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7.意外にも早く迎えた決戦

 車が光青の家の前に着くと光青は急いで自分の部屋へと向かった。というのも、早くも洗切の家がわかったからだ。千家家の執事は本当に有能である。


 靴を脱ぎ捨て、階段を駆け上がり、自分の部屋の扉を乱暴に開けた。と同時に

「キャー、エッチー」


 という女の声が響き渡った。部屋の中にはなぜか黒い下着姿のミスチャフがいた。

「す、すいませんでした」


 光青はとっさに扉を閉めた。光青は間違えて女子更衣室を開けた男はこんな気持ちなのかともしみじみ思ったが、間違いなくここは自分の部屋であって断じて女子更衣室ではことに気がついた。


 数秒で冷静になった光青はまた扉を開いた。

「おい、なにしてんだお前」

 光青は刺々しく云った。


「いやーん、コウ君のエッチ。女の子の部屋に入る時はノックしなきゃダメなんだぞ」

 ミスチェフは光青を茶化すように云った。おかげでミスチェフに対する怒りの火が復活した。


「ここは俺の部屋だ。いいから早く服を着ろ」

「うーん、どの服にしようかな。コウ君はどの服が好み?」

 ミスチェフはどこからか入手したのかナース服やセーラー服、レースクイーンなどの定番から、なぜか軍服というマニアックな衣装まで揃えていた。


「興味ない。早く俺の部屋から出てけ」

「そんなカッカするなよ少年。敵がわかったんだろ」

 ミスチェフの声が甘ったるい女の声から低く冷たい声へと変わる。


「ああ」

 光青は適当に相槌を打ちながら机の引き出しを開けた。そして、お目当ての武器……といってもおもちゃの銃、要するにエアーガンを取り出した。このエアーガンには特別なものではない。街のホビーショップで買ったものだ。


