第35話 私の夢は、水墨画の画家になることです。 田丸硯 小学校一年生
私の夢は、水墨画の画家になることです。 田丸硯 小学校一年生
待ちに待った展示会の日。
硯と墨が展覧会の会場についたときに、(深津先生の直筆の『深津茂展示会』の文字が書いてある大きな看板があった)……、ずっと曇っていた空から真っ白な雪が降り始めた。
とても綺麗で、冷たくて、真っ白な雪が。たくさん。たくさん。降ってきた。思わず硯と墨は、歩くことをやめて、その場所に立ち止まって空を見上げて、たくさんの雪の降ってくる風景を二人で一緒に眺めていた。
それは本当に幻想的で綺麗な風景だった。
……、十年前。
硯が初めて、この街で街おこしとして行われた水墨画の展示会で深津先生の雨の中を天に向かって飛ぶ大きな龍の水墨画を見た忘れられない運命の日も、……、雪が降っていた。真っ白な雪が。たくさん。たくさん。降っていた。(そうだ。最初は雪が降っているし、寒いから外にはいきたくなって。私、みんなに駄々をこねたりしてたんだっけ。ふふ。懐かしいな)
「雪だね、墨」と真っ白な雪の落ちてくる曇り空を見ながら、硯は白い息を吐きながら、小さな声でそう言った。
「うん。雪だ。降ってきたね」と硯の横で同じように空から落ちてくる真っ白な雪を見ながら、とても静かな声で墨は言った。
……、少しの時間が止まったような、静寂の時間。
「いこっか。立ち止まっていると、風邪ひいちゃう」と雪を見たあとで、硯は隣にいる墨を見て、明るい声でそう言った。
「うん。いこう。会場の中はきっとあったかいよ」と同じように硯を見て、墨はにっこりと優しい顔で笑ってそう言った。
それから二人は、雪の降る風景の中を子供みたいにはしゃいで、展覧会の会場の入り口まで、転ばないように気をつけながら、早足で歩いていった。




