第6話
樹はなんだか自分がこの霞と言う少女に化かされているのではないかと思うようになった。(あるいは霞は実は狐かなにかが人間に化けている存在なのかもしれない)
そういえば、この霧深い森に足を踏み入れてから、もうずいぶんと長い時間が立つのだけど、なんだかだんだん、自分の頭の中の思考が、曖昧になってきたというか、頭の中が『からっぽ』になっていくような(まるで森の中を歩いている最中にだんだんと迷子にならないためのパンのかけらのように、自分の知識や記憶を、その道の上に落っことしながら、歩いているかのようだと思った)そんな感じがした。
軽い頭痛のようなものも、ときどき感じだ。
でも樹はそれはきっと自分が『聖域』に侵入して、そして『人の禁忌』を破ってまで、もう一度、彼女(木立霰)に会おうとしていることへの『罰、あるいは代償のようなもの』だと思っていた。
「……どうかしたの?」後ろを振り返って霞は言った。
「いや、なんでもないよ」
にっこりと笑って樹は言った。
樹は霞のあとについて歩いて石ころだらけの川辺から移動をして、霧深い森の中を移動していた。(それは、自分の家に樹を案内すると霞が言ったからだった)
すると、少し進んだところで、森の木々がぽっかりと空間を切り取ったようになくなって、その空いた空間のところには、古い小さな社と神社があった。
「……ここが私の家なの」霞は言った。
「ここが君の?」
樹は言う。
それから樹はその古い社と神社の姿を確認した。そこにはぼろぼろの鳥居もあり、その鳥居の入り口のところには風化せずに、辛うじて読める文字で、『霞神社』の文字があった。
その文字を読んで、樹は、なるほど。この少女は狐ではなくて、『神様』だったのか、と思った。
「……早く。こっちに来て」
そう言って神様(霞)が樹を神社のほうに手招きした。
人間である樹が神様の言葉に逆らえるはずもなく、樹はそのまま霞のいるところまで移動をした。