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6.乗り込み捜査 浮かび上がる敵

 早めの昼食を軽く済ませてからふたりは武蔵野学園に向かった。軽くとはいったが光青の普段の昼食の数倍は豪華であった。


 武蔵野学園の門の前に着くとひとりの男が光青たち……ではなくアリスを出迎えた。

「お待ちしておりました千家アリス様ですね。わたくし武蔵野学園の理事長を務めています和田です」


 和田理事長はメガネをかけた理事長にしては若い男であった。それを見て数年前に武蔵野学園に来た若いやり手の理事長が来たという話があったことを光青は思い出した。どうやらこの男が噂のそれらしい。


「はじめまして千家アリスです。今日は急に申し訳ありません」

「いえいえ、お会いできて光栄です。アリス様と……」

 言葉を止めて詮索する様子で光青を見た。


「彼はわたしの友人の時重光青君です」

 アリスの紹介で和田は光青への警戒心がなくなった。


「あー、そうでしたか。さあさあ、こんなところではなんですので、どうぞどうぞ」

 やり手といってもこんなものか。いや、だからこそやり手なのか。光青はため息を吐いた。




 ふたりは理事長室へと案内された。光青にもふかふかの黒いソファーに座る許可も降り、お茶もちゃんと出てきた。


 お茶をゆっくりと飲むアリスに対し、和田は緊張した顔で話を切り出した。

「それで早速なんですが、急な用事とはいったいなんでしょうか」


「はい。和田理事長は昨日の夕方に起きた街のゲームセンターでの傷害事件をご存知ですか」

「ああ、はい、はい。小耳には挟みました。喧嘩で二名が怪我を負ったとか。ですが、うちの生徒は事件になんの関わりもないはずですが?」


「いえ、残念ながら捜査の結果、武蔵の学園の生徒が関わっている可能性が出てきましたのでご協力をお願いしたく参りました」

 和田は顔を青くした。不祥事。誰でもそうだろうが、理事長ならば特に避けたいものであろう。


「そんな馬鹿な! うちの生徒が? なにかの間違いじゃありませんか?」

「わたしもそう思います。間違いであったことを確かめるためにもご協力をお願いできませんか?」

 アリスはことを荒立てないよううまい言い回しをする。


「もちろんです。ですが、こういうのは警察の仕事では? なぜ千家さんが?」

 和田は当然の疑問を口にした。


「いろいろと諸事情がありまして。……ダメですか?」

 本来ならば女の子がこのセリフを吐くときは上目遣いにしてかわいらしくいうものだ。しかしアリスは違う。お茶を一口いただき、静かに湯呑を置いてから鋭い目をして言う。効果のほどは和田の反応から明らかであった。


