第22話
田丸硯は可愛らしい耳がでるくらいのみじかめのつやつやの美しい黒髪をしていて、目は少し釣り目で攻撃的で(小さいころは、よく黙っていると、怒っているみたいで怖いって友達から言われた。……、今もたまに言われるけど)顔は小さくて、体格は小柄で、背は小さくて、どこか全体的に猫っぽい雰囲気のある生意気な性格をした(少し前まで、怒るとすぐに手を出してしまう困った癖があった)とても綺麗な少女だった。
深津墨はお父さん(深津茂先生)譲りの少しくせっ毛の黒髪をしていて、目は大きくて、優しい目をしていて、いつものんびりとしている顔は小さくて、背は高くて、体格は細目で、どこか全体的に犬っぽい雰囲気のあるぼんやりとした性格の(お父さんの深津先生にとても顔と雰囲気がよく似ている)口数の少ない整った顔の少年だった。
二人とも高校の制服姿で、お互いにほとんど校則の通りにきちんと白いワイシャツと紺色の制服をきている。(深津先生から、まずは身だしなみからきちんとすること、清潔。掃除。挨拶はきちんとするように、といつも言われていた)
二人は硯が小学校一年生の六歳のときに深津先生の弟子になってからの十年来の間柄で、幼馴染のような関係だった。そのころから、ずっと一緒に育ってきたのだった。
(……、そして、これは墨には秘密だけど、硯は初めて墨の水墨画を見たときから、ずっと同い年の天才の男の子、墨の描く水墨画にこっそりと、憧れていた)
「ただいま」と言って、深津先生がしばらくして、帰ってきた。
深津先生はそれからすぐに、硯と墨のいる部屋にゆっくりとした深津先生の特徴的な足音をたててやってきた。そのゆっくりとした深津先生の足音を聞いただけで、硯は、あ、深津先生だ、と(まるで見えない猫の耳としっぽをたてるようにして)深津先生がこっちに歩いてくるのがわかった。(お弟子になったときからそうだった)
深津茂先生は背が高くて、きりっとした整った顔をした(やっぱり親子だった。墨と深津先生の顔はとてもよく似ている。きっと墨も大人になったら、深津先生のような顔になるのだろう)背の高い、ひょろっとした体格の、温和な性格をしたとても優しい、とても有名な水墨画の先生だった。(若いころから天才だと言われていた本当にすごい人だった)
いつも着物を着ていて、今日も着物を着ている。
薄い水色の格子柄の着物と雪のように白い帯。(とってもよく似合っている)
深津先生は水墨画を前にしている二人を見て、にっこりと優しい顔で笑うと、(やっぱり墨にとても似ている。墨も大人になったら、深津先生の顔で、今のように優しく誰かに笑うのだろうか?)「やあ、二人とも、こんにちは。遅くなってごめんね。どう? 水墨画はうまく描けてる?」と優しい声でそう言った。