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キグルミ幼女の旅日記〜様々な世界を行き来して、冒険を楽しみます  作者: バッド
1章 水の世界のキグルミ幼女

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10話 最初の世界に行くキグルミ幼女

 ネム5歳。腰まで伸びている銀糸のような滑らかな銀髪、宝石のようなパチリとした銀のオメメにすっきりとした鼻梁、淡い花バラのような唇。薄幸そうな美しい儚げな顔立ち。小柄な体は触れば折れそうな華奢なほどで、深窓の幼女と言えよう。


 中身は悪魔よりも酷いと言われているおっさんの魂があるという、幸運から見放された幼女だ。常に世界平和と人類が幸せになりますようにと祈っている聖女みたいな心清らかな幼女であり、最近はなんと高位の精霊の加護を受けたとも専らの噂である。


 ネムの紹介におっさんはいらないと思うのだがどうだろう。


 そんなネムは精霊と言い張る詐欺な宝石幼女静香と共に旅立とうとしていた。別に魔王を倒しに行くとか、神様から試練を受けに行くわけでもない。日帰りで、ちょっと旅行に行くだけの話である。


 ただし、別世界という括弧書きが入るのだけれども。


 家族には精霊界にてアイドルをしてきますと嘘をついてある。ふぁんたじ〜の世界で良かった良かった。怪しすぎる話であるからして。


「ねえ、ネム? 本当に大丈夫? お姉ちゃんもついていこうか? 危ないと思ったらすぐに帰ってくるんだよ?」


 ネムをぎゅうと抱きしめてくるのは、姉のリーナ。いつもは勝ち気そうな表情も心配で暗い。


「リーナの言うとおりだよ。静香様、僕たちがついていっては駄目なんですか?」


 長男のクリフも心配顔でついていきたいと言うが、この話は何度もしたのだ。変わることはないよ。


「駄目よ。精霊界は本当に清らかな心を持つ者以外は入れないの。ごめんなさいね?」


 静香がちっこい肩をすくめて答えるが、本当にそうだった場合はネムはもちろん静香も出入り禁止となるだろう。熨斗をつけられて返品されるのは確実だ。


 小悪魔のように平気で息を吐くように嘘をつく静香。だが、周りは仕方ないと諦めて……。


「ロザリーさん、駄目ですからね? ネムを掴んでも駄目ですから」


「そこをなんとか。幼女界に私も行きたいのです。ネム様のお手伝いもありますし」


 ロザリーがさり気なくネムの袖を掴んでいたりする。幼女界ではなくて精霊界だろ。なんだよ、その紳士たちの夢が実現したような世界。


 静香が幼女姿だったので精霊界は幼女精霊ばかりいるとロザリーは信じた模様。危険極まりないので、牢獄に繋いだほうがいいかもしれない。


「ロザリー邪魔するのではない。夕方には戻ってくるのだ」


 イアンの注意に渋々と裾を離してロザリーはようやく下がる。


「気をつけるのですよ、ネム? 精霊の機嫌を損ねないようにね?」


「はい、母様。精霊のご機嫌が悪くなることはしません」


 おっさんが中に入っていることがバレたら機嫌を損なわれることは間違いないネムはふむんと力強く頷く。なにしろ自分の行き先に精霊はいないので、大丈夫。


「まぁ、任せなさい。準備は良い、ネム?」


「大丈夫だ。問題ない」


 ニヒヒと悪戯そうにネタに走るネム。そのセリフに静香は苦笑するが、本当に準備はオーケー。


 背には小さなリュックサック。中には干し肉と水袋。あと汚れたとき用のお洋服。日帰り旅行なのだから安心だ。行き先も安全だろうし。


 行き先が安全だとは限らないのに、勝手に安全な世界だと考えているおっさんである。まぁ、会心の一撃を受けてもダメージゼロとなる幼女なので、危険な世界となるわけがないと思うのだが。