「いえいえ、とんでもない。千家さんの頼みを断るはずがないじゃないですか。それで具体的にはなにを?」

 和田は献身的に対応する。


「えーと、そうですね。まずはどうしましょう?」

 今度はしっかりと可愛らしく光青に向けて言った。


「えーと、そうですね、幾つか質問していいですか?」

「ええ、もちろんです。わたしが答えられることならなんでも」

 光青への対応も意外にも丁寧なものに変わっていた。さっきのアリスの威嚇……とまでは言わないが態度がここでも効いているようだ。


「ありがとうございます。それでは、ここ最近なにか校内で不可解な事件は起きませんでしたか」

 和田が作っていた笑顔がわずかに崩れた。和田はすぐに歪みを直しもとのつくり笑顔に戻した。光青はそれを見逃さなかった。


「不可解といいますと?」

「言葉のままです」


「いえ、特には」

 そう言って和田はお茶を飲み、光青と目を合わせないようにしていた。嘘を吐いている。光青はそう感じた。


「そうですか。では素行がおかしい生徒はいませんか?」

「うーん、さすがにすべての生徒は把握できませんのでなんともいえませんな」


「そうですよね。でしたら、最近休んでいる生徒なんかも……」

「わかりませんな」

 返答に淀みはなかったが嘘を吐き続けているとみて間違いなさそうだ。


「そうですよね。……できれば、先生方からお話を伺いたいんですが」

 和田は渋い顔をしてなにか考えていた。そして絞り出すよう言う。


「……結構ですが、今は授業中なのでお昼休みでよろしいですか? 事情も説明したいので」

「もちろんです。ご協力感謝いたします」


「いえいえ、それでは職員室のほうで説明してまいりますので、ちょっと失礼します。ここでお待ちください」

 理事長がいなくなったのを見計らって、


「どう思う?」

 と光青はアリスにきいた。


「怪しいです」

 アリスは間髪いれずに云った。その顔は明らかに不満そうであった。


「だな。なんかあったな。この事件と関係したことかな?」

「だといいんですけど。ところで、なぜ口止めする機会を与えたんですか?」


「仕方ないだろ。ダメと言いたいが理事長の説明なしじゃ誰も俺たちを相手にしてくれないだろうから」

「なるほど。いわれてみればそうですね。なにか有力な情報があればいいんですが」


「あまり期待しないほうがいいな。俺はもうひとつの方を期待してるわ」

「もうひとつ?」


「ああ。武蔵野学園のやつで、かつ被害者の知り合いのやつだ」

「では時重君は被害者と犯人が絶対に知り合いだとお考えなんですね?」


「まあな。ゲーセンでのことを見ると俺はそう思うな。アリスはどう思うんだ?」

「可能性は十分にあると思います。犯人は明らかに目的があって近づいたように見えましたから。ただ、そ

れだけでは確定できません。被害者があそこにいると知りえることは難しいので。そう考えるとあのようなタイプの方に恨みがあって近づいた可能性の方が高いと思います」


「確かにな。だけど、俺はそれだけで知り合いだとは思ってないよ」

「他にも理由があるんですね」

 アリスの目が期待に満ちて少しばかり輝いた。


「ああ。被害者は頑なに犯人について話さないんだろ?」

「はい。酷く怯えた様子でなにも知らないとだけ言います」


「脅されてるんだろうな。脅しが通じるのは知り合いだからじゃないか? 知り合いじゃなかったらそんな脅しも意味ないんじゃないか?」


「そうですか? 突然怪我を負わされた相手からなにも喋るなと言われたら十分恐いと思いますが」


「恐いには恐いが、そもそも知り合いじゃなかったら脅されなくても話せることがそんなにないんじゃないか? しかも多くの者が見てる。知り合いじゃなかった場合被害者の証言も周囲で見た奴らとたいした変わらないはずだ。それなのにわざわざ口止めしていったんだ。そのことを考えると知り合いの確率が高い」


「なるほど。説得力はありますね」

「まあ、こっちの調査もしっかりと進めるとしよう。意外な情報が舞い込む可能性もあるしな。質問の内容はさっき理事長にしたのと一緒でいいか?」


「はい、問題ありません」

 数分後授業の終了を告げるチャイムが鳴り響く。そして、間もなく和田が戻ってきた。


「いやいや、お待たせいたしました。では、職員室のほうに案内します」

 和田は気味の悪い作り笑顔を崩すことなくふたりを職員室へと案内した。


「先生方の許可は取りましたのでご自由にどうぞ」

 和田はそう云って職員室の扉を勢いよく開けた。中にいた教師たちは敵意がこもった視線を一斉にこちら

に向けた。光青たちを値踏みしているようにも見えた。しかし、すぐに、教師たちは興味などありませんと言いたげに二人から視線を離した。


「わざわざありがとうございます」

 アリスは丁寧に和田にお辞儀をした。そして、顔を上げ、どの先生からいこうか吟味し始めた。アリスの熱い視線に耐えられず若い男性教師がアリスと目を合わせてしまう。男性教師は慌てて机に向かってなにか作業を始めたがもう遅い。


