104話 完成体と出会うキグルミ幼女
ぽてぽてと地下を歩いていく。すでに最下層かなと思ったら違ったので、再度スタッフ通路に転移をしてから、エレベーターで最下層まで向かいました。チーン。
地下30階。簡単に最下層に到着できたので、るんたったと幼女はお気楽にスキップをしながら。
「プレートが怪しいですけど。とっても怪しいです」
通路のプレートには驚くなかれ、クイーンの間と書いてあります。不穏だね、クイーンって、美女さんが待っているんだよね? 幼女はそうだと信じているよ?
やはり分厚い扉をんせんせと苦労して開けてみる。なんで、こんなにどこも扉が分厚いわけ? 耐爆仕様だろ、これ。
こっそりと中に入ると、溶鉱炉みたいな部屋が存在した。なんだかでっかいゴブリンが鎖に巻かれて動けなくなっている。ジャラジャラと鎖の音をたてながら、なんとか逃れようとしている。最終面っぽい。
「えっと『雷豆腐』」
ちっこい人差し指を伸ばして、チュインとパリパリに揚がったお豆腐をプレゼント。空間を帯電させて、その頭をあっさりと貫いた。
「ていてい」
ピピッと連続で撃ち放ち、穴だらけにして倒しておく。私は知っている。幼女は知っている。こいつ倒したと思ったら、最後に現れるんだよね? 宇宙船を自爆させないと倒せないんだよね? なので、確実に倒しておく。
『激辛麻婆豆腐』
ツイッとおててを振り、爆炎の辛さを持つ麻婆豆腐にて、通路に置かれている無数の卵を燃やしておく。そうして、ちっこい体を丸めて隠れるようにキョロキョロと確認する。
「卵を燃やされて、怒ったゴブリンのボスが来ませんかね?」
「そうね。先にクイーンを倒したから大丈夫じゃないかしら?」
私はテンプレを知っているんだよ。きっと咆哮して現れる化け物が出てくると思ったんだけど……。
目の前は麻婆豆腐な溶岩で覆われて、グツグツと煮えたぎっている。うん、少しだけやりすぎたかも? 幼女反省。
「うひゃ!」
『クリアおめでとうございます! 中の部屋で記念品を持っていってね』
テーマパーククリアの表示とファンファーレが起きて、ぴょいんと飛び上がっちゃう。驚いた〜。幼女はサプライズに弱いんだよ。
スタッフが倒しても、クリアになるのね。ちょっと卑怯っぽいけど。
「まぁ、良いんじゃない? 記念品を貰ってから奥に行きましょう」
「ま、そうですね。なんか凄いアイテムだと思うんです。きっと主人公を強化するアイテムですよ」
豆腐力を強化するアイテムがあるんだよと、ふんふんと可愛らしい鼻歌をさせながら、倒したクイーンの後ろにあった扉を開く。豆腐を強化するアイテムとはなんなのか不思議なところである。醤油とかだろうか。
薄暗い部屋の中でそこにはガラスケースに仕舞われた記念品が置いてあった。とてとてと近づいて、背伸びをしてケースを開けて取り出す。
「これが最強のアイテム! 私は遂に手に入れました!」
「そうね、最強のアイテムね」
幼女は手にした物を持ち上げる。幼女と同じ大きさのアイテムだ。
「しゃぎょーん」
アイテムのおててを握って、叫んじゃう。フリフリとアイテムを振って、その重さに転がりそうにもなっちゃう。嵩張るので、幼女のちっこい体格だと振り回されちゃうのだ。
「しゃぎょーん、しゃぎょーん。デフォルメされていると可愛いですね」
「記念品だものね」
幼女はぬいぐるみを手に入れた! クイーンをデフォルメしたチャーミングに見えるかもしれないぬいぐるみだ。ちゃらら〜。
「可愛いかもしれないから、リーナお姉さんにプレゼントしておきます」
緑色のでっかいぬいぐるみ。背中にボタンがあって、押下すると鳴き声を出してお口をパクパクするタイプだ。
幼女はぬいぐるみを手に入れた!
「古代人って頭おかしいですね。そんなに強かったんですかね?」
エイリ、プレ、ゲフンゲフン。ゴブリンの群れやオークの群れを突破してこれかよ。いや、テーマパークとしては正しい記念品だけどさ。
「それ、私は思ったんだけど、もしかして古代人は物理的な攻撃を受けない相手だったんじゃないかしら? 精神体だけだったら、このテーマパークの敵の強さもわかるわ。そして不気味なところもね」
「あぁ、なるほど。精神体なら、心にダメージを与えるような刺激的な物しか面白くないでしょうね。なるほど……だから、テーマパークは基本的に恐怖を与えてくる仕様と」
静香の推測は理解できるよ。たしかに当たっているのかも。これまではスーパー野菜人みたいな人ばかりがいたと思っていたけど、精神体ならわかる。精神攻撃しか受けないなら、怖さしか求めないわけだ。……それならその精神体たちはどこに行ったんだろ?
「テンプレだと精神を擦り減らして自然消滅ですか」
「永遠を精神体で暮らすなんて地獄だものね。五感って大切よ」
「ご飯を食べれないと死んじゃいますからね。人は肉体を捨てて生きることはできないのです」
欲に支配されている、今日を楽しく暮せばいいと思っている幼女の言葉なので含蓄ありすぎであると言えよう。
んん? 今、なんか嫌な展開を思いついたぞ? もしかして完成体って……。怖い敵?