 ミスチェフはエアーガンにビービー弾を込める光青を見てピューッと口笛を吹いた。

「いいねーいいねー、やる気満々じゃん。やっぱ男の子は積極的じゃなきゃ。って聞いてる? おーい? もしもし?」


 ニヤニヤ笑いながら云うミスチェフを無視して光青はさっさと部屋を出ようとした。

「おい、臆病者! 今度は逃げるなよ!」


 光青は足を止めて振り返った。なにか言い返そうとしたがやめた。行動で示せばよい。そう思ったから。




「待たせたな、行こうか」

「なにかありましたか?」

 アリスは心配そうな顔で云った。光青はドキっとしたが、


「いや、なんで?」

 と、素知らぬ顔で云った。


「家から出てきた時凄い恐い顔をなさっていたので」

「部屋にゴキブリがいたんだよ」

 光青に嘘をついたつもりはない。


「まあ! それは大変ですね。帰ってきたら綺麗に掃除しなきゃダメですよ」

「ああ。部屋中に殺虫剤をばら撒くさ。強力なやつをね」


「ところでこちらを見てください」

 そう云ってアリスはスマートフォンを見せた。そこにはひとりの少年が写っていた。光青にはそれが誰だかすぐにわかった。


「洗切か?」

「はい。執事たちが入手しました」

 千家家の執事たちは恐ろしく仕事が早い。光青は感心した。


 光青はもう一度洗切の写真を見る。気弱そうに見えるこの男が今回の事件の犯人とは光青には信じられなかった。これが悪の芽とやらの効果なのか。


 と、そのときアリスのスマートフォンが鳴った。

「はい、もしもし。例の件ですね? はい…………わかりました。ありがとう」

 アリスは電話を静かに切った。


「知り合いかどうかわかったのか?」

「はい」


「それで?」

「被害者と洗切さんは同じ中学でした」


「やっぱりな」

「執事たちの調査によると洗切さんは中学時代いじめにあっていた可能性が高いみたいです。ですので、そのときの恨みで被害者を狙ったと推測できます」


「能力を手に入れて最初に考えたことが復讐か。……悲しい奴だな」

「……そうですね」


 光青たちはそれっきり会話を交わさなかった。窓の外に映る街並みは馴染みのないものに変わっていた。




 車は道路の脇にゆっくりと停止した。運転手とミラー越しに目が合う。目的地に着いたようだ。


 車を降りると目の前に大きなマンションがあった。


「このマンションの504号室が洗切さんの自宅です。さあ、行きましょうか」

「えっ? いきなりかよ?」


「もちろんです。いけませんか?」

「いや、いけなくはないけどよ。もう少し様子を見るというか、対策を練るというか……なっ」

 光青は説き伏せるように言ったが、


「善は急げです。行きましょう」

 そう云ってアリスはマンションのエントランスへと突き進んでいった。アリスには恐れというものがないのだろうか? ひとりで行かすわけにもいかないので渋々光青もついていった。


 アリスは早くもインターホンを鳴らしていた。二度のコールのあと応答があった。

「はい、どちら様でしょうか?」


 大人の女性の声。恐らく母親であろう。

「こんにちは。警察のものですが、洗切通さんに御用があって参りました。ご在宅でしょうか」

 アリスは少し大人っぽい声で云った。驚く光青にアリスはウインクをした。本当に肝が座ったお嬢様である。


「通ならまだ帰っておりません」

 洗切の母親は緊張した声に変わっていた。


「今どちらに?」

 それに比べアリスは一切のよどみなく言う。母親は少しの間のあとに


「それはちょっとわかりません」

 と答えた。


「いつごろお帰りになられるでしょうか?」

「夜には帰ると思いますが……」


「そうですか。それでは、また夜にお尋ねします」

「あの息子がなにか?」


「先日街のゲームセンターで起きました障害事件の捜査をしています。その場に通君もいたという話を聞きましたので犯人を見ていないか伺いたくて参りました」

「そうですか。てっきりうちの息子がなにかしたんじゃないかと……」

 その声は震えていた。


「いえいえ、そういうわけはありません。それではまた後ほど。失礼します」

 インターホンが切れるとアリスは声色を普段のものに戻し


「いないみたいですね。どうします?」

 と、云った。


「いないなら待つしかないだろ」

 目的の洗切がいないとなればすることがない。仕方なく光青たちは車へと引き上げた。


 しかし、光青にはかすかな違和感があった。さっきの会話。なにかがおかしかった。車に戻りおよそ十分。違和感の正体を考え続け光青はようやく気がついた。

「なあアリス」

「はい?」


「さっきのよく考えればおかしくないか?」

「なにがですか?」


「今どこにいるか聞いたらわかんないって言ってたが、普通に考えれば学校だろ?」

「学校は休んでいるじゃないですか?」


「ゲーセンで言ったろ? 犯人は、いや洗切は学校に行くふりしてさぼってるからパーカーの下に学ランを着てるんじゃないか? って」

「あっ……」


「それにだいたい学校を休んでるやつが親に内緒でどこに行くんだよ?」

「……それもそうですね」


「とりあえず、洗切は親には学校に行っているふりをしてるとする」

「はい」


「しかし、さっきの母親の発言から実際は親は息子が学校に行っていないことを知っている」

「そうなりますね」


「もしかしたらどこに行ってるのかも予想できているんじゃないか?」

「……飛躍しすぎじゃないですか?」


「どうかな? 親っていうものは思っている以上に我が子を理解してるもんだぜ。……探ってみよう」

「どうやってですか?」


「俺たちは警察なんだろ? じゃあ、問い詰めても問題ないだろ?」

 アリスは少し苦い顔をした。


「言いだしたのは私の方ですものね。わかりました」

 そう云ってアリスはスマートフォンで電話をかけ始めた。


「もしもし、洗切さんのお宅で間違いないでしょうか? わたくしは先ほどの警察の者ですが。はい、今通くんがどちらにいるかご存知ではありませんか? …… なにか心当たりはありませんか? 些細なことでもいいんです」