「お忙しいところ申し訳ありません。いくつか質問をしたいのですがよろしいですか?」

「はい、なんでしょう?」

 男性教師は少し緊張した声であった。


「最近校内で奇妙な事件は起きませんでしたか? 事件と呼ぶほど大きなものでなくてもよろしいです」

「いえ、特には」

 男性教師はアリスと一切目を合わさずに答える。


「そうですか。では、最近様子がおかしい生徒さんはいませんでしたか?」

「わたしが知る限りはいりません」


「それではここ数日休みがちな生徒はいませんか?」

「いなかったと思います」


「そうですか。質問は以上です。ご協力感謝いたします」

 アリスはあっさりと引き下がった。


 光青たちはその教師の席を起点として順に同様の質問を訊いて回った。しかし、どの教師からも返ってくる答えは面白いほど同じであった。アリスも半ば諦めながら質問をしていった。


「これで全員か?」

「いいえ、あちらにまだいます」

 アリスは奥の小部屋を指差す。小部屋にはソファーとテーブルがあり休憩室あるいは来客用の部屋と思わせるものであった。そこには現在白衣を着た教師が男女二名の生徒と話している。彼ら手には問題集があったので生徒が先生に質問をしにきているということは容易に想像できた。


 アリスは迷いもなく扉をノックしようとしたので光青は慌ててアリスの腕を掴んで制止した。

「アリスちょっと待ってくれ。生徒の前ではやめたほうがいいんじゃないか?」

「なぜですか?」


「先生たちがこのことを口外することはないと思うが生徒はすぐに言う。あっという間にこの話が広まって犯人の耳にも入るはずだ。そうなったら犯人は警戒するし、もしかしたら俺たちのことを狙ってくるかも」

「確かにその可能性は十分にありますね。でしたら、それを逆手に取りましょう」


「逆手に?」

「はい。予想はしていましたが今のところ情報が0です。このままでは何も出来ません。なので、犯人になんらかのアクションを起こしてもらおうじゃありませんか。今回はそのための餌です」


「そんな賭けに入る段階か?」

「言うほど賭けじゃありませんよ。噂になるのは他校の生徒が先生たちに話を聞きに職員室に来ていた、ぐらいです。わたしたちに簡単に辿り着けません。辿り着くために行動を起こす人物を見つける。いかがですか?」


 アリスの言うとおり人物の特定は意外と難しい。今の光青たちのように。しかし、危険なことには変わりない。相手はすでに人を傷つけることにためらいのない人間になっているのだから。しかし、危険はもう覚悟の上だ。


 光青は少し悩んで結論を出した。

「……いや、わかった。いいよ。やってみよう」


「かしこまりました」

 アリスは扉をノックした。白衣を着た教師は光青たちに気がつくと露骨に嫌そうな顔をした。それに対し事情を知らない二人の生徒は不思議そうな顔をした。アリスは気にせず扉を開けた。


