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11.終幕 以前とは異なる3平

 光青は夢を見た。実際にはそれが夢だったのか現実だったのか議論の余地があるのだが少なくても光青はそれは夢だと思った。


  というのも、光青が見た夢というのが自身が痛みのあまり気を失ったその後を自身の体から離れ、幽体とでも言おうか、宙から見ているというものであったからだ。


 そして、もうひとつ光青が夢だと思った要因がある。あの、完璧なお嬢様であるアリスが気絶した光青を見て、酷く取り乱し、救急車が到着するまでひたすら光青のの上で泣きわめくしかできなかったのだ。


 間もなく到着した救急車は光青だけでなく泣きながら光青の手を握り続けるアリスを乗せて病院へと向かった。その光景を幽体化した光青は不思議な感覚でただ見送った.


 この夢は果たして自分の願望なのだろうか? 光青にはそんな疑問が沸き上がった。


  ここに来る前、ミスチェフは言った。アリスにとって光青は初めての友達同然だと。


  では、光青にとってはどうなのだろうか? 


  光青はアリスと違い、能力はあるものの生まれ育った環境はなんら特別な点はない。故に能力を隠せばどこにでもいる少しばかり成績の良い平凡な人間だ。


  だから、アリスと違って友達に不自由はしなかった。事実、不幸な事故に遭い大きな怪我を負えば、その不幸の原因に怒れるくらいの友人はいた。


  だから、光青にとってはアリスは特別な友人というわけではない。数いる友人の中のひとりだ。だから、決してこの夢は自分の願望を形にしたものではない。光青はそう結論付けた。


 その直後にどこかからクスクスと人を小馬鹿にするような笑い声がした。その不快な笑い声に光青は舌打ちをした。


  夢にまで出てきて嫌がらせをするとはなんて忌まわしき天使なのだろう。光青がそう思うと同時に光青の目の前に逆さまに立つミスチェフが腹立たしいほどの笑顔で現れた。


「愚かで子供な光青君は本気でそう思っているのかな?」

「夢の中まで話しかけてくるな。不愉快だ」


「フフッ、夢か……まあ、いい。これが夢かどうかはとりあえず置いておこう。


 夢であろうがなんであろうが思考は君の物で間違いないのだろう? 


 それで私の質問の答えはどうなんだい?」


「質問の意味がよくわからんな」


「そうか、じゃあ質問を変えよう。君はアリスのことをどう思っているんだい?」


「どうも何もない。さっき言っただろ……いや口には出していなかったか、単なる友達だ。それ以上でも以下でもない」


「フフッ、どうだか。自覚はないというよりは、自分で認めようとしなかったが、さっき自分のために外聞も気にせず泣きわめくアリスを見て君は確かに喜びと安堵を得ていたぞ」


「なんのことだか? 適当を抜かすなよ糞天使」


「本当に素直じゃないな。安心しろ君がアリスを特別な友人だと思っているように、ついさっきも言ったがアリスも君を特別で大切な友人だと思っている。友人以上に発展することは私個人の見解としてはあり得ないと思っているが」

 ミスチェフは下卑な笑顔を浮かべた。


「盛り上がってるところ悪いが、残念ながらお前の勘違いだ。アリスにそこまで特別な感情は抱いていない。


 それどころが友人を拒否するなんてことはないが、俺の3平のためにできれば距離を置いておきたい類だ」


「下らない、曖昧な3平とかいう言葉で逃げるなよ。自分と同じように特別な能力を持った人間。その出会いだけで本当は嬉しかったくせに、その人物が人間性に優れ、尊敬できる人であった、それは一層君を喜ばせたはずだ。


 そう感じているはずなのに、自身が思う平凡とかけ離れた環境の人間というだけで自分の感情を押し殺すのか」

 光青は何も言い返さず黙っていた。


「事件はとりあえず終わった。アリスとの関係もさっきしたように、これで終わろうと思えば終われる。どうするかは君次第だ。あとは夢の中でじっくりと考えな」


 そして光青の世界はぼやけてゆっくりと光が失われ真っ暗となった。暗闇の中で光青は思考を続け、ひとつの結論に達した。結論を出すと同時に光青は闇の中で深い眠りに入った。そして、人生で初めて忘れるという経験をする。何を忘れたのかというと結論を導くまでの過程であった。




