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翌、月曜日。講義をサボりがちな純だが、月曜は出席に厳しい教授の講義があるため渋々大学へ出てくる。
けれどそれも形ばかりの出席で、教授の話はこれっぽっちも聞いてなどいない。
さらには朝一番のその講義を終えてしまえば、午後の講義はクラスメイトに代返を頼んでアルバイトに行ってしまうのが純のお決まりだった。
「あっ、純だ」
「ん、杏奈か。おはよう」
「やほやほー」
大学に到着するや否や、純は同じ時間帯に講義があるのだろう杏奈とバッタリ出くわした。
純とは学部こそ違えど、同じ敷地内で顔を合わせることも多い杏奈。彼女はクラスメイトらしき数人で講義棟へ向かっている途中のようだった。
「昨日は楽しかったねー。ていうかさ、英彦、サッカー部の朝練に寝坊したんだってね、今日」
「あー、なんかチャットにそんなこと書かれてたな。泊めた卓也も大変だったろうに」
「卓也は朝一番の仕事でもいつも通りだったみたいだし、そのへんはさすがだよねー」
昨日がよほど楽しかったのか、杏奈はとても上機嫌だ。
彼女はいつも四人組での集まりを本当に楽しんでいる。まあ、言ってしまえばそれは他の三人も同じであるが。
「杏奈はいいよねー。うちらと違って出会いがあってさー」
「ねー。うちの学部で男子と関わりあるの杏奈くらいだもんねー。羨ましいなあ」
「いつも言ってるけど、純とは別にそういう関係じゃないからね?」
「ホントにー? だって名前で呼んでるし、なんか怪しくない?」
「それは高校から一緒だからですーッ!」
「それでも普通名前で呼ぶー?」
一緒にいた女生徒たちに冷やかされる杏奈。
それを見てあははと苦笑いを返すのも純にとってはいつものことだ。
杏奈の通っている学部は幼児保育を専門にしている。そのため男子学生がいないのも仕方のないことなのだろう。
「それじゃ、お邪魔にならないようにアタシらは先行ってるわー」
「男遊びも程々にねー。女の友情は脆いぞー?」
「もうーッ! そんなんじゃないって言ってるのに!!」
からかわれて膨れる杏奈をなだめながら、純は去っていく杏奈の友人たちを見送った。
実際のところ、杏奈が自分のことを親友としてしか見ていないことを純はよくわかっているし、純自身も杏奈のことをそのような目で見たこともない。
濃い付き合いをしてきた友人関係であるだけに、お互い変に意識することがないのがとても楽なのだ。
「仲いいじゃん。相変わらず」
「面白がってるだけだよ。まあ、別に仲悪いわけじゃないけどさ」
膨れた頬から大きなため息を溢す杏奈だが、満更でもなさそうな様子だ。
というのも、杏奈は学内で純とすれ違うたびにこうしてクラスメイトにからかわれているのだ。もう慣れっこなのだろう。
「……ねえ、純。あの占いサイトのことだけどさ……」
すると、急にしおらしくなった杏奈が昨日の話を蒸し返してきた。
さっきまでの元気はどこへやら。もじもじと何かに怯えるような様子の彼女が何を気にしているのかは、聞かなくても純にもわかったものだ。
「やっぱあれ、どう考えてもおかしいよ。一回四人でお祓いとか行った方がよさそうじゃない?」
「おいおい、本気で言ってるのか? 大山忍の幽霊があれを送ってきたって」
「そうじゃない保証なんてないじゃん……そうだっていう保証もないけどさ」
純は幽霊だとかUMAだとか、そういったオカルトの類はまるで信じていない。だからあのメールが自分らに縁のある要素をいくつも含んでいたのも、ただの偶然だと思って忘れようとしていた。
しかし杏奈はどうしても気になるらしい。昔から肝試しやホラー映画なんかが苦手だった彼女だ。それも仕方ないことなのかもしれないが。
「悪いことは言わないから、今度みんなでお祓い行こうよ。もしただの偶然だったとしてもさ、安心を買うと思って。ね?」
「そうだなあ。そんなに気になるなら、英彦や卓也と相談してみてもいいかもな」
「なるはやがいいよ、なるはや! 次に四人とも休みなのっていつだろー?」
「てか、やば! 俺らも急がないと一限間に合わないんじゃ!?」
「わ、ほんとだ! いつの間にこんな時間!? じゃあまたね!」
ふと腕時計を見て、純と杏奈は慌てて別れることとなった。今から出席に厳しい教授の講義だから、絶対に遅刻するわけにはいかないというのに!
こうして教室へと駆けながらも、純は杏奈の話を思い返していた。純からすれば考えすぎだと思うのだが、杏奈があれほど不安に思っているなら、それこそ彼女の言った通り安心を買うと思ってお祓いに行くのもありかもしれない。
英彦と卓也が何と言うかが問題だが、お祓いに行く行為自体は悪いことでもないし、特別強く反対されることでもないだろう。
ここは怖がっている杏奈のために一肌脱いで、自分が全員の予定を管理してお祓いのスケジュールを立ててやろうか、なんてことを純は考えていたのだった。