「では、しゅっぱーつ!」


「宝石と黄金の世界へ!」


 ネムがおててをあげて、静香が本音を口にする。そして、ネムが願う先はというと……。


『携帯ゲームのある世界』


 と、ネムの願いを感知した指輪により、行き先が映し出された。


「ねぇ、ここは我が家を助けるために財宝溢れる世界を願うんじゃないのかしら? なんで携帯ゲームのある世界なの、ネム?」


 怒りから顔を近づけてきて、小声で囁きながら頬を引っ張ってくる静香に、慌ててネムは弁解する。


「違うんです。願ったんですけど、炊きたての白米が食べれる我が家が貧乏って、イメージ湧かなくて。深層意識の願いを読み取られたみたいです」


 炊きたての白米を食べれるのだから贅沢だよと、深層意識で思ってしまい指輪はネムの願いを叶えてくれなかった模様。安いおっさんの魂が邪魔をしているのだった。


 そして退屈から、携帯ゲームが欲しいよなと、願いを考えたどうしようもない幼女である。


「ん? どうかしたのか?」


 様子が変だなとイアンが声をかけてくるので、オホホと静香は笑って肘でつついてくる。


「仕方ないわね。まぁ、最初だし簡単に手に入りそうだしね。良いわ、そこに行きましょう」


「あらほらちゃっちゃっ〜」


 古いアニメのセリフを口にしながらネムは指輪を翳す。キラリと光輝き、二人の幼女は世界を移動するのであった。


 携帯ゲームのある世界へと。






 地平線の先まで水が広がっている世界。なだらかな凪いでいる海上を鋼鉄でできた巨大な艦が移動をしていた。船底は僅かに海面から浮いており、ゆっくりと移動している。


 その艦は全長1キロはある超弩級の艦であった。艦に比べると玩具のような砲台や機銃が取り付けられており、戦艦かと思いきや、甲板には無数の掘っ立て小屋が積み木のように積み重なって砲台の隙間に建っていたり、畑ができており、万国旗のように掘っ立て小屋の間に洗濯物が干されている。


 そこには大勢の人々が住む生活臭があった。現に大勢の人々がそこかしこを走り回っていて……。


 砲台から砲弾が轟音を響かせて発射され、機銃がタラララとひっきりなしに射撃をしていた。


 艦の艦橋にて、その様子を見ると何が起こっているか理解できる。30メートルは全高がある小山のような岩島がぷかりぷかりと艦の周りを存在し、さらに小山のような島の周りに5メートル程度の岩が海面に浮いていた。


 いや、その岩山はよくよく見ると動いていた。小山のような岩島も同じようにじわじわと艦に近づいている。


「浅田かんちょーーう、駄目ですぜ、奴らどんどん近づいてきまさ!」


 大勢の人間が忙しく走り回り指示を怒号と共に出す騒がしい艦橋にて、双眼鏡で周囲を見ていたねじり鉢巻に、汚れたシャツと古びた工事用の作業ズボンを履いた筋肉質の初老のおっさんが叫ぶ。


「ちっ、徹甲弾は効き目はないのか?」


 端が破れた海軍艦長の帽子を被り直し、首元まで伸ばした白髪の髭を触りつつ、汚れてほつれもところどころに見える海軍の青い制服を着崩して着ている男が怒鳴る。浅田艦長と呼ばれた中肉中背の老人。眼光鋭くまだまだ生命力に溢れていそうな爺さんは、確認をとるが、期待の持てる答えはなかった。


「駄目でさ! 甲羅を砕いてはいますが、怯んだ様子はねえ! このままぶちこみ続ければ倒せるかもしれやせんが、砲門が限界に先に陥りますよ。もう俺たちと一緒でロートルですから!」


「くそっ、水神の加護はまだ残っていたはずだったのに……おかしいだろっ」


「この間、寄港したサカイポートでエネルギーを抜き取られたみたいですよ。村上の奴らにやられやしたね」


 悔しそうに言う見張りの男の言葉に悔しそうに顔を歪める。あの時の検問はたしかに変だった……。やけに時間を食ったのだが……。たしかに村上水軍の奴らがうろちょろとしていたのを確認していた。


「後悔しても仕方ないか……。エンジンが焼ききれても構わんっ! 機関長にフルパワーでこの海域を脱出するように伝えてこいっ。このままじゃ、鉄島ヤドカリの餌にされちまうからな! 渚っ、伝令に行ってこい!」


 艦橋で立っていた少女に、浅田艦長は怒鳴ると、指示を受けた少女はぴょんと飛び跳ねて長細い尻尾をピンと伸ばして返答する。


「了解ニャ! 渚、お魚を見つけた時と同じぐらい速く走って機関室に行くニャ!」


 ピンと張った三角形の猫耳に、長細い尻尾を生やした日に焼けた褐色肌の少女。今年で15歳になる年若い猫人の少女は色の抜けた茶髪のショートヘアを振り乱し、かすかに口元から覗いて見える牙をキラリと輝かせて駆け出す。


 元気いっぱいの活発そうな顔立ちの美少女は艦橋の窓縁に足をかけると、艦橋の窓から伸びているロープに取り出した滑車を掛けて握りしめる。


「ニャッハー」


 掛け声をあげて、恐れを見せずに窓から勢いよく飛び出す。掴んだ滑車を使い、ロープを滑っていく。


 滑車が滑るシャーという心地よい音と、潮風が強く顔に当たり気持ちいい。これが平和な時ならば良かったのだがと渚は機関室付近まで張られたロープを滑り落ちながら眼下を焦りながら見下ろす。


「長門の砲弾がほとんど効いていないニャッ。なんて硬さにゃ」


 戦艦長門の誇る60口径55センチ3連装。ほとんど使用したことはなく渚も発射されたのを見るのはこれで2度目の砲台。轟音を響かせて砲が火を吹き、その衝撃で周りの掘っ立て小屋は倒壊していく。強力なその砲弾はどんな魔物でも倒せる無敵の火力だと思っていたが、その攻撃は小島のように大きな鉄島ヤドカリの甲羅を僅かに砕くだけに留まっていた。


 その数は10頭はいる。その周りの子供ヤドカリの鉄岩ヤドカリ300頭。ハリネズミのように搭載された機銃がばら撒く鉄の嵐を受けて、吹き飛んでいくが、やはり硬いらしくかなりの弾丸を集中して攻撃しないと倒せないために、鉄島ヤドカリよりも素早い鉄岩ヤドカリは艦に取り付いてきそうだ。


