鷹求 1
時系列的には、独立の日を迎える以前になります。
鷹求の独白。彼の心情。
俺はそんなに賢くない。
あいつにくらべたら、俺の頭は空っぽみたいなものだ。
だから。本当に大切なこと以外を考える余裕なんてないから、
あいつだけを見て、あいつを全力で守ってる。
あいつの望むことはなんでも叶えてやりたいが、あいつは一族のためになることしか望まない。
鷹求の戦闘センスにはいつも驚かされる、ってあいつはいうが、
本気で闘ったら、一族で一番強いのは、あいつだろ。
勿論、あいつがいなきゃ、一族はこの辺境で生き抜けないから、
あいつは本当に必要な時以外は、おとなしく守られてる。
その昔、どこかの阿呆が、誰かのことがものすごく大切で、
自分の身体も、心も、魂も、そいつだけのためのものに作り変えた。
そいつはそれだけじゃ満足できなくて、
大切な誰かの子孫も丸ごと守りたくて、自分の子孫も捧げちまった。
その阿呆が俺たち祖先で、大切な誰かが長の祖先だ。
昔はそれがイヤだった。
俺は生まれた時から"贄"になることが決まってて、
そのために、ありとあらゆることで、一日中めちゃくちゃしごかれてて、そんな毎日から逃げ出したかった。
俺は広い世界を見て回りたかった。
自由気ままに気の向くままに。
でもいまの俺は、その阿呆の気持ちがわかる気がする。
いや、あいつの子どもとかまだわかんね〜し、俺の子どもとか考えたことないし、
子孫捧げるとかふざけんなって。
あー、とにかく。
でもあいつのためなら、全力で戦ってやるし、あいつが要るなら俺の全部を使えばいい。
そう思うようになってやっと、"贄の絆"を結べた。
絆を結ぶのにはいろいろな条件がある。
贄になれるのは俺たちの血筋だけだ。なんかわかんねえ因子?がなくちゃいけない。
あいつの血筋の方にもなんかそういうもんがあるらしい。
それだけじゃなく、一緒に育ったみたいな時間も要る。
そういうわけで、俺は生まれる前から贄になることが決まってて、ずーっとあいつと一緒だった。
そろそろ成人だって、じいさまんちの絆の間とやらに何回か放り込まれたけど、絆とやらは結べなかった。
俺はいつかこんな辺境飛び出してやるって決めてたし。
そうするとあいつは絆の相手がいなくなるわけだけど、あいつは別に構わないって言ってた。
あの頃のあいつはほとんど笑わなくて、つまんねえって俺は思ってた。
俺はなんも見てなかった。
誰よりもあいつと一緒にいたのに。
あのことがなかったらずっと気づかなかったかもしれない。
それで、そんな間抜けな俺がその気になったのに、こんどはあいつがなんのかんの言って・・・、まあ最後は、俺が無理矢理押し付けたようなもんだな。
もうあいつ1人ほっとけなかったし。
"贄の絆"で俺たちは死ぬまで離れられないって、こう、胸の奥の方でわかった。
あいつも感じたらしくて、こぼれそうなほど目を見開いて。
「お前の自由を奪ってしまった」って言った。
あいつが泣くのを見たのはあの時だけだ。
あんなに賢いのに、なんでわかんないんだろうなあ。
自由なんて欠片もないのはあいつじゃないか。
俺は、あいつのそばにいたくて、選んだのに。俺には選ぶ自由があった。
いまだってなんでも好きにやってる。
「たまには私の言うことを聞かないか!」って今朝も言ってたしな、はははっ。
一族に帝国に、期待や義務で雁字搦めのあいつが、自由になれる日がきっと来る。あいつならいつかやり遂げるだろうから。それまで俺はその助けになる。
だからな、志貴。その時、2人で、自由になればいいのさ。
直感でつきすすむ鷹求さんが、思ったより考えていた件に作者もびっくり。