第19話 深津先生の思い出 あの、夢ってありますか?
深津先生の思い出
あの、夢ってありますか?
とても優秀な生徒たちが集まる伝統ある古風な名門校に通っている、とても真面目で可愛らしい高校一年生の十六歳の少女、田丸硯は学校がおもしろくなかった。できれば早く学校が終わって先生のところにいきたかった。
深津茂先生のところに。深津先生は水墨画の硯の先生だった。硯は小さなときからずっと、深津先生のところで、水墨画を習っていた。今も描いている水墨画がある。その続きが描きたくて描きたくてしょうがなかったのだ。(もちろん、学校の勉強が大切だということはわかっているのだけど……、今は夢中になっている水墨画のことしか心の中に思い浮かばなかった)
深津先生から、「学校の成績があまりに悪くなるようなら、水墨画を教えることはやめます。お弟子として面倒を見るなら、水墨画だけじゃなくて、田丸さんの人生にも僕は責任があるからね」と言われていたので、硯は学校の勉強もちゃんと頑張っていた。そのおかげなのか、硯は中学校、高校とかなりの進学校にきちんと受験に合格して入学することができた。
水墨画が描きたい。
もっと、もっと描きたい。
……、でも、思ったようにはあんまり描けない。
どうしてだろう?
子供のころはもっと自由に、本当に遊ぶように無限にいろんな水墨画が描けていたような気がするんだけどな。
ぼんやりと、晴れ渡っている秋の青色の空を見ながら、学校のお昼休みの時間に、一人で硯はそんなことを考えていた。
季節は秋。月は十月。
とっても暑かった夏もようやく過ぎて、今はだんだんと世界は少しずつ寒くなってきている。(制服姿で外にいると、ちょっと寒いと思うようになった)
……、私、焦ってばかりいる。こんなんじゃいけないな。
「よし」というと、硯は学校の色を変えて、紅葉している鮮やかな木々の生えている中庭にある休憩用のベンチから立ち上がって、笑顔になって、自分の教室まで早足で戻っていった。(お昼は焼きそばパンとコーヒー牛乳だけだった。気持ちを振り切って早足で歩いていると、なんだか今更ちょっとお腹が減ってきた。悩んでいないで、もっとちゃんといっぱい食べればよかった)