 長い沈黙のあとアリスの顔色が変わる。


「はい……はい。はい。すみません、その人たちの名前を全て挙げてもらえますか」

 アリスは運転手になにかメモするものを、とジェスチャーする。運転手は素早くメモ帳とボールペンを差し出す。アリスは黙々とメモを取り始めた。光青はアリスのメモを覗き込んでみた。そこには幾人の名前が書き出されていた。


「ご協力ありがとうございます。はい、失礼します」

 アリスは電話を切ると興奮した口調で言う。


「時重くん大変です! 洗切さんは次の犯行に取り掛かってる恐れがあります」

「どういうことだ?」


「彼のお母様は最近息子の様子がおかしいと息子がいない間に彼の部屋に入ったそうです。そこで卒業アルバムを見つけたんですが、不可解な印があったみたいです」

「不可解な印?」


「はい。クラスの何人かを赤い丸で囲ってたみたいです。その時はなんだろうって思う程度だったんですが昨日の事件の被害者の名前を知って驚いたみたいです。息子が印を付けてた人間と同じ人物なんですから。なにかの間違いではないかとお母様は今朝もう一度卒業アルバムを確認したみたいです。そしたら、被害者の写真には×印が書かれてたようです」


「それで警察と聞いただけであんなに緊張していたのか」

「これがそのリストです」

 光青はざっと目を通す。十人以上もいる。これは骨が折れそうだ。


「まずいな。アリス、こいつらの学校を調べて見張ることはできるか」

「もちろんです。すぐに手配します」

 アリスは運転手にアイコンタクト送ると運転手はどこかに電話をかけ始めた。


 短いやりとりを終え運転手は電話を切ると、

「すぐに調べて監視を始めます。洗切くんの情報も渡しましたので見つけ次第連絡が来るようにしました」

 と云った。


「ありがとうございます。間に合いますかね?」

 アリスは光青に聞く。


「さすがに学校の間はなにもしないだろうから大丈夫だろう。勝負は放課後になるな」

「どこに現れても迅速に対応できるように場所を変えましょうか」

 アリスの発言を受けて運転手はすぐに車を発進させた。




 午後4時。光青たちはまだ車のなかにいた。


「まだ見つからないのか?」

 光青は苛立った口調で云った。


「おかしいですね。洗切さんも標的を見つけるために周辺で張っているはずですのに」

「今日はなにもしない気か? でも、それじゃあ学校を休んでいる意味がない。ただ行きにくいだけかもしれないが」


「なにもなければないでいいじゃないですか。その時は夜にご自宅を訪問しましょう」

 と、そのとき、アリスの電話が鳴った。アリスは素早く電話に出た


「はいもしもし。はい、おつぎしてください。……お電話代わりました千家です」

 電話を出て数秒後、アリスの顔に緊張が走る。


「車を出してください! 一之瀬中学まで!」

 アリスは強い口調で運転手に言う。車はすぐに走り出した。


「中学? どういうことだアリス?」

 事情が飲みこめない光青は聞く。アリスはまだ電話を切ってなかったらしく電話を切ってから光青の問いに答える。


「洗切さんのお母様から警察のほうに電話があったみたいです」

「じゃあ、アリスが警察を勝手に名乗ったことがばれたのか?」


「いいえ、許可をちゃんととりましたので」

 いつの間に。そうならそうと言ってくれればいいものを。

「じゃあ、なんだ?」


「丸がついていた人物をひとり挙げ忘れてたみたいです」

「それでなんで中学に? まさか……」

 ようやく光青は中学を目指す理由を理解する。


「はい。お母様が見落としたのは生徒ではなかったからです。洗切さんの次の標的は恐らく先生です」

「糞っ! だからどこにも現れないのか」


「間に合えばよいのですが……!」

 光青たちの会話を聞いてか執事は車の速度をあげた。


 窓の外を見ると学校を終え帰宅する生徒たちの姿があった。もうすでに洗切が動きやすい時間になっている。

―― 間に合ってくれ!