「申し訳ありません、お時間よろしいですか?」

「ああ、君たちが。理事長から話は聞いてます。おい、悪いが君たちはちょっと出てもらえるか」


「いえ、すぐにすみますのでこのままで大丈夫です。お勉強中のところ恐縮です」

 白衣の教師は困った顔をしたがすぐに元の顔に戻した。


「そうですか? それで聞きたいこととは?」

「はい、早速なんですが、ここ最近なにか奇妙な事件などが校内で起きたりしませんでしたか? 些細なことでもよろしいです」


「さあ、特になかったと思います」


「えー、なにいってんの先生あったじゃん。ほら、こないだB組のやつらが変な怪我したじゃん」

 女子生徒が割り込んで答えた。


「あったかなそんなこと?」

 白衣の教師の顔は早くも引きつっていた。しかし、女子生徒はそれに全く気付かない。


「えー、覚えてないの? 石破君は覚えてるよね」

「……あったかもしれないね」

 能天気な女子生徒とは違い石破と呼ばれた男子生徒は教師の表情に気づいてか曖昧な返事をした。


「詳しく聞いてもよろしいですか?」

 アリスは穏やかな声で訊いた。


「いいよ。えーと、先週だったかな、昼休みに廊下にいた男子が突然血を流して倒れたの。結構な量の血が出たんだよ。でもね、なんで怪我したのかがわからないんだ」

「もしかしてそいつはいじめっことかじゃない?」

 光青はすかさず訊いた。


「あたり! なんでわかったの?」

「さらに丁度そのとき普段いじめてる奴とからんでたとか?」


「そうそう! それで最初はそいつが疑われたんだけどそんなことするような根性あるようなやつじゃないし、どうやったかもわかんないしで結局謎のままなんだ」

 教師がゴホッゴホッとわざとらしい咳払いする。光青はそれを無視してさらに問いただす。


「そいつの名前は?」

 女子生徒が答えようとしたとき隣の男子生徒が肘で突き先生の顔を見ろといったような目配せする。女子生徒は何事かというような顔で目の前にいる教師の顔を見た。女子生徒はそこでようやく教師の無言の圧力に気がつき


「えーと、なんだったかな。自分のクラスじゃないから忘れちゃった」

 と、すっとぼけた。


「先生は知ってますか?」

 アリスは素早く矛先をかえた。


「さあ? そういうことは確かにありましたが彼女が言ってるようないじめとかは一切なかったと思いますが」


「先ほど奇妙な事件はありませんでしたと聞きましたが?」

「別に奇妙な事件じゃありませんよ。生徒たちがふざけあってて軽い怪我をした。それだけですから」

 白衣の教師は意外と冷静に答えた。最初に質問した教師であったらぼろを出していたかもしれないと考えると残念である。


「どのような怪我ですか?」

「少し指を切ったぐらいですよ。もうよろしいですか? 午後の授業の準備がありますので」


「そうですか。ありがとうございました。それでは失礼します」

 これ以上はなにも得るものがない判断した光青たちは職員室を出た。


「思わぬ情報ゲットだな」

「そうですね。それにしても、なにかあるとは思ってはいましたが……。はぁ、日本の隠蔽体質は困ったものですね」


「ここでまさかの帰国子女アピール?」

「そんなんではありません」

 アリスは顔を赤くして怒った。


「冗談だよ」

「さて、どうしますか?」


「とりあえず理事長を問い詰めて詳しく聞こうか。じゃなきゃ、その事件? 事故? まあ、どっちでもいいが、俺たちが追ってるものと関係しているか判断できない」

 ふたりが理事長室へと向かおう歩き始めたと同時に職員室から先ほどの男子生徒が出てきた。目があったふたりは軽く頭を下げてそのまま行こうとしたが、呼び止められた。


「あの、ちょっといいですか?」

 光青とアリスは顔を見合わせて首をかしげた。


「はい、なんでしょうか?」

「さっきの花園さんの話の続きなんだけど……」

 どうやら先ほどの女子生徒は花園というらしい。意外な申し出にふたりは多少面食らったがこの機を逃すわけはない。


「是非お聞かせ願いたいです」


「その前に二人は何者? 校内の事件を嗅ぎまわってみたいだけど」

 男子生徒は光青たちを探るようにまじまじと見た。


「そうですね……ご想像にお任せします」

 アリスはそう云って普段通り笑いかけた。アリスはもしかしたらずっと作り笑いをしているのではないかと思えてくるほど自然な笑顔であった。


「秘密ですか……。まあ、いいや。で、さっきの話を詳しく話すとその事件があったのは先週の水曜日の昼休み。怪我したのはB組の倉田ってやつなんだけど、倉田とその連れ二人と洗切っていうやつを……まあ、軽いいじめだな……をしてたんだ。


俺はクラスが違うからそこまで詳しくはないんだがいつものことらしかったんだ。それで他のやつらもたいした気には留めてなかったらしい。そしたらよ、突然倉田のやつが大声をあげてよ、見たら腕から血が出てたんだ。


倉田はすぐに病院に連れてかれてたいしたことなかったんだけどさ、先生方は大慌て。校内で流血事件だからな。それで花園さんがいってたとおり洗切が疑われたんだけど、カッターとかの凶器もなくて結局わからずじまい。でも、生徒たちの間ではあれは間違いなく洗切の仕業だって言われてる。それから洗切はずっと学校休んでる」


