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独立の日  作者: pico
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志貴 2

独立の日の後日です。

何故だ?

なぜこんなことに?

「鷹求殿は直前まで笑っておられました・・・」

最後の。あの雷撃が。

避けていれば?否、あの時点では動けなかった。

防いで・・・? 恭順を印象付けるには防ぐではだめだ、受ける必要があった。

あぁ、鷹求・・・・!



未だ敵地にあり、一族の者もいるのに、感情に身を任せることはできなかった。

自治領として独立するための手続きもしなければ・・・口約束に意味はない。

皇帝に誓約の確認もしなければ。

冷静に思考する自分に吐き気がした。

「志貴様・・・手が。」

ふとみると握り締めすぎて、爪が傷をつけていた。

ああ、これが痛いということだった。

添えられた手から淡い光がこぼれ、傷が癒され、痛みは遠のいて、しまった。

「やることを済ませたらすぐに出立する。疲れているところを済まないが、帝都から一刻も早く離れたい。準備を頼めるか。」

男たちは頷いた。

「・・・・鷹求も連れて帰りたい。誰かついていてやってくれるか・・?」

「っは、はい、勿論です。我々も鷹求殿には・・・」

男たちが嗚咽した。


自治の書類を整え、皇帝に誓約を破棄させると、一行はひたすら馬を駆り、辺境の館に帰還した。

誓約から解放された身は、驚くほど術の行使が容易になり、幾日もかかる道中にもかかわらず、無事に幼馴染の身を運ぶことを可能にした。

鷹求の親族は、淡々と何を問うこともなく、その身柄を引き取った。




その日、鷹求の兄・功隼(いさはや)が、志貴を訪ねてきた。

前に置かれた茶器をなんとはなく眺めていると、しばらくして、ようやく言葉をかけられた。

「長殿は、何をしておいでです?」

「・・・なに、とは?」

ふっと彼は息をこぼした。

「質問を変えましょう。帰還なされてから、何日経ったかご存知か?」

あれから何日経ったろうか。

日々は色あせ、どこか遠くを流れていた。

「聡明な長殿とは思えぬ有様。」

「・・・。」

「我らがあれの最期に動揺しなかったことを薄情に思っておいでか。」

「・・いえ、そんなことは。」

「贄はいつ命尽きても不思議はない。あれが贄になったときからすでに覚悟しておりました。我らが贄の者は慣れているのです。」

志貴は目を伏せた。

悲しみや怒りに責められれば、いっそ楽になれたと感じてしまった。

「贄については我らの方に多くが伝えられております。私はそれを受け継ぎ、次代へ伝える役目を担っております。ですが。」

いったん言葉を切って、功隼は志貴を見据えた。

「長殿がそのようなご様子では、早急に次の絆を結ぶ必要がありそうです。その場合、贄は私が務めることになりましょう。次代への継承の役目は他の者に引き継ぎます。」

志貴はひどく動揺した。

「そんな・・・、しかし・・・、無理だ・・・」

功隼は取り合わずに続けた。

「そのように腑抜けておいででは次の魔物狩りでも危ない。我らは長殿を生き長らえさせ、長の血脈をつなぐのがお役目です。 長殿と私では、あれほどは近しくはありませんが、絆を紡ぐ方法もないことはないので」

いなくなったら次を・・・その考えに吐き気がこみ上げ、志貴は呻いた。

功隼がそばに寄って、その背をさすった。

「・・・志貴殿。贄の者としての判断ではそうなりますが、愚弟とあなたを見てきた兄としては、そうはしたくない。」

震える背中を、功隼はなだめるようにさすり続ける。

「鷹求は、贄としてというより幼馴染の親友としてあなたと共にあった。あなたも同じ。過去の贄の有り様の中でも幸せな部類に入るでしょう。私は、そしておそらく一族の者皆、そんなあなた方を見るのが好きでしたよ。」

思い起こすような間があった。

「あれは好き勝手に生き、やりたいことだけをやり、奔放に生きた。・・・・迷惑なほどに」

責めるような言葉とは裏腹に、その声は温かかった。

「鷹求から手紙を預かっています。」

ハッと志貴は顔を上げた。

「あなたの様子がおかしかったら渡してくれ、などと言うので、似合わぬことをと思いましたし、必要になるとも思いませんでしたが。」

功隼は、眇めるように志貴を見ていた。

「誰よりもあなたの傍にいただけはある、ということでしょう。」

そっと手紙を机に置くと、戸口へ向かった。

「わたくしはこれにて。」

志貴はじっと手紙を見つめ、戸口を見なかった。


その夜、志貴はようやく慟哭した。

一族の者は皆、その晩、その部屋に近づかなかった。



-*-*-


昔、牙の国は、帝国に支配されていた。

初代の王は多くの功績から様々な呼び名があるが、帝国からの独立を果たし自由を獲得したことから、自由王とも呼ばれた。

一説では、しばしば心のおもむくまま旅に出たので、自由王と呼ばれたともいう。

王位を退いてからは王の館にいることの方が稀だったと記す書もある。

もう一話書きます。

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