 目を覚ました光青の視界には見慣れない天井があった。夢の中で救急車せ運ばれる自分を見ていたからか、病院のベッドの上であるということはすぐにわかった。


  右隣に人の気配を感じ目玉だけ動かし視線を移すとミスチェフがいた。寝ても覚めてもミスチェフとは最悪だ、と光青は心の中で呟いた。


  そんな光青の気などお構いなしにミスチェフはニヤニヤと笑う。


「やっと起きたか少年。それにしても、肩の骨が砕けたくらいで気を失うとは情けない」


 嫌味を云うミスチェフに光青は言い返そうとしたが、それより先に


「わたしの患者を侮辱するな。天使であっても許さないぞ」


 と、光青の知らない鋭い声がした。声のした方を見ると金髪ロングのそれは綺麗な外国人女性がいた。


  最初は全く知らない人物だと思ったが記憶を辿り、三郎が話していた女医のことを思い出した。


  あの時はミスチェフが女医のふりして三郎と接触したものだと思っていた光青であったがそれが間違いであったことを知った。


「……あなたは?」

「わたしはただの医師だ」


「ただのとは謙虚だね。神の手を持つ女とまでいわれているのに」


「人がなんて言おうが勝手だ。君に伝えることは肩のことは心配しなくていい。それだけだ。失礼する」

 女医はクールにそう言ってすぐに部屋を出ていった。


「糞天使、あの人はなんだ?」

「アリスと同じ『選ばれし人間』さ。アフロ君の腕を治したのも彼女さ」


「なるほど、そういうことか……ところでアリスは?」

「なんだ、気づいていなかったのか。ずっと、そこにいるじゃないか」


 ミスチェフは光青の右手を指した。そこには光青の手を握ったまますやすやと眠るアリスがいた。


  麻酔がまだ効いていたため手の感覚がない光青は今の今まで全く気づかなかったのである。光青の顔はみるみる赤くなった。


「昨日からずっとだよ。アリス起きな」

 ミスチェフはアリスの体を揺らした。アリスの目がゆっくりと開いた。


「あとは若いお二人で楽しんで」

 そう言い残してミスチェフはいつものように消えた。


「あっ、時重君おはようございます。体調はいかがですか?」

 目が覚めたアリスは寝起きとは思えないほど爽やかに言った。


「いや、その、お陰さまで、はい」

 光青はまともに目を合わせず答えた。


「そうですか。それはよかったです」

「それよりもアリス……その右手を解放していただけませんか?」


 指摘されて気がついたアリスは顔を赤くして慌てて握り示していた光青の右手を放した。


「ご、ごめんなさい」

「い、いや、別に……」


 ふたりは互いに目を背けて黙ってしまい、沈黙の時間が流れた。

 沈黙の中。光青は夢の中、闇の中で導きだした結論を思い出した。しかし、どうにもこうにもなぜそんな結論に辿り着いたのかは思い出せなかった。しかし、光青はその事をあまり気にしなかった。それだけ、導き出した答えを気に入っていたのだ。


「なあ、アリス?」

「はい?」


「前から思ってたんだけどさ」

「はい」


「俺にだけ名前で呼ばすのずるくないか? 俺のことも名前で呼べよ」

「いいのですか?」


「当たり前だろ、その……」

「なんですか?」


「友達なんだから。これからもよろしくな、アリス」


 光青はアリスと友達を続ける、正しくは本当の友人として接することを夢の中で決意していた。


  アリスは一瞬驚いた顔をしたがすぐに満面の笑みになった。その笑顔が自分が導き出した答えは間違いではないと光青を確信させた。


「はい。こちらこそよろしくお願いします光青…………くん」


 アリスはそう言って今度は照れるように笑った。光青はそこに真の天使の笑顔を見た気がした。その奥で本物の天使が小悪魔のように笑っていたがそれは見なかったことにした。

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