「バラバラにされて餌となっちゃうのはお断りニャね」


 ようやく機関室の麓が見えてきたので、滑車を手放して、ニャンとウルトラニャンニャン回転とくるりと回転して床にスタンと降り立つ。周りでは機関砲で撃ちまくる味方。無駄な可能性は高いが自動小銃で他の仲間も鉄岩ヤドカリを狙い撃つ。


 鉄の床をカンカンと音をたてながら、渚は一気に加速すると戦っている仲間の間を縫うように移動して、機関室へと続く階段を急いで駆け下りる。


 階段を降りて通路に入る。無理をしているからだろう。ギシギシと音が周りの壁に張り巡らせているパイプからしてきて、シューシューと蒸気が漏れて熱い空気で汗が流れていく。


 しばらく駆けていくと、分厚い鉄の扉が開けたままであり、そこを急いで潜り抜けると、熱気でサウナのような機関室に辿り着いた。


「機関ちょーう。艦長がエンジンフルパワーにするようにって。焼ききれてもいいそうニャン」


 中で働く上半身裸のむさ苦しい男たちへと叫ぶように伝えると、いかにもベテランといったおっさんが怒鳴り返してきた。


「もう反重力エンジンは限界だっ! 燃料が全然足りねーんだよっ。水晶持ってこいって馬鹿艦長に行ってやれ!」


「次の港で補充するって言ってたから、ニャいよそんなの! 速くしないと鉄島ヤドカリに取りつかれて全滅ニャ、っとと、ニャニャニャ?」


 言い返す渚であるが、大きく艦が揺れて身体がふらつく。なんだろうかと焦りながら周りを見渡すと、ギシギシと音をたてて、外壁が軋みをあげていた。大きな凹みができている。まるで砲弾でも受けたかのように。


 嫌な予感がすると思った次の瞬間


 ドカン


 と音がして、外壁がひしゃげて穴が空きなにかが飛び込んできた。鉄がひしゃげ、扉が吹き飛び内壁も大きく歪んでいるのが目に飛び込んでくる。土埃が舞い上がり、視界を塞ぐ。


「ゲホッゲホッ、いったい……」


 一体何がとは口にはできなかった。鉄の塊が目の前にはあったからだ。その鉄の塊からうぞうぞと外骨格の多脚と巨大な鋏、そしてヒクヒクと触角を動かす海老のような頭が出てきた。


「鉄岩ヤドカリだっ! 野郎っ、自分を砲弾化してきやがったか!」


 側に立つ仲間が慌てたように悲痛の声をあげる。ここにいる者は皆非武装だ。小銃でも倒すのが困難なのに、素手などその末路は見えている。


 ウゾリと黒光する鉄の甲羅をテカらせて、鉄岩ヤドカリが動き出した。最悪なことに一番近いのは自分である。ゆっくりとした動きでハサミが自分を切り刻もうとするのを眺めて、自分はここで死ぬのかとぼんやりと思う。せめて肉を一度食べてみたかったと思いながら迫る自分を簡単に切り裂くことができるハサミが近づいてくるを見て、諦めて……。


 目の前が急に光り輝き、その眩しさに目を細める。


「ケータイゲームを追いかけて、それいけそれいけ、幼女〜ズ、へいへいっ。幼女〜ズ」


「ネム、貴女の歳がバレるわよ?」


 目の前に美しい白銀の髪の幼女と黒髪の幼女が現れた。銀髪の幼女は鈴の鳴るような声音で口ずさみながら、腰をかがめてクネクネと動かし、おててをフリフリさせており、その儚げな容姿と違ってアホっぽそうだった。


「な、何ニャ?」


「あ、上手く転移できたみたいですよ、静香さん。別世界転移って少しタイムラグありますね」


 こちらの声に気づいて、ニコリと白銀の幼女は笑いかけてくる。こちらの方向を向いて現れたので、後ろの鉄岩ヤドカリには気づいていない。


「文明高いみたいです。携帯ゲームって、どうやって貰えますかね? 幼女48の必殺技の一つ、駄々っ子ウルウルモードの術で貰えるですかね?」


「さぁ? あまり文明度が高いとお金って稼ぐのは大変よ? 特に私たち幼女だし」


 こちらを見ながら呑気に話す幼女に、渚は口を大きく開けて、後ろを指し示す。


「幼女後ろ〜っ!」


 え? と幼女たちが戸惑って後ろに振り返り


 鉄岩ヤドカリのハサミがギロチンのように幼女たちへと振り下ろされるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幼女の中のおっさんがおっさんですらなくおじいちゃんだった疑惑が。 人間五十年そろそろ成仏しましょう(提案
[一言] 同じ世界の別の場所っぽいかな? 携帯ゲームといっても世代ありますよね。 ゲームウォッチじゃしょっぱいなぁ。
[一言] 転移先でうっかり分解されて核しか残らなかった静香の失敗を忘れてしまった幼女たち。
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