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今日から学校と仕事、始まります。②莞

人なんか信じてるからだよ

作者: 孤独

「ぎゃはははははは!!うはぁ、ははははは、腹いてぇぇっ!うへへへへへ!!」


朝から雨が降る中でのお仕事。

外で働く者達にとっては今日はキツイ仕事になると分かっているのに、なぜだか木下は朝から大爆笑していた。他の連中の大半はふざけるんじゃねぇって、思っている中での爆笑は異質でしかない。

そんな笑いに、少しは抑えてくれと思ってか。先輩相手に


「木下さん。笑っている場合じゃないですよ」

「わりぃわりぃ、さね。でもよぉ、うひひひ。ざまぁねぇな。はははは、矢木の野郎!もう、面白ぇ事を言いやがるもんだからよ。お前も土曜日聞いてただろ、さね

「……まー、そりゃあ。分かってますよ。ともかく、矢木さんが今から来てくれるだけでも良しと思いませんか?」

「いやー、ダメだわ。来たら速攻で煽ってやるわ~」

「ほどほどにしてくださいよ」


もう感覚が麻痺してるな。



◇         ◇



話しは2ヶ月ほど前から遡る。


「えーっ、2週間後に新人が入ってくる。大事に使ってくれよ」


人手不足の影響はこの会社にも現れた。

現在、さね達のチームは3人ほど人員が足りておらず、一日をなんとか回すために休みを削ったり、かなりの残業をして回している。サービス残業も含めてだ。そんな中で上から1人、新人さんを入れてくれるお話。大事になってくるのは


「誰が教育係をやります?」


2週間後にやってくる人に仕事を教える係。とても大切な役目である。


「私が引き受けますか」


さねとしては、正直。いろんな業務をする立場に、教育係なんか付けられたくない。教育係をするからその他の雑用を他に押し付けたい条件を出すだろうか。そんな中


「実、ムリすんな。俺がやってやるよ」


さすがに実が倒れたらマズイのと、ベテランとしての威厳的な意味で名乗りをあげたのが木下。しかし、


「はぁ?木下さん、あんたは指導係をやんな」

「なんだと、矢木?」

「だって、俺を教えたのはあんただけど。酷すぎる教え方だった」

「ほー。そーいう事を言う?」


生意気な後輩め。確かにすでに矢木の仕事の腕前も中々のものであり、一人前どころか二人前の働きをする。木下が年上とはいえ、現場の実力者の声には敵わない。


「いいですか、矢木さん」

「ああ。……まぁ、俺とその新人を同じ休みにしてくれ。1ヶ月くらいかな」


新人が来るから勤務に余裕が出る……と言えるのは、その新人が一人前になってから。指導をするための人員配置も含めて、再び勤務を作り直すことに。矢木の要求は、新人側から見れば叶っているが、矢木の本人の希望としてはあまり叶っていない。


「ここ、矢木さんは12連勤になりますけど。大丈夫ですか?」

「……まぁー、やってやるよ。新人が一人前になりゃあ、お釣りが来る」

「おーおー、そうだそうだ。矢木。偉そうな事を言った以上は、目一杯働けよ」

「木下さんは15連勤をお願いします」

「なぬ!?俺もそんなに働くの?」


新人さんは週5日の勤務になるのだが、矢木がいないと回らない日もあるために休みを飛ばしてもらう。木下達も同じだ。とにかく、新人に仕事を教えるため、仕事ができるようになるため。一日に勤務する人間を多くする代わり、休みを削る作戦で決まった。

正直、1週間は今よりキツイ状況になるが、みんなはひとまず納得。

あとは新人さん次第……。


「矢木、1つアドバイスをするが。あんまり優しく教えるなよ」

「あんたはいい加減過ぎるんだよ」


勤務を見た感じ、新人優遇の勤務指定だ。矢木の意見には概ね賛成はしている木下であるが、ちょっと過保護なんじゃねぇーのって思っている。


「仕事ができるようなアドバイスもタメになるけど、結局は本人次第。俺達が言った事を新人が理解できなかったり、間違えたりしたら俺達が疑われるんだ」

「自主性を大事にするのは分かるが、あんたはホントに仕事だけしか教えなかったよな。今はそれじゃダメなんだよ」

「だって、やり方なんざ色々あるからな。人に合ったやり方は自分テメェで考えろって思ってるぞ」


社運をかけるほどじゃないが、チームの苦労が減るのか増えるのか。倒れる人が出てしまう前にモノになって欲しいものだ。

そして、新人さんが来た。チームの中で一番若い人になった。車の運転も見なきゃいけないし、配達地域のアレコレも教えなきゃいけないし。仕事のあーだこーだ。荷物の取り扱いとか。一つ一つ、丁寧に矢木は傍について彼に教える。筋が良いかどうかは……一日を1人で任せない事には何も分からない。