 光青は拳を固く握りしめた。光青は無意味に何度も時計を見た。どうしても落ち着くことができなかった。それはアリスも同じで何度もミラー越しに運転手を見て「急いでください」と訴えた。


 やがて車は乱暴に停止した。着いたのだ。光青たちは飛び出すように車から降りた。


「二手に分かれましょうか?」

 焦りながらもアリスは冷静に言う。


「危険だがそうするか。見つけたら電話して……」


「うああああああああああああ」

 光青が言い終わる前にどこからか痛々しい悲鳴が聞こえてきた。


「その必要はなさそうだな」

 光青たちは悲鳴が聞こえた方に走り出した。校舎の裏、教員用の駐車場。そこには肩から血を流し座り込む中年の男と昨日と同じ黒いパーカーのフードで顔を隠す少年がいた。


「おやめなさい洗切さん」

 アリスが叫び、そして走り出す。


「残念。遊ぶ時間がなくなっちゃたや先生。じゃあね」

 洗切が歪んだ笑みを見せて右手を男の前に突き出した。


 アリスと洗切の距離はおよそ10m。間に合わない。光青に至ってはさらにその後方。


 迷っている暇はなかった。光青は懐からエアーガンを取り出し洗切の右手目掛けて引き金を引いた。ただ撃ったのではないエアーガンの弾の時を加速させながらだ。


 光青の能力は物体の時を巻き戻すだけではなく早送りもできる。早送りの場合は外部から何も力が加わらなかった場合の未来に予定されている動きを加速させる。ここでは要するに本来の何倍もの速度の弾が発射された。弾の速度と破壊力は比例する。


 発砲音とほぼ同時に、

「ぐあっ!」

 と洗切が苦悶の声を出した。


 弾は見事に洗切の右手を捕らえた。洗切は苦悶の表情を浮かべて右手を左手で抑えた。そして、困惑した様子で辺りを見渡した。洗切の目が光青の持つおもちゃの銃をとらえると洗切は自分の右手を確認した。血が流れ出る自分の右手を見て洗切は凍りついた。きっと洗切は本物の銃で撃たれたと思ったのだろう。


 その間にアリスは洗切の目の前まで迫っていた。

 そのことに気がついた洗切は慌てて痛々しい右手をあげ近づくアリスに水の弾を放った。瞬間、アリスの姿が消えた。洗切は言葉通り目を丸くした。なぜか負傷する男を見て答えを求めた。だが男が答えを知るはずもなく、顔を何度も横に振った。


 何が起きたか分からず固まる洗切の後ろにアリスは姿を現した。その右手にはしっかりと警棒が握られていた。アリスは洗切の後頭部目掛けて警棒を振り下ろした。振り放たれた警棒は見事に後頭部を捕らえたかと思ったが、当たる直前に洗切は前方に転げるようにして回避したため狙いは外れて洗い切りの右肩を殴打した。


 なぜ気づいたのか?

 その答えはすぐにわかった。負傷した男が驚いた顔で突然現れたアリスに驚き目を見開いていたからだ。その様子から洗切は自分の背後にいることを察したのだ。振り向かずに前方に回避したことは洗切を褒めるしかない。


