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第39話 今年もお疲れさまでした。来年も、よいお年を。

 今年もお疲れさまでした。来年も、よいお年を。


 大晦日がきて、硯は田丸家の家族のみんなと一緒に(ちゃんと四人家族全員そろって)年越しを年越しそばを食べながら過ごした。(天ぷらもお蕎麦も豪華な、いつもお世話になっているお蕎麦屋さんからのお取り寄せした料理だった)それが毎年の田丸家の年越しだった。

 お母さんがお雑煮を作ってくれたので、お父さんが焼いてくれた焼きもちと一緒に食べながら、豪華な天ぷらの年越しそばを食べるという(お腹がいっぱいになるまで、文と一緒にたくさん食べた)とても贅沢な時間を硯は家族のみんなと過ごして、ごーん、ごーん、と遠くに聞こえる年越しの鐘の音を聞いた。

 それは、いつも通りの穏やかな大晦日の夜だった。

 お正月にはいつものように深津家に新年の挨拶に出かけた。

 硯は珍しく、着物を着ている。(硯が着物を着るのは、一年でお正月の一日だけだった。相変わらず着慣れていないから、着ることも、着ている間も大変だったけど、なんだかんだ言って、やっぱり着てみるとすごく嬉しい気持ちになった)

 真っ白な帯に、桜の花柄の晴れやかな着物だった。それは都さんから、お正月のためにっていって、少し前に貸してもらった着物だった。(毎年、都さんは子供のころから、硯にお正月の着物を貸してくれた)

「おはようございます。今年もよろしくお願いします」と上品な仕草で着物姿の硯は出迎えてくれた深津先生と都さんに挨拶をした。

「おはよう。田丸さん。今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ。硯ちゃん。今年もよろしくお願いします」

 と言って、深津先生も都さんもいつもと同じように満面の笑顔で硯に新年の挨拶をしてくれた。(そのあとで、ちゃんと硯の着物をほめてくれた。……、まあ、都さんに借りた着物なんだけど)

 深津先生も都さんも、相変わらず、とっても着物が似合っている。(深津先生は白い帯に鮮やかな空色の着物を着ていて、都さんは蜜柑色の帯に梅の花の模様の着物だった)一年に一回しか着物を着ない硯とは、やっぱり全然違っていた。(けっこう気合を入れて、お母さんと一緒に頑張ったんだけど。やはり着物は着慣れないと難しいのかもしれない)

 深津家の中に入って、居間に行くとそこには墨がいた。墨も今日は着物を着ている。

 紺の帯に鶯色の落ち着いた雰囲気のある着物だった。(なんだか着物を着ている墨は、本当にその正座をして座っている姿が深津先生にそっくりだった)

「着物にあっているね」とお隣に上品な仕草で座りながら硯は言った。

「うん。ありがとう。今年もよろしく」と墨は言ってくれたのだけど、そのあとで、硯が「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」と丁寧な言葉で言っても、硯に、その桜の花の着物、よく似合ってるね。と笑顔で言ってくれなかった。(まあ、毎年のことだから別にいいけどね)

 居間の大きな雅な木のテーブルの上には、おせち料理(伊勢海老とか入っている三段重ねのもの)とお寿司(お店で握ってもらったもので、たぶん特上の握りたて)が並んでいた。(それが、いつもの深津家のお正月の食卓の風景だった)どちらも、とても高級なものだと見ただけで(そんなご馳走を見慣れていない)硯にもわかった。(絶対に美味しいやつだったし、実際に食べるとやっぱりすっごく美味しかった。お正月で食べ過ぎているとわかっていたけど、結局、たくさん食べてしまった。そのあとで、すごく反省した)

 硯はお食事のあとで、そのまま深津先生のお車にお邪魔をして、(大きな六人乗りの車だった)深津家のみんなと一緒にいつものように、初詣にお出かけした。

 そこは全国的にも有名な、由緒ある大きな神社で、とても大勢の参拝客の人たちがいた。(まあ、いつも通りのお正月の風景だった。去年もだいたいこんな感じだった)

 見慣れた風景だったけど、今年はひとつだけ違っているところがあった。

 それは広い境内で参拝をしているときに、その神社で結婚式を挙げている人がいて、そこに神主さん、巫女さん、お婿さんとお嫁さんを先頭にして、結婚式の行列がやってきたことだった。

 神前式の結婚式。

 ……、初めて見た。

 白い着物を着ている(白無垢っていうんだっけ?)花嫁さんはとっても、とっても綺麗だった。(硯だけではなくて、大勢の人が結婚式の行列に見入っていた)

 硯は少しの間、隣にいた墨と並んで立ち止まって、その結婚式の様子をじっと見つめていた。

「綺麗」と硯は言った。

「うん。本当だね」と硯のとなりで墨は言った。

 油断していた。そのことであとで都さんにくすくすと楽しそうに笑いながら、あのとき結婚式の様子を見ながら、墨くんとなにをお話してたの? 硯ちゃん。とからかわれてしまった。硯はそんなことを都さんに言われて、(真っ赤に染めた)顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。

 初詣が終わって、深津家に帰る前に広い神社の中を少しみんなでお散歩することにした。(それも毎年のことだった)

 神社の大きな緑の木々の生えているお庭がとても綺麗で美しかった。(ちょっとだけ、寒かったけど)

 深津先生は墨と並んでお話をしながら歩いていて、その少し後ろで、硯は都さんと並んでお話をしながらお散歩をしていた。

 硯は都さんとおしゃべりをしながら、時折、ずっと追いかけている深津茂先生と、その一人息子さんである墨の仲のよさそうに並んで歩いている後ろ姿を、そっと盗み見ていた。

 

「ただいま。いやー、本当につかれたー」と言って、硯が田丸家に帰ってくると、珍しいことに、お正月に家でごろごろしている文が「お姉ちゃん。ちょっと書道。教えてよ」と言ってきた。(硯は水墨画を描いているけど、そのほかにも、深津茂先生に書道もたしなむ程度に教わっていた。深津先生は水墨画だけでなくて、書道も名人だった)

「別にいいけど、きゅうにどうしたの? 文。水墨画とか書道とか興味ないでしょ?」と硯はなまいきな目で自分を見ている文を見て、少し驚いた顔をして言った。(そんなこと言われたこと、今まで一度もなかったからだった)

「だって水墨画と違って、書道はそれなりに人生の役に立つじゃん。文字がうまくなるし、それに、中学校でさ、冬休みの宿題として、書道の課題がでているんだよね」と少しだけ照れた顔をしながら、視線をずらして、文は言った。

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