100話 カジノの戦利品
7億枚以上手に入れたネムは、一旦コインをカジノに預けて、次の日に再び戻ってきた。もうカジノの話を聞いた冒険者たちがカジノをしている姿がある。
「今度こそ……ダブルアップ!」
アローラがポーカー台に張り付いている。ハマった模様。昨日からカジノから離れてないんじゃないかなぁ? 秘密結社パラソルのお給料としてコインを100万枚あげたけど。年俸だからね、そのコイン。なんだか湯水のように使っているけど?
「あ〜! ネムちゃん、あと100万枚ちょーだい! 来年分を前借りで! 50億枚まで増やして、悪魔全書と交換するんだ!」
アローラは空中に浮く換金アイテムを指し示す。エクスカリバー1000億枚とか表示されてるよ……。
無理だよ。無理ですよ。それ、交換させるつもりのないアイテムだから。屋台のくじ引き屋が見せるゲームのハードと同じだから! てか、そんな金額の交換アイテムもあるのか……。コイン大量に必要だなぁ。本当にエクスカリバーなんてあるのかしらん。パーじゃないよね?
ぐぬぬ。交換できるアイテムを見てから、スロットやればよかった。7億枚あれば、ガムガムの鞭も交換し放題だと思ったのに。
ポーカー台でダブルアップで1000億枚まで増やす……。どんな強運だよ。もう無理だよ。そこまで増やすの。メンテナンスの日を作って、私だけがカジノを楽しめるようにしないと増やせないや。
「どう考えても、あれは品物自体ないわよ。悪ふざけだわ」
悔しがっちゃう幼女に、呆れた声音で静香さんが言うが、やっぱりそうだよね。このキモは円じゃなくて、アタミの魔石を使わないといけないところだ。コインを買おうにも、全く魔石は足りないだろうし、永遠にエクスカリバーが手に入ることはないだろう。
「それじゃ、気を取り直して、普通にアイテムを交換するです」
「そうねっ! ネムは何にするの?」
一緒に来たリーナお姉ちゃんが、ネムとオテテを繋いでご機嫌に聞いてくるので、景品交換所に向かう。前世と違い、現金に変える三点交換はできない模様。あれって、永遠の謎だよね? なんでパチンコ屋だけ許されているんだろ。
ちなみに三点交換とは、貸し玉であるパチンコ玉をお店の金と交換、少し離れた場所にある金を現金に買い取ってくれるお店のことだ。グレーだから考えても無駄なので、止めておきます。
「コインの交換かしら? 好きな物を選んでね」
ウッフンとバニーガールさんがウインクする。この子は、他の子もそうだけど、悪魔と同じシステムで存在しているようで、不眠不休で働くようにインプットされていた。過去形だけど。
メンテナンス終了時にチラ見できたから、転移の指輪で管理者区域まで移動できるようになったのだ。こっそり夜ふかし幼女をやって、色々設定は変えておいた。残念なのは、貴重なアイテムが入っている箱は鍵も必要だったことだ。不正を働けないようにしてあったぽい。本当にエクスカリバーが入っているとは思えないけど。
魔法の鍵を使って開けようと静香に頼んだけど、土佐犬が唸るようにガルルと言われて諦めました。宝石類も入っていると思われるから、トータルで魔法の鍵も失っても、プラスだと思うのだが、そういう考えは関係ない模様。
設定の中で、週休2日に変えて、シフト交代制にしたから、バニーガールさんたちはホワイト企業になりました。バニースーツにはパラソルのマークが刺繍してある。ふふふ。大量の従業員ゲットだぜ。
さて、アイテム交換と。たくさんあるけど、エアコンなどもある。金額はぼったくりだ。たぶん定価の3倍ぐらい。
でも、当時の世界の定価だ。と言う訳で
『10000枚:魔石式エアコン』
『5000枚:魔石式コンロ』
『4500枚:魔石式ライト』
「とりあえずエアコンは家族用、お店用、客室用。コンロやライトもたくさんお願いします」
貴重なアイテムは交換できないけど、他は普通に交換できるのだ。お願いして、ドンドコ手に入れる。オートファクトリーって凄いよね。なんでも魔石を元に作ってくれるし。
バニーさんたちが、見かけによらないハイパワーでドンドコエアコンを持ち出してくる。
「安くアイテムを寄越しやがれ! グァァ」
冒険者がバニーガールさんに詰め寄っているが、頭を片手で掴まれて軽々と持ち上げられている。バニーガールさんはお色気担当なだけじゃないよ。たくさん豆腐を食べているので、その力はベテラン冒険者を簡単に倒せちゃうのだ。
ゲームでカジノのアイテムを奪えないのは魔王よりも強いバニーガールさんがいるからだ。
警備員もいないのにカジノを経営できるのは、バニーガールさんのおかげです。ありがとうございます。
「これで、もう安心です。真夏日でも涼しい暮らしになります」
もうアチチな夏の生活も終わりだ。わーい。
「あとは何にするの? まだまだたくさんコインあるわよねっ」
「お姉ちゃんは何が欲しいです? 私はあとはこの書物と機械にしておきます」
『1000枚:漫画詰め合わせ』
『1000枚:携帯ゲーム機』
『500枚:ゲームカセット詰め合わせ』
この書物って、中身はなんだろうね? ゲーム機はカセットとの呼び名が気になるけど…未来のカセットはきっと凄い性能のはず。
カジノの交換用景品。アホみたいに種類があったりします。車まであるよ? ぼったくり値段だけど。
「私はこの魔石式ライトソードを二本にしておくわ」