 洗切は痛みを堪えながらも立ち上がると一目散に逃げ出した。しかし、痛みのせいかその走り方は不細工でスピードは全く出なかった。


 すぐさま追いかけようとするアリスを光青は制止した。

「アリス! 俺が行く! アリスはその人を頼む」


 なにか言おうとするアリスを無視して光青は走り出した。

 洗切はすでに校門を出て右に曲がっていた。見失うわけにはいかない。


「おい待て!」

 光青はそう言いながらあとを追った。


 校門を出て右を見ると本当に待っていてくれたかのように洗切がいた。足元がふらつきよろよろと一応は走っていた。


 光青は大きく息を吐いてから云った。

「もう諦めろ、洗切」


 洗切は怯えた表情で振り向いた。

「な、なんなんだおまえらは?」


「なんでもいいだろ。とりあえず俺はお前の能力を消す必要があるんだ。大人しくしててくれ」

 洗切の顔が真っ青になる。


「ダ、ダメだ! それは困る! 僕にはこの力が必要なんだ!」

「いいや、必要ない。神がそう判断したんだ」

 光青は一歩、二歩とゆっくり近づく。


「な、な、何をする気だ! 来るな! 来るな! 僕に近づくなーーーー!」

 洗切はわめきながらも防衛本能からか右手から水の弾を五発放った。しかし、そのどれもが光青に届くことはなかった。


「そんな……なんで?」

 泣き出しそうな顔で洗切は呟いた。放たれた水の弾は宙に浮かんだまま停止している。


「物体の時を停止させた。相性が悪かったな。まあ、知ってたからひとりで来たんだがな。アリスには内緒にしてくれよ。カッコ悪いから」

 洗切は目の前の光景が信じられないといった顔で震えていた。しかし、次の瞬間


「うあ! うああああああああ!」

 叫びながら洗切は殴りかかってきた。それを余裕のある光青はひらりとかわす。


「その根性があれば変な能力に頼らなくてもやっていけるだろ」

 光青は拳を強く握り締めた。


「許せ! 俺の平穏のためだ!」

 光青は思いっきり右手を振りぬいた。拳は見事に洗切の顎をヒットした。

 地面に倒れ込む洗切を見ながら光青は息を切らしながら呟く。


「はあっ、はあっ、右手が痛い。ったく、平和じゃないな……」


 光青はやるべきことを思い出す。ヘヴンズフォンを取り出して恐る恐る洗切の頭にコードを挿した。コードはなんの抵抗もなくブスリと突き刺さった。光青はすぐさまアプリを起動してウイルスの消去を開始した。一分後、ヘヴンズフォンの画面には消去完了の文字が映し出された。


「ふう。これにて一件落着……か」

 緊張から解放された光青は地面に座り込む。


「時重君! 大丈夫ですか?」

 まだ緊張した顔のアリスが走ってきた。


「おう、アリス。俺の右手が痺れるくらいだ。あの先生は?」

「救急車を呼びました。今は執事に見てもらっています」

 アリスは倒れている洗切に気がつく。


「終わったんですね?」

「ああ、丁度消去完了だってよ」

 アリスは嬉しそうに笑いながら手を差し出した。少し迷って光青はその手を握り返して立ち上がろうとした、その時だった。


「二人ともお疲れさーーーーーーん」

 ミスチェフがどこからか突然現れた。驚いたアリスが手を放してしまったため光青は尻餅をついた。


「いてっ! ミスチェフ! いつの間に!」

「なに言ってる? わたしは一時たりともコウ君のそばを離れるわけがないじゃない。いつでも一緒だよ。それはそうと念のためにもう一台救急車を呼んでもらえるかな」


「なんでだよ。そんなひどい怪我は負わせてないぞ」

「人の脳どころか魂情報をいじったんだ。当然の処置だよ」

 魂が関わっているなら人間の治療ではどうにもならないのでは? と思ったが光青は余計な口出しはしなかった。


「わかりました」

 アリスはミスチェフの指示に素直に従い電話をかけ始めた。


「おい糞天使、約束は覚えてんだろうな?」

「デートの約束? はは、そんな怒った顔しないでよ。ジョークだよジョーク、ヘヴンズジョーク。病院に行ってみな」

 腹立たしい笑みとともにミスチェフはいつものように消えた。



 間もなく救急車は到着して負傷者ふたりを運んでいった。

 終わったのだ。意外にもあっけなく。そう、あまりにあっけなく。光青はそう感じていた。

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