 男子生徒は長い文章をそれはすらすらと話してくれた。要するに怪我をさせた疑い、イコール「天使の罪」を手に入れた可能性が高い男、それが洗切という名前の生徒らしい。


「その洗切ってやつの下の名前は?」

「えーと、確か(とおる)だったかな」


「身長や体系、髪型は?」

「身長は160ちょっと、体系は少し太ってるかな。髪形はボブみたいな感じだ」


「そうか。わざわざありがとう」

「あっ、あと気になることがもうひとつあるんだ」


「なんですか?」

「先週の火曜日に水野銀行が襲われたって言う話は知ってる?」

 光青とアリスは目を合わせて驚いた。ここでその話が出てくるとは全く予想していなかった。


「はい、新聞で読みましたわ」

「その前日に洗切が妙なことをいってたらしい」


「妙なことですか?」

 アリスの問いに男子生徒は少し間を置き、大きく息を吸ってから話し始めた。


「ああ、それがな、俺の友人が教室で宝くじで三億円当たったらどうするとかくだらない話をしてたら洗切が鼻で笑ったんだ。それで友人は洗切になに笑ってんだって言ったら、君たちにはそんな大金は一生手に入らないと思ったらかわいそうでね、って言ったらしいんだよ。


で、お前も一緒だろって友人が言ったら、僕は違う。いつでも手に入る、って自信満々に答えたらしい。それで、友人はこいついかれたのかと思いながらどうやってって聞いたら、銀行から盗めばいい。簡単だ僕ならできる。銀行の金庫も簡単に破れる。粉々に破壊してやればいいんだ、って言ったらしい。


友人も笑ってたんだけど次の日にあの事件だろ。ばかばかしいけどそれで本当に洗切がやったんじゃないかって一部では噂になってんだ。あっ、なんかすいません、忙しいのに引き止めてこんな下らない話しちゃって」


 この男はまたしても有力な情報を一気に話した。


 光青にはこの男は自分たちに重要な情報をもたらすためだけに生まれてきたのではないのかとさえ思えた。


「いえ、そんなことはありません! 大変参考になりました。本当にありがとうございます、えーと……あの、お名前を聞いても?」

「……石破です」


「石破さん、ありがとうございます。貴重な情報感謝いたします」

 アリスは握手を求めたがすぐに石破の右手は出てこなかった。美女の手に触れることに戸惑っているのだろうか? ありがたく触っとけばいいものを。


 恐る恐る石破は右手を出してアリスとしっかりと握手を交わした。

「それでは失礼します」




 有力な情報を得たふたりは理事長を詰問するのをやめて、挨拶だけして車へと戻った。

「ほぼ確定ですね」


 アリスは車に戻るなり云った。

「ああ。賭けに出て正解だったな。うまくいきすぎな気もするけど」


「いいことじゃないですか。素直に喜びましょう。洗切さんの家は今執事たちに調べてもらってます。わかり次第行くということでよろしいですか?」

 アリスは当然かのように云った。


 千家家の力があれば名前さえわかればすぐに犯人にたどり着けるらしい。もっとも今回の対象は珍しい苗字なので他の者でも簡単かもしれない。


「その前に俺の家に行ってもらっていいか?」

「いいですがなにをするのですか?」


「恐らく戦闘になるのに手ぶらじゃ不安だからな。ちょっと武器を」

「物騒ですね。それでなにを武器にするんですか?」


「よくあるおもちゃだよ。アリスはいいのか?」

「あら、気づきませんでしたか?」

 アリスは服を少し上にあげた。光青はアリスの白い肌に目を奪われた。が、それは一瞬ですぐにお嬢様にはふさわしくない警棒が腰に常備されてるのに気づいた。


「護身用です」

 アリスはにこやかに笑った。


「物騒なのはどっちだよ」

 光青はアリスに聞こえないように小さな声で云った。ふとアリスを見ると微笑みかけていた。もしかしたら聞こえていたのかもしれない。


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