ぶっちゃけ仕事を続けてくれたらそれでいいよって、思っているのが心情だ。


「矢木さんが常に傍にいるおかげで、新人さんのミスはあまり無くて助かりますね」

「けっ!なーんで俺と実ばっかに、仕事を増やすんだよ。早くモノにしやがれよ」


矢木が指導係な分、その日に彼が担当している荷物の大半は他の配達員に振られる。(主に実と木下)。

甘いっちゃ、甘い。そんな状態を3週間近くか。その後も矢木が新人さんを助ける形で、勤務上。新人さんが1人配置となる。といっても、午前中だけを1人で任せる形だ。

午後からは矢木が当たり前のように手助けしている状況。さすがに忙しいことをすると思い、実や木下も矢木を助ける事はしていた。いくらなんでも大事過ぎるんじゃないかと、夜遅く終わった頃に木下は矢木に言ったのだ。


「矢木、お前は新人を甘やかし過ぎだ」

「あ?」

「俺達は夜まで行くんだぞ。新人が夕方に終わるようにしてどうする?そろそろ、長い残業させろよ」

「うっせーな。大体、お前も分かってんだろうが」


イライラしているのは分かっている。来てくれるだけはありがたいが、彼がいないところで陰口を言わせてもらう。


「あまり良い新人じゃねぇーな。覚えが悪ぃっつーか……ミスしねぇようにやったが、業務がこんなにできないとは」


当初の予定より仕事ができないレベルだ。人手不足の影響が一番なんだが、人に求める単位がデカくなっているからそう感じるのもある。

いちお、新人さんが担当している地域は、矢木や実がやれば1人でなんら問題なく終わり。木下だと30分か1時間ほどの残業で終わる。新人さんの場合、矢木達が手伝って終わるレベルなので、ホントに心配だ。とはいえ、……経験を積んでいるだけに答えは出てる。



「覚えるまでの問題だ!覚えなきゃ、早くやる方法もできん!覚えるまで時間をかけるしかねぇ!」


なんだその教え方は!?って今の人には言われるかもしれないが、それしかないのも現状だ。もうすぐ1ヶ月経つが。木下達からすれば、まだ1ヶ月しか経ってねぇだろ。という扱いだ。

矢木は自分にも言い聞かせるように、木下は他人事のようにだ。


「信じるしかねぇだろ!そこはよ!」

「俺は人なんか信じるもんじゃねぇーって思ってるぜ」


指導係の矢木と、それを眺めるだけしかできない木下の差。……それだけじゃないだろう。正直なところ、木下は言っていた。


「パワハラだなんだ色々あるけど、人に厳しさを教えるのも仕事だぞ。抜けられると困るのは分かるがよ、お前なんか特に休みを削りまくって出勤してんだ。どっちが辛いか、俺達には分かってるぞ」


ホントに口だけ達者なのが、ムカつく先輩だ。


◇       ◇


新人が来てから1ヶ月とちょっとは過ぎ、相変わらず矢木が応援している状況であり、新人さんと休みを合わせていた。免許皆伝とは良い難いが、ようやく


「来週からは1人でやってみるか」


新人さんが一日で、その地域を任せられることになる。不安がないわけではないが、1人でやらせないと自信がつかないものだ。矢木からすればこんな配達地域できるだろって思っているが、新人基準にしたらできるかね~っといった不安がある。


「月曜日から悪いが、俺は休みだ。でも、実がいてくれる。分からない事があれば、実や木下のおっさんとかに確認をしろ」


念入りに、とにかく最悪のケースを含めての保険も残して休むことにする矢木だった。

正直、本心休みたかった。12連勤が終わった後に8連勤、7連勤。新人が入ってきたのに一番休んでいない男なのだ。日曜日も普通に仕事だった。


「じゃあ、この日。実、頼むぜ……」

「任せてください。この日はゆっくり家で休んで」


任せろって言っている実も、その月曜日は7連勤の最終日の予定になっている。

人員配置としては多少不安であるが、最良のメンバーは揃えたと思っている。あとはこの日でどうなるかが、決まるわけだが……。外で働く仕事な以上、予測できないものもある。