その考えを口にしようとした時であった。
「ようこそ、ストレンジャー。ここが君の……う〜ん……」
薄暗い部屋に、浅田艦長の声が重々しく響き……なんか様子が変である。
さらに後ろの壁がゴゴゴと重々しく音をたてて、開いていき、眩い光が目を刺す。
「ラスボスのお出ましですね、浅田艦長!」
おててを目の前に翳して、その光を防ぎながらネムは前を見据える。
そこは巨大な空間であった。浅田艦長が腕を組みつつ、首を傾げていた。
「なんだか、様子が変です! きっと完成品が予想と違ったんです!」
きっと浅田艦長の制御を逃れて暴走しようとしているのだろう。きっとそうだ。
「あの黄金のような物が完成品なのね。ちっ、黄金じゃないわ」
貴金属大好き幼女は金じゃなかったので舌打ちする。
浅田艦長の後ろには30メートルぐらいの黄金に輝くものが鎮座していた。強大な力を感じさせる。
「浅田艦長! 貴方のやぼーもこれまでです。精霊の愛し子たるネム・ヤーダ伯爵レージョー5歳が貴方を倒します!」
ビシッと人差し指を突きつけて、いつもより張り切る強気な幼女。世界の平和は私が守る!
「う〜ん、完成品だ。完成したのだが……。……う〜ん……何に見えるかね?」
神々しく黄金に輝くものを見て首を捻る浅田艦長。ふ、何を聞いてくるのか。幼女にはまるっとおわかりだ。プロフェッショナルですよ?
ぷるるんと揺れる黄金の光沢。
お饅頭のような形で柔らかそうな身体。
出来立てだとわかる、仄かな甘い匂い。
「卵豆腐です!」
しかも最高級品だ。私は前世で有名料理店で最高級品を食べたことがある。ただの豆腐でしょと、パクリと食べて驚いたものだ。その味は素晴らしいものであった。プリンのような滑らかさと程よい甘さと喉越し。出汁が入っているのかデザートではなく、一品料理だとわかる逸品だった。
正直、今までに食べてきた卵豆腐が偽物だったのではと思うほどの衝撃だったのだ。
豆腐マイスターな私はわかる。目の前の卵豆腐は、最高級品だと。私が豆腐マイスターなのだ。
強気な幼女の理由は相手が卵豆腐だからであった。勝ち目が見えてきたよ! もちろん、なんの勝ち目かはおっさんの脳内にしかありません。
「だよなぁ………。これが完成品なんだ」
「美味しそうですね! でも、負けませんよ!」
手にスプーンを作り出し、ぎゅうと握りしめる。頑張って食べるよ。幼女は少食だけど少しずつ。
きっと打ち切り漫画の如く、今もネムは卵豆腐を食べている。あの月面で……。とか、空にネムの顔が浮かんでいるんだよね。わかるわかる。
「ねぇ、ネム。私は理解したわ。貴女が選ばれた理由」
「な、なんですか? なんのことやら? 私が可愛いから?」
呆れる静香の声に挙動不審となる幼女。その目は泳ぎ、魚群が映し出されている。きっと大当たりだ。
「豆腐よ! 貴女が豆腐にばっかりこだわるから、敵もおかしくなったんだわ! おかしいでしょうが、この展開。本当は進化の結晶は魔力だったはずよ。それに合わせてルシファーとかが産み出される流れだったのよ、きっと!」
「言ってはいけないことを遂に言ってしまいましたね? 私もちょっとおかしいかな? と、思ってました! ゾーア辺りから、あれ? なんで豆腐勝負なのかなぁって!」
変だとは薄々思っていたよ! 敵の大ボスが杏仁豆腐の衣だもんね! 普通は闇の衣とかだもんね!
本来の流れは魔力の結晶を巡る壮絶なかっこよい展開だったのだろう。次元転移をし始めた当初は敵もマトモだった。おかしくなったのは、豆腐のせい? 幼女が豆腐パワーばかり使ったせい? 運命の流れを豆腐が押し流しちゃった?
イヤイヤと耳をふさいで、座り込む。幼女悪くないもん。豆腐は美味しいんだもん。
全ての元凶はネムであった。豆腐風味の世界に変えちゃった模様。幼女は弁護士を求めます。
醜い言い訳をする幼女である。あたちのせいじゃないもんね〜と、床をゴロゴロと転がって手足をパタパタさせちゃう。
「完成品が卵豆腐か……。たしかに全てを超越しているな。無限の命を持ち、何者にも囚われない存在だ。……本当かぁ?」
疑問の声をあげて、心底困った様子の浅田艦長である。長年の結晶が卵豆腐。
「ごめんなさいです。たぶん違います」
身体を丸めて土下座する幼女であった。
「でも、絹ごし豆腐を賢者の石に見立てるところからおかしかったと思います。あれは、かなりの無理がありました」
「あぁ、うん。わかってはいたが、な。あそこまで強大な力は二度と現れないだろうから、妥協したんだ」
本来は美しい神の力を持つ結晶を持って、笑いながら去っていく未来だったのに、絹ごし豆腐を手にして、笑いながら去っていった浅田艦長。妥協してはいけないところで、妥協してしまった弊害だった。
「これ、出来立てです?」
美味しそう。ぷるんとつやつやと美味しそう。
「うむ、出来立てだ」
「………」
「………」
無言で黙り込む面々。この空気をどうすれば良いのでしょうか。
「とりあえず、お土産にして帰ります」
「あぁ、腐ったら勿体ないしな」
完成品は月面テーマパークのお土産となった。
家族に大人気で幼女は嬉しかったです。マル。
卵豆腐が怖いです。落語のオチかな?




