ハッピーエンドの始まり
2年7組の教室へと到着した。
ごく普通の教室を前に青馬が口を開く。
「なぁ親友、意外と普通だな教室」
「そりゃそうだろ、普通じゃない教室なんて普通は存在しないからな」
「オラぁてっきり窓ガラスが全部割られててダンボールとガムテープで補強されてて、カーテンがビリビリに破けてて落書きまみれの机がぐちゃぐちゃになってるもんだと思ってたぜ」
「いやそんな訳ないだろ」
コイツどんな不良漫画を見たんだ、ご◯せんか?ク◯ーズか?
それに、去年1年間高校の教室で過ごしたよね?1年上がるだけでそんな不良教室になる訳ねぇだろ。
「そっかぁ」
なんで残念そうなんだよ。
「まぁもしかしたらクラスに不良が居るかもしんねぇぞ?親友」
いねぇだろ、多少の不良少年はいるかも知れないけどお前が期待してるようなガチガチの不良は今頃いねぇぞ?
「青馬、取り敢えず席に着こう、いつまでもここで喋ってると邪ッ、」
「邪魔だオラァ!中途半端な場所に突っ立ってんじゃねぇ、こ◯すぞ!」
い、いたよ。
マジかよいるのかよ不良、まじでリーゼントじゃないか。
「おお、親友!!本当に居たぜすげーぜ!天然記念物だぜ!写真撮ろうぜ!」
やめとけ、こ◯されるぞ。
「す、すまんすまん、今席に着くから。
…青馬、取り敢えずここは席に着くぞ…」
「…おうわかったぜ…
悪かったなにぃちゃん」
そう言ってザ・不良の前から立ち去ろうとしたところ。
「あっ」
不良がなんか言った。
「え?」
振り返り俺がそう言うと。
「あっあっえ、ささ、さっさと席につけやコラァ!!」
あれ、俺なんで怒鳴られた?
訳がわからなかったが席につけと言われたので席に着いた。
「で、お前は席に着かんのか?」
なぜか席に着かず俺の隣に突っ立っている青馬に聞いた。
「いや席わかんねーんだよ、誰も教えてくんねぇし」
「黒板に席順が書かれた紙貼ってあるだろう」
「え!あれそうだったのか?でもどうやって読むんだ?この文字」
「いや漢字が逆さまになっただけだろ」
青馬は教卓から見た席順の紙すらも解読できないのか。
「ああ!なるほどな親友!助かったぜ親友!席に着くぜ親友!」
いちいち親友親友言うな、勘違いされるだろ。
俺も席に着いて一息つく。
それにしても馬鹿の、いや鹿目青馬の相手をするのは疲れるな。
取り敢えず辺りを見回してみる。
まぁ今の所見た感じは普通のクラメンだろう、もう既に変な奴は2人ほど居るが。
青馬とかヤンキーとか。
あとは吉田さんが居るくらいだな、彼女は俺の一番嫌いな人種なのでなるべく話したくは無い。
と、吉田さんと目があった。
すると顔を赤くして、すぐにそっぽを向いてしまった。
あざとい。
そう、こう言う思わせぶりな行動が大嫌いなのだよ、やめたまえ。
吉田さんへの意識をシャットダウンした後、俺は隣の席に目を向ける。
右隣が内田さんと言う女の子、左隣が中村龍二という男だ。
俺は迷わず中村に話しかけた。
「俺、東雲恋太郎って言うんだけど宜しく」
見ると中村龍二は、名前のイメージとは裏腹に、すげーガリ勉っぽい感じのメガネをかけた青年だった。
「え?あっぼ、僕?」
俺はウンと頷いてやる。
「あ、あの僕は中村龍二って言います、宜しくお願いします」
そう言って若干詰まり気味だが挨拶を返してくれた。
なんか思わず助けてあげたくなっちゃう様な感じだな。
「これから1年間宜しくな龍二」
「あっこ、こちらこそ宜しく東雲くん」
一生懸命さが伝わってきて、なんか良い。
「なぁ龍二、今日ってこの後HRがあって大掃除して解散だろ?」
「う、うんそうだよ」
俺は親睦を深めるためにこんな誘いをした。
「じゃあ放課後カラオケでも行かね?」
そう言ったのだが。
「ご、ごごご、ごめん!とっても嬉しいんだけど、今日はこの後塾だから行けないんだ、ごめん」
と、言われてしまった。
そんなに謝らなくてもいいのに。
でも残念だなぁ、そう思っている時チャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン……
2時間目開始の合図だ。
出歩いて話をしていたクラスメイトもチャイムを聞き1人また1人と席に着いた。
ガラガラガラ
教室の扉が開く。
関わった事のない先生だからか、全員とても静かに先生が入ってくるのを行儀よく待っている。
そんなの今だけだろうなと思いながら、俺も扉の方を見つめる。
カッ カッ カッ カッ
そんな靴音を立てながら教卓へと進んでいく女教師。
見るからにきっちりとした服装で仕事が出来そうな感じの彼女は、堂々と胸を張って歩きながら…
ガン!!
と、教卓に左の腰骨を強打してしまった。
それでも痛がる姿勢を見せまいとしていた様だが、俺たち生徒から見たら全然隠せてない、めっちゃ痛そうな顔をしている。
実際めちゃめちゃ痛いの我慢してるんだろう。
めっちゃ可愛いなこの人。
数秒間無言の時間が流れ、痛みに慣れてきたのだろう、先生は何もなかったかのように話し始めた。
「皆さんこんにちは。
今日から1年間2年7組の担任を勤めることになりました、水瀬夏海と申します。
私はこの学校に来て初めて担任をするので、拙いところもあると思いますが、精一杯頑張りますので宜しくお願いします」
すると誰かが拍手をして、連鎖的にみんな拍手をしだした。
俺もなんとなくしているがなんなんだこの拍手は。
「それと皆さん、今日から転校生がうちのクラスへ来ます」
その言葉にクラス全体がほのかに騒めく。
女?男?
めっちゃ可愛い女の子来ないかなぁ
イケメン来い!
などなど、様々な声が聞こえる。
「それでは入ってきてください」
ガラガラガラ
その声の後に教室の扉が開く。
それからその子はゆっくりと先生の隣へ歩き出す。
周りから、
え?マジで?、あれって…など驚きの声が聞こえた。
だが俺は声すら出なかった。
教卓の横に辿り着き、お手本の様な綺麗な字で黒板に名前を書き終えると、彼女は振り返ってこう言ったのだ。
「はじめまして、東京から引っ越して来た千波 雫です。これから宜しくお願いします」
何故こうなったかは理解できないが、一つだけ言いたい事がある。
俺はその言葉を心の中で泣きそうになりながら叫んだ。
(神様…、本当にありがとう!!!)