのとおりだと、ゴン太王子は天を仰ぐ。ここで強引なことをすれば、辛うじてエルフは札束攻勢で物事を解決するという評判が、力押しで物事を解決するやばい奴らと思われてしまう。最初からやばい奴らと思われているとはちっとも思わないあたりに、エルフのヤバさがある。


「それにアタミワンダーランドの価値も高いです。異様なほど高価な魔石を落とすテーマパーク。あのテーマパーク一つで、ユグドラシルの財宝が半分なくなりますぞ」


「そんなにすっか………。う〜ん……」


 腕組みをしてこの困難なミッションをクリアするか考え込むゴン太。金で買収するのは無理だ、だが、ゴン太は来る途中で見た世界樹の美しさに惚れた。半透明な煌めく水晶のような大木。エルフの持ち物に相応しい神々しさだ。絶対に欲しい。


 あれこそが世界樹だと、ゴン太は確信した。見たことはなく文献のみの存在であった世界樹。それが目の前にあったのだ。エルフは必ず世界樹を手に入れねばなるまい。


 実際は世界樹ではないのだが、ゴン太は確信した。無駄にエネルギーを注いだ幼女のせいである。


 だが、このままでは絶対に無理だ。まさかの想定外である。


「こうなれば……あの方法しかないっす」


 ゴン太王子は決心した。多少悪どいことを行っても、バレないだろうし、父上も許してくれるだろうと。


「精霊魔法を使う。この土地を手に入れるのは諦めよう。だが、世界樹周りだけは我らのものにする。あの山賊が我らに譲るようにするのだ」


 その険しい目つきに、部下たちはゴン太王子が何をするかを悟り、周りを窺うように見渡す。これは聞かれたらまずい。


 喫茶店は大繁盛で多くの人々がご飯を食べており、その合間をチョロチョロと小さな幼女がトレイに料理を持って運んでいる。この店の子なのか、頑張り屋さんだ。他にも従業員が、なぜかバニーガールの格好を着て接客をしている。


 ゴン太たちがこの店に入ろうと決意した理由である。料理はまずいかと思ったら、美味しいので2度びっくりした。水竜ミート100%と書いてあるが本当だろうか?


 なんにせよ、こちらを見ている人はいない。バニーガールの胸元や太腿に集中している奴らばかりである。それと女子供は頑張る幼女を頭を撫でて可愛がっていた。


 本来はエルフの集団なのだから、目立ちまくり、周囲の人間はいつも見てくるのだが珍しいことだ。この店に来てよかった。バニーガール最高だ。


「まさか……あの魔法は禁忌ですぞ?」


 声を潜めて、念の為に精霊に静寂の障壁を作るように指示を出す。小さな妖精のようなシルフがコクリと頷いて、何か白くて四角いものを食べながら障壁を張った。


 これで周囲には声は漏れない。完璧にこの場所は隔絶された。エルフの精霊魔法の妙技だ。他の種族には決して真似できない。この満員御礼の店内で、隔絶した空間があるなどと、誰も気づくまい。


 召喚したシルフはいたずらものなのか、働いている幼女の耳をくすぐりにいったが、放置してもよいことだ。


「わかっているっす。危険な精霊だしな。だが、こんな時に使わねば、禁忌であるのに学んだ意味がないっす」


 口元を歪めて、触媒であるピンクダイヤモンドを懐からゴン太王子は取り出す。人の手のひらほどの大きさの宝石であり、強力な魔力を持つ触媒でもある。


「この宝石の魔力を使えば、まったく問題なく件の精霊を制御できるはずっすよ」


「やめる気はないのですね、王子?」


 最終確認をすると、顔を真っ赤にしてゴン太王子はテーブルに勢いよく手を叩きつけた。


「当たり前だ! あの美しい木を見たか? あれを人間に任せるなどと考えられん! っとと」


 あまりにも勢いよくテーブルを叩いたせいか、宝石がまるで糸に引っ張られるように落ちていった。


「あら? 落としたわよ?」


 通りすがりの黒髪の美女が宝石を拾って返してくれる。


「あぁ、すまないっす。これがなくなったら大変なことになってたっす」


「気にしないで。それじゃあ」


 黒髪の美女は店のものなのか、厨房へと歩き去っていった。どことなく妖しげな色香を感じさせる美女だったなぁと思いながら、ハッと気を取り直す。


「今夜、儀式魔法を使うっす。夢の精霊ムドンの力で夢の世界に入るっすよ。くくく。そこであの髭もじゃから世界樹を分捕るっす!」


 禁忌とされる夢の世界に入るとゴン太王子は含み笑いをする。夢の精霊が開く幻の世界だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に糸で引っ張ってそうだよね。 それにしても数秒で危険そうな宝石を感知してすり替えて保護するなんてすごいな!
[一言] エルフの王子の完璧な作戦 もはや伯爵家の命運はつきた・・・ ごんた「喫茶店スターズか密談にはぴったりな場所だ」 シルフ「こしょこしょ」 アホ幼女「ふんふん♪」 スリ店員「保護したわ」
[一言] なんてことだ! 宝石はすり替えられてしまったぞ。 もう悪い事が起きる予感しかしないなぁw
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