◇       ◇



「ははははは、だからよ!あの手の奴には始めから、パワハラをしとけって言ってんだろーがよ!ぎゃはははは!」


そして、話しは現在に戻る。木下が未だに爆笑している。彼からすれば、新人の本質が見えてたんだろうし。教えていた矢木はもっと前から分かっていただろう。実の電話の呼び出しで、矢木はすぐに会社に駆けつけてくれたんだ。


「ごめんなさいね、矢木さん」

「……分かってる。正直、そーなると思ってた」


初っ端から運が悪いと言えば、そうなんだが。さすがに


「一日中、雨の天気だもんな」


天候まではさすがに読めない。雨は確かにキツイ。そして、こっちについては予想できていた。ただ少し、ほんの少しだが。社会の事を考えて欲しいと思う事がある。

勤務開始時間になっても、あの新人さんが来ておらず、実が電話したところ。


【こんな仕事辞めます!馬鹿じゃないですか!雨の日に1人で仕事なんかできません!!】


唐突に仕事を辞めるとの返事。正直、辞めるための細かい事を電話で言う気もないし、付き合っている余裕もない。そこのところは部長に任せて。実は即決して、矢木に電話をしたのだった。

休みのところ、雨が降っている中、功労者の中の功労者である矢木に。木下は待っていたという顔で煽り始める。


「矢木お前、土曜日さ~。あいつの事を信じてる言ってたよなぁ~、ねぇねぇ、どんな気分?信じて裏切られる気持ちってどんな気分?」

「……………」

「なーなー。あんなよー、すぐに辞めると分かってるような奴に、仕事を教える気分ってどんな気分だった?自分の休みを削ってまで、教えてた頑張りがなんだったのか教えてよ~」


うぜぇぇぇっ。こいつ、ホントにうぜぇぇ。


激怒して帰ってやろうと思ったが。どんな奴であれ、こんな事をやらかした以上は指導者としての責任がある。この仕打ちはしょうがないから、黙って聞いてやる。


「早くにパワハラすれば……3日で辞めただろうな~。なんだったんだろうね、矢木くんの頑張りは……。俺が指導係をしてれば、こんな辛い目に合わなかったのにねぇ?」


言っておくが、パワハラといっても木下と同じ仕事量。つまり、普段と変わらない仕事を早期にさせておけばという意味である。虐めみたいな事は木下もしない。

激務に加えて、今日のような悪天候はこの仕事でキツーイ一例だ。自分もキツイと分かっている上で、実は矢木に提案をした。


「矢木さん、明日。俺と休みを代わります?」

「いや……実だって、そうしたらよ。10連勤以上はすんだろ?これは俺の責任だ」

「そうだそうだ!代わってやんなよ、実!甘やかすんじゃねぇよ!実に責任は何一つねぇーんだから!」


深く反省する一日もある。だが、やらなきゃいけねぇ事が世の中にはあるものだ。

大した理由じゃないけれど、今日もそれで。社会は回っている。

回してくれる人間が、全然足りていないんだけれど。


「いえ、私は木下さんの木曜日の休みをもらうので、木下さんに9連勤させます。休みを飛ばしてくださいね、木下さん」

「え?実、それ俺と矢木がいる前で言うなよ」

「朝から人の不幸で爆笑してる分です。木下さん、頼みますよ」

「へいへーい。任せておけよ」


少しムッとした顔で、矢木が来るまでの間に打ち合わせしている事を伝えた実。休みを返上してくれる代わりの要求だった。





念のためにフィクションです。


ただし唐突に辞めると言うのは、ノンフィクションですね。

前もって辞める人と、いきなり辞める人は、半分半分ぐらいの割合かなって。

辞める時はなるべく前者にしてくださいね。

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[良い点] 「他人の不幸は蜜の味」 「他人を呪わば穴二つ」 と言うところですな。 もちろん「他人」と書いて【ひと】と読みます。 [気になる点] 『人』と書いて【ひと】と読む場合は【自分を含む】 …
2020/01/31 09:10 退会済み
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