『10000000枚:魔石式ライトソード』
「はい。それじゃ交換しますね」
7億枚あるので問題ない。た、たぶん。家族全員の装備をひと揃えします。かなりの攻撃力アップ、防御力アップ、耐性アップになるでしょう。
「破邪の剣まぁくつーや、大魔道士の杖、ヘビーメイスなどもお父様たちのために交換しておきます」
2億枚程度を交換しておく。これで安心だね。
惜しむらくは、食べ物関係はまったくないところだ。ポーションはあるのに、日本酒はない。砂糖とかも。まぁ、食べ物関係はないかぁ。
武器も山と手に入る。鋼の剣はコイン1万枚、鋼の鎧はコイン1万枚と。これで騎士団も装備は安心だ。大量にゲットしておく。
「貴重な品は交換できないですが、これだけあれば充分でしょう」
「これでネムを守る装備は揃ったわねっ!」
「てへへ。私を守ってくれるなんてありがとうございます」
ぴかりんと、輝くような笑みを浮かべちゃうネム。精霊の愛し子を守るために装備を揃えるとあれば、私が用意しないとね。……まぁ、私の方が強いと思うけど。
「それじゃ、交換は終わりましたし、カジノで遊ぶです。コインはたっぷりあるので」
リーナお姉ちゃんとおててを繋ぎ、てこてことカジノをあとは楽しむ幼女であった。
夜中である。お城のマイルームにてエアコンが入ったので、冬用の毛布に包まれて、ネムは贅沢ってこれだよねと寛いでいた。夏に寒い部屋にして毛布にくるまるのは最高だ。電気代の無駄でしょと怒られることもない。コロリンコロコロ。
むふふと可愛らしい笑みを浮かべながら、コロコロと転がっちゃう。全て順風満帆だ。たぶんね。
「で、もう何もしなくても贅沢に暮らしていけるでしょ? 黙っていても、この街は発展するし、あとは宝石を買い集めるだけね」
静香さんか、宝石を磨きながら聞いてくる。
「最後の発言が文脈に合っていない感じはしますけど、たしかにそうです。携帯ゲームがクソゲーの詰め合わせでしたけど」
挑戦状や天使村とか、私的にクソゲーです。天使村はレッドデーモンが倒せません。カセットって、やっぱりカセットだったよ。新しい携帯ゲーム機が欲しいです。漫画は種類は豊富だったけど、全部1巻しか入ってなかった。罠である。1巻だけ無料にしてあとは買わせようとする電子書籍の罠と同じだ。気になって買っちゃう時があるんだよ。
……当初の目的は達成したようで、達成していないような? あれぇ?
アホな幼女はコロンとベッドで転がっちゃう。幼女なので愛らしさしかない。おっさんの場合は、粗大ゴミ行きだ。
「で?」
再度の確認をしてくるので、ため息をついちゃう。わかってますって。
「浅田艦長は放置できませんけど、月ですかぁ。目視できるので転移可能ですが、これ嫌なパターンですよ」
「フフッ。月での戦いって、だいたい悲惨な終わり方をするものね」
「主人公が敵と相打ちになったりしますもんね。……やっぱり放置しておきませんか? 浅田艦長はきっと完成体を造って満足するタイプですよ」
行きたくない。とっても行きたくない。完成体とか、凄い強そうなんだもん。
「そうね。彼はきっとそれで満足すると思うわ。なんと言っても機械だしね。目的を達成したら、停止する可能性すらあるわ」
悪戯そうに小悪魔幼女な静香は見つめてくる。わかってる。小説やアニメでそういうのたくさん見てきたよ。
「どうせ、完成体が世界を支配するのは私の役目だとか言い始めるんですよね? 完成体になったので、スローライフを送りたい。とか、完成体が言うと思います?」
「完成体の中に転生した魂が入ったのなら、可能性はあるわよ」
「微粒子レベルの答えをありがとうございます。転生した魂が調子に乗る可能性もありますよ。スローライフを送りたいとかほざきながら目立つ内政チートとかするんですよ、きっと」
そうしてハーレムとかを作っちゃうのだ、きっと。ハーレム……男の夢とか言われているけど、地獄の間違いだと思います。
駄目だ。ダメダメだ。どう予想してもろくなことになりそうにない。放置したらしたで、バットエンドに直行しそうだし。
まぁ、これも転移の指輪を手に入れたせいだ。
「静香さん、この指輪を作った人、天才ですね?」
「なぜ?」
不思議そうに静香は首をコテンと傾げるけど、気付いているのは丸わかりだ、口元が笑っているよ?
思ったのだ、私が転移の指輪を手にして人外の力を手にした。なら、なぜ静香さんは、私と同様の力を手にしていないのかなって。
「この世界を救うために、指輪を扱える人の所に向かうようにこの指輪は作られました。静香さん、嘘つきです。最初からこの指輪を使ったことがありませんね?」
どこの誰かは分からない。だが、世界を救うために指輪を作った人がいて、その人の元に持っていくのが静香さんだった。
最初の出会いから仕組まれていたものだったのだ。目の前の幼女は詐欺師であったのである。
「アホな幼女のままでいましょうよ。考えても仕方のないことってあるのよ。特に神様の考えていることなんてね」
「それも嘘ですよね? まったくもぅ」
真実はどこにあるんだろうねとため息をつくが、わかっていることはある。
「自分の世界を救いに行きます」
きっと最終的な目的はそこにあったのではないかと思うのだ。ぼけたおじいちゃんに引導を渡さないとね。
転移の指輪がその考えは当たっているとでも言うようにキラリと光った。ちくしょー。幼女保護